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正体バレしてみる

 数年前の無色領。

せーさんのその言葉を聞いて私の脳裏をよぎったのは「あの日」の事だ。


「呪槍…それが何かは分からないけれど、もしかしてあの「赤い柱」事件の事を言っているのかしら?」

「ええその通りですアザレア・エナノワール。世間的には無色領の教会の傍で突如として赤い光の柱が降り注ぎ、周囲を飲み込んだ原因不明の事件…そう公表されていますがあれはそのような偶発的な事件ではありません。意図的に引き起こされたものです…そこにいるイルメアを殺すために」


アザレアが弾かれたように私のほうを見て、それに釣られるようにその場の全員が同じように視線を注いできた。


とりあえず注目されているようなので皆に向かって「ぴーす、ぴーす」ってしておいた。


「セラフィム・ホワイト…あなた何を言っているの?見ての通りメアたんはいいところまだ2~3歳よ。あの事件が起こった頃にはまだ生まれてすらいないわ」

「…本当はあなたに…何も知らなくて済む一般人に話すのは憚られるのですが、すでにあなたも関係者である以上、この先の話をあえて聞かせることにしたのです。ですからひとまずこれからの話に対しての疑問は飲み込んですべてを聞いてください。質問はその後受け付けます。イルメアもアザレア・エナノワールにあなたの正体を話しても構いませんね?見たところ何も話していないのでしょう?」

「うん」


別に隠していたわけじゃないけれど、確かに私はこの姿になってドラゴンだという事を誰にも話していない。


以前くもたろうくんに無暗に正体を人間に明かさないほうがいいと言われていたこと、こっちに来てからもニョロちゃんにそれとなく止められていたこと。


少し前までドラゴンとひけらかすにはあまりにも弱くなりすぎていたから普通に恥ずかしかった。

そんな事情がぐるぐるして言っていなかったけれど、もうそろそろアザレアには話しておくべきだろう。

こんなにお世話になっているのだもの、皆も許してくれるはず。


「な、なによ正体って…」

「そこにいるイルメアは…そしてこの私にソードは人間ではありません。龍と呼ばれる存在なのです」


「龍…?」

「ええ、アナタたち人間と何ら変わりないように見えるかもしれませんが、その実すべてが別物…私たちの存在を人間に対してわかりやすい言葉で表現するのなら…「神」という事になるのでしょう」


アザレアは「え…?」という困惑満点な顔で固まってしまっていた。

そして私も同じ顔をしている。


私って…神なの…?神様だったの…?

あいあむごっと…?


「一応言っておきますが我々龍が傲慢に胡坐をかいてそう名乗っているわけではないですよ。むしろそう呼んでいるのは人間のほうなのですから」

「それはどういう…」


「更にわかりやすく言うのなら…白神領で、その協会で信仰されている神とはこの私の事なのです。私はセラフィム・ホワイト…そして龍としての名を「聖裁龍ホーリーオブジャッジメント」と申します。白そのものの名は息子に譲っていますが…白き龍…つまりは白き神こそが私という事です」

「あなたが…神様…?」


「私だけではありませんよ。基本的にそれぞれの領…国にはその色に対応した龍が神として信仰を受けています。金神領では金龍が…銀神領では銀龍が。そして…あなたたちの社会を支配していると言っていい赤神領では赤龍が…と言った具合です」


なんてこったいドラゴンショック。


人間世界ってなんで色分けされてるのかって思ってたことがあるけれど、それがまさか(わたしたち)関係の話だとは全く思わなかった。


「あっ…じゃあせーさん。もしかして黒神領って…」

「そうですね。この地にいた神こそがあなたの母親…黒龍だったという事になります。もっともこの地には教会などなかったですからその存在を知るものはいなかったでしょうけどね」

「ちょっと待ちなさいよ!なにそれ…神様ってもっとこう…概念的な存在のはずでしょう!?なのに…それに私は龍だなんて聞いたことも…!」


「でしょうね。先ほども言いましたがこの地には教会もありません。龍の存在を知る者など居ようがないのです。一般には当然公開されていませんし、教会関係者でも龍を知るものは一握りしかいません。神父クラスですら知らない人のほうが多いでしょうね。司教でようやく知っている者のほうが多くなるかどうかというレベルです」


教会において司教ってその国のトップに立つ人の事で、その上ってもう大司教?って人しかいなかったはずだ。

一応は噂としてその上の枢機卿に教皇って人がいるんじゃないかって話もあるみたいだけど…それはひとまず置いておいておいて、龍の存在を知る人間ってそうとう少ないのではないだろうか?


一つの教会にどれくらいの人がいるのか私は知らないけれど、それでも司教なんて少ないように思える。


「何をもって…何をもってその…龍と言う存在は神として崇められているというの…?だっておかしいじゃない、そんなわけのわからない名前だけの存在が教会で祀られているだなんて…」

「…あなたも見たのでしょう、ソードとイルメアの戦いを。そして私の力の一端を。我々龍は世に生まれ落ちた瞬間から、何らかの概念を司って生まれてきます。ソードは「剣」…いえ、刃物と言う概念を背負って生まれてきました。そして私は「分断」という概念を持っています。概念とは言葉通り概念です。特殊な能力や、魔法とは異なり世界そのものを背負っているということです」


そう言いながらせーさんは一本のナイフを取り出した。


「これは何の変哲もない普通のナイフですが…この世界においては「刃物」という概念に分類される物だという事は理解できますよね?つまりこんなどこにでもあるナイフの一本でさえ…すべてはソードに帰結しているという事です…そして」


次の瞬間、止める間もなくせーさんは手に持ったナイフを隣にいたソードちゃんに突き刺した。

びっくりしすぎて声も出なかった。


「なにを!」


アザレアはたぶんほとんど反射的に立ち上がったけれど、当のソードちゃんが手のひらを向けてそれを制した。


「大丈夫だよ。ごく一部の例外を除いてこの世界で「刃物」と定義されている物で僕を傷つけることはできないから」

「そう言う事です。実践するためとはいえ酷いことをしました。ごめんなさいねソード」


「うん」


ナイフが引き抜かれるとともにソードちゃんの胸がプルンと揺れる。

でもそこには傷一つない綺麗なお胸様があるだけだった。

血の跡すらもないことから治ったのではなく、そもそも傷自体がついていないっぽい。


「まぁこういうことです。概念などと言う本来は抽象的なものを我がものとして司る…それはあなた方人間の尺度で考えるのなら十分「神」と呼べるものでしょう?」

「…それじゃあメアたんも…」


「ええ彼女も私たちの同類…龍です。正体を知らなかったとしても、彼女が普通の人間なのではないと感じる機会はいくらでもあったでしょう?そういうことです」

「…」


目を見開いたまま、アザレアは完全にフリーズしてしまった。

カチコチになって全く動かない。

ごめんよアザレア…やっぱり先に話しておかないといけなかったのかもしれない。


「ごめんねアザレア…びっくりしたよね…」

「…はっ!?いいのよメアたん!メアたんは何も悪くないわ!かわいいから無罪!大丈夫よメアたん!あなたは何がどうあってもウチの子だからぁ~!だからしゅんとしないでー!あぁほっぺがもちもちぃ~はぁはぁ…」


アザレアにほっぺをモチモチされながら私はせーさんに気になったことを聞いてみた。


「せーさんせーさん、私も刺されても平気なの?」

「いえ、あくまで龍が持っている概念は一つ…刃物に対する絶対性はソードの龍としての性質です。あなたには他に司っているモノがあるはずです」


「ほほう」


と、言われても全く心当たりはない。

ぶっちゃけ私って普通の人間とほぼ変わらないよね。


「まぁアナタは昔から少々特殊でしたからね。龍だというのに自らの「名」を知らなかったり」

「名前?イルメアだよ?」


「いえ、そちらではなく龍としての「名」の事です。本来なら卵から外に出たと同時にそれを認識するはずなのですが…あなたにはそれがなかった。今もわかりませんか?」

「うん」


そういえば母もそんなことを昔言っていた気がする…何か自分の中に浮かぶ名前はないかだとか。

でもそんなものは無い。

私はイルメアでありメア。それ以外の何物でもない。


「母さん、僕が思うに彼女は「食べること」に関する名を持っているのではないかと思うのだけど」

「ええ私も、そして彼女の母もそう思ってはいましたが…結局わからないまま、あの人は逝ってしまいました」

「食べる?」


食べるだなんて誰でもするじゃないか。

龍や人だけじゃなくて、生きているなら何かしら食べるでしょうに。

普通の事じゃん!


「結構脱線してしまいましたね。話を戻しましょう…無色領で起こった光の柱…呪槍はイルメアを殺すために放たれた。それは間違いありません。呪槍とは神を殺す力…本来不可侵であるはずの概念を貫く槍…私たちの敵が持ち出した最悪の力です」

「そんなものが私に…?」


「ええ間違いありません…それを受けて私たちは呪槍を持ち出した我々の敵に…赤神領の人間に戦争を仕掛けたのですから」

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― 新着の感想 ―
[一言] もしメアたんが幼女でなく少女として世に出ていたなら、今回の話は全員真面目に進行するところだったのか… 「食べる」だろうとは予測されつつも見つからない、すなわち本当に司ってるのは幼女とかシリア…
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