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43話 ギルドの愉快な仲間たち

初依頼を無事に終えた夜。

コウ・リウランに依頼された素材を全て渡した後、マグニ一同はギルド・インに多くある、小厨房のひとつを貸し切っていた。

その理由は、こんもりっと山のように積まれた川魚。ガルムが不本意で茹で殺してしまった魚たちだ。


「いヤー大漁ですネえ。どれも湿地で獲れル魚ばかリです」

「さてっ、これだけの数の保存食を作るとなると、かなり時間かかりそうね」

「改めてみるとすごい数ですね。あの大っきなバンボアとの戦いで巻き込まれちゃったんですか?」

「まあ……ウム」

「全部見事に《《湯引き》》されちゃってるわね、どんな魔術使ったのよ。魔術で死んだ痕跡はなさそうだけど?」


さても、ガルムは言葉に詰まる。

マグニがいる以上、ここで素直に「呪い」の事は口にできない。だがさりとて下手な嘘をつけば、女二人から更に追及されることは必至。

どうしたものか──なるべく女性陣が突っ込んで聞きたがらない言い訳を考えること25秒。


「ム…………、……り、力んだ拍子にドキツいオナラで死んだのだ」

「オナラで!?」 


横で聞いていたコウ・リウランがバブフーッ!と噴き出し、抱腹絶倒。「どんだけ高熱のオナラなんですか!イヒーッヒヒヒ!お尻の穴が頑丈ナンですねえ!」とバカウケ。

当然ながら女性陣はかなりヒいており、ヴィオは「ほんっとしょーもない」と呆れているし、ステラは顔を真っ赤にして「そういうことをあまり大声言うものではありませんし、もっと良い方法があったでしょうに!本当に何をしてるんですか貴方は」といつものお説教。

しかしそれ以上ふたりがこの件について突いてくる気配はなさそうだった。マグニから放たれる、やや穿ったような視線は、この際気にしないことにした。


「これ全部仕込むとなると、人手が欲しいわ。でも全員でやっても一晩じゅうかかっちゃうだろうし、どうしたものかしら」

「食べきるのも時間かかりそうですよね。流石に余らせて腐らせちゃうのも勿体ないし」

「えーっ素手でお魚に触るの?こんなに臭そうなのに」

「ヴィオ、今のうちにこういう事も慣れておかなくちゃ。忙しい時は助け合わないと」


むう、とむくれるヴィオの横で、コウ・リウランがぱちん、と手を鳴らす。


「でハ、マグニさんタチで人手を集めルのはイカガでしょう?

まだお二人は冒険者にナったばかリですし、挨拶回りもカネて、手を貸しテくれそうナ方々を探すノデす」

「え〜っ、それってギルド・インの中を歩き回れってこと?あんなに広いのに?」

「これモ冒険者とシテの研修の一環トイうことでドウでしょう。この先色んナ人と関わって仕事をするノですカラ、挨拶は大事デスよ」

「確かに、私とガルムで組んだときは、殆どギルドには顔を出していなかったものね。色んな人たちの顔と名前を覚える、いい機会じゃないかしら。友達は多い方がいいわよ!」

「……ステラがそこまで言うなら……」

「『人脈は宝より(とうと)し』とも言イまスからね!途中までハ私もご一緒しマスから、安全安心!」


そんなわけで、マグニとヴィオはコウ・リウランに連れられ、ギルド・インの中を巡る。

まず初めに訪れたのは、初日に案内された露市場。日は沈んでも、ギルド・インの中は、等間隔にあちこち吊るされたランタンや街灯のおかげで、常に昼間のように明るい。

竈屋や食べ物屋台、酒場に人が集まり、賑やかなものだ。肉の焼ける香ばしい匂いがぷうんと漂うおかげで、ぐうっと二人の腹が鳴る。


「さテ、まず二人に紹介してオキたい人がいマス。彼は友人が多いノデね、きっと二人の力になっテくださルはずです」


コウ・リウランは早速、露市場の一角でまさに店仕舞いをしている男に近寄ると、「メイディ!ちょっと良いデスか」と呼びかける。

ガルムとそう変わらない、大柄な体格がのっそりと振り返る。メイディはまさに典型的なエポ・ガオ人といった見てくれをしていた。

伸ばしっぱなしの硬そうな髪は、雨上がりの夕暮れを燃やす夕日のような橙色。一対のツノは美しくも逞しい太さで、後方にくるんと輪を描いている。

一度も剃ったことのなさそうな太い眉と深緑の目に、筋骨隆々の上半身には、朱色で描かれた珍しい模様の刺青がびっしり彫られていた。

メイディの顔を見た途端、マグニはあっ!と声を上げた。メイディも左目をぱちくりさせて、ニカッと笑う。


「コマタにいた商人さん!」

「おう!どっかで見た顔だと思ったら、マナ・クォーツを買ってくれたチビッコじゃねえか。元気にしてたか!」

「おヤ、知り合いでシタか」

「コマタでちょいと小遣いを稼いでた時にな。後ろのちまこいのは兄弟かい?」

「ええ、まあ。妹のヴィオです」

「ちょっとマグニ、私がお姉ちゃんでしょ!」

「はっはっは、仲がいいねえ。オレはメイディ・マイマイアだ、よろしくな。マグニ、ヴィオ。気楽にメイディって呼んでくれや」


メイディはぬうっと大きな手を差し出すと、二人の手をつまんでぶんぶんっと振る。

頬や顎についた傷が、笑顔につられて引っ張られている。

彼は冒険者ギルドに勤めて五年は経つらしく、積極的に各地の秘境地帯を巡っているのだという。

コマタに寄ったのも、新たにギルド支部が設立されるため、市場調査の一環で露店を開き様子を見ていたのだそうだ。


「それで、なんだってオレに声かけてきたんだい。パーティーがいないとか?」

「いや、実は人手を探しているんです。それでコウ・リウランさんがメイディさんを紹介してくださったんです」

「ふうん?力仕事かい?」

「さ、魚の仕込みを手伝ってほしくて……あ、勿論ただじゃないですよ。お魚は差し上げます。勿体ないくらい余ってるから」

「ほほおー?」

「うちのガルム、あっお父さんなんだけどもね、バンボアのヌシと戦って、そのせいで沢山の魚を死なせちゃったの!仕方ないから引き取ったのだけど、沢山ありすぎて、仕込みすら人手が足りないのよ」

「まさか、湿原のバンボアをかい!あいつァオレたち獣教師ですら手を焼いた暴れん坊だってのに、よく倒せたもんだ」


マグニとヴィオが事情を話すと、メイディは感心したように顎を撫でさする。

事情をすっかり聞き終えると、「そういうことなら、何人か声かけてみるか」と笑うと、コウ・リウランと一度別れを告げ、メイディは二人を連れて露市場から離れる。

そして近場にあった昇降機に乗ると自身のギルド証を昇降機内部の上部にある黒いプレートにかざし、「良いところに連れてってやる」とウインクした。


「どこ行くの?」

「冒険者なら絶対足を運ぶところ。さ、到着だ」


ガコンと揺れる昇降機にのせられた一同が到着した先は、薄暗い酒場であった。酒と男たちのすえた汗臭い匂いに、ヴィオは顰めっ面をすると、さっとマグニの背後に隠れた。

客である冒険者達は、メイディを見ると「おう、メイディ!」「マイマイアのせがれー、今日は女ひっかけないのかー?」と喧しく笑いながら絡んでくる。

そして大きな体の後ろにマグニたちの姿を認めると、にやにや笑いながら「おいおい!いつの間に子連れになったんだい」「ここにガキが飲めるもんはないぞ」と囃し立ててきた。

メイディは慣れているのか「おい、オレのツレだぞ。いじめたら承知しねえかんな」と冒険者の何人かを小突いて、のしのしとカウンターへ向かう。


「よおアクセラ姐さん、ちょっと良いかい」

「あらァ久しぶりねメイディ!二ヶ月ぶりくらい?またずいぶんと男前に磨きがかかったわね。その子たちは?」

「連れだ。コウ・リウランの紹介だよ」

「へえっ、もしかしてギルドの研修生ってところかしら?」


カウンターを挟んで、酒場の店主が身を乗り出してきた。

背の高い男性だが、その声色や話し方は艶のある女性特有のものだ。顔周りはやや短く刈って、長い三つ編みを後ろに垂らした金髪と、にっこり微笑む糸目が印象的だ。白い肌にはオレンジ色の化粧を施し、筋肉質な痩身もあいまって、黙っていればガタイの良い女性にも見える。

だがマグニの視線は、アクセラの後ろに、隠れるようにしてこちらを見つめる少女に向けられた。最初にギルドへ来たとき見かけた、ザベン人の少女だ。


「あ……」


少女は恥ずかしそうに上着のフードをさっと被ると、アクセラのおさげをちょいちょいっと引っ張った。

アクセラが屈むと、こしょこしょと耳打ちする。すると、アクセラが「へえ!この子がねえ」と更に笑みを深めて、マグニに微笑みかけた。


「初めまして、アタシはこの酒場の店主アクセラよ。こっちは妹のジネヴラ、ネヴィって呼んであげてね」

「ま、マグニです」

「ヴィオよ。よろしくね、ネヴィ」

「……よ、よろしくお願いします……あの……あの時は……あり……」

「あり?」


その羽虫の鳴くような声といったら!

ようく耳をすませないと、「よ」の字すら聞こえないほどだ。それ以上話すことも恥ずかしいのか、ジネヴラは顔をぱっと布で隠して、そのまま俯いてしまった。

挨拶もそこそこに、メイディがさっそく目的を切り出す。


「実はよう、こいつのオヤジさんが黒森に居座ってた湿地のバンボアを退治したんだとさ。それで湿地の魚がバカみたいに獲れちまったもんだから、魚を捌くのに人手が欲しいそうだ」

「あらァ!あのバンボア、あなたのお父さんが倒しちゃったの!?スゴイじゃなァ~い!あのバンボア、近々Ⅱ級指定の大型討伐害獣に指定されるかもって話だったのよ。どこの強いパーティーさんかしら?名前は?」

「え、えっと……僕のち、……父は、ガルムといいます。新人です、僕たち皆」

「ええっそれ本当ォ!?Ⅲ級のベテランたちですら20人は返り討ちに遭うほどの怪物だったのよ、あのバンボアは!

クラインのギルド支部長が直々に精鋭部隊を組んで倒すべきじゃないかって話が上がってたくらいなのに!それを新人が!?」

「えっ」


思わずマグニとヴィオは視線を交わす。

あの巨大な魔獣は、思ったよりも凶悪な魔獣で、思った以上に深刻な被害を出していたようだ。

マグニからすれば「(竜を倒せるんだから、ガルム様にとっては猪くらい、ヘでもなさそうだな)」と受け止めてしまっていたが、少年はガルムのせいでかなり感覚が麻痺してしまっていた。

ベテランの冒険者を何人も屠ってきたバケモノを単身で倒してしまうなど、まず並の人間にはできっこない。話を聞いていた冒険者たちはにわかに信じがたい、という顔をして視線を交わし合う。


「あの双牙のバンボアが、たった一人にブッ殺されたって?マジかよ、俺ですら手を出そうとは思わなかったのによ」

「しかもぽっと出の冒険者が一人で倒したってのかい?ホラじゃねえのか」

「でもよお、ガルムって名前なら聞いたことあるぜ!どっかのギルドの建物ぶっ壊したヤベー奴だってよお」

「俺も知ってるぜ!俺の商売敵がそいつに右腕とツノをへし折られたって男泣きしてたんだ!いやあ両方のツノを根元からへし折られてて爽快だったぜアレは!」

「おいボウズ、その話もっと聞かせろ!そのオヤジさんは何者なんだい!」

「はいはいアンタたち、そこまで!困ってるじゃないの!」


酔っ払いたちが次々にマグニとヴィオを取り囲むと、好き勝手喋り、根掘り葉掘りとばかりに質問責め。花の蜜を求める虫が如しだ。

アクセラがすかさず酔いどれたちをピシャリとたしなめ、「もっと話を聞きたきゃ、この子たちの手伝いをすることね!」と一喝。

客たちは「ま、どうせやることもないしなあ」「魚大好きだぜ!手伝うよ」と乗り気なものから「酒が飲めるならなんだっていいぜ」「バンボアをぶっ飛ばした話が聞きたいな」という野次馬、「面倒臭ぇ」「カネにならねえならお断りだよ」と嫌がる者まで十人十色。

協力的な面々は、場所を聞くや否や「じゃあ持ってくるもん持ってそっちに行くぜ」と告げて去って行く。


「でも、結構集まってくれましたね」

「これで足りるかしら?」

「アタシとネヴィも付き合うわよん」とアクセラが口を挟む。

「良いんですか?ここの店主さんなのに」

「アタシは自分が開きたいときに店を開けて、好きな時に閉めるの。ほら野郎共、手伝わない奴はさっさとベッドに行っちゃいなさーい」


客たちは金を払って出て行き(ツケだぜ!と喚いて逃げ去る者もいたが、アクセラは呆れて溜息をつくだけだった)、アクセラは店を閉める準備をする。

マグニははた、と思い立つと、「そうだ、もう一人誘いたい人がいるんです。先に行ってて」とヴィオたちに念押しして走り出す。

昇降機にギルド証を翳し、向かった先は、あの豪奢な回廊。回廊に並ぶ豪華な扉のひとつを叩いた。


「ヴィーザル、いるかい?」

「やあ、マグニ。どうした、そんなに息を切らして」


突然の来訪に、部屋の主ヴィーザルは驚いきながらも招き入れようとする。

マグニは手をわやわやと宙にさまよわせ、「あの、誘いたくて」と色々言葉を省略した一言目が口から飛びだしていた。


「これから皆で魚を捌いて、配るんだ。ヴィーザルにも、その、来て欲しくて」

「魚?」

「昼間、取り過ぎちゃったから、人手を探してて。一緒に食べようと思って、色んな人に声かけてて。ヴィーザルも来てくれたら、嬉しいな、って……」


ヴィーザルはやや面食らったようだったが、マグニの言葉に少し考え込むと、「しばし待て」と告げて部屋に引っ込んでいく。

大人しく待っていると、顔に面を付けフードを被り、変装したヴィーザルがやっと出てきた。「あまり人に顔を晒すわけにいかんのでな」と言うと、すたすた歩き出す。


「魚は余も好きだ。しばらく食べていないのでな、相伴にあずかるとしよう。案内してくれ」

「……!うん、行こう、ヴィーザル!」



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