巫女様と話してみる
クッキーを食べながらせっせとおやつの準備をしているカナレアちゃんをじっくりと観察してみる。
すると気が付いたことがあるのだけど、遠目から赤だと思っていたカナレアちゃんの髪はよくよく見ると少し黒が混じっているのが分かった。
なんて言うんだろう?インナーカラー?で多少黒が入ってるというか…ともかくそんな感じ。
リンカちゃんの件で気になってアザレアやセンドウくんに話を聞いたのだけれど、赤と黒が同居している場合は黒の方が優先されてしまうらしい。
つまりそれで言うのならカナレアちゃんは人間たちの感覚で言うのなら「悪い子」という事になる。
でもここでは巫女様って持ち上げられてるみたいだし、どういうことなのだろう?
黒神領みたいに国ごとに違いがあるという事だろうか?
「おうおう何見てんだーちびっこー。人の顔「じりじり」見ちゃいけませんって習わなかったのか―?」
「ごめんちゃい」
「ま!私ちゃんのマジかっこよす☆ふぇいしゅについ見とれちゃう気持ちは分かるけどもねっ!しゅぴーん☆」
何故か顔に手をあててキメ顔を披露してくるカナレアちゃん。
まったく理由は分からないけれど、顔に手を置くのが好きらしい。
うーむ…今まで周りにいなかったタイプだからどう接すればいいのかわからぬ。
強いて言うならばくもたろうくんに近いかもしれないけれど、あの子は私が黙っていると一人で喋り続けてるタイプだったから会話に困った覚えはない。
はてさてどうしたものかにゃぁ…。
サクサク…うーん、しびしびクッキーうまし。
「…クッキーうまそうだなー。おいしいかー?」
「うん…もぐもぐ」
「いいなぁーいいなぁー私ちゃんは何故かそれ食べちゃダメってやろうどもが言うから食べれてないんよなー…じー…」
「もぐもぐ」
「おいおいー私ちゃんが物欲しそうに見えてるだろー!一枚くらいあげようとは思わないのかっ!」
「欲しいならそう言ってくれればいいのに」
私はクッキーを一枚手に取ってカナレアちゃんに差し出した。
手で受け取るのかと思ったらまさかの顔をそのまま近づけてきたので少しビックリ。
と、そこで私は考えた。
これ…しびしびする薬的な何かが混入されているわけですが…カナレアちゃんが食べてもいいのだろうか?
私が食べても舌がピリッとするだけなので別に大丈夫そうな気がするけれど…でも同時にここにくもたろうくんとかがいたら怒られる案件な気もする。
むむむ…どうしよう、なにもわからん。
そして私は一つ、随分前に得ている教訓があった。
人間に対して自分でわからないことがあったらとりあえずその行動はしないほうがいいという事。
幼かったネムにご飯をあげる時に大丈夫だと確信が持てない物は絶対にあげるなとありとあらゆるお友達に怒られた記憶がよみがえる。
故に私は今にもカナレアちゃんがかみ砕こうとしているクッキーを直前で回収…自らの口に放り込んだ。
「あー!ちびっこのくせに古典的なことした―!だましたなー!くれると期待させておいて―!」
「ふっふっふっ、お子様にはまだこの味は速いってもんょー」
サクサク…あぁおいちぃおいちぃ。
「くっそー…妹ならこういう時普通に分けてくれるのになー」
「んむ?カナレアちゃん妹がいるのん?」
ポロっと言葉をこぼしてしまったみたいな様子だったけれど、妹がいるというのなら私も同じ…そこを起点に話を弾ませることができるかもしれない。
そう思って深堀してみようとしたのだけど、カナレアちゃんは「しまった…」とでも言いたげな…いや、ほぼ言っているも同じ表情で顔を横に振った。
それはもうすごい勢いで横に振っていた。
「な、何も言ってないぞ!妹なんていないし!ちびっこの聞き間違いだーい!」
「ええ…」
聞き間違えだったらしい。
いや、絶対にそんなことはないと思うのだけど、ものすっごい勢いで額されたものだからこれ以上は聞けそうにない感じである。
しかし私は諦めない。
不屈のブラックドラゴンとは私の事だ。
「じゃあじゃあカナレアちゃんのおかーさんはー?何してる人なのー?」
妹がダメならば母だ。
お母さんトークは私の最も得意とする分野…誇り高きドラゴンとして決してマザコンではないという事だけは周知させておきたいが、それはそれとして私に母を騙らせたならば長くなるぞ!
「ママ?ウチのママは今寝てるんじゃないかなー。ご飯食べて、寝て起きて、ご飯食べて、本読んで寝るみたいな生活してるやつだからー」
それはなんとなく仲良くなれそうな生活を送っているお母様だなと思いました。
本を読んでいるの部分をお散歩に変えて、ご飯をあと6回ほど増やせばほぼ私だ。
「ほほう。のんびり屋さんなんだねぇ」
「うん。いっつもボケーッとしてるぞ。最近はあってないけどたぶん今も寝てるはず?」
「え…あってないの?なんで?」
話を聞く限り私のように死別しているわけではなさそうだ。
なのに会わないなんてどういうことなのだろうか?
「今はゲー…じゃなくて戦争中だからな!終わるまでは帰らないんだっ!何を隠そうウチのママは銀の神様だからなっ!」
「んん?」
話が変な方向に飛んで行った。
カナレアちゃんの母が銀の神様…?
それは私たちが探している銀龍さんが…という事だろうか?だけどそれはおかしい。
もし銀の神様が龍ならその子供であるカナレアちゃんは銀髪なのではないだろうか?でも実際はそうじゃないし…何よりも私が見た感じ、カナレアちゃんは人間だ。
龍じゃないし、魔物のような…えーと、人外の気配?のようなものも感じない。
正真正銘ただの人間…だと思う。
どういうことなのだろうか?やっぱり銀の神様は銀龍さんではない…?
その疑問に答えを出すよりも前にカナレアちゃんがケーキのようなものを食べながら別の話題に切り替えてきた。
「そう言えばちびっこ!お前の姉は私ちゃんに協力してくれるのかー?」
「んぇ?あね…?あぁうん、そうね!協力するって言ってたよ!」
「おぉー!そうかそうか!それは僥倖だ!むっふっふっ…明後日くらいから少し大きな大作戦を実行に移す予定だからなー!これは楽しみになってきたぞー!」
「大きな大作戦?」
大きいが被ってる気がするけど、なんだかすごそうなのは伝わってくるのでスルー。
「うむ!魔物奴らの本拠地に乗り込むのだー!その場所を制圧してしまえば一気に戦況はこちらに傾く…あまりにも完璧な作戦よー!」
「おぉ~ちなみにどうやって乗り込むのん?」
「正面突破!全力突撃!」
「す、すげぇ…」
あまりにも隙のない完璧な作戦だ。
もはや何も言うことはないだろう…やはりシンプルが一番だからね。
難しいことを考えればそのぶん、破綻ができる。
何事も簡単が一番なのさー。
「おっと、そうだ。魔物のボスには手を出さないようにちびっこの姉にもいっておけよー!」
「ボス?」
「そう!あっちにも私のような存在…「魔聖女」がいるのだっ!いいかーそいつには絶対に手を出すんじゃないぞっ!怪我もさせるな―、逃げようとしたら何もせずに逃がす!それ絶対だからなっ!」
「…敵のボスなのに?」
「敵のボスなのに!配下の魔物だけ殺して領地を奪い取ればオッケー!」
「なんで…?もしかして知り合いなの?」
「ししししし、知り合いなわけあるかー!私ちゃんは巫女様だぞ!人を導くエライ巫女様なんだぞー!絶対に深掘りするな―!わかったかっ!!」
「おほー」
どうやら敵のボス…魔聖女?とこちらの巫女様はお知り合いらしい。
なんだかいろいろとめんどくさくなってきたにゃぁ…。
私は思考を放棄してクッキーを食べたのだった。




