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ユータ−1

 グランダニア地方は、ルシタニア王国の西の外れにある。夏は北から風が吹き、冬は南から風が吹く。だから、夏暑すぎることもないし、冬寒すぎることもない。だが、僕は、こういう気候はあんまり好きじゃない。

 なぜかというと、グランダニア平原のようにゆるいと、何をすればいいかわからなくなるからだ。夏が思いっきり暑いなら、プールにでも行くモチベーションができる。冬が思いっきり寒いなら、おまけに雪でも降るなら、雪かきでもすればいい。

 そう、僕は何をすればいいかわからない。ゴロー教授は、「ユータはそのままでいいんじゃね。」なんて言っている。教授にあるまじき言動だ。キョウコは、「ユータ考えすぎ!!」なんて言っている。

 でも、おかしいじゃないか。世界はすごい勢いで進んでいる。なぜ僕はこんなところで佇んでいる?なぜ?なぜ?なぜ?

 僕はその日も、グランダニア平原の中心部、草原の上で寝っ転がってまどろんでいた。草原の草が僕の体をチクチクと刺すが、僕は構いはしない。

 白い雲が飛行船のように空に伸びている。青い空が瞼の裏から感じられる。すごく、まぶしい。

 僕は、寝っ転がりながら、いつもの通り、今日読んだコンピュータの構造を脳裏に思い浮かべた。レジスタやCPU命令をいろいろとこねくり回してみる。

誰も信じないけど、この世界は抽象化されている。僕たちの世界は一見わかりやすいけど、それはインターフェースを見ているからだ。君の見ているラップトップ、スマートフォン、眼の前にいる自分の好きな子、犬、それらは、絶望的な複雑性をその下に隠している。世界は本来複雑であり、僕たちは単純化された表面をなぞっている。

 でも、コンピュータの本当の力を十分に発揮するには、中の複雑性から目をそらしてはいけない。複雑性をそのまま受け入れるんだ。中身がどうなっているか理解しないといけない。

僕は答えを探している。確固とした答えだ。いつもそこにある北極星のように、時代が経っても動かないもの。だが、今日も探しているものは見つからない。コンピュータの原理は、いつも通りそこにあり、僕の前に存在している。多分、過去においても、今日も、明日も、明後日も、未来永劫そこにあって、何も言わずに僕の前に存在し続けるのかもしれない。それとも、いつか霧のように消えてしまうのだろうか。

不意に足音がする。耳をそばだててみる。そんなに重くない、女の子の足音。さくっ、さくっ、と草を踏みしめる。

 まったく、こいつはいつもこんなふうにちょっかいを出してくる。

 僕は呆れながら、相変わらず寝っ転がっていた。森から流れてくる甘い風が僕の頰を撫でる。女の子は僕の隣に腰を下ろした。キョウコだ。キョウコはいつもの明るい声で言った。

「いい天気だね。ユータ。明日の準備はいいの?」

 僕は寝っ転がったまま答えた。

「荷物詰めるだけだろ。今日の夕方やるよ」

 僕は明日、スーパーエクスプレスでトスラ経由でクレアまで行く。目的はなく、ただの旅行だ。僕は時々、こうやってぶらっと遠くまで旅に出ることがある。

 今はアカデミアの休暇期間。別にグランダニア平原にいてもいいんだけど、クレアにいてもいい。キョウコは付いて来たいみたいだけど、僕と一緒にいても面白くないと思う。

 僕はキョウコに遠慮してるのかもしれない。なぜ遠慮してるのか僕にはわからないが。

 僕はやりたいことがない。キョウコは、今日もなんか怪しげなソフトウェアを作って、何かやっていた。そういうことを考えると、僕はモヤモヤしたものが込み上げてくる。

 僕はその感情から逃げるように、クレアに行く。何かが見つかることを期待しているか、何かに見つけてもらうことを期待している。

 キョウコはいつもの明るい声でニコニコしながら、僕に話しかける。

「ユータ暗い顔!」

「ははは」

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