第十五話「結界の向こう側」
俺は任務の後で立ち寄ったラーメン店で師匠と食事を取った。二人で味噌ラーメンを注文して運ばれて来るまでの間を使って会話を交わす。
「ほう? 新技が出来たのか? それも【冷却鉄拳】と言うらしいな?」
「はい。冷気を拳に帯びて殴る技です」
「確かに冷えた拳で殴られた時は痛いかも知れない。それを活かした技が出来たと言うことはもう実践したのか?」
「実際に何度か使って交戦しましたが、かなり効果抜群と言えるダメージが与えられて受けた相手をら倒すことが出来ました」
「それは良かったな? 一級術師に到達するまでの間で技を作ると言うことは、戦闘で特に優勢に立てる理由にもなる。つまり、技はあった方が戦闘を優勢に進めることが出来てしまう」
師匠の言っていることはちゃんと理解していた。技を得ることが何を示すのかは分かりきった話である。それを得た瞬間に交戦で勝利を収めやすくなるケースは多かった。それも技の精度を上げれば、それだけで倒せる相手のレベルが磨かれて行くことも出来る。それだけ技は戦闘の際に会得する甲斐があると言えた。
そして飯を終えた頃に師匠が久し振りにうちに上がりたいと言って来る。それを了承してうちの中に上がった師匠は雪華と顔を合わせると、挨拶だけ交わした後で俺の部屋を訪れた。そこで二人だけの話を交わして行く。
「君はこれまでの戦闘経験を積んで準一級術師に這い上がって来たが、世の中にはそれを超える輩も少なくない。そいつといつか対峙した時は君の命が絶たれる理由に繋がる時を迎えることがあり得る事実を忘れんじゃないぞ? これはとても重要性の高い問題で君がどんなに技を作ろうとも解決する策がない事態かも知れないことが起きた時は覚悟を決める頃だ。死を迎える瞬間になった時が後悔の念を抱いて泣きたくなる頃だろう。その時は必死に殺されないための抵抗はした方が良いな?」
「はい……」
師匠が現実で死を迎える事態が起きた時の話をしてくれた。それは死から逃れるための方法で、とにかく抗わなかった場合は諦める他にないと断言する。それを聞かされて俺は少し差が怖いと感じた。しかし、それが魔術師と言う仕事を背負った者が直結する事態だと師匠は教えてくれる。
そして師匠が帰った後で俺は雪華と一緒に飯を食べた。今日はカツ丼を作ってくれたので、二杯を平らげる勢いで頂いて置く。やはり、雪華の作る手料理は格別で俺が自分で手掛けるよりも美味しかった。
次の日。俺は毎日のトレーニングをらこなすために起床して支度を済ませて家を出た。ランニングはいつも汗が染みても問題ない服装でこなして行くことが日課になっている。それを十キロは完走して家に戻ることにしていた。
「お帰りなさい! スポーツドリンクなら出しておいたから飲んでね? 私は仕事に行って来るから!」
「行ってらっしゃい」
そして俺は雪華が家を出た後で真介さんから連絡が入った。内容は取り敢えず本部まで来て欲しいとのことで、事情は後ほどになって説明するらしい。それを受けてすぐに本部に向かった。
真介さんの下まで十五分で駆け付けて来たところで、俺の姿が見られた時に彼から肝心の事情が話される。それは真介さんがわざわざ気を利かせて呼んでくれたことが分かる内容だった。
「えっ⁉︎ 慎司の殺処分を任されたって言うんですか⁉︎」
「そうだ。相手は現段階で一級術師に匹敵する可能性を秘めた人材であることを予測して俺を派遣したと思われる。しかし、それが確認された訳でもないことから俺は君に同行させるつもりだった」
「それって俺に任せるってことですか?」
「その方が君だって気持ちが晴れると思ったんだけどな? 間違っていたのなら来なくても良いよ」
「行きます! あいつは俺が片付けるべき存在です! どんなに強くても俺の手で殺したかったんですよ!」
「やっぱりな。それは承知の上で俺が受けて来た。他に渡ると譲らない奴が多いと思ったからね? そこで君の命は保証しないよ?」
その時の真介さんの心配は理解していることは容易に分かった。それも実際に真介さんが任さられた理由でもある実力が一級術師に相当するかも知れない可能性が彼の心配を掻き立てたことが分かる内容になっている。しかし、それでも俺は慎司の相手をしたくてしょうがなかった。それが自分に課せられた宿命とも思っていたからである。
「相手の実力がバカにならない場合は俺が殺す。俺なら確実に殺せる確率は高いだろう。そこで制限時間を設けたいと思う」
「どれぐらいですか?」
「およそ二時間だ。この間で片付かないなら俺が息の根を止める。それで良いだろ?」
「分かりました。それでら構いません」
「よし! 交渉成立だ」
そんな感じで俺は真介さんの条件を呑んで慎司の殺処分を任された。この事情は他の奴に言わないように注意を受けた上で俺が代わりに任務をこなすことを決める。それが慎司と決着を付けることに繋げられる信じて殺処分に挑戦する決意をした。
「あいつの居場所は結界が貼られているが故に見えない空間が存在するところが見つかった。しかし、見付けたことは未だに知られる訳にはいかないと判断して踏み込まないでいる現実に至る。たけど、ここで俺たちが結界の先に踏み込んでどんな場所になっているのかを確かめる」
「結界は通れるんですか?」
「結界の性質は大きな魔力が注がれると効果が失われる。それは一定の魔力量が必要だから、今回は俺がそこに注ぎ込んで破る。それで結界が破られた後で中に突入したいと思っている」
真介さんが結界の構造を教えてくれた。それは魔力が作用することで破られ仕組みがあるけれど、実際に量が不足した状態で注いでも押し負けるだけだと言われているらしい。結界を破る時は大量の魔力出量が必要となる事実が伴われていた。
そして結界が張られている場所に訪れる。そこは確かに先が一枚の壁で塞がれて進めなくなっていた。しかし、真介さんが壁に触れた時に多少の魔力を感じ取って結界に乱れが生じる。そこに真介さんは早速壮大にもなる魔力で結界を破壊した。
「出来たぞ! これで奥に進める!」
「そうですね!」
結界の破壊が成功したところで、俺たちは奥を目指して進んで行く。そこは一直線に道があって真っ直ぐにしか進まなかった。しかし、そこで結界を破った際に侵入したことが敵側に伝わってしまう結果が生じた時点で交戦は退けられないと分かる時が来る。
「どうやら侵入者が二人もいるみたいだ。これは場所を移動させないとまずいな? すぐに仲間に報告しないといけないぜ!」
「その声は!」
「やはり、気付かれていたか! ここは走って奥に向かうぞ!」
「はい!」
俺は真介さんの指示で走った。奥まではまだ距離が空いていそうだが、それでも必死に走って取り敢えず進む。
すると、そこで俺たちは分断されてしまう結果に陥った。それは敵の一人が扱う術式が作用して起こった策略だと考えられる。
「ぬわぁ⁉︎」
「くそぉ!」
俺と真介さんの間に壁が出来た。これはコンクリート性の地面が変形させる術式だと思われる。そして俺の前に現れた壁を何とか破壊しようと試みた瞬間に後ろから攻撃を受けた。
「破壊はさせないぜ!」
「なっ⁉︎」
後ろの警戒を怠っていたせいで、そこが隙だらけの状態になっていた。そこで俺は後ろに引っ張られる作用が及んで敵がいる場所まで引き寄せられた時に剣先をこちらに向けて構える姿が窺える。それから逃れるために咄嗟の術式を展開した。冷気が引き寄せた相手を冷やして驚いた瞬間に体勢を立て直した上に攻撃を加える。
「はぁっ!」
「ぐぁっ⁉︎」
攻撃が決まって敵は少し怯んだ様子を見せた隙を狙って【冷却鉄拳】を繰り出す。これが敵の顔面に直撃して追加ダメージを与えた。そこで敵にトドメの一撃を放とうとした時に俺の身体が動かなくなる。きっと敵の中で動けなくする術式を持つ奴がいると予測して行動が可能になるまで待った。すると、四秒後に動ける状態になるが、敵は目の前に合計で三人はいることが分かる。この三人を纏めて倒すことは少し骨のある仕事だと思った。
「どうやら俺たちは人数で上回った。これをどうやって攻略するんだ?」
「簡単だろ。纏めて相手して倒せは奴から殺す!」
「そうか? なら死ね!」
敵が鉄球を飛ばして来た。それは指で弾かれた鉄球で攻撃を仕掛けて来る手段に出ているが、俺の反射神経なら避けられないほどでもないと判断する。しかし、相手はまだ他にも二人はいることから俺が不利に陥っていた事実は変わらなかった。けど、そこを覆せないようでは魔術師を職にして稼げる人材は向いていない判断される。それなら相手が三人でも倒して見せると言ったやる気が起きた。
「行くぞ!」
「来いやぁぁぁ!」
まずはこれまでに敵が使って来た術式を制覇したいと思う。一人目は物体を引き寄せるのか自らが向かわせて行く術式の片方で間違いなかった。実際に物体が引き寄せられるなら、他にも作用しているはずである。けど、今回の術式対象は俺だけだった。それを踏まえて対象は生物に限定される可能性を秘めている。
この術式はまだ今後の展開で炙り出して行く方針で行こうと思った。
後は二人目が扱う術式はコンクリートでも変形させてしまう作用が及ぼせる効果を持っていると考えられる。地形の改変または認識した箇所が弄れる術式だと思われるが、俺の肉体に変化が起きていない現状から生物に効果は生じないことが分かった。生物が対象外なら大して気にするところはないが、自由に形を変えられる点は幾らでも応用が効くのだろう。それを踏まえて敵は自身の有利になる構造を練って来ることは確かだった。
三人目は鉄球を弾く術式だと断言しても問題はない。それも肝心の鉄球は自身が構築しているところは実際に見ていた時から確信があった。こいつは距離を空けて遠くから鉄球を飛ばして来る攻撃に徹することが予測した手段である。もし、鉄球以外にも弾く性質があるなら直接触れて発揮させる方が適作だった。しかし、それに及ばない理由は鉄球だけが弾ける術式であることになる。
(敵の術式は分かった。引き寄せる以外の術式は予測した通りだと考えることが出来る。つまり、これを頼って勝利に導けば良い訳だな?)
俺は瞬時に敵の術式を見抜いた後で練った作戦で勝利を収める方向性で行く。それを成立させるために最初は変形を操る奴から倒くことを実行に移した。
「来たか! 初めに俺から倒すのかよ!」
「正解だ!」
すると、地面に手を突いた瞬間に目前から壁が出現した。そこで相手の術式が発動する条件が触れることだと分かった時点で扱って来るタイミングが割れる。そして壁を粉砕するための手段に出た。それは拳を凍らせて強度を上げた状態で殴ることである。これで拳に加わる痛みが軽減されるのだった。
壁は見事に粉砕して砕けた瞬間を狙って相手が見えなくなる前に立っていた位置を予測した上でさらに殴打を繰り出す。それが予測することなんて出来なかった敵は【冷却鉄拳】で倒せた。確実に倒すために魔力出量を少しだけ多めに込めて攻撃に至る。
「ぶはっ⁉︎」
「まずは一人目だ!」
(この程度なら準一級術師に相当するだけの実力はない! ならば、次はどっちから片付けてやるか!)
すると、そこで倒した瞬間に意識が一人の敵に向いた時を狙って鉄球が飛んで来る。それを避ける意識に変えるまでの反射運動を一瞬でこなした。俺の回避が及んだ時に鉄球を飛ばした敵は悔しそうに言葉をぶつける。
「良く避けられたな! しかし、ここで俺の本気を見せてやるよ!」
「良いぜ! なら、やって——」
そう言い掛けた時だった。俺の身体がもう片方の敵によって引き寄せられる。俺は引っ張られる力が加わることでバランスを崩して再び鉄球が飛んで来た。しかし、それを崩した状態から咄嗟に避けて引き寄せた敵の方角に態勢を向けた後で攻撃に入る。
「いきなり引き寄せるなんて卑怯だろ! けど、お陰で距離が取れた!」
「ひっ⁉ そんな馬鹿な⁉」
今度の効果に関しても引っ張る方向は術式を発動させた魔術師側に向けられている点が窺える。つまり、方向は発動した魔術師が位置する場所であることが詳しく分かった。後は相手が引き寄せて来た時にどの距離で解除するかでこちらは攻撃に転じられる。
「悪いが倒させてもらうぜ!」
「そんなぁ⁉ 来るんじゃない⁉」
「無理なこと言うなよ!」
俺を引き寄せる力は途中で途絶えたが、相手との距離が縮まったことで後はm傷からの足で向かうだけだった。
「これで食らえ!」
俺が直に触れて身体を凍らせる、今度の相手は殺すつもりで顔面まで及ばせて置いた。きっといつか窒息して死んで行くことは決定したも同然である。そして少し距離が空いてしまったが、残る相手は単純に鉄球を飛ばして来るだけの術式だった時点で避けながら接近して前の相手と同じ末路を辿わせた。窒息させるつもりで顔面を凍らせて全員が倒せてしまう。
「これでお終いだけど、後は真介さんと合流しないといけない!」
まずは真介さんの下まで行きたかったが、どこにいるのかが分からなかった。この中を探して行こうと思ってが、意外と広いことが窺える中で見付けることは難しく思える。しかし、探さないで引き返すことも出来ないなら、彷徨っても良いから見つけ出す決心を抱いた。
すると、そこで俺が振り返った瞬間に知らない男がそこに立っている。彼はスーツに身を包んで何故か拍手を送って来た。何で拍手なんてするのかは分からないが、この場所に居合わせている時点で敵であることは確信が持てる。
「お前も不正術師か? 真介さんはどこにいるのか知っているか?」
「さっきまでの交戦はお見事だったよ? さすが準一級術師では下等に着いた存在に思えただろう。そこは申し訳なく思うよ」
「どうやら答えるつもりがないらしいな? そこまでして知られたくない理由があるのか?」
「そんなに怖いこと言わないでよ? しかし、今の君では格が違い過ぎるとは思わなかったようだな? それは少しがっかりだ」
「あぁ? やんのか?」
俺は少しムカつく態度で接して来るこいつに腹を立たせる。その苛立ちが俺に殺意を抱かせた。そこで俺が右拳に冷気を帯びさせて殴る準備に入る。それを見た男が不敵な笑みを浮かべながら攻撃が来るまで待っている様子を窺わせた。しかし、俺の攻撃が下される前に一番信頼を置いた人物からストップが掛かる。
「駄目だ! 逃げろ!」
「んぅ?」
そんな声が上がった瞬間に天井が崩壊して何かが落ちて来た。そこでは上から真介さんが落下した時に彼の下敷きになっていた人物が大量の血が噴き出た瞬間が目に入って交戦中であることが窺える。つまり、真介さんは黄泉の合間に床を破ってにたどり着いたことが分かった。そして攻撃の対象になっていた男の前に現れた真介さんの視線が彼に向けられる。視線が自分を睨み付けている事実を知った男は再び拍手で真介さんを称賛した。
「参ったよ! さすが序列一位の正規術師だな! これは驚いたねぇ!」
「うるさい! 黙って死ねぇ!」
真介さんが術式で姿を変えて男を襲った。それを片手で防いだ光景を見た俺は何が起きているのかが謎に思えてしまう。そこで真介さんの攻撃を受けても平気でいられる男に対して防がれた手の反対で顔面を殴った。それが決まった瞬間に倒せた確信を待つ。しかし、この期待は甘かった。男は真介さんが下した攻撃が及んでいても、平気にも思える余裕な笑顔でいる姿が恐ろしいと感じる。その現状に対する驚愕が俺に恐怖を抱かせた。




