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歪な片割れ

 パチパチとエクリプスが手を叩くたびに魔聖女…ユキの顔は赤みを増していき、目にはみるみる涙がたまっていく。

どこまで赤くなるのか試してみようとひたすら拍手を続けていたエクリプスだったが、ユキが耐えられなくなったのかスポットライトの当たっていた台座がから飛び降り、その後ろに隠れるようにしながらエクリプスの様子を伺い始めた。


じーっとした視線が突き刺さるのを感じ、エクリプスもならば負けじとユキに視線を突き刺して観察を始める。


魔聖女などという物々しい肩書を背負っているにしてはユキはあまりにも普通の少女だった。

いや…黒髪に赤のメッシュと言う色を持っているために普通ではないのかもしれないが、それでも髪色に偏見を持たないエクリプスからすればただの…恥ずかしがり屋の女の子にしか見えない。


魔物に与していることから彼女も魔族ではあるのだろうが…そう言う身体的特徴も見当たらず、それが一層少女の「普通」を演出しており、だからこその違和感を覚えさせる。


異様な場所、異様な状況、異様な経歴に肩書き…そこにあって普通な少女。

漠然としたちぐはぐ感がどうにもエクリプスには気持ち悪く感じた。


「あの~なにかお話があるんですよねぇ魔聖女さまぁ。隠れてないで出てきたくださいよぅ」

「…」


ともかくこうしていても始まらないと、エクリプスは情報収集のためにもと声をかけたがユキは台座の後ろから出ては来ず、ただただエクリプスの事を観察している。


そしてエクリプスは次第になにか寒気のようなものを感じるようになっていた。

なにもおかしなところはないように思える真っ赤な瞳…それに見つめられて言葉通り、まるで身体に穴が空けられそうなほどの視線にゾクリとしたものを覚え始めたのだ。


「…あのぉ魔聖女さま~?」

「やっぱり違う…」


「あぇ~?」


ようやく言葉を話したかと思えば「違う」という謎の否定を突きつけられ、どうしたものかとエクリプスが首を捻っていると「うんしょ、よいしょ」と気の抜ける可愛らしい掛け声とともにユキが再び台座の上に昇り、エクリプスと向き合うようにしてそこに座った。


そうしてようやくわかったが、どうやらユキには細長い獣の尻尾があったらしい。

羽織っていたマントに隠されていたが座ったことでようやくそれが目視できた、


それが彼女の魔族としての特徴なのだろう。


「可愛らしい尻尾ですねぇ~」

「…あなたどこからきたの?」


エクリプスのお世辞を無視してユキは小首をかしげながら質問を投げかけてきた。


「どこから…えーとですねぇ実はつい先ほどまで人間のあんちくしょうどもに捕まっておりましてぇ~命からがら逃げてきたんですよぅ。報告とかいってないですかねぇ~」

「ううん違う。おねーさんはここにいた人じゃない。外からきてる」


「おやぁ…」


確かにとってつけた設定ではあったが、まさか先ほどまで顔を赤くして震えていた少女に何の前触れもなく見破られるとは思わず、エクリプスは若干動揺した。

その間も穴が空けられそうなほどの視線は注がれ続けており、そこにようやく魔聖女の普通ではない異常を感じ取れた。


やはり…この少女は普通ではないのだ。


「な、なんで嘘をついてるのかな…どうしてこんなところに…?おねーさんはなにもの…?」

「…いやですねぇ。私は生まれてこの方嘘をついたことがないのが自慢でしてぇ~はいぃ~」


「銀聖域…入りたいの…?」

「…」


これ以上は無理だ。

エクリプスは両手をあげて降伏の意を示した。


しらばっくれることもできたが…なんとなく無意味な気がしたのだ。


「降参ですぅ。それで…私はどうなりますかねぇ」

「ど、どうもしない…」


「おほぉ?」

「どっちにしろ銀聖域には入れないし…そ、そこまで悪い人でも…なさそう…だから…」


「ですかぁ」

「です…知りたい…?ぎ、銀聖域に入る方法…」


「教えてもらえるんですぅ?」

「うん」


まさかの肯定にあっけにとられたが、その後ユキの口から語られたのはやはり人間の側からも聞いたのと同じ方法だった。


「人間をみんな追い出して…この国を魔族のものにすればいい…そ、そうすれば銀聖域への…扉は開かれる…です…」

「やっぱりそうなりますかぁ」


「そうなり…ます…だから手っ取り早くはいりたいのなら…魔族の皆に協力して人間さんたちを倒すといい…よ?」

「私にこのまま協力しろと~?いいんですかぁ?素性もわからない怪しい私を受け入れて~。何をするかわかりませんよぉ?よぉよぉ?」


「う、うん…別にどうなっても…あまり関係はないし…それにおねーさん強そうだから…いろいろと楽になるかも…」

「強そう?こんなか弱い私を捕まえて強そうですかぁ?ただのしがない淫魔ですよぅ?エッチなことしかできませんよぉ」


――まただ。

またもやあの視線がそそがれ、エクリプスはそれを認識した瞬間、今度ははっきりと冷たいものを感じ取れた。

氷でできたナイフで腹を裂かれ、中身を観察されているかのような…怖気交じりの寒さを。


「…おかしないんま。ふつうから外れたあなた…お、女の人からしか…ご飯をもらえない、の?」

「…!?」


常に眠たげだったエクリプスの瞳がこれでもかというほど大きく見開かれた。

それは彼女の最大の秘密にして、最上の弱み。

エクリプスの歪みそのものだ。

当然こんな場所で、それに関する何かを口にした覚えもないし、事情を知る者などソード以外にはいない。


「どうして…」

「だ、大丈夫だよ…!だ、誰にも言わないし…!銀聖域に入りたいのなら…おねーさんなら連れて行ってあげても…いいよ。だ、だから…みんなに力を貸してあげてください…人間さんをみんなたおそう」


そんな話をしている間もユキはずっと恥ずかしそうに顔を赤め、緊張しているかのように震えている。

だが…そんな臆病な少女の姿の後ろに、エクリプスでさえ暴けない恐ろしい何かが隠れている。

そう確信し、エクリプスは…。


「…慰安係だけは無理ですので、そこからは外してくださぃぃ~」


ユキの…魔聖地の提案を受け入れることにした。

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[一言] >氷でできたナイフで腹を裂かれ、中身を観察されているかのような… ユキ…スノーホワ…氷…刃物で腹を裂く…うっ頭が
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