銀色の子供3
忙しくて本筋が執筆できていなかったのですが、ぼちぼち余裕が戻ってきそうなので次回でこの話を終えてその後本編に戻ります!
ただ投稿ペースはここ最近の感じのものになりそうなのでのんびりとお待ちいただけると幸いです!
ユキの視界に広がるのはどこまでも続く無数の墓石だった。
なぜそれが墓石だとわかったのか…それはただそう見えたとしか言いようがなく、そしてそれは正解だ。
雪が覆い尽くす白い闇の中、見渡せる限りに地面に突き立てられた石が均等に並べられていて…つまりはそれだけの人数がこの場所で亡くなったという事だ。
ユキはそれを恐ろしく感じた。
なぜ死んでしまったのか、どうしてこんな大勢が亡くなっているのか。
墓石はそこまで古びているようには見えない。
つまりは大昔からの死者を弔っている場所ではないという事だ。
「…そんな怯えないでやってくれなー。ここにいるのは私の、そしてユキの「きょうだい」たちなんだから」
「きょう…だい…?」
「そー。私ちゃんはなー本当にびっくりしたんだ。だって初めて見たんだぞ…私ちゃん以外でここに生きて送られてきたやつは」
そう言ってカナレアはユキを見つめた。
先ほどまでのニコニコとした無邪気な少女とは似ても似つかない…顔つきの幼さには不釣り合いな憂いと悲しみを帯びた表情だった。
「え…それって…」
「どうせユキも「お前はこの時代に生を受けた貴重な宝だから銀の神に捧げるにふさわしー」とか言われたんだろー?ユキは尻尾があるから魔族だよなぁー?まぁ人間も魔族もやってることは変わんないだけどさ」
そうしてユキは理解した。
いや、すでになんとなくわかっていたが、それを受け入れたくなかったものを事実だと突きつけられた。
カナレアはここにある墓石たちが自分の「きょうだい」だと言った。
そしてユキの事を妹にするとも。
「まさか…ここにある墓石全部…神様に捧げられた宝…」
「そういうこと。だぁれもそんなの頼んでないのに人間どもは魔族のやつらが自分らを出し抜いて神様に取り入ろうとしているからと、そして魔族どもは自分たちを差し置いて人間どもが神様に取り入ろうとしているからって同じことを言いながら「宝」といいつつ病気の子供や身寄りのない子…そして私ちゃんたちみたいな黒い子を捨ててるんだ。そしてみんな死んだ。たまにしばらくは息があるやつもいるけど…ここに来た時にはすでに死んでる子ばかりだ。本当に馬鹿馬鹿しいよなぁー」
――ここには私ちゃんとママしかいないのに。
そんな言葉をユキはどこか遠くに聞いていた。
────────────
それからユキはどうやって教会まで戻ってきたのかわからなかった。
カナレアに手を引かれていたのだろうが、とにかく頭がボーっとして何も考えられない。
「ごめんなー。一度さ「みんな」に会ってもらいたかったから…もう少し時間を空けたほうが良かったなー」
「…」
「今日は疲れただろー?また寝てから色々話そうなー」
「うん…」
ずっと意識にもやがかかっているようで…すべての音が遠い。
ユキの頭が、いや全身が休息を欲していた。
「んとなーお布団の材料はあるけどまたちゃんと縫って詰めてしないとだからユキの分の布団がないんだよなぁーだから今日はみんなで寝るぞっ!うおぉおおおお!!ママー!」
叫びながらカナレアが走り出す。
向かう先は例のソファーの上で寝ころびながら本を読んでいる銀髪の女の姿があった。
カナレアは走りの勢いそのままに飛び上がり、女の腹の上に飛び乗る。
少し前にも同じ光景を見た気がするが、その時同様やはり女は何も反応を見せず、本のページをめくる。
「ママーごろにゃーんごろにゃーん」
まるで猫のようにカナレアは小さな体を女に擦り付けたりして甘えていたが、それでも女は何も反応しない。
ただされるがまま…ただただ本を読んでいる。
「ほらー寝るぞーユキもこいー」
「え…?」
半分ぼやけた視界にカナレアが手招きする姿が映る。
おまえもそこに加われと言いたいようだが、それはいくら何でも無茶だと思った。
反応がないと言っても見ず知らずの子供にそこまで馴れ馴れしくされて受け入れる者などいない。
またあの目で睨まれるくらいなら床で寝たほうがマシだ。
床で眠るなどそれはそれで失礼に当たりそうだが、もはやそれを考えられる余裕もない。
もう限界が近かったユキはその場に寝転がろうとして…ふわりと体が浮いた。
しびれを切らしたカナレアが魔法でユキを浮かせたのだ。
そしてそのまま不可視の力でユキの身体は運ばれていき…ぽすっと銀髪の女の胸のあたりに収められてしまった。
「ひぃっ…!」
小さく悲鳴をあげながら恐る恐る女の顔を伺う。
しかし女はやはりと言うべきかユキの方に意識を割いている様子はなく、本の文字を追っている。
そして気が付いた。
先ほどまで睨まれていると思っていたが、この人は元々目つきが悪いのだと。
読んでいる本の内容が芳しくない可能性はあるが…しかし面白くもないものを睨みつけてまで本を読んだりはしないだろう。
そもそもこんな場所で本など手に入るのか…疑問が浮かんできたがユキの意志を捻じ伏せながらひとりでに瞼が閉じていく。
布団はないが全身に伝わってくる女の身体の熱が布団代わりに、その柔らかさがベッド代わりとなり微睡の中に誘っていく。
(あぁ…そう言えば…誰かと一緒に眠るのなんて初めて…かも…)
そうして安らかな闇の中へゆっくりと落ちて行った。
完全に意識が途切れる寸前に…ふわっと大人の手に頭を撫でられた気がした。




