みんなを守ってみる
山のように大きな蜘蛛。
シルモグのそんな報告を受けてから30分ほど…アザレアの屋敷の高い場所から確かに遠くの方にその姿が見えた。
山のようには大げさだったけれどそれでも確かにかなり大きい。
一般的な人間の…10倍以上くらいの大きさはあるんじゃないだろうか?全長20メートルとかそのレベルだ。
そんなサイズの蜘蛛が周囲にあるモノをでたらめに薙ぎ払いながらまっすぐ…とは言わないけれど、私たちのいる場所に向かってきている。
…というかアレくもたろうくんでは?
蜘蛛の状態で人間を一人か二人背に乗せられるくらいの大きさだったから、かなりおっきくなっちゃってるけど…でも間違いなくあれはくもたろうくんだ。
蜘蛛の違いなんて分からないけれど、さすがに長く一緒にいたくもたろうくんと他の蜘蛛の区別くらいはつく。
でも一応…ほんとうに一応ね?いちおうだよ?ニョロちゃんにも確認を取っておく私は念には念を入れておく系慎重ドラゴン。
「ねーニョロちゃん…あれやっぱりくもたろうくんだよね?」
「――」
ニョロちゃんが私の肩の上で肯定するように首を縦に折った。
やっぱりくもたろうくんらしい。
ニョロちゃんが言うのなら間違いはないだろう…よかった蜘蛛違いじゃないじゃなくて。
でもだとすればなんであんなに大きくなっているのだろうか?くもたろうくんは最後に会った数年前の時点でほぼ成体だ。
もう少しは成長の余地があったとはいえ、そもそも彼の種族は大きい子でもあんなにはならない。
それに…どう見ても様子がおかしい。
普段は何があったもあんなに癇癪を起したように暴れる子じゃない。
「なにがあったんだろう…」
「――」
ニョロちゃんも心配そうにしている。
どちらにせよあのままだとまずい…さすがに今住まわせてもらっているこの場所を荒らされるのはダメだと思うし、あのままくもたろうくんがこっちまで来ちゃったら回復してきた畑や、みんなの住む場所が偉いことになっちゃう。
この黒ドラゴン…ご飯をくれる人たちを見捨てるなんて真似は致しませんよ、ええ。
いちめしいっぱんの恩と言いますしねハイ。
とにかくくもたろうくんを止めよう…その前にアザレアに言って皆を避難させた方がいいのかなぁ?
「メアたん!」
バァン!と扉が開かれてアザレアが入ってきた。
なんてちょうどいいタイミングなんだアザレアさん。
「あじゃれあ、あのね」
「逃げるわよメアたん!見たこともないような魔物がこっちに向かってきてるの!」
「うんしってゆ。だからねーみんなをひなんさせてほしくてー」
「…残念だけどみんな逃げないと思うわ。ここにいる人たちは他に行き場所なんてないの…追いやられた末にここにたどり着いたのだから。住む家と畑や家畜が失われたらそこで全部終わり…誰もがそう考えてるはずよ」
「ほぇ~」
そりゃ大変だ。
じゃあなおさら早く行動に移さないといけない。
皆の住む場所にくもたろうくんがやってくる前に接触する…それしかない。
「じゃああじゃれあ。わたしいってくりゅね」
「行くってどこに!メアたん!?」
アザレアの声を背にお屋敷を飛び出した。
皆がご飯をくれていたおかげか、最近もりもりと元気になってきていて、走ることすらたやすくなった。
これが将来有望、成長株ドラゴンというものだよ。
そうやって走っていると屋敷の門を出たところで長い筒のようなものを目に当てているおじさんがいて、何をしているのか気になったので急いでいるけど声をかけてみた。
「せんどうくん」
「おや…これはメアさんではないですか。ご機嫌麗しゅう…ひっひ!」
このやけに猫背でニタニタとした笑みを浮かべているおじさんは「センドウ」。
少し前にみんな大好きウツギくんが連れてきたお医者さんらしく、そのままアザレアの許可を得て屋敷に住み着いているの。
でもアザレア的にはなんかあるらしくて、あんまり関わっちゃだめだし気を許さないようにってきつく言われてる。
でもセンドウくんはノロちゃんのことを診てくれているし飴とかくれるから個人的には仲良くしたいんだよね。
「なにしてりゅの」
「えぇ…少々あの迫りくる魔物の観察を…ひっひ!」
「あぶにゃいよ(危ないよ)?」
「これでも研究者なもので…珍しいものを見るとつい好奇心を抑えきれず身の危険も後回しになってしまうもので…ひっひ!私のような人間にとって興味深い観察対象というものは時に命よりも優先順位が上に来るものなのですよ…ひっひ!」
「そうなんだー。じゃあなにかわかったー?」
「ええ多少は。あの魔物…少なくとも自然発生したものではないでしょうなぁ。あの巨体だ…うろついていれば噂にくらいはなるはずですしねぇ…ひっひ!それに動きもおかしいですねぇ」
「うごきー?」
「生き物が動くという事はそこに理由があるのです。それは人間とは違い本能で動く動物も同じ…いえ、むしろ感情で動く人間よりも本能で動く動物のほうが目的ははっきりとしていると言えるでしょう…本能で動く故に無駄な行動はしないというやつですな。しかしあの魔物は違う…食料を求めてでもなければ、天敵に追われているようでもない…ただ理由もなく暴れているように見えますねぇ…ひっひ!まぁここで短時間、それも遠目で観察しただけなので詳しいことは分かりかねますがねぇ」
くもたろうくんは理由もなく暴れるような子じゃないし、本能に飲まれる子でもない。
やっぱりなにか妙なことが起こっているようだ。
「ありがとせんどうくん。でもあぶないことしちゃだめだよー」
「えぇ、えぇ…お気遣いありがとうございますメアさん…ひっひ!」
せんどうくんに手を振って私は再びくもたろうくんに向かって走り出した。
久々の再会なのになんだかきな臭くなってきたにゃぁ…まぁでも最近はいいことが続いてたし、なんとかなるなる。
いいことが続けば悪いことが起こるだなんて思わない私は誰が見てもポジティブドラゴン。
まってろよくもたろうくん!
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走り去っていくメアの小さな背に手を振りながらセンドウはボサボサの銀髪の下の笑みを深めた。
そんな彼のもとに汗を流しながらアザレアが現れ、荒々しく肩を掴む。
「センドウ!こっちにメアたん来なかった!?」
「メアさんですか?はて…見ていないと思いますが?」
平然と嘘をついたセンドウだったが、今のアザレアにそれを見抜き問い詰める余裕はなかった。
半ば投げ捨てるようにセンドウの肩を離し、逆の方向にメアを探して走っていく。
その背もメアと同じように見送って…舌で唇を舐めた。
「あなたも私の観察対象ですよメアさん…面白い光景を私に見せていただけることを期待しております…ひっひ!なによりそろそろ「報告」をしなければならない時期だぁ…めんどくさいことは先に片付けて楽しい楽しい研究をしたいのですよ私は…ひっひ!」
そんな声は遠くから聞こえる地響きにかき消されていった。
次回、幼女ドラゴンvs巨大化蜘蛛




