衝撃の事実を暴露されてみる
あれから少しして、一度落ち着こうというその場の判断によって私たちは大穴が空いて風通しが良くなったアザレアの執務室に集まっていた。
何とか無事だったソファーの上でテーブルを挟んでせーさんとソードちゃんと向かい合っていると…こう何というか不思議な気分になってくる。
懐かしいような、気恥ずかしいような…それでいて嬉しいような。
とにかくふわふわとした変な気分。
なお二人の後ろにはエクリプスちゃん(ここに来る途中で名乗ってもらった)がソファーには座らずにピシッとして佇んでいた。
「エクリプス、キミも座りなよ。いつもそんな控えるみたいなことをしなくてもいいって言っているだろう」
「いえぇ~ここが私のポジションです故~ソードはお気になさらず~」
こうしていろいろ落ち着いて、あらためて見るとなんだかおもしろい二人だった。
ソードちゃんは顔はとっても可愛らしいし、服装はとっても露出が激しいうえに、お胸様やら太ももさんやらが凄いことになっているのに、喋り方はかっこよくて愉快だ。
対するエクリプスちゃんは露出なんかほぼなくて、見てるだけで堅苦しくなってくるピシッとした服を着てて、立ち振る舞いも背筋がピンっとしててかっこいいのに、喋るとふわふわしててこれまた愉快。
見た目と言動が一致しているせーさんに実家のような安心感を覚えるくらいだ。
「座りなさいエクリプス。ソードはともかく私にも後ろに控えられているような感じがして落ち着きません」
「…はぁい。申し訳ありません聖女様」
せーさんにそう言われるとエクリプスちゃんは態度を一変。
おずおずと言った様子でソードちゃんの隣に座った。
なんとなく三人の力関係が分かったり、わからなかったりする光景だ。
そうやって私が人間?観察をしているとアザレアがトレーにお菓子とお茶を載せて現れた。
てきぱきとみんなにそれらを配って、アザレアは三人と向かい合っている私の隣に座って足を組んだ。
ここからようやく話し合いが始まる…前に、お腹が空いていたのでアザレアにお菓子を食べていいかと聞いてみて、オッケーが出たのでモグモグタイムだ。
うまし、うまし。
「…私には何もないようですが?」
ふとせーさんがそんなことを口にした。
自分に配られたお茶とお菓子に夢中になっていたから気が付かなかったけれど、確かにせーさんの前にだけお茶もお菓子もない。
うっかりかー?うっかりアザレアが出ちゃったか―?いろいろあったもんね、アザレアだって疲れてるんだ。
「ウチの子のママを名乗る不審者にお出しするものなんてないですもの。こんな辺境の地…食料は貴重なのよ」
「はぁ…そのような器の小ささでよくもまぁ母を名乗れるものです。やはり変態のままごとだったという事ですか」
「何を言っているの?不審者に優しくするなんて奴は器がどうこうじゃなくておバカさんって言うのよ」
む?気が付けばアザレアとせーさんがなんかバチバチしてる。
お菓子を仕分けしてて話を聞いてなかったけれど、何かあったのだろうか?
まぁいいや。
「はい、せーさん」
私は別のお皿にわけた自分のお菓子をせーさんに渡した。
本当はいっぱい食べたいけれど、みんなで一緒に食べたほうがおいしいもんね。
それにアザレアが疲れているというのなら、そのフォローをするのも今の私の役目だ。お手伝い大事。
「おや、ありがとうございますね、イルメア。…ふっ」
なぜか渾身のどや顔をせーさんがアザレアに向かって披露し、それを受けたアザレアは死ぬほど悔しそうな顔で唇を噛んでいた。
この二人はどうしてしまったのだろうか。
「…母さん、戯れはそれくらいにして話を始めないかい?」
「…そうですね。少し遊びすぎましたか。時間もないですし、進めるとしましょう…では、改めまして私はセラフィム・ホワイト。白神領管轄の聖白教会にて聖女と言う肩書を与えられている者です。ウチには司教に当たる人物がいないのでその代わりとでも思ってください」
人間たちの世界ではそれぞれの領という国にいくつか教会があって、そこで「神父」という立場につく人がそこら一帯の地域を治め、そしてその中でも一番大きな教会を治める人物が司教として国そのものトップ…という事になるらしい。
つまりせーさんは白神領で一番偉い人…という事みたいだ。
ちなみに我らがアザレアは黒神領で一番偉いので実は現在トップ会談が行われおりますよ。
「そして隣にいる二人が我が領所属の執行官…そして同時に我が息子であるソードと…同じく執行官にしてソードの伴侶候補であるエクリプスです」
せーさんに紹介されて隣に二人もゆっくりと一度だけ頭を下げた。
でも今の説明で少しだけ引っかかるようなものを感じたのはなんだろうか。
「…息子?どう見ても娘さんに見えますけど?」
そう、それだ。
アザレアが口にして私もその違和感に気が付いた。
せーさんは確かにソードちゃんのことを息子って言ったけれど…どう見たって娘さんだ。
くもたろうくんは女の子ぽさを演出するために、肌を極力出さずにさらには大きなリボンやフリルで骨格を小さく見せる…みたいなことをやっていたはず。
本人が言っていた間違いはない。
でもソードちゃんはどう見たってそんな演出ができる格好をしていない。
ほとんど裸だもの。
それにむき出しにされて動くたびにプルプル揺れているお胸様や、太ってはいないのに肉付きが良くてむっちりしている脚を見せられて男の人だとは思えない。
「どう見ても娘に見えますが、息子です」
「うん。見ての通り、僕は男だ」
「…見ての通りだと女の子よ。なに?心意気的な話をされているのかしら…?だとしたら否定はしないけれど」
「いえ、心がとかではなく正真正銘息子です。実はその隣にいるエクリプスは人間ではなく、その力でソードの肉体を変化させているのです」
「え?…え?…えぇ?」
なんとなくそんな気はしていたけれど、エクリプスちゃんもやっぱりそういう感じらしい。
ただ龍ではない。
どちらかと言うとくもたろうくん寄り…上位の魔物と言ったところだろうか?
「あのごめんなさい…すでに話についていけないのだけど、その辺も含めて説明していただけるのよね?セラフィム・ホワイト」
「イルメアと一緒にいるのにこの程度の話に動揺を見せるとは情けない限りですね。まぁいいでしょう…さてどこから話したものですかね。むしろここから聞きたいという事はありますか?」
「あ!はいはーい!せーさんせーさん!」
渡りに船とばかりに私は手をあげた。
聞きたいことはたくさんあるから、この機会に全部聞いてしまおう。
「なんですかイルメア」
「えっと…まずせーさんはどうしてここにきたの?偶然?」
「いいえ、この地に足を運んだのは黒の気配を感じたから…つまりはあなたの気配をです」
「おおー」
「黒はもういない…黒龍…あなたの母親も、そしてあなたも死んだものと思っていましたから、黒の力を騙る何者かがいるのだと思い込んでしまい…そうなると怒りのあまり居てもたってもいられず飛び出したという事です」
「そっか…伝えられてなかったけれど、せーさんも母が死んだことは知ってたんだね」
せーさんは少しだけ悲し気に笑いながら頷いた。
「えぇ…もっともそれを知ったのは割りと最近なのですがね。きっかけは数年前…無色領に「呪槍」が放たれたのがきっかけでした」
そうしてせーさんの話が始まり…私はついにあの時自分の身に何が起こったのかを知ることとなった。
気になる方に安心していただくためにここであらかじめ、ソードくんに関してのこういう展開はないというネタバレを置いておきます。
↓
本編中、男に戻ることはないです。
かわいそうですね。