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魔の国の聖女

お待たせしました!

明日は投稿できるか不明ですが、ここからペースを戻していけるよう頑張ります!

気長にお待ちくださいませ!

明日か明後日には投稿します!

 魔物…いいや魔族たちに連れられてエクリプスが踏み入った地はまさに異界と呼ぶにふさわしい場所であった。


元々は人間が住んでいた場所なのか、人の手によって作られたであろう建物が確認できる。

しかし手入れがされていないためか見るも無残なボロボロ具合であり、どういう意図の建築物なのかはもはや判断ができない。


それだけならばまだ廃墟と呼べたのかもしれないが、この場所は違った。

今にも崩れ落ちそうな建物を補強するかのように異常成長した植物のようなものが全体に絡みつき、よく目を凝らすとそれは不気味に脈打っているようにさえ見える。


かつては人が歩きやすいようにと舗装され、硬く塗り固められていたはずの地面からは見たこともない歪な草や木々が我が物顔でその存在を主張していた。


さらには遠くに目を凝らせば普通ではありえない、毒々しい色の炎が吹き上がっている場所があり、建物や草木までもが巻き込まれているにもかかわらず、炎はそれらを焼かずにただただ燃え盛っている。


他にも一ミリ先すら見通せないほど濁り切った水が堀もない平坦な道を規則的に流れている場所に、オブジェのようにいびつな形の氷が乱雑している場所…その場にいるだけで身を切り裂くほどの風が吹き荒れる場所と正常な場所を探す方が難しい…そんな領域だった。


「おほぉ~ここがあなた方の拠点ですかぁ?」


周囲を見渡して一言、興味があるのかないのかわからない独特の声色でエクリプスが魔族にそう問いかけた。

それに対し、代表して人のような身体に獣の頭部を持った魔族が答える。


「ああ。この地こそ、かつて我々の偉大なる先祖が人の手から最初に奪い取った地…魔聖地だ。人間どもを殲滅した後はこの場所を中心に我々魔族の領域を広げていき、この国自体をここと同じような環境にすることが最終目標である」

「ほほぉ。それは大きく出ましたですねぇ」


「大きいだと?愚かな…貴様人間に捕らわれている間にあちらの考えに侵されたか。我々がこの地を支配するに足る種族だというのは当たり前のことであり、現在の人間が恥知らずにも跋扈しているこの状況こそが異常なのだ」

「なるほどぉ」


エクリプスの間延びしたかのような喋り方は大なり小なり、人をイラつかせやすいそれであったが、魔族の男はそんな様子を一切見せず、会話をつづけた。


というのも魔族たちにとってエクリプスは貴重な存在であったからだ。


魔物には知能がある。

それは他国においても同じであり、一般的に人里に現れては被害を出し、執行官や傭兵を生業とするものに狩られる魔物でも例外ではなく、最低でも人間の幼子程度の知能はあるのだ。


そして最低限の知能しか持ち合わせぬものを低級とし、そこから人の持つ知恵に近ければ近いほど上位の魔物とされ、一部の例外を除いて上級であればあるほど人に近い見た目を得ることになる。


それに当てはめるのならばエクリプスは上級の中でもさらに上澄みだ。

ほとんど人に遜色のない見た目を有し、話し方は独特であるが会話も問題なく行えている。

つまり魔族たちにとっては尊敬に値する存在であるという事だ。


いくら上級魔物が生まれやすい銀神領であってもエクリプスほどのとなると指で数えられるほどしか存在しないのだから。


「ところでぇ~私はこれからどこに連れていかれるので~?」

「まずは我々の仲間として迎えるにあたり「魔聖女」様にあってもらう。その後はこちらで配属を決めさせてもらうので、そちらの指示に従ってくれ」


「魔聖女さまとは~?」

「ふっ…聞いて驚くな。あの方こそ我ら魔族の救世主…銀の神の祝福を受けし魔族の象徴たる存在だ」


「ほほ~銀の神の祝福ですかぁ…もしかしてアレですかねぇ?銀聖域とやらに立ち入ってから戻ってきたとか~?」


エクリプスはソード側から情報を共有されており、そこから得た情報である「巫女」の情報を口にしてみた。

すると魔族の男は頷いてそれを肯定し、興奮気味に語り始めた。


曰く、魔聖女はかつて不幸な事故により誰にも立ち入れないはずの銀聖域に迷い込み、そして数年ほど前に帰還したのだという。


曰く、それからは神の権能としか思えない絶大な力を見せつけ、魔族たちを従え人間に立ち向かう事となった。


などなど、まるで人間側の「巫女」の話をそのままなぞっているかのような話にエクリプスは表情を変えないまま思考を巡らせる。


(巫女と魔聖女…ほとんど同時期人と魔物側双方に現れた同じような経歴の存在…なにもないと考える方が無理がありますねぇ…さてさて…思ったよりめんどくさいかもよぉソード~)


そこからしばらく歩くと徐々に街中に魔族の姿が増え始めた。

基本的には人間的シルエットをした二足歩行の者が多いが、やはり姿はまばらであり、頭部や腕…脚などなどよく見ると異形の者が多い。


それらが興味深そうにエクリプスを観察してざわめく。


「悪くは思わないでくれ。みなお前に興味があるようでな」

「えぇーえぇーきにしませんよぉ…あ、そういえばですけどもぉ一つだけいいですかぁ?」


「なんだ?」

「その魔聖女様?にお目通りした後なんですがぁ~どこかに配属されるという話でしたよねぇ?」


「ああ。今は人間どもとの戦争中…さらには向こうに妙な動きの気配があり、状況はひっ迫している。悪いが人員を遊ばせておく余裕はないのだ。だが安心しろ、我々は非道ではない。適材適所…お前にふさわしい無理のない仕事が与えられるであろう」


男は安心させるようにそう言ったが、それはエクリプスにとっては頭を悩ませる言葉に等しかった。

なぜならば一般的に見て彼女にふさわしい仕事なれば…。


「慰安…的なことを頼まれたりするのでしょうかねぇ」

「…お前は淫魔のようだからな。おそらくはそうなるだろう。種族的にもそれは願ったりかなったりなのではないか?」


「いやぁ…それが問題ありでしてねぇ~…できれば別の仕事でお願いしたいところですねぇ」

「それは困るな。我々の中でも淫魔は貴重でそこまで数はいない。兵たちの士気をあげるためにも是非ともお願いをしたいのだが…淫魔にとってそれは食事も同義…断る理由などないのではないか?」


「普通ならそうなんですけどもねぇ~私、普通ではないと言いますかぁ~淫魔としては欠陥もいいところと言いますかぁ~…できれば他のお仕事でお願いしたいところなんですねぇこれが」

「…わかった。考慮はしよう。だが先に魔聖女への謁見が先だ。ついたぞ」


そうしてエクリプスが案内されたのは異様な領域にあってさらに異形な建物だった。

まさに物語に語られる魔王でも住んでいそうな…そんな場所。


魔族の男はその場所に立ち入ることを許可されていないのか、中に入れとエクリプスに促すだけでそれ以上進もうとはしない。


「…おじゃましまぁす」


なんにせよ一度会わないと始まらない。

エクリプスはゆっくりと建物の扉を開き、中に踏み入った。


広がるのは闇…目を凝らさなければ数十センチ先をも見通せないほどの暗い闇だ。

しかし立ち尽くしていても仕方がないのでエクリプスは意を決してさらに一歩を踏み出そうとしたところで…闇に光が奔った。


どこからともなく光が部屋中を照らし、スポットライトのように周囲を囲む光が一か所だけを輝かせる。


そしてそこに一人の少女がいた。

肩口で切りそろえられた黒に一筋の赤が混じった髪。

バサッとたなびく漆黒のマント。

これ見よがしに取り付けられている銀色の装飾…。

そして今にも泣きだしそうな小動物的な表情の少女が。


「ふ、ふはははははは!よ、よくぞ…き、き、きたなぁ!え、えーと…われこちょっ…我こそは!この地をすべ…えーと…すべ…お姉ちゃんのカンペどこに…あ、あった…すべし…?統べし魔聖女!ユキ・スノーホわ…あ、こっちじゃなくて…ユキ・レクイエム!あ、崇めたてまちゅれ!!」

「おほぉ」


スポットライトにあてられながらたどたどしく口上を述べ、ビシッとポーズを決めている魔聖女にエクリプスはパチパチと小さく拍手を送った。


それを受けて魔聖女は顔を真っ赤にして目に涙を貯めながらプルプルと震えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] おかえりなさいませー >ユキ・スノーホわ…あ、こっちじゃなくて…ユキ・レクイエム! どっちにしてもなんかものすごい既視感を覚える文字の並びですね…
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