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新しいお友達に挨拶してみる

 静まり返った部屋の中…セラフィムとアザレアが二人っきり、静かに向かい合っていた。

時折吹く風の音すら大きな雑音に聞こえるほどの静けさの中で、アザレアが眼鏡の位置を直した音を合図にセラフィムがゆっくりと口を開いた。


「お望みの結果になりましたか?アザレア・エナノワール」

「一部はね。できればメアたんをアンタから遠ざけられればベストだったけれど…無理強いして嫌われたくはないもの。あなたのほうこそ望みの結果になったのかしら?セラフィム・ホワイト」


「微妙なところですね。イルメア…メアが協力してくれることになったのに対して心強さを覚えるとともに、これでよかったのかと後悔する気持ちもあります」

「そう、それを聞けて良かったわ。正直気に食わない女ではあるけれど、仲良くはできそうよ」


「はぁ…やりにくい相手ですね。あなたの口から聞かせてもらいたいのですがどういうつもりなのです?あなた途中からわざとヒステリックに声をあげて私から情報を引き出そうとしていましたよね?隠す意味もないので乗ってはみましたが、そこにどんな理由があったのです?」


太陽に雲が被り、外から差し込んでいた光が陰る。

遮られてできた影がアザレアに落ち、セラフィムからその表情が見えなくなったが…しかし、その顔には笑みが浮かんでいる…そう感じ取れた。


「理由?そんなの決まっているじゃない。微力ながらあなたたち龍に協力をしたいのよ。私はこう見えてもそこそこ使えるわよ?私の手の中にあるモノ…私の判断、私の裁量で動かせるもの…私が持つ全てをもってして協力を惜しまない。どうかしら?」

「…あなたも言っていた通り、これは教皇と龍の戦いです。究極的に言えばあなたたち平凡を生きる人間には何の関係もなく、知らないままで…関わらないままでいられることなのかもしれないのですよ。だというのに全てをもってしてまで我々龍に協力したいだなんて何を考えているのです?」


「そんなの決まっているでしょう?ことの是非がどうであれ、教皇が…ひいては教会が何かを隠しているのは間違いがない。そしてあなたたち龍が勝てばその何かは明るみに出る…そうすれば人の世はさぞ混乱するでしょうね。もしかしたらこの社会そのものを破壊できるかもしれない…そんなの協力しないわけがないでしょう?」

「…人の世の破滅を望んでいると?」


「別に明確にどうにかなってほしいわけじゃないわ。ただそうなったとしても私は知らぬ存ぜぬを通すだけって話。だって髪色だなんてしょうもないこと一つで私のすべては否定され、こんなめちゃくちゃな人生を送ることになったんですもの…ならそんなしょうもない私の、小さな行動一つで人の世がめちゃくちゃになったとしても…仕方のないことだとは思わない?」


陰で表情が見えないまま、くすくすとした笑い声が聞こえていた。


「ふぅ…私は人の世の騒乱など望んではいませんが…ただこの教皇が作り上げた社会そのものは一度壊すべきだとは思っています。…いいでしょうアザレア・エナノワール。いろいろと気に食わないことはお互いにあるでしょうが…」


セラフィムは影に向かって手を差し出す。

やがて日を覆っていた雲は風に流され…影が動きセラフィムまでも飲み込んだ後に二人の姿を光が照らす。


「私たち「お友達」になりましょう。あなたには言葉通り、惜しみない協力をしていただきます…ですが同時に、こちらからも出来る限りの事は致しましょう。大手を振っては無理ですが、他の教会の目を盗んでの物資の提供等は可能でしょうから」

「お礼は言わないわよ。こっちもそれ相応の働きをもって返させてもらうつもりだから」


「ええ期待しています。では「あの子」たちを頼みましたよ」

「…それはいいのだけど、アナタは本当にいいの?自分の娘…いや、息子を置いていくなんて」


「…現在教皇が一番目障りに思っているのはおそらく私でしょう。正直な話、なぜ私が今も生きているのか、勝手を見逃されているのかもよくわかっていない状況です。イルメアが狙われたというのも不可解ですが、それでも最も危ないのは私です。遠ざけられるのならそれに越したことはない…幸いソードはここ黒神領に調査に来ているという名目がありますから」

「そう…母親なのね」


「母親ですよ。至らないことだらけですが…メアに関してもここにいたほうがおそらく安全でしょう。娘ではないと言いましたが大切な子には変わりありません…どうかよろしくお願いします」


セラフィムがゆっくりと頭を下げた。

それに対してアザレアは…。


「メアたんと私が公認って事…!?あのぽんぽこお腹を好きにできる…!?ふっひひひひ…」


次の瞬間、セラフィムが放った拳は閃光のごとき流星となりてアザレアの顔面を捉えたそうな。


────────────


「よろしく頼むぞ、小さき黒よ」


そう言いながらゴツゴツとした大きな手が私に差し出された。


お話が終わり、そのまま少しアザレアと話してたりしてすぐにせーさんはすぐに帰ってしまった。

そして入れ替わるようにしてやってきたのがこのゴツゴツしたおじさんで、なんかいろいろと凄い。


髪は青くて、オールバック?って言うのかな、全部まとめて後ろに流されていて…なにより大きい。

二メートル以上あるんじゃないだろうか?って言うくらいの大きさで、しかも全身が筋肉だ。

もうムッキムキでゴツゴツ。

凄いとしか言えない。


そんな大きな青髪おじさん。


「うん、よろしくー」


とりあえず握手をしてみたけれど、手の大きさに差がありすぎて握手なんて成立していない。


なにはともあれこのおじさんはせーさんの仲間らしくて、見た感じたぶん龍だ。

青龍…って言えばいいのだろうか。すっごく強そうだからいつか「お遊び」に誘ってみたいなって思ってしまう私は何を隠そう武闘派ドラゴン。


「青いおじさん名前はなんでしか」

「む…確かに名乗らぬのは失礼だったな俺としたことが。そうだな…普段は「青」と呼ばれているのだが…まぁ「ブルー」とでも呼んでくれ。同胞としてこれからよろしく頼む。それともう一人…おい、いつまで隠れているつもりだ」


おじさん…ブルーくんの背後からゆっくりとぬいぐるみを抱えた小さな女の子が出てきた。

いや、私のほうが小さいんですけどね!!


見た目的には…えー…6~7歳くらいだろうか?ネムがそれくらいの時にこんな感じの大きさだった気がする。

いまの私よりは大きくて、リンカちゃんよりは小さいくらいの感じだ。

あと緑髪。

そんでもってたぶん龍。


「あなたもよろしくね?」

「うん…」


近づいて握手を求めると、緑髪の女の子はおずおずと手を伸ばして握り返してきてくれた。

なかよしなかよし。


「お名前はなんでしか?」

「…りょー」


「りょー?リョーちゃん?」

「うん」

「正確にはリョウセラフなのだが、まぁ愛称だな。好きに呼んでやってくれ」


ブルーくんが補足してくれたので、なら遠慮なくリョーちゃんと呼ばせてもらおう。

長いと呼びにくいからね。

というわけでこの二人が新たにお友達として黒神領にやってくることになった。


でもこの二人はいわゆる連絡役のようなものでブルーくんの力で白神領と行き来ができるそうなので、あっちに行ったりこっちに行ったりを繰り返していく感じらしい。


せーさんともせっかく再会できたのだからもっとお話ししたいけれど、立場があるらしくて難しいそうだ。

ま!いつかこっちから会いに行けばいいよね。

いまは新しい友達と仲を深めていこうではありませぬか。


「二人は龍なんだよねー?せーさんや妹みたいにそっちの名前もあるの?」

「あああるぞ。俺は「魔青龍マジックオブブルー」。その名の通り、魔法に通じている」


「…」

「なんだ?突然黙り込んで」


胸の前で組まれているブルーくんの腕の筋肉がムキッ!と盛り上がってぴくぴくと蠢いている。


なるほど。魔法は行き着くところまで行けば筋肉となる…そういう事なのか。

奥が深いですにゃぁ。

高度に発達した筋肉は魔法とうんたらかんたら。


「リョーちゃんは?」

「んと、リョーはね、」

「緑は名乗ることを「聖」のやつに禁止されているんだ。聞かないでやってくれ」


「せーさんが?なんでなんで?」

「曰く「緑の名は危険な、歓迎されるものではない名」らしく、俺にも知らされていないんだ。実は先の戦いでこの子の母親…先代の緑が呪槍の餌食となっていてな…残されたこの子は力が不安定なり、聖のやつによって封印が施されているんだ。だからその名も本人と聖しか知らないのだ」

「うん。せーおねえちゃんに名乗ったらだめって言われてるの。ごめんねクロちゃん」


「ぜんぜんオッケーだよー。知らなくても何も問題ないしね!おやつ食べる?おいしいよ」

「いいの?リョーね甘いのよりしょっぱいの好きなんだけど、あるかなー?」


そうやって空気を換える意味も込めてリョーちゃんと一緒におやつタイムをしているとなぜか顔が張れたアザレアがやってきた。


まるで誰かに殴られたかのようにパンパンだ。

眼鏡にもちょっとひびが入ってるし、何かあったのだろうか。


「あ、クロちゃんこれもらっていもいいのかなぁー」

「んみゅ?あ、それねーこのチーズのやつ乗せると美味しいんだよー…はい、あーん」


「あーん…ほんとだぁおいしいね~」


リョーちゃんにお姉さんとしてアーんしてあげたのだけど、その直後アザレアのほうから何かが折れるような音が聞こえて、そちらを見てみると…。


「あべびはなばばばばばばおぼぼびぼ!!!!?!?1!?!」


もはや奇声を通り越して怪音波を発しだしたアザレアが血を吐きながらゾンビのような足取りでふらふらと近づいてきた。

本当に彼女にいったい何があったのだろうか。


「はぁ…はぁ…!尊い…!小さき者たちが…あーん…?!と、桃源郷…シャングリラ…ユートピア…ここが理想郷…!?はぁっ!!はっぁ!!手を伸ばせばっ届く距離に!!」

「ねークロちゃん。あのひと何言ってるのー?リョーわかんない」

「さぁーなんだろうね~」


なにやら呪文を唱えながら近づいてくるアザレアをリョーちゃんと二人でもぐもぐしながら見守る。

やがてもう少しで触れられる…という位置まで近づいてきた辺りで私たちの間に何かが割り込んできた。


ぷるんと揺れる大きなお尻が視界に広がっていることから、おそらく我が妹ことソードちゃんだろう。

彼女とエクリプスちゃんは正式に黒神領で預かることになったそうで、これからは一緒に過ごすお仲間だ。


ドラゴン的には血がつながっていると言えないとはいえ、やっぱり妹と一緒にいられるのは嬉しい。


ところで以前ネムに感じた私に妹がいたような感覚だけど、それは無意識下でソードちゃんのことを感じていたからなのだろうか?


でもね、実のところこの妹に「姉さん」と呼ばれても不思議なことに以前感じた強い既視感は起こらないのだ。

どちらかと言うと「お姉ちゃん」という言葉のほうに何かあるのかも?と考えたり考えなかったり。


まぁどれだけ考えても何なのかわからないから、もう深くは考えるつもりないのだけどね。


「アザレア。姉さんと緑に何をするつもりだい?」

「うごごごごっごご…親子そろって邪魔をしおってぇぇぇ~…許さん…ゆるさんぞぞぉぉぉふしゅるるるるるる…!!」


大変だ。

普段からお仕事をしすぎている影響かアザレアが化け物のような何かになってしまっている。


これは一度アザレアの中のガスを抜いてあげたほうがいいのかもしれない。

お友達も増えたことだし、懇親会兼アザレアいつもお疲れ様ぱーてーを開くのはどうだろうか?


うん、いい考えの気がするぞ?シルモグ達にウツギ君やセンドウくんにも声をかけてみよう。


そんなことを考えていると目の前にある大きなお尻の上の方から白い尻尾が生えてきたのが見えた。

うん?これって…。


「キミは少し頭を冷やすべきだねアザレア。手を出すのはいけないよ」

「しゃぁああああああ!!」


「我こそは【白】…」

「え、あ、ちょっと…あの調子に乗りすぎましたごめんなさい。冗談だから、ね?冗談よ?ほ、ほらそれってここぞって時の名乗るやつじゃないの…?こんなところでまさかよね?ね?」


「安心したまえ。当然手加減はする…左拳で行くからね」

「そう言う問題じゃな――ぽぎゃっす!!?」


ここからは妹のお尻で何も見えなかったけれど、だんだん遠ざかっていくアザレアの変な悲鳴と、何か硬いものが壁に激突して崩れ落ちたかのような大きな音が聞こえて…お尻の向こうにいたはずのアザレアの姿は消えていた。


こうして一気ににぎやかになった私の周りだけど、数日後、さらにあるモノが持ち込まれた。

アザレア・エナノワール驚異の耐久力。


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[一言] この女…"ギャグ補正"の使い手か…!? 如何なる怪我も数瞬の後には衣服すら含めて完全に回復してみせるという伝説の防御術…!
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