探ってみる
やーやーこんにちは、お久しぶりです。
そう私こそが黒い龍と書いてブラックドラゴン…ブラックドラゴンであります。
そして同時にブラックドラゴンと書いて黒龍でもあります。
まぁそんなことはどうだっていいのだ。
実はいま少しだけ面倒なことになっておりまして…というのも私は現在カナレアちゃんの背中に後ろ向きで括り付けられて運ばれている感じなのだけど、そんな快適移動生活に甘んじていた結果、昨夜とんでもない場面に遭遇してしまったのだ。
それはこのカナレアちゃんと「ユキ」と呼ばれていた女の子の密会だ。
お互いに人目を避けていたけれど、カナレアちゃんがなぜか私を背負ったままだったので、咄嗟に私のスーパー演技力を発揮して寝たふりを敢行した。
私のいわゆる狸寝入りはあまりの演技力に二人の目を完全に欺いた。
一瞬だけ私のお腹と食欲が暴走してしまったが、そこはどうしようもない不可抗力というやつなので気にしない。
生きているんだもの、そういうこともあるさ。
とにかく二人の少女は私が起きていたという事には気づかず、内緒話をしていて、そこで私はとんでもない話を聞いてしまったのだ。
それは現在カナレアちゃんを中心に魔物の領域に侵攻しているこの人間たちの行動が…いや、そもそもこの人間と魔物の戦争自体がその二人の少女に仕組まれているという事だ。
なぜそんなことをしているのか…理由は話していなかったけれど人間側をカナレアちゃんが、魔物側をユキと言う少女が煽って扇動することで争いに導き…最終的にはどちらかの種族を滅ぼして、さらに生き残ったほうにも絶大な被害をもたらす…それが彼女たちの目的らしい。
思えばちょっと変だなとは感じていたのだ。
いくら強さを見せたからと言っても素性がよくわからない妹を突然戦力として引き込んだことに対して警戒心なさすぎでは?と。
そしていざ蓋が空いてみれば簡単なことで、実際のところカナレアちゃんにとって妹の正体が何であってもどうでもよかったのだ。
強くて魔物をたくさん倒せるのなら、その後なにかあって人間側に不都合が起きようとも問題がない…なぜならどちらが滅びてもいいし、どちらにどう被害がでても計画通りなのだから。
妹が怪しくてもどうでもいい…それが真相なだけだ。
「うーむ…大変なことになっちゃったにゃぁ」
「んー?なにか言ったかーちびっこー」
「んーん、なんにもー」
とりあえず妹に情報を共有したいとは思ったけれど、カナレアちゃんはどういうわけか私から一瞬たりとも目を離そうとしないので隙が無い。
いや、前も言ったような気がするけれど、逃げようと思えば簡単に逃げることはできる。
だけどそれをするとある意味で「いい状況」であるこの立ち位置を放棄するという事でもある。
この国で起こっている戦争の仕掛け人にして、ここに来た目的である銀龍さんに繋がる唯一の手掛かりであるカナレアちゃんに保護されているというこの立ち位置をだ。
私の目の前には天秤がある。
この場を脱出して妹に情報を共有し、今後の方針を相談するか。
現状維持か。
私がとるべき選択は…。
なーんて頭のよさそうなことを考えてみたところで、私に良い答えなんて導き出せるわけでもなし。
決して自分がおバカだって悲しい自覚をしているわけではないけれど、私という存在から最も遠いところにあるのが「考える」という行為であることは間違いない。
産まれてこの方、ありとあらゆる物事を深く考えずに生きてきた私なのだ、
いまさら頭脳担当になろうたって出来るわけもない。
というわけで私は何も悩まず、直感で現状維持を選択した。
下手な知恵で行動しなくとも妹ならなんやかんやうまくやってくれるだろうという信頼プラス、やはりこの私の立ち位置だからこそ得られるものはまだあるだろうと思ったから。
「そうと決まれば私は私なりに頑張りますかのー」
「おー?何か言ったかー?」
「なぁんにもー」
とりあえず方針が決まったのでカナレアちゃんの背中で貰ったパンを齧りつつ周囲の様子をそれとなく探ってみる。
そうすると事情を知っているからこそ見えてくるものもあるわけで…。
まず目についたのは人間たちの進んでいる道だ。
いや…道と言えない場所を私たちは進軍している。
カナレアちゃん曰く魔物の目を少しでも欺くために進みやすい街道ではなく、高い崖や、険しい坂道に獣道…ただ進むだけで体力を消費するであろう辛い道をあえて進んでいる。
おそらくこれもわざとなんだろうね?
人間たちの体力を削りたいのか…もしくは…。
ただここで気になるのはカナレアちゃん本人だ。
カナレアちゃんを中心にして進軍しているという事はつまり、この険しい道をカナレアちゃんも進んでいるという事なのだけど…傍からも疲労がたまっているようにしか見えない人間たちとは違ってカナレアちゃんは涼しい顔だ。
私を背負っているというのに、すいすいと崖を昇っていく。
まだまだ子供にしか見えないのにものすごい体力と身体能力だ。
「んー?なんか変だな―」
ひとりで感心していると不意にカナレアちゃんが首を捻り始めた。
「どしたのん?」
「いやー?なんかいつもより身体が軽い気がするんだよなぁー?なんだろうなーこれー?」
「えー?」
「おっかしいなぁー…なんだろうなこれー?間違いなく軽いぞっ?」
私を背負っているのにいつもより身体が軽いはずがないじゃないか。
そう言いたいけれど、たしかに人間の子供にしてはおかしいくらいに軽やかに動いているように見える。
どういう事だろうか。
「この調子ならもっと進めそうだなー。よーしもう少し頑張るかっ!」
「んー…カナレアちゃんカナレアちゃん」
「んぉ。なんだー?ちびっこー。せっかく私ちゃんが気合をいれてるところにー」
「いや…カナレアちゃんは元気みたいだけど、他の皆はもう辛そうだよ?」
私に指摘されてようやく後ろ振り向いたカナレアちゃん。
そう、元気なのはこの子だけで、他の人間さんたちは武装しているのもあって険しすぎる道に疲労困憊で何人かは今にも倒れてしまいそうな感じだ。
人間陣営を一方的に負けさせたいのならこのままでもいいのだろうけど、互角に争わせたいというのなら不味い状況だと思う。
「うへぇー。情けない奴らだなぁー…しかたないか。おーい!お前ら少し止まれーっ!休憩だっ!」
その掛け声に人間たちはホッと息を吐いて半ば崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
やはりそうとうに疲れていたらしい。
いくら休憩したとしても戦えるのだろうか?
そんな疑問を抱いているとおもむろにカナレアちゃんは人間たちをも下ろせる場所まで昇り、バサッと両手を広げた。
「全員ちゅーもくっ!私ちゃんを見ろ!この偉大なるかっこいい私ちゃんをっ!」
疲労の色を浮かべながらもその場の全員が視線をカナレアちゃんに向けるのが分かった。
背中にいる私にもそれらが突き刺さっているからだ。
少し気恥しい気がするぜ。
「さぁ見るがいい!そして泣けっ!跪け!この私ちゃんの超絶究極スーパー奥義に慄けっ!」
カナレアちゃんは広げた両手を勢いよく合わせ、パァン!と音をたてると再び勢いよく開く。
するとそこから銀色の…キラキラとした粒子のようなものがあふれ出して広がり…人間たちに降り注いでいく。
するとどうだろうか。
今にも死にそうな表情をしていた人間たちの顔に生気が戻っていくではないか。
そして始まるカナレアちゃんに対する大喝采。
…ほほう?これはすごい。
見たところ回復の魔力を練りこんだ魔素を粒子状のまま、さらに空気中の魔素の流れに乗せて広範囲に伝播させているみたいだ。
確かにこれなら空気に乗せてどこまでも広範囲に影響を及ぼせる。
なるほどなるほど…ここにきて面白いものを見せてもらった。
もしかしたらこの技術は何かに使えるかもしれない。
覚えておこっと。
そんなこんなで迎えた休憩タイム。
私は改めてカナレアちゃんから話を聞いてみようと思った。




