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ウツギと緑

続きは明日投稿します!

「ちくしょう…身体が痛ぇ…」


黒神領においてさらに逸れ者であるゴロツキたちの溜まり場にて、全身の筋肉のあげる悲鳴を感じながら、ウツギは古びたテーブルに突っ伏してうなだれていた。


そんな彼に仲間である男たちが心配そうに声をかけるも、ウツギは反応する気力すら見せなかった。

そんな中でウツギの正面に座っていたセンドウは懐から白く柔らかい板状の何かを取り出すと、そっとウツギの傍に置いた。


「…なんだよこれ」

「私が調合した湿布ですねぇ…ひっひ!効果はある程度保証しますよぉ~」


「…そうかよ」

「兄貴、自分が貼りますよ。背中とか大変でしょうし」


「おう…」


仲間たちに背中を晒し、湿布を貼ってもらうという姿に情けなさを感じ、ウツギは再び俯いた。


「これも全部あの筋肉ダルマと痴女野郎のせいだ…」

「ひっひ!とんでもない方々に気に入られてしまって大変ですねぇ…ひっひ!」


ウツギの疲労にはある理由があった。

それは少し前からエナノワールの屋敷に客人として招かれているとある二人…ソードとブルーに由来していた。


何故かウツギは二人に目を付けられてしまい、運動と言う名の苦行の中に放り込まれているのだ。

走り込みに、筋力トレーニング…そして模擬戦闘。


これまでの人生において運動などとは無縁だったウツギにはあまりにも過酷であり、全身を絶え間ない筋肉痛が襲っていた。


「クソが…なんなんだよ…」

「ひっひ!まぁ直接の手助けはできませんがぁ、湿布くらいならいくらでも用意できますので行ってくださいねぇ~ひっひ!…あぁそう言えばウツギさん、例の「薬」の事なのですが…」


薬という言葉に反応してウツギは顔をあげた。

周囲の男たちも一斉にセンドウに血走ったかのような目を向け、それらを一身に受けてセンドウは静かに懐から小さな透明の袋に入れられた緑色の粉末を取り出して見せた。


「まさかそれが…?」

「まだ施策の段階ですがねぇ…例の商人さんに話を付けることができたので素材となる葉を少量ですが手に入れることができましてぇ…えぇ…ひっひ!形にはしてみたのですが…しかしいかんせんこちら方面に詳しいわけではないので副作用やらの実験がまだでしてねぇ…」


「…よこせ!」


ウツギは乱暴にその「薬」を奪い取り、袋を開く。


「…いちおう忠告はしておきますがぁお勧めはしませんよぉ。効果は出るでしょうがどんな副作用がでるか…」

「だからそいつをこの俺が確かめてやろうって言うんだろうが。副作用が怖くてヤクが使えっかよ。吸えばいいのか?」


「そうですねぇ…一番濃く効果を得ようと思うのなら溶かして注射がいいのですが…さすがに恐怖が勝るでしょうし、素人が注射器を扱うのは危ないですからねぇ…吸うのが早いかと…」

「うっし…なら…」

「ま、待ってくれアニキ!こう言うのはリーダーのアンタじゃなくて下の俺たちがするもんじゃ…」


「うるせぇ!へへ…話によればこいつは最高に「飛べる」そうじゃねぇか…なら俺が一番乗りするのが当然なんだよ…いくぞ…」


恐る恐るウツギが薬に口を近づけ…そして…。


ピリリリリリリ!


そんな耳の奥を殴りつけるかのような音がどこからともなく聞こえて邪魔をした。


「な、なんだ!?」

「あぁ失礼…私の通信機の様だ…ひっひ!」


「つ、通信機…?なんでお前がそんなもん…」

「こちらもつい最近素材が手に入りまして…ひっひ!」


「そんな便利なもんなんで俺に渡さない!?それがありぁこそこそしなくても…」

「いえ…さすがに数が用意できるほどではないのでひとまずアザレアさんに渡したのとこれしかなく…」


「は、はぁ!?なんであの女に渡すんだよ!ふつう俺だろうが!」

「ひっひ!申し訳ないですが義理立てという物がありまして…えぇ…ひっひ!まずはお世話になっている家の当主であるアザレアさんに渡すのが筋という物でしてえぇ…ひっひ!それにそういう契約のもとで身を置かせてもらっていますので、えぇ…ひっひ!…っとすみませんウツギさん。どうやらそのアザレアさんに呼ばれてしまったようだぁ。さすがに私のいないところでそれを吸われるのは何かあった時に対応できないのでまた後日という事でお願いしますねぇ」


それだけ言うとセンドウはウツギの手から小袋を奪い取り、速足でたまり場を出て行ってしまった。


「何なんだよちくしょう!」


残されたウツギは苛立たし気に立ち上がるとセンドウが座っていた椅子を蹴飛ばした。

しかし筋肉痛に苛まれていた脚には激痛が奔り、さらには辺りどころが悪く足の小指にも激痛が奔った。


「うぐぐっ…クソが!どいつもこいつも馬鹿にしやがって…」

「アニキ…」


ウツギは仲間たちの視線がなぜかいたたまれなくなり、慌てて立ち上がるとその場から逃げるように乱暴な足取りでたまり場の外に扉を開いて出た。


同時に「トン」と軽い衝撃を感じるとともに、小さな悲鳴のような声が聞こえて…視線を下にさげるとそこにぬいぐるみを抱えた緑色の髪の小さな少女の姿があった。


「なっ…お前は確か…あの筋肉ダルマのツレ…」

「う…」


「う…?」

「うわぁああああああああああん!!!痛いよぉー!わぁああああああああん」


ウツギにぶつかってしまったのか尻もちをついた少女…緑龍ことリョウセラフは周囲に轟くほどの大声で泣き始めてしまった。

エナノワールと幼子は引かれあう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 運命力発作ですね、「薬」の代わりに胃薬と焼香出しておきますねー…
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