第二話「俺の親友が辿った末路」
俺は進級試験の開催まで一週間の猶予を得た。その間で出来ることはして置くつもりである。やはり、この期間は術式による応用に励んで行くことを決めた。そして試験の前日は慎司を呼んで相手をしてもらう予定を入れている。相手が慎司なら俺が無理を強いることがないと判断した結果だった。慎司の術式は修行する時に適していると思われる効果を発揮させられることが期待できた。それを踏まえて慎司に相手を頼んでみる。すると、慎司が見せた反応は驚くことなく受けてくれた。
「僕で良いなら相手になるよ。僕も術式の精度が上がったかも知れないから試して見たかったところなんだ。僕と一戦を交えるなら加減は依頼ないからね?」
「おう! 俺もそのつもりだったぜ!」
「よし。それでは見せてやるよ!」
ちなみに慎司の術式は【再現】と呼称されている。これは相手の使った術式のコピーと頭で練り上げた魔獣を作り出すことが出来た。魔獣が作りたい時はコピーした術式を付与させられる。しかし、さらに豊富な知識を具現化させて魔獣の生態を作り替えることでも可能にしてしまう術式だった。ここで魔獣が再現できれば俺が存分に相手が出来るので、慎司を誘って置けばかなり助かることは確かである。
しかし、術式をコピーする時の上限は二つまでと決まっていた。術式の所持数が上限に達していた時に追加する際はすでにコピーの完了した奴を破棄する必要がある。どれを選択して破棄させるのかは慎司が決められるのだった。
魔獣は最大で三体までを作り出せる。魔力の出量で魔獣の耐久や強度を変えることが出来るため、一体に絞った時の方が屈強になる性質があった。
そんな慎司は意外にも二級術師で俺でも倒せてしまう実力になる。まだコポーできる術式の精度が低いため、実際はそこまで強くなかった。しかし、鑑定士が言うには覚醒の予兆が訪れた時がさらなる強化に繋がる鍵だと結果を出している。それを踏まえて慎司は現在の段階では実力が十分に発揮できていないことが窺える判定が下っていた。
覚醒は魔術師の実力を大きく強化する影響が及ばせる。覚醒した魔術師は大幅に魔力の増量したり、術式の精度が強化されると言った状態の変化が伴うと言われていた。慎司は覚醒を果たすために厳しい修行をこなして覚醒の予兆を待ち侘びている現状を送っている。もし、慎司が覚醒した時はコピーできる術式の所持数と精度が圧倒的に強化されるかも知れないと言った効力を得るらしかった。その時は慎司が秘めた可能性は一級術師に相当する実力を発揮する器である期待が込められている。それが迎えられないように現状で出来ることを俺はこなして慎司に劣らない実量が付けられる努力で鍛え上げていた。
「じゃあ行くよ?」
「来い!」
そうやって慎司と修行が目当ての一戦を交わした。先手は慎司が取って先に術式を展開させて見せる。まずは魔獣を一気に二体まで作って俺を襲わせる策で向かって来た。しかし、慎司の作れる魔獣は精々三級術師が楽に倒せる程度でしかない。なので、俺は再現して来た魔獣を瞬殺した。」
「以前よりも術式の精度は上げて来た! まだ覚醒には至らないが、俺の魔力出量をある程度は込めた魔獣だ! さらに新たに加えた術式の付与で以前と比べて強く成ったはず!」
「ほう? けど、魔獣が相手なら俺は瞬殺で終わらせる!」
そこで俺は術式を展開させた。俺の術式でまずは魔獣を凍結させる策に出る。凍った魔獣は打撃で粉砕すれば、簡単に消滅させることが出来る計算だった。これを耐えられる魔獣の多くは肉体を強化する生態を持ち合わせた奴だけである。それが今回の魔獣に付与しているなら耐えることは可能かも知れないが、実際に慎司はそんな術式がコピーできているのかが問題だった。しかし、世間で魔術師の才を持っている人材の数は非常に少ない。つまり、身体を固める術式は珍しかった。そんな世間の狭い事実を考量すると、コピーはあまり期待できないことが言える。もし、慎司の術式で上を目指すなら、早く覚醒を済ませる必要があった。
(慎司が扱う術式はコピーしない限りは効力が満足に発揮させられない。それにコピーが出来たとしても、それは精度が真似た魔術師が扱った時よりも精度が低下した状態で使用することになる。そこが慎司に伴った欠点である)
俺はどんなに魔力を込めても、この程度なら簡単に倒せてしまう。それを慎司の目前で証明して見せるかのように瞬殺で終わらせた。
「うぉぉぉ!」
「何っ⁉ やはり、君を倒すには冷気の耐性を持った術式じゃないと駄目か⁉」
「世間にそんな魔術師がいるとは思えないけどな? コピーが出来ても精度が下がっては俺の術式が誇る冷気に敵わなければ意味がない。つまり、覚醒だけがお前に与えられたチャンスだろ?」
「そうかも知れないが、僕だって努力を重ねて来たんだ! いつまでも君を超えられないなんて我慢できないんだよ!」
「本音が出たな? しかし、俺にはそこまで響いてないぞ?」
「くそぉぉぉ!」
今度は自身が術式を駆使して向かって来た。慎司が再現で得た術式は見た限りだと身体機能を強化させる効果を生じさせている。しかし、強化した状態でも俺が誇る身体機能までは超えられていなかった。日頃から鍛えていたはずの慎司だけど、実際に魔術師は生まれ持って身体機能の成長段階が決まっている。つまり、どんなに鍛えたところで肉体は強化させる限界があった。しかし、覚醒を果たして肉体の状態が強化された実例は存在する。肉体の強化段階は覚醒することで、やっと肉体が出来上がる人材が稀に存在を確認されていた。しかし、覚醒に関しても希少とも言われており、それを迎えられるのかは人によって異なっている。中には覚醒で強くなれる人材でも、それが目覚めないで一生を終えるケースが存在した。そのケースが慎司を劣等型に分類される人材の一人かも知れない可能性が残っている。果たして慎司は本当に覚醒が出来るのかが問題だった。
そして圧倒的な実力差を見せ付けられた慎司はこれ以上の交戦は望めない状態を迎えた。それが慎司の迎えてしまった限界は、俺に全く敵わない状態で終わる。それが慎司に絶望を与えた。どれだけ鍛え上げても強くなれない現実が慎司を襲う。
(いつになれば慎司は強くなれるんだ? 例え複数の術式が扱えても、実際は元々所持していた奴が単体で使用した時の方が有効だった。それを使いこなせない慎司では限界なのかも知れない)
「少し休もうか?」
「畜生ぉ‼ 何で僕だけがこんなどころで立ち止まっているんだ! 俺だって覚醒できれば一級術師も夢じゃない! しかし、現実は僕をあざ笑うかのように限界を示している。それが僕の限界だって言うのか⁉」
「慎司……?」
(これでは修行にならないことは明白だ。慎司は魔獣を作り出せる術式で修行は可能かも知れないが、実際にそれが発揮できる実力は俺よりも遥かに下回っていた。それが慎司を絶望させる結果をもたらす。俺はそんな慎司の定めを受け入れて慰め続けないといけないのか?)
そんな疑問が内心に生じても、俺は慎司を見捨てることが出来なかった。見放すことは簡単に出来てしまう。しかし、慎司は掛け替えのない親友だった。それが現在の慎司の実力を知った時から彼に希望はないと実感している。
(面倒だ。これ以上の時間は削れない。もっとためになる相手との修行が必要である。それがこんなところで劣等型を相手にする時間が俺を衰退させているのかも知れない……!)
そうやって内心では慎司に向けて言いたかったことは沢山あった。しかし、親友と言う関係性がそれを口にする勇気を阻害させる。勇気が出せないでいる俺の時間は過ぎ去って行くだけを過ごしている現在が勿体なくてしょうがなかった。
(引き上げる口実を作るしかない。これで無駄な時間が経たれるならそれしかないだろ……!)
「しょうがない。これ以上は俺も身体を休める時間に費やしたいから、今日は引き上げるってことで良いと思うんだ? 慎司も考えてないで引き上げようぜ?」
「——くっ。其れしかないかも知れないな……」
「よし」
すると、そこで引き上げようとした俺たちの下に様子を窺いに来た人物が却下を申し出た。彼は現代でも最強と呼ばれるだけの才能を有した存在である。そんな彼が俺に限定して残ることを指示した。
「冷斗は待ちなさい。この場に残って僕の指導を受ける時間を与える。そこで現在の状況下で慎司はいらないよ。早く出て行ってくれないか?」
「はぁ? 僕にいなくなれって言うんですか?」
「あぁ。君の術式に覚醒を待っている時間が冷斗には勿体ない。君は術式の覚醒で強くなれるなら、個人でそれを解放させてくれ。俺は冷斗の進級を果たさせる義務がある。それは師匠としての役割だと思って指導する」
「師匠ぉ!」
「君に師匠と呼ばれる度に苛立ちが起きる理由は貧弱が故に鬱陶しく思う感情が生じさせるみたいだ。君の術師人生には期待できないよ」
「そ、そんなぁ……」
「それじゃあ冷斗は俺と一緒に進級を目指して頑張るよ? 残った時間は限られている。弱者に慰める一言は無用だ」
(師匠は怒っているのか? 慎司に対して怒りを抑えた状態で去るように説得しているように思える。やはり、慎司を見放す決心が出来たことを指している⁉)
俺は師匠の思い切った発言に何も言えなかった。慎司を庇う一言が浮かばない。やはり、師匠が口にした言葉を否定する勇気は俺に皆無とも言えた。それだけ師匠の発言は大きく人に決定的な現実を叩き付けているのかも知れない。
「分かりました。僕は帰ります」
「今度から君は来なくて良いからね? 君の才能が見られない現状に考え冴えられたよ。上層部や政府側も君に覚醒が見られなかった事実を受け入れる姿勢を見せることにした。そこで進級試験が受けられる冷斗だけが俺の指導で育成する人材に選ばれたんだよ。僕は教師をしながら冷斗の成長を見届ける決断を下させてもらったなんだ」
それを聞いた慎司は返す言葉がなくて、黙って師匠の示した道を通った。そして、後で分かったことだけど、師匠が出した答えは魔術師を辞職させる決断に等しくて慎司の存在は魔術協会から追放が命じられる。しかし、実際に術式の使用は禁じれることが慎司を縛った。もし、術式で非術師に被害が及んだ場合は牢獄で生活を送る罰則が下ることを慎司は言い渡される。けど、死者を出した時は殺処分を執行する場合が慎司に予告して事件を起こさない対策を取った。
「本当に慎司は追放されたんですか? あれでも二級術師ですよ?」
「良いんだ。彼の場合は二級術師の中でも底辺に至る存在であることがこれまでの成績で分かった。それをいつまでも覚醒に期待していられる肝は据わっていない。だから、慎司の追放が実行された」
「残念です」
「最後まで君は彼を責めないんだな? 君にも不満が募る行いを彼は起こした。その事実が慎司の存在を否定する言葉が発せられても可笑しくはないと思っていたが外れたようだ。しかし、それは冷斗が持つ優しい感情なら、そこまで責め立てることを勧めたりはしない。良いんだよ。君は優しくあってくれ」
「は、はい……」
そうやって俺は師匠から告げられた現実を受け止めた。すでに慎司は魔術師に設けられた住居を出て行くことを迫られる結果が招かれる。俺が帰って来た時には引っ越し業者が慎司の荷物を運び出す様子が見られた。本当に慎司が追放を受けた事実は俺にも仕方がない気持ちを生じさせる。やはり、弱くては魔術師の存在価値は見出せないのだった。
そして進級試験の日を迎える。そこでは俺だけのために政府が用意した場所が出来上がっていた。これは魔術師の中でも準一級術師として活躍する人物の術式で設けられた場所だと告げられる。その人物は攻撃型や強化型の術式ではないが、フィジカル面で優れた戦闘能力を発揮するスタイルで任務に挑んで来たみたいだった。
今日はそんな人物が施した術式の詳細が明かされる。それは【領域改変】と言った名称で呼ばれた術式らしかった。その術式は半径三十キロメートル先までの地形を自在に変形させることが出来る効果を発揮すると言う。それで数々の犯罪者を閉じ込める地形に変えて仕留めて来たのだと師匠から話があった。
いよいよ進級試験が始まる前の準備を整える。今回の試験は三段階に分けて行われる予定が入っていた。それを受けて俺は進級できるのかと言った余地を与えられる。果たして俺は合格して進級できるのかが問われた。