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幼女ドラゴンは生きてみる  作者: やまね みぎたこ
紫色編

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205/212

託してみる

「俺…ずっと前から…ほんと…ずっと悩んでて…そもそもの話…自分が何をやってるのかもよくわかってなくて…ただ人の役に立ちたいって教会の門をたたいて…そうしたらストガラグさんの下に同期はそっちのけで俺だけ配属されて…そんなことになってる理由も思いたらなかったけど…そう言うもんかって受け入れて…でもそこからは訳の分からないことがずっと…ずっと続いて…」

「スレン…」


図らずも始まった…いや始めたのは私だけどもとにかく始まってしまったスレンくんのお悩み会。

ぽつぽつと喋るスレンくんとそれをなんとも言えない気まずい感じの目で見つめているおじさん。

うん…どっからどう見てもシリアスなシーンだ。


だけどねスレンくんの下半身が地中に埋まったままだからちょっと面白さが勝ってる気がしないでもない。

これをやったのも私だけどもさ。

…誤解しないで欲しいのだけど笑うつもりもないし、これでも真面目にスレンくんの話を聞いてあげようとしてるのも本当なのだ。

ただ想像以上に絵面が面白くなってしまってるだけだ。

下半身が埋まったまま真面目な話をしている若者…こう…どかんと面白いわけではないけれど、考えれば考えるほど、噛めば噛むほどじわじわと面白くなっていくなにかがそこにはある。


…これはひとまずスレンくんを地面から引っこ抜かなければならない。

そうでないと真面目な話なんてできないよ。

ただ問題はさっきも言ったけれどこの状況を作っている二つの要因の内、なんと二つとも私が作り出したものだという事。

それを私から「やっぱなし」と言うのはあまりにも格好がつかないしマヌケだ。


つまりここで私に求められるのは…自然にスレンくんを穴からおびき出すこと。

なんとかうまくやるしかない。

そもそもおじさんもスレンくんもおかしいとは思わないのだろうか?穴に埋まりながら真面目な話をしてるんだよ?そんなのおかしいよ!って一言言ってくれれば私も引っ込みがつくというのに…。

プンプンですよプンプン。


「俺…最初は仕事に燃えてた…はずなんです…誰かの助けになれるなら…人のためになる仕事ができるならこれほど誇らしいことはないはずだって…なのにいざ始まった仕事は…死んだとか殺したとか…殺せだとか死ねだとかそんなのばっかりで…」

「…」


そうこうしている間にも進むシリアス、埋まったままのスレンくん。

気を取られて話がうまく頭に入ってこない最低な私。おーいえー。

こうなれば私も埋まるか?そうすれば色々と相殺できるかもしれない。


ただそうなるとおじさんがフリーになっちゃうのが心配だ。

この人が呪骸をもってるのは変わらないし、先ほども私に殺気を飛ばしてきたしで油断すると何かしそうな空気。

なのでやはりスレンくんを引っ張り出す方向で行こう。


「ストガラグさんには言ってなかったですけど…俺…実は何度も転属願を出してたんです…でも…」

「…知っている。当然それがすべて却下されたことも」


「…そう、ですよね…断られて…それで脅されもしました。これ以上仕事に疑問をもったり辞める意思を見せるようなら…俺の住んでた村がどうなっても知らないぞって…もう何を信じればいいのかわからなくなって…いいことをしてるんだって思ってた教会もこんなんで…逃げる場所もなくて…でもストガラグさんはずっと俺にはまっすぐと向き合ってくれてました…あなたは悪い人じゃない…そう思うのに銀神領では小さな子供を殺そうとしたりもして…やっぱわかんなくなって…」

「…個人の感情と仕事は別だ。社会人とはそういうものだ」


「そんなんで割り切れないんですって俺は…!これも言ってなかったですけど…銀神領でストガラグさんが意識を失う前に俺に指示した仕事…あの二人の子供を殺せってやつ…アレ結局やらなかったんです…そのままストガラグさんだけ背負って…逃げました。どうしても無理で…できなくて…ここに居場所なんてないって思ってるのに辞めることも出来なくて…教会は見えないところで酷いことを平然とやってて…でもあなたを悪い人だとも思えなくて…いっつもぐちゃぐちゃで…そのまま流されて…」

「…少なくとも俺はいい人ではない」


「わからない…なんにもわからないですよ…でもあの時…呪骸を手にしたときに全部を理解したんです。俺に足りないのは力だったんだって…全てを圧倒するあの力さえあれば…こんなにぐちゃぐちゃとした頭もスッキリとするんだって…!力さえあれば!自分の意見は全部通せる!力さえあれば…気に食わないものを全部叩き潰せる!力さえ…力さえあればッて!!」


ここだ。

ここしかない!


「おじさん呪骸、だして」

「なに…?」


「その手の中にある呪骸を出して…そしてスレンくんに渡してあげて」

「…なぜそんなことをしなくてはならない」


そんなの私の心の平穏のためだよ。

とは言えないので無言でなんかいい感じの表情を作り、意味深な視線を向ける。

そこに何の意味も込められてないからこそ不気味に映ろう…くっくっく…。


「…なにが目的なのだ」

「いいから早く。私に取り出されるより痛くないでしょ?」


カンカンカン!と急かすようにつるはしで地面を叩いてみるとおじさんは後ろを振り向き、上を見て…少しの間考え込むと「この状況では…致し方無いか…」と右手の爪を左腕のお腹のあたりに突き立てた。

ぶしゅーって血が噴き出して…めちゃくちゃ痛そう。なんでそんなところにあの石を入れようだなんて思ったのだろうか。

さてはこのおじさん…相当にヤバいな?常識的ドラゴンの私としては衝撃なお人である。


さて…タイミングはここだ。

おじさんが呪骸を取り出している間にスレンくんを勢いをつけて引っこ抜く。

やった…ついにやったぞ…!これでシュール笑いの地獄から脱出ができた…!!


「な、なにを…」

「呪骸を使ってみなよ。私に向かってね。そうしたら色々とわかると思うから」


何がわかるというのか私が教えて欲しいくらいだけど、こういうのはとにかく意味深にすれば何とかなるとは母の教えだ。

大事なのは私が埋めたスレンくんを引っこ抜くのに無理のない状況であるという事。

スレンくんに手ほどきをするために開放する必要があった…あまりにも自然で無理のない理由付けだ。


「ほらほら~はやくきなぁ」

「…死にたいという事ですか」


「嫌だな、死なないよ。そんな石一つキミが持ったところで私には傷一つ付けられないよん」


何がどうなってもスレンくんがネムは疎か、暴走していたくもたろうくんより強くなるとは思えないからね。


「くっ…馬鹿にして…!」

「スレン…相手は神を自称する存在だ。甘く見るな」


おじさんが真っ赤になった腕でスレンくんに呪骸を渡したのが見えた。

それを手にした途端にスレンくんの顔に自信に満ちたような表情が浮かんで…さっきまでのシュールな真顔から一転、調子に乗ってる時のくもたろうくんのような顔になってしまった。

これはお灸をすえる必要があるかもしれぬね。


「ははっ!この力があれば…俺に敵はいない!これがあれば何でもできるんだ!神がなんだ…向かってくるというのなら…くらえ!この俺の力を!!」


スレンくんの持つ呪骸から黒い霧のようなものがあふれ出し…私に向かってきた。

迎え撃つは穴掘りの神が振るいしメインウエポンことつるはし。よし…今日からキミはつるはしではなく【グランドブレイカー∞(インフィニティ)】だ。

そして受けよ!大地を穿つこの一撃!!


────────────


「なーんて派手なことをするまでもなく結果は出たのでしたっと」


天に向かってグランドブレイカー∞を掲げる私と、地面に突っ伏しているスレンくん。

バトルが始まってこの間約3秒。

瞬殺とはこのことである。殺してないけど。


「そんな…」

「わかったかい若者よ。外付けの急ごしらえで手に入れた力なんてこんなものなんだよ」


それっぽいことを言いながらしれっと呪骸を回収し目的も達成。

あまりにもスマートすぎるこの仕事…たまに自分の才能が恐ろしくなるぜい。


「馬鹿な…この俺が…注視していたにもかかわらず動きが見えなかっただと…?本当に神なのか…?」


おじさんがぼそぼそと何かを言ってるけど、呪骸を回収した今おじさんに用事はないのでスルー。

しかしスレンくんにはそうもいかないだろう。

一度面倒を見た子にはできるだけ付き合う…それが礼儀というものなのです。


「なんで…力を得たのに…それが通用しないんじゃ…俺はどうしたら…」

「まぁまぁ、もちちゅきたまえスレンくん。私の母が言ってたよ。若者が悩んだって仕方がないって」


「は…?」

「人生は横スクロールゲーム。時間が止まらず流れている以上、人はその場に立ち止まることなんて出来なくて、楽しいことも嬉しい事もいつかは必ず終わっちゃう。それと同時に辛いことも悲しいこともいつかは絶対に終わる。だから悩むだけ無駄なんだってさ」


横スクロールゲームが何かは知らないけどね!


「時間は流れる…」

「そそ。だから考えるのはいいし、仕方がないけれど悩んで立ち止まっても時間という壁に押し出されて勝手に進まされるんだから意味ないじゃんって。それならぐちぐちしてないで何も考えずに進んだ方がいいじゃん?って」


「そんな簡単に割り切れるわけない…俺には…自分を貫く力さえないのに…何もできない俺なんて…」

「何にもできないなんてことはないでしょー。現にこうして私と会話してるじゃん。動けるじゃん。生きてるじゃん。それって何かできてるって事でしょ?」


「…」

「うーん…」


私は口下手だから言いたいことがうまく伝わらないにゃぁ…どうしたものか…。

そう言えば以前妹も何かに悩んでる風だと思ったら急に戦おうって言いだして付き合ってあげたら、そのあとは何か吹っ切れたかのようにすっきりとしていたことがあった。

きっとこの子も考えすぎてしまうタイプなんだろう。

ならば身体を動かすことが一番…なのかな?でも妹の時みたいに私が毎度付き合ってあげるわけにもいかないし…。


…そうだ!いいことを思いついた!


「スレンくん。キミにこれを授けましょう」

「え…」


突っ伏しているスレンくんに私はつるはしを差し出した。


「これは…」

「今のキミに必要なものだと思うの。穴を…穴を掘るのです。そうすれば無心になれるから。難しいことは何も考えずにただ穴を掘って静かに心を落ち着けてみるのがいいんじゃないかな」


「静かに…無心に…」

「そう。私の言葉をよく胸に刻んで…そして穴を掘るの。この【デスブリンガー(ゼロ)】でね」


…ん?そんな名前だっけ?まぁいいや。

とにかく私はアドバイスをしたし、それを実践するための道具も渡した。

初対面の相手だし、これ以上は過剰なおせっかいでしょう。

うんうんと一人で頷いていると…。


「う…うぅ…うぁああああああああああああああ!!!」


何故か大声でスレンくんが泣き始めてしまった。

え、え?なんで泣くの…?え…?もしかして穴掘りは嫌だった…?いやいやそれは贅沢ですよ。

それにやれば楽しいって絶対。

そういう気持ちを込めて私はポンポンとスレンくんの肩を叩いた。

でもスレンくんは泣き続け…どうしようかと悩んでいると。


「…どういう状況ですかこれは」

「あ、せーさん」


なぜかせーさんがやってきてしまった。

どうしてここに?と聞こうとして…私は気が付いた。

もしかしなくてもここは重要な場所だったのではないかと。

でなければわざわざせーさんが来たりはしないのではないか。


そして私はそんな場所を穴だらけにしたどころか天井をぶち抜いてしまっている。

これは間違いなく怒られる。

それはもう仕方がない。仕方がないけど…でもスレンくん達の前でせーさんに怒られるというのは先ほどまでの私の態度を考えるとあまりにも恥ずかしい。

あとで謝るし、お説教も甘んじて受けますん!でもここでだけは勘弁してください!


「にゅわっち!!」


私は今世紀最大の大ジャンプを披露し、天井の穴から脱出。

幸いすでの呪骸の回収は住んでいるので目的は達成済み…ノロちゃんもいないようだし、もう帰ろう。

心の中でせーさんに土下座をしつつ、私は慌ただしく黒神領に戻るのだった。

この主人公いくらなんでも奇行に走りすぎな気がしています。

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― 新着の感想 ―
これこの鶴嘴君メアさんに使われていた上に名前まで貰って伝説の鶴嘴化してたりしないか? 流石に無いかな…?
悩みを解決するところまではまだシリアスを名乗れたはずなのに ツルハシを渡されるところまで行ってしまってはスレン君もギャグキャラ堕ちは免れませんね…南無
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