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初めての感覚を覚えてみる

「うおぇえええええええええええ!!!うあぁあああああああああああ!!!!」


それを口に入れた瞬間、私の中に広がったのは爆発的な不快感。

舌に乗っただけで口内のすべてがそれを否定し、味なんて感じないはずの歯でさえもそれに触れることを拒む。

それでも一度口に入れたモノだからと我慢に我慢を重ね普段よりも圧倒的に少ない回数で咀嚼を切り上げ、飲みこむ。


そしてお腹に落ちたそれはまだその存在感を失わず…腹の底から抜けてくる匂いがさらに不快感を上書きしてくる。

圧倒的不快感、圧倒的嫌悪感。

初めての感覚に口の中だけではなく、身体にも異変が起こり、全身に鳥肌が立った。

吐き出したい吐き出したい吐き出したい…!!でも食べ物を口にしたのなら最後まで食べきるのが信条の私のプライドが許さない…許さないけど…!食事が辛い…こんな感覚は初めてだ。


いったいこれは何なのだろうか…考えて考えて…そして一つの結論に達した。

そうか…これが「不味い」という感覚なのだ。

この世界に生を受けて数百年…私は初めて何かを食べて不味いと感じたんだ。


今までは食べ物を不味いという気持ちが理解できなかった。

くもたろうくんはもちろん、ネムにも嫌いな食べ物があって…不味いから食べたくないと言われてそれがどうしても理解できなかった。

この世界にあるモノは全部美味しくて…不味いってなんだ?って…でもそうか…これが不味いなんだ。


いやだいやだいやだ…!!不快感が止まらない!!母に泣きつきたくなるほどに。

こんな感覚を覚えるくらいなら死んだほうがましだと思うほどに…!いや死なないけど!!


「でも…おかしぃ…」


くもたろうくんの身体を齧ったことなんて以前にもある。

少し筋張っていて…バリバリとした歯ごたえもあってすごくおいしかった。

つまり私の中に満ちているこの不快な不味さをくもたろうくんに与えているのは…あの黒い靄だ。


許せない…あの靄だけは許せない。

この世界に存在していいものじゃない…基本的にすべてを受け入れて生きているこのドラゴンが初めての不味いを覚えたと同時に、初めてこの世界で存在を許容できないものに出会った。


許せない許せない許せない…!!世界中からこの黒くてまずいモノを殲滅しなくてはならない。

駆逐しなくてはならない。

絶滅させなくてはならない。

その存在を…一片たりとも許してはならない。

こんなまずいモノが私の生きる世界に存在していいはずがない。


「だぁあああああああああああああああ!!!くもたろう!なんでそんな「まじゅい(不味い)」もの持ってるの!ふざけるな!!」

「――!!」


油断した。

頭に血が上りすぎたせいで完全に…。

くもたろうくんが振り降ろした脚に対応を忘れて…ギリギリで避けたけれど身体が大きい分、伝わってくる衝撃も大きくて…私の小さなぷにぷにぼでーはいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。


「うぐぐ…しまったぁ…」


数十メートルというかなりシャレにならない距離を吹き飛ばされてしまって身体がさすがにちょっと痛い…。

それに…今のくもたろうくんにとっては大した距離でもないからすぐにでも…。


「あれ…?」


すぐに追撃が来るかと思いきやくもたろうくんはゆっくりと飛ばされた私にではなく、みんながいる方向に進みだした。

こうなってしまった私はすでに眼中にないという事だろうか…いや、まずい…このままじゃ皆が…。


「メアたん!!」


遠くでアザレアの声が聞こえた。

見るとくもたろうくんの進路上にアザレアの姿が…いや、彼女だけじゃなくてウツギくんと…少し離れた位置にセンドウくんもいる。

さらにはシルモグとカナリをはじめとしてご飯をくれる皆の姿が…。


だめだ…皆を守らないと…。


立ち上がろうとしたけれど、足場が悪くて仰向けに倒れてしまい…結果として空を見上げた。


――そこにノロちゃんがいた。


そこにあった木に…鎖で首をつられているような形でノロちゃんが…私を見てあの三日月のように避けた口で笑っている。


「ノロちゃん…?なんで…」

「時が…きました…。さぁ…私の愛しい「伴侶様」…どうかこのわたくしめに…その偉大な力の一端を…お見せください…そして…世界にあなた様の存在を…刻みつけるの、です…」


ノロちゃんが片方しかない腕を広げた。

私を…誘っているかのように。

何とか立ち上がってノロちゃんに近づくと…その胸にじんわりと赤いシミが広がっていくのが分かった。

着せられていた服がひとりでに裂けて…その下の傷だらけの肌まで裂けていく。

肉も、骨も…全部が開いていき…トクン…トクン…と小さく鼓動する心臓が外気にさらされている。


「さぁ…伴侶様…我が血を喰らい…死を超え、生の祝福を…さぁ…」


ノロちゃんの身体から心臓が切り離され私の手の中に落ちてきた。

手の中でなお鼓動を繰り返すそれが…とてもおいしそうで…。


「さぁ…どうぞ…おおさめください…遠慮することはありません…私は…そのための…呪なのですから…」


ノロちゃんはずっと笑っている。

痛みも苦痛も感じさせず…ただただ真っ赤な三日月を浮かべて笑っている。


そして私は…その心臓を口にした。


────────────


「なに…?何が起こったの…?」


途中でウツギを捕まえ、メアが大蜘蛛に向かっていったと聞いたアザレアは一目散にそのあとを追った。

その必死な様子にウツギもなぜかその背を追いかけ…それを遠目で眺めていたセンドウに、同じくメアを探していた領民たちも駆けつけ…そしてそれを見た。


全員が数十メートル先の光景を見ていたために正確な事は視認できていなかったが、メアが何かを口にしたのは分かった。

そして次の瞬間…メアを中心に黒い爆発が起こった。


蜘蛛が放つ衝撃どころではない…漆黒に彩られた風が周囲を吹き飛ばし、真っ黒な炎が燃え盛る。

そしてその中心で…ふわりとメアの身体が浮かび上がっていた。


「あれは…ほう?これは興味深い」


センドウがニタニタとした笑みを深め、それ以外の者たちは一様にどよめいた。

メアの身体が地を焼く炎に包まれ…そして風で炎が霧散した後、そこにいたのは艶やかな黒髪を携えた…十代後半ほどに見える少女の姿。


ちょうどメアを大人にしたらああいう風になるのではないかという恐ろしいほどの美人がそこにいた。


「まさか…あれがあのガキ…なのか…?」


その場の全員がなぜか理解できた。

姿こそ違えど、あれは絶対にメアだと。

そんななか、アザレアがふらふらと前に出て…ウツギに肩を掴まれて引き留められる。


「おい!イカレ女!なにしてやがる!アブねぇだろうが!」

「も…」


「も?」

「戻してぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」


眼鏡にひびを入れ、涙を流しながらのそれはまさに魂からの慟哭であった。

アザレアさん最大級の絶叫。


何とは言いませんがタイトルは幼女ドラゴンなのでご安心ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] しまったこいつ可愛いもの好きじゃねえ! ペドロリーノ(婉曲表現)の民だ引っ捕らえて牢に放り込めぃ!
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