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教会の思惑

 フォルフォスが任務を達成し、ペイラーの街でくつろいでいる頃。


 王国の端、未開の土地にある神殿で黒いローブを羽織った男たちが話し合っていた。

 円卓を囲んでいる男たちの服には十字の紋章が刻まれている。


「聖眼の力を使いこなせぬとは、モレーノも使えない」

「先生の役に立てると言ったら、自ら目を差し出した女だぞ。イカれている」

「この魔導具に視界が接続されているとも気づいていない。所詮(しょせん)はその程度よ」


 円卓の中心にある機械が、上に映像を映し出している。

 それはモレーノの左目からの視点だ。

 

「それにしても、今回は新しい収穫があった」

「あの魔物のことだろう? あいつは勇者の魔力に反応して進化していたな」

「研究していけば、魔物の軍事転用も可能かもしれない」

「クレリクスについてはどうする?」

「あの失敗作か? 適当に処分でもしておけ」


 男たちが下卑(げび)た笑みを浮かべながら言葉を交わしている。


「完璧な器が見つかったのだ。強大な聖のオーラに耐えることができる。これで教会の力が確実なものになる」

「しかし、あれは勇者の才覚があるぞ?」

「勇者など、いくらでも作れる時代が来るってことだ」


 男たちの会議は続く。

 それは自身の地位や富が今後約束されたという、聖職者とは思えない内容ばかりだ。


 時間が経ち、話が終わった。

 円卓の上座に座っていた男が立ち上がる。


「赤竜だったモノの回収と、フォルフォスの確保をいそ……」


 何かを言い切る前に、男の首が切断された。


「誰だ!?」「攻撃か!?」「この場所には誰も入れないはずだぞ!?」


 男たちが慌て始める。


 上座の後ろ、柱の裏に人影が現れた。


「貴様! 何も……」


 腰に掲げた剣を握ろうとした男の胴体が二つになる。


「空間魔法か!?」


 一人の男が何かに気づいた。


「正解です。あなた、少しは分かるようですね」


 いつの間にか円卓の中央に移動していた女性。

 純白のローブを羽織り、顔の大半をベールで隠している。

 灰がかった白色の長髪から飛び出た特徴的な長い耳は、左だけ半分に切れていた。


「お前ら! 体に魔法陣が現れたら移動しろ!」

「さて、避けられるでしょうか?」


 男たちが存在しているところと同じ座標に、一瞬だけ魔法陣が現れる。

 魔法の正体を暴いた男以外が、空間ごと”切断”された。


「貴様! エルフはこの世界に不干渉のはずだろ!?」


 絶望の中、声を張り上げる男。


「私はもうエルフではありませんよ。この世界にも興味がありません」

「ならなぜ……」


 エルフの目が恍惚(こうこつ)に輝く。


「私の世界は()()の主様のみ。それ以外はいらないのです」


 エルフが両手を頬にあて、天を仰いでいる。

 隙を見せたエルフに、男が詠唱の終わった最上級魔法を放つ。


「くたばれ! 聖なる剣(ホーリーセイバー)


 エルフの上に巨大な光の剣が現れる。

 しかしそれは、その場には無かったはずの黒い(もや)に食べられてしまう。


「化け物が……」


 男の全身に魔法陣が現れ、裁断された。


「ゴミの分際で、主様に対して(たばか)った罰です」


 エルフが円卓上の資料を回収した。

 そして長い詠唱の後に魔法を放ち、闇の中へと消えていった。


 後日、王国の一部が消えていることが発見される。

 爆発にしては綺麗すぎる円弧上の断面が形成された穴は、教会によって秘匿(ひとく)された。

 かつてその場所に何があったかを、知る者は誰もいない。


  *


 姉がいない教会で、エクテは廊下を歩いていた。

 部屋から声が聞こえる。


「ふざけるな! フォルフォスはまだ10歳だぞ! 今回のこともそうだ。子供に危険な任務など、あってはならない!」

「そうは言っても……先生、あなたの貢献に免じて今までこの教会に居させてあげたんですよ?」

「はあ。同行者まで選ばせてあげたのですから、感謝して欲しいくらいですけどね」


 一人はあのカス先生の声、そして他にも数人の偉そうな声。


「俺は教会の決定に従わない」

「それは反逆と見ても?」

「勝手にしろ。貴様らに俺を敵に回す勇気があったら、だがな」


 扉が雑に閉められ、先生が出てきた。


「お優しいのですね?」


 皮肉たっぷりに声をかける。


「聞いていたのか」


 エクテは先生に詰められ、左肩の上、壁に手を置かれた。


「あらあら、私はまだ10歳ですよ?」

「貴様が裏で何をやっているのかは知らん。それでもフォルフォスに何かあったら、妹とはいえ容赦はしない」

「私にも優しくしてください~」


 先生が(きびす)を返して廊下の奥へと消えた。

 冗談の通じないつまらない男だ。


 それにしても、お姉さまに何かあったら、ですって?

 何を言っているのか分からない。

 私の行動は全て、お姉さまのためなのに。


 エクテは自室へと戻り、魔法を使う。


異空間(アナザー)への案内(インビテーション)


 最上級魔法である空間魔法を発動させ、エクテは黒い(もや)の中に消えた。




 中心に光源が一つしかない薄暗い空間で、一つの人影が見えた。


「お待ちしておりました、エクテ様」


 片方が半分に切れた長い耳と黒に近い肌色が、特徴的な女性が(ひざまず)いている。


「今日はゴミの日だったよね」

「はい、綺麗に処分しておきました」

「ありがと」


 また少し、世界が綺麗になった。

 お姉さまのものだから、掃除はきちんとしないとね。

 

 何もなかった空間に椅子が現れる。

 エクテは当然のように座った。


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なに?」

「なぜ、エクテ様は世界を滅ぼさないのでしょうか? あなた様の力であれば可能なはずです」

「ラルウァは私のことを買いかぶりすぎ。今の私では、せいぜい王国を消すぐらいの実力しか持っていないよ」

「出過ぎた真似をお許しください」

「でも、それはそれで……ありだ」


 姉妹だけの美しい世界で、清らかな愛を育む。

 身の回りのことはラルウァに任せればいい、他はいらない。

 未来を想像しろ。


『お姉さま、ダメです。ここは神聖な教会です』

『いいではないかエクテ。どうせ私たち以外、誰もいないんだ』

『それに……』

『それに?』

『私たちは家族、姉妹です……こんなこと……』

『愛に血が関係あるかい?』

『お姉さま……』

『エクテ……』

「お姉さま……」

「エクテ様、エクテ様!」


 ああ、素晴らしい。


 ラルウァの声で気がつけば、膝が血で汚れていた。

 鼻に手を当て回復させる。

 

「いや、なしなし。ありだけどなし! お姉さまは()()()()()勇者を全うしている。その舞台まで奪ってどうする。分かってるよね、ラルウァ?」

「全てはフォルフォス様の御心(みこころ)のままに」

「そう。それにやりすぎると帝国……あいつらは何とかなるか……エルフが出張ってくるかもしれないし」

「あの”腐った肉”ども、ですか。さっさと(うじ)にでも喰い尽くされればいいのに」


 流石に複数のエルフを同時に相手するのは面倒臭い。ラルウァの実力を知っていれば分かることだ。

 当面は目立った行動を避けるべきだろう。


「そこら辺はいずれ考えるとして、今は”お姉さまの物語”を応援しよう」


 エクテはラルウァが持ってきたカップを手に取り、紅茶を楽しむ。

 隣にはちょうどいい高さの小机が置かれていた。


「それで、あの件はどうなったの?」

「こちらが一覧になります」


 手渡された資料を読む。


「私同様に世界から見捨てられ、情報が秘匿(ひとく)された存在達です」


 紙には、魔族人間その他世界中の人の情報が書かれていた。


「弱い……」


 エクテは親指の爪を噛み、悩む。


「条件を広げますか?」

「いや、いい。何人かは私が鍛えてあげる。使い物になるかは彼女ら次第」

「承知いたしました」


 エクテは資料の中から何枚かの紙を渡し、残りを燃やした。

 こちらも慈善事業ではない。覚悟の無い者はお断りだ。


「それにしても、教会の内部に良い娘はいないの?」

「それでしたら……先ほど手に入れた情報ですが」


 ラルウァから新たな資料を受け取る。少し血で汚れている。


「これはこれは……」

「フォルフォス様への忠誠は確かなものでしょう」


 名はクレリクス、教会の”闇”だ。

 いいね、素晴らしい。

 思わず口角が上がる。


「今度会いに行ってくる。経路(パス)の用意をお願い」

「仰せのままに……」




 ここは”()姉さま()き好き()()ト”、通称”神の槍(オスカル)”。

 姉を想いすぎた妹が作った、フォルフォス・サストレを神と崇拝し、行動の全てを捧げる組織。

 最終的な目標は最近決まったようだ。

 それは、”お姉さま”にこの世界を献上すること。


 ──世界征服だ。

閑話を二話挿み、次から”学園”章が始まります。

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