侵攻大作戦
おまたせしました…!そしてすみません!
まだ少しバタバタしているので次回の投稿は月曜か火曜日になると思います!
そこからはぼちぼちペースを戻して行ければと思っております!
ひとしきり周囲の調査を終え、これ以上何か情報が得られるものは無いとソードはメアたちの元へ戻ることにした。
それを告げると監視していた男は踵を返し、ついて来いと言わんばかりに先頭を歩き始める。
(僕が怪しい行動を起こさなかったもんで油断してくれてるのかな?監視対象である僕から目を離すなんて…お仕事はちゃんとやらないとね)
ソードは男の背中越しに、ちらりと数十メートル離れた場所にある建物の屋上に目を向ける。
するとそこにスーツを着た黒に近い茶髪の女が立っていて、ソードに向かってブンブンと手を振っており、ソードも前方の男にバレないように手を振り返す。
(…頼んだよエクリプス。隠密行動はキミの分野だからね)
「ん…?」
何かを感じたのか不意に男が先ほどエクリプスがいた建物の方向を見上げたが、すでにその場には誰もおらず…まるで煙のように消えていた。
そして時間は経ち…ついに魔物に対して突撃を仕掛けるというカナレア考案の大作戦が実施される日がやってきた。
おおよそ300という多いと言えば多いかもしれないが、魔物に総力戦をかけるという点で見るのなら少ないと言える人数の人々が集められ、各々の装備を整えながらも高台の上でふんぞり返りながら演説するカナレアに視線を向けていた。
ソードも人間たちに交じって同じようにカナレアを見上げていたが、一つだけどうしても気になるモノがそこにはあった。
「なにをやっているんだ姉さん…」
ソードの視線の先、そこにいるカナレアの背にはまるでリュックのように紐でくくられて背負われているメアの姿があった。
また何か人間の悪だくみに巻き込まれているのかとも思ったが、背負いやすいように紐を通されているだけで身体を拘束されているわけでもなく…また当然ではあるがメア自身からも追い詰められていたりするような様子は向けられなかった。
いつも通りのぽけーとした表情のまま、カナレアの背でパンを齧っている。
何がどうなってそうなったのか…すべてが謎のまま、ソードはカナレアの演説を聞き流していたのだった、
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「準備はいいなーいくぞーちびっこー」
「あいあい」
なぜかカナレアちゃんに紐でくくられておんぶされている私こそはかの有名なブラックドラゴン。
なんとなくお話をしたあの日から妹が頑張っているさなかで特にやることのなかった私は、同じく微妙に暇そうなカナレアちゃんとお話をし続けていた結果、気に入られてしまったのかついに迎えた大作戦の日になぜかおんぶされた状態でカナレアちゃんと共に参戦することになった。
小さな子供に背負われるというなんとなく微妙な気分になる有様ではあるけれど、私の方がはるかに小さいので文句も言えないこんな世の中。
…というかこの子なかなか力持ちだな?
いくら私がミニマムぼでーの持ち主だと言っても、それでも10数キロはあるはずだ。
なのにカナレアちゃんは難なく私を背負って、普通に動いている。
いや、私だってカナレアちゃんを背負ってアクロバットを決めることくらいできるけれど、それはあくまでも私がドラゴンだからで、人間であるこの子で考えればそうとうな身体能力があるように思う。
「やっぱり何かあるのかなー」
「んんー?なんだーちびっこーなにかいったかー?」
おっと、つい声に出てしまっていたらしい。
気を付けなければ。
「ううん、なんでもないよん」
「そっかー何かあったら言えよー」
「あーい。というかカナレアさんやい」
「なんじゃい」
「なんで私背負われてるの?」
「あぶないからだっ!これから私たちは魔物に対して総攻撃大作戦を仕掛けるわけだからな―。お前みたいなちびっこがふらふらしてたら危ないだろー」
「…お留守番にしてもらえればいいのでは?」
「戦える奴はみんな突撃するからなー。その間にあの拠点が襲われたら大変だろー。覚えておけちびっこっ!現状この国で一番安全なのは私ちゃんの傍なんだからなっ!何が来てもこの私ちゃんが蹴散らしてやるっ」
やだこの少女たのもしすぎりゅ…。
なーんて冗談は置いておいて、どうやらこの行動の意味は私を守ろうとしてくれているらしい。
…カナレアちゃんの言葉を信じるのならばだけど。
まぁ別に危ないと思えばすぐに逃げられるし、私が単独行動をしたところで何かできるわけでもなし、しばらくはこのままで事の成り行きを見守ろう。
大きな流れには抗わず流される…それが楽に生きるコツだと母も言っていた。
ただ私はそれを言われたとき、明らかに流れに逆らっている母が言うには説得力が足りないとも思ったのでこの言葉に関してはあんまり信用していない。
マザコンにだって限度はあるのだ。
私はマザコンではないけどもね。
「なーちびっこー」
「んー?」
「おまえあの姉ちゃんにいじめられたりはしてないのかー?」
姉ちゃんと言えば…妹の事だろう。
私が妹にいじめられてる?なんで突然そんな話が沸いてきたのだろうか。
「いじめられたりなんてしてないけど…仲良しさんだよ?なんで?」
「だっておまえー…」
「なぁに?」
「いやー…なんでもー。でもなんかあったらほんとにこの私ちゃんにちゃんと言うんだぞー。何も知らない子供には優しいのだ私ちゃんは」
他には厳しいのだろうか…?
僅かな疑問を浮かべながら、そんなこんなで私は子供の背中でおやつをモグモグしつつ、戦場に赴くのだった。
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人間たちが魔物たちの支配領域に向けて進軍を返しする少し前、エクリプスは独り、巨大な木々に囲まれたやけに静かな森の中を歩いていた。
エクリプスは常にソードと二人一組…誰にも悟られないようにしながらソード達の旅に同行しており、現在は単独で銀神領の調査を進めていた。
隠密、そして情報収集…それが聖白教会にて名の知れた執行官チームが片割れ、エクリプスの役割だった。
そんな彼女は今、銀神領において人間、そして魔物の双方の支配領域の境目…国の中心にある静けさが支配する森の中を探索していた。
「ふむぅ~…森に踏み入った瞬間に明らかに空気が変わりましたねぇ~。これは本当に龍が…それでなくとも何らかのあれはいます感じでごぜーますですねぇ~」
エクリプスは周囲を見渡しながら懐から小さな袋を取り出し、握りこむ。
その袋の中にはセラフィムとソードの鱗が一枚づつ納められており、もし彼女が銀龍と接触した場合、セラフィムらの使いであるという事の証明をするためのものであった。
つまりエクリプスの仕事は可能ならば銀龍に接触し、橋渡しとなることだ。
「さてさてぇ~めぼしいところはあらかた調べ終わりましたしぃ~…いよいよ本命といきませう~」
そう言ってエクリプスが近づいたのは古びた巨大な祭壇だった。
誰の手も入っておらず、我がままに育ち続けている木々が生い茂る中でそれのみが人の手で置かれたものであり、妙なアンバランスさを醸し出していた。
「うーん…これ自体は何もないみたいですねぇ…となるとこの先ですかねぇ…っと、おやおや」
祭壇を通り過ぎてすぐ、それはエクリプスの目にも見える形で現れた。
まるでそこに薄い水が流れているかのような…微かに波打つ透明の壁のようなものがあったのだ。
それは祭壇の背後からかなりの広範囲を円形で囲うように展開されており、それが話に聞いたあれだとエクリプスは確信した。
「結界…というやつですかぁ~どれどれ~腕がなりますねぇ~ぽきぽきとぉ」
エクリプスは懐から用途不明の様々な器具を取り出し、ニタニタと怪しい笑みを浮かべながら結界ににじり寄った。
結界まで残り1メートル…そこまで近づいたところでなぜかエクリプスはピタリと動きを止めてしまい、そこから一歩も前には進まなかった。
「これは…」
脚を止めたまま、エクリプスはゆっくりと結界に向かって手を伸ばす。
だがやはり、手がそれに触れるかどうかというところでピタリと止まってしまった。
「なるほどぉ~結界とはよく言ったものですねぇ~まさかこうなるとは~」
エクリプスは今度は拳を握りしめて思いっきり結界を殴りつけようとした。
その結果はやはり変わらず、結果に触れる前にピタリと拳は止まってしまう。
しかしここで問題になってくることが一つあった。
それは動きを止めているのが「エクリプス本人の意志」だという事だ。
なにか壁のようなものに阻まれているわけでも、身体が勝手に硬直しているわけでもない。
ただ勝手に結界に触れようとするとエクリプスが自らの意志で動きを止めてしまうのだ。
「干渉しようとするとその途端に触れてはいけないものだと考えてしまう…精神的に阻まれているとでも言うのでしょうかねぇ?この結界に対して何かをしようと言う気持ち自体を削がれる…これは厄介ですよぉ~」
自分にはこの結界は突破できそうにない。
それどころか現存する龍の中でも最高峰の力を持つセラフィムでさえ突破できなかったという事実から、これを正面から破るのはおそらく不可能だとエクリプスは結論付けた。
ならば次はどうするか…エクリプスは頭を最大限に働かせ、次の一手を導き出していく。
そんな彼女の耳に複数の足音が聞こえてきた。
「ほほーこれはこれは…うん、作戦変更ですねぇ」
エクリプスはニヤリと笑うとその足音が自分を見つけるまで、それに気が付かないふりをした。
そして次の瞬間、結界と挟むようにしてエクリプスの背後に複数の人型の魔物たちが現れた。
それぞれ顔が獣であったり、尻尾が存在していたり、腕が蛇のような形になっていたりと多種多様だ。
「貴様何者だ。ここは我々魔物…いや、魔族にとって神聖なる場所だ。人間がその汚らしく貧弱な脚で立ち入ろうとはなんたる傲慢不遜」
「生きてこの場所を出られると思うなよ」
歯を鳴らし、髪を逆立て殺気を露わにする魔物たちにエクリプスはゆっくりと振り返る。
「いやですねぇ、ちゃんと見てくださいよぅ。ほらほらあなた方と同じ魔も…魔族ですよ私ぃ」
エクリプスの顔にはその左半分に黒い紋様が浮かんでおり、さらには小さな角が右側の額から髪を押し上げて生えていた。
「お前その姿…淫魔か…?」
「えぇーえぇ~そうですそうですぅ~実はじつは今の今まで人間のどちくしょう共に捕まっておりましてぇ~命からがら逃げだしてきたのですよぉ~。もしよろしければ保護なんてしていただけたりぃ~?人間どもの情報とかいろいろありますよぅ?よぅ?」
少しの間魔物…いや、魔族たちは相談をし、やがて代表と思わしき魔族がエクリプスに向かってゆっくりと頷いた。
「いいだろう。お前を我らが拠点に案内しよう…この国から人間どもを駆逐するためにともに戦おうではないか」