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決意してみる

 なんだか最近いろいろなことが起こった。

そして…なんというか自分の不甲斐なさと言いますか、物事へのうまくいかなさに打ちひしがれていると言いますか…。


今日の私は正真正銘スーパーネガティブドラゴン。


事の発端は一週間と少しくらい前のリンカちゃん初めまして大騒動だ。


途中まではうまくいっていたと思うのだけど…あろうことかこの身体の燃費の悪さに負けてリンカちゃんをおいてお昼寝してしまうという大失態を犯してしまった。


一人すやすやと…そんな状況でも誰も私を咎めることもなく…信徒にみんなはもちろん、アザレアまで私を普通に寝かせていたというのだから驚きだ。


誰か起こしてよ!!

…なんてこれはいくら何でも責任転嫁が過ぎるという物だ。

皆は悪くない。


そのあともなんとか失態を取り戻そうとしたけれど、リンカちゃんはそれ以来とってもよそよそしくなっちゃって…多分怒ってしまったのだろう。

結局なにもできないまま、商人さんの馬車に乗って去っていくのを見送るしかできなかった。


そして先ほど…そのリンカちゃんがボロボロの状態でウチに運び込まれてきた。

何があったのか全然わからないけれど…なんだか胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。


私には何があったのかわからないし、その場にいなかったわけだからどうしようもない事なのかもしれないけれど、なんて言えばいいのかな…知り合いに明確に何かが起きていて、それに対して何もできなかったという事実にモヤモヤしたものを感じたというか…。


リンカちゃんのことであれこれ反省していた時期と言うのも大きいのかもしれない。

とにかくもやもやが凄い…意味のない落ち込みなのはわかっているんだけどね。


そしてさらにもう一つ今日は事件があった。…実はリンカちゃんが運び込まれてきた馬車にアザレアが言っていた「もう一組」のお客さんも乗ってきたのだ。


今日来るなんて聞いてなかったけれど…私は燃えに燃えた。

リンカちゃんの現状を見て、自分に対するやるせなさを糧にやる気の炎を燃やして今度こそ完璧なおもてなしをして見せると。


しかし…アザレアに「メアたんは大人しくしてて」と言われてしまった。

どうやら完全に役立たずドラゴンの烙印を押されてしまったらしい。


無理を通すわけにもいかず、私はとぼとぼとノロちゃん部屋で大人しく待機していた。


「ねーねーノロちゃん…」

「…なんで、しょう…」


「くるしくないのー?」


ノロちゃんは何故か天井から伸びる鎖に絡めたとられた状態で吊るされており、ぶらぶらと揺れていた。

どう見ても苦しそうなのだけど、本人はいつものようにニタァ…と笑っているのでよくわからない。


「は、い…たのしい…ですよ…」

「たのしいのかぁ」


「ご一緒に…どうですか…伴侶…さま…」

「…じゃあ失礼して」


ぴょんとジャンプして揺れるノロちゃんに全身でしがみついて、一緒にぶらぶら揺れる。

…母の記憶にあったコアラとか言う動物になった気分だ。


しかし、それにしても虚無だ。

びっくりするほど何もない。

それに私の重さが加わることで天井から伸びでノロちゃんを絡めとっている鎖がさらにその身体に食い込んでいるから痛そう…。


いや本人は相変わらず笑っているんだけどさ…なんとなく悪い事をしている気になってしまって私はそっと飛びのいた。


「おきに…めしません…でしたか…?」

「うん…なんだか痛そう」


「この…痛みが…よいのです…が…」

「ん?何か言った?」


「いえ…では戯れは…ここまで、と…いたしましょう…」


どうなっているのか天井から伸びた鎖はひとりでに外れて、ノロちゃんの身体が床に向かって落下していく。


「あぶにゃい!」


慌てて下に潜りこみ、両腕を伸ばしてノロちゃんをキャッチ!見事事なきを得た。


「…」


なぜか少し残念そうにしているような気がするけれど、おそらくネガティブドラゴン故の気のせいだろう。

まさか上から落ちて床に激突したかったなんて思うはずないしね。


ノロちゃんを持ち上げたまま、ベッドまで運んで「えいっ」と放り投げる。

いや…身体のサイズ差的にノロちゃんを持ち上げるにはこう…上に掲げるようにしないといけないから、ベッドまで運ぼうと思ったら投げるしかないの。

雑に扱ってるわけじゃないからね?


「ところで…なにか…ありました、か…伴侶様…」


ノロちゃんがベッドに寝たまま、片方だけの腕を伸ばして私の頬に触れた。


「うん~…いろいろあってネガティブドラゴンなの」

「…そう、ですか…よろしければ…お話を…おききいたします、よ…」


「うんーありがとー」


せっかくなので私もベッドに失礼いたしまして…ひんやりとしているノロちゃんの胸にすり寄ってみた。

これってやっぱり私が心臓を食べちゃったからひんやりとしているのだろうか。


「それで…いかが、なさいました…か…」

「ああうん…あのね…」


そしてノロちゃんにこの胸のモヤモヤを話した。

まぁ私自身にもよくわからないモヤモヤなのでうまく説明できたのかは不明だけども。


「なる、ほど…しかし伴侶様…それらすべては…あなた様が…気にするほどの事でも、ないと…私は…おもいます…」

「そうなのかなぁ~」


「あなた様はただ一人の黒き祝福…なればこそ…風が吹けば散るような…人間たちに…心を砕く必要は…ないと…思います…悩むのなら…関わらなければ…よいのです…あなた様は…強いです、から…人とのかかわりなど…不要でしょう…」

「そんなことないよ」


そんなことない。

その言葉は驚くほど簡単に私の口から出てきた。


「…」

「一人はね寂しいじゃない。強いって言ったって母よりは弱いしさぁー…それにネムやアザレアにセンドウくんにウツギくんに領の皆…みんなといると楽しいし、いっぱいいいこともあったから関わりが不要だなんて思わないよー」


「そう、ですか」

「もちろんノロちゃんもだよー?こうして一緒にゴロゴロできて、お昼寝もできて…ノロちゃんと一緒にいると楽しいから関われてよかったなって思うよん」


「そう、ですか…しかし私は…あなた様に寄り添い…そして呪を導くために…ここにいるのです…そこに他の感情は…不要、です」


うーん…相変わらず言っている意味は分からないけれど、やっぱり少し硬いというか、まだ距離があるかもしれない。

ノロちゃんともう少し仲良くなりたいけれど、どうすればいいのかなぁ?


むむむ…何かいいアイデア…アイデア…誰かと仲良くなる時、私はどうしていただろうか…。


「…そうだ。ご飯」


母が言っていた。

同じ釜の満漢全席を腹が破裂するほど食えば皆友達だと。


でもノロちゃんにはご飯を食べるには足りないものが多い。

胃袋とかの内臓が。


「よし…決めた。わたしやっぱりノロちゃんの身体を…呪骸を探しに行くよ!そして一緒にご飯を食べりゅ!」

「ご、はん…」


「うん!そうすればもっと仲良くなれるよ!」

「そう、ですか…なかよく…」


いっそ皆をあつめてパーティーを開いてもいいかもしれない。

うん…新たな野望が胸の内に湧き上がってきた。


絶対にいつかお友達全員胃袋破裂パーティーを開いて見せる。

そのためにはこんなところでうじうじとしていられない!


「うおー!やってやるぞー!うおー!」

「…よくわかりません、が…頑張ってください、ませ…わたしは…いつだってあなた様の…味方です…愛しき伴侶様…」


「ありがとっ!よぉし、そうなればまずは私の名誉とやる気を回復させるためにアザレアにやっぱりお客様のおもてなしをさせてもらおう!じゃあ私いってくりゅね!」


ベッドから飛び出して行こうとしたけれど、ぎゅっとノロちゃんに抱き寄せられて止められてしまった。


「…ノロちゃん?」

「本日は…まだ…お昼寝をしておりません…時間的に…いつもは…お昼寝をしております…」


「そういえば…あ!でもだめだよ!前はそれで失敗しちゃったんだから、ここは眠気に耐える練習を…」

「こどもは…ねむる…ものです…それも、仕事の一つだと…いいます…」


トントンと背中を一定のリズムで優しく叩かれて…一気に眠気が襲ってくる。

やばい…だめだぁ…寝かしつけられるぅぅぅぅ…アザレア…すまぬ…少しだけ…まってて…お…く…れ…。


「おやすみなさいませ…愛しき伴侶様…」


────────────


屋敷の客間…そこで綺麗とは言えないが、かろうじて形だけはしっかりしているソファーに座り、アザレアと白髪の女性…ソードが向かい合っていた。

無表情でソードを睨みつけているアザレアと、薄く微笑んでいるソード…二人の間には目には見えない火花が噴き出しては散っていた。


「まさかいきなりやってくるとは思いませんでしたわ。聖白教会所属の執行官だったかしら」

「あぁ間違いないよ。先に自己紹介を済ませようか。僕はソード…そして後ろに控えている子がエクリプスだ。よろしく」


「ご丁寧にどーも。私はアザレア…アザレア・エナノワール。フルネームを名乗ってもらえないのは理由があるのかしら?」

「ああすまないね、そこまで身分が高いわけでもないのでね」


一触即発の空気が充満し、いつ火がついてもおかしくない中でその邂逅は行われた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >そこに他の感情は…不要、です ※痛みが良いとか言ってた人の発言です 食欲の権化と性欲の権化しかいないのかこの屋敷には!
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