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卵をもらってみる

 妹及びせーさんこんにちは大事件からはや数週間。


せーさんに協力すると言った手前、どんな慌ただしさが舞い込んでくるのかと身構えていたけれど、黒神領ではびっくりするほど平和な時間が流れていた。


変化が何もない…なんてことはないけれど、でも平和だ。

しかしそれだけで話を終えるわけにもいかないので最近の日常を紹介してみようと思いまふ。


まず私はノロちゃんと一緒にいないとき…つまりは外にいる時はリョーちゃんと一緒にいることが多くなった。

いつもの場所で二人ご飯を食べたり、遊んだり…誘わなくても気が付けば側にいる感じだ。


なんだろう…べったりと甘えてくるみたいな?とにかくそんな感じだ。

見た目はミニマムでも中身は子育て経験もあるおねーさんなので、かわちぃかわちぃと姉面しながら面倒を見てあげている。


あとリョーちゃんと一緒にいるとアザレアがいつもの3割増しで優しくなってお菓子とか多めにくれる。

ただ同時にいつもの7割増しで意味不明の奇声をあげたり、血を吐いたりするようにもなるのでいい事ばかりではない。


「ねえクロちゃん…リョーあの人なんだかこわい…」

「悪い人じゃないよ。きっとお仕事で疲れてるんだよー優しい目で見守ってあげよう」


フォローはしてみたものの、リョーちゃんが怖がっているのは事実なのでアザレアのストレス解消大作戦は急務なのかもしれない。


やっぱり彼女に足りていないのは休息だと思うので、今度簡単にだけど、ご飯を食べさせてあげてその後添い寝でもしてあげたらどうだろうか?

うん、いいかもしれない。


なお後日実行しようとしたらいろんな人にやめておいた方がいいと止められてしまった。

何かダメだったらしいので計画の練り直しが必要だ。



そしてそして次の変化は妹ソードとブルーくんに関してだけど、最近よく「遊んでいる」のを見るようになった。

楽しそうなので見学してみているのだけど、なかなか本格的だった。

剣と拳がぶつかり合い、はじけ飛ぶ汗。

いいなぁ楽しそうだなぁ~と思いつつ邪魔をしちゃあ悪いので参加は遠慮している。


というかブルーくんやっぱり武器が拳なんだけど…魔法なんて一切使ってないよこのおじさん。

鍛え抜かれたムキムキな肉体が武器だよ。いや、べつにいいのだけどね。


あぁそうだ、それと面白いことにこのお遊びに意外な人が巻き込まれていて、そのゲストはなんとウツギくんだ。

ブルーくんがいきなり引っ張ってきて修行を付けてあげているらしい。


「な、なにしやがる!この筋肉ダルマが!」

「いやなに、俺も時間を持て余していてな。白神領とこの場所はこれから関わりを持つことになるわけだし、一つ稽古をつけてやろうと思ってな」


「話がつながってねぇだろうが!なんなんだ!」

「聞いたが貴様、家の金や品物を盗んで持ち出しているのだろう?そんな腐った性根は速いうちに叩き直すに限る。なぁに心配するな、世話になっているのだから礼はいらんよ。ほら歯を食いしばれ!」


「いやマジで意味が――ぎゃあああああああ!!!」


うんうん、楽しそうで何よりだ。

強くなるんだよウツギくん。そしてアザレアを助けてあげておくれ。


そんな風に何かが変わったようで、何も変わらないような…でもやっぱり変わっているような平和な時間が流れる中、せーさんが久しぶりにやってきた。


「元気でしたか?」

「せーおねえちゃん!」


せーさんを見るや否やリョーちゃんがぴょんと飛び跳ねながら、抱き着いていった。

まるで母親に甘える子供の様だ。

思えばネムにもあんな風に私にべったりだった頃があったなぁ~っとしみじみ。


「あぁリョウセラフ。あなたは変わりないようですね」

「うん!あのねあのね、ここの人はみんな優しかったよ。それでねお菓子も美味しくてね」


「そうですか。どうです?ここでやって行けそうですか?」

「…でもリョーはせーおねえちゃんと一緒がいいのです…」


「あらあら…いいですかリョウセラフ。何度も言っているようにあなたの母親が亡くなってしまった以上、「緑」を継ぐのはアナタなのです。酷なことを言っている自覚はありますが、そろそろ独り立ちしなくてはいけませんよ。いつまでも誰かが守ってくれるとは思ってはいけません。私たちは龍なのですから…むしろ大切なものを守れるくらい強くあらねば」

「うん…」


あの二人も色々あるらしい。

いやしかし、三百年ものあいだ母にべったりだった私にもやや刺さるような話だ。


私ほど年季の入ったマザコンもなかなかいないだろう。

だからこそ、遅めの親孝行として私は生きていくことを決めているのだ。

いつか母と同じ場所に行ったときにこんなに私は生きてやったんだって自慢してやるんだ。


「ところでメア、先日の話を覚えていますか?」

「うみゅ?」


「黒の眷属の蜘蛛の事です。呪骸の影響を受けていたのですよね?」

「あ、うん」


実は先日の話し合いの時にせーさんには私の知る呪骸のことについて全部話した。

ノロちゃんにも関係する話だから、もしかしたら話さないほうがいいかも?って考えはしたけれど、せーさんの事は信用しているし、無意味な隠し事をしたせいで取り返しのつかないことが起こる方が嫌だからね。


「時間がかかって申し訳ありません。一度その蜘蛛を見せてもらってもいいですか?」

「うんー」


くもたろうくんはもうずいぶんと長い間眠ったままだ。

センドウくんが見てくれていて、命に別状はないって言われてはいるけれど、やっぱり心配だよねって事でせーさんに相談した。


そっち方面の知識はセンドウくんでもせーさんに敵わないだろうしね。

そしてアザレアの許可もとってくもたろうくんが眠る部屋に案内した。

ちなみに同じ部屋で髪が真っ黒になってしまっているリンカちゃんも寝かせている。


「これは…なるほど、確かにかなり深いところまで呪骸の影響が出ていたようですね。ほぼ完全な汚染体だったとみて間違いはないでしょう」

「くもたろうくん目を覚ます…?」


「…本来なら一度汚染体になった存在が元通りになるなど不可能ですが…完全に呪骸が取り除かれていますし、希望はあると思いますよ。おそらく呪骸によって浸食されていた身体と精神の再構成に時間がかかっているのでしょう…どれ」


せーさんが軽く手を叩いて白く小さな玉を作り出し、それを眠るくもたろうくんの口に近づけて…飲み込ませた。

お団子みたいでちょっとおいしそう。


「私の力を飲み込ませたので体の中の悪い物の排除が進むでしょう。役に立つのかはわかりませんが…きっとあなたの眷属は目を覚ましますよ。安心して」

「うん。ありがとうせーさん」


ぽんぽんとせーさんが頭を数度撫でてくれた。

相変わらず母性が凄いなぁせーさんは。


「ところでメア、こちらの人間の少女ですが」

「ん?あぁリンカちゃんのことー?この子もずっと眠ったままなんだー…それに髪色も毛先以外は赤かったのに真っ黒になっちゃって…」


「…あなたこの少女に何かしましたか?」

「なにかってー?」


「何でもいいのですが…こう、内に作用するような何かをした覚えはないですか?」


そんなことを言われても…リンカちゃんとは数日一緒にいただけだしなぁ…。

内に作用するって言っても…おさんぽしてお話してご飯を食べてただけでだしなぁ…。

……

………あ


「そう言えば鱗をあげたような?ごっくんって」

「…なるほど。こちらの少女については心配はいらないですね。その内目を覚ますでしょう」


よくわからないけれど、せーさんがそう言うのならそうなんだろう。

あまり心配しすぎても仕方がないし、その言葉を信じてみることにした。


そして次に私はせーさんをノロちゃんのもとまで案内したのだけど…。

何故か部屋の前でせーさんは息を呑んで立ち止まってしまった。


「せーさん?」

「…いるのですね、この向こうに呪骸の持ち主と思わしき存在が」


「うん。あのね、ノロちゃんの身体の一部が呪骸になるんだって」

「…そうですか」


瞬間、ぶわっと風を感じるほどにせーさんの魔力が吹き上がった。

そしてその中に交じるのは…殺気?


何やら危ないので周囲の魔力をにぎにぎして魔素と結合させて固め、食べておく。

そしてせーさんの手を少しだけ引っ張る。


「せーさんせーさん。ノロちゃんはね、悪い人じゃないの。いい子だから優しくしてあげて?」

「いい子…?メアあなたこの部屋の向こうから漂うこの背筋が凍るような気配を感じてなお、そう言うのですか…?」


「んー?」


背筋が凍る気配?なんだろうそれ…そんなもの感じないけどなぁ~?

あ、よく見ればまた例の黒い奴がちょっと漏れ出してきてる。

引き抜き叩き潰して処分処分と。


「メア、あなたは…」

「なぁに?」


「…いえ、この部屋の扉を開くのはやめておきましょう。たとえ私でも…この先に踏み込むにはまだ準備が足りないようです」

「んん?いいの?」


「ええ…戻りましょうか」


せーさんに手を引かれてノロちゃんの部屋の前を後にした。

どうしてみんなノロちゃんを避けるのか…私には不思議でならないけれど、いろいろあるんだろうなぁ。


そしてそして閑話休題。

せっかくなのでご飯に誘ったところ、その前にとせーさんがどこからともなく「それ」を取り出した。


「え…せーさんそれって…」

「ええそうですよ。卵です」


どこか懐かしささえ感じる大きくてつるっとしたそれは…間違いなく龍の卵だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 食べちゃ駄目だよメアたん? 駄目だよ? …駄目だからね??
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