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幼女ドラゴンは生きてみる  作者: やまね みぎたこ
紫色編

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家族のつながり2

 かつてアザレアとアゼリアは住む場所すらない孤児だった。

今となってはどこの国に住んでいたのかも定かではなく、両親と呼べる人物がいったいどんなものたちなのか、現在も健在なのかどうかすらもわからない。


なぜなら物心ついた時からすでに二人ぼっちだったから。

幼い身体をひきずって、残飯を漁り、盗みを働いて屋根もない場所で雨が降らないよう祈りながら明日を迎えられるようにと眠りにつく。

そんな生活と言っていいのかもわからない暮らしを続けていた。


「…今思えばあれもアザレアが言ってた黒髪の能力のおかげだったのかな」

「でしょうね。じゃないと親がいない子供が物心つくまで生き残れたはずがない。それ以降もあんな暮らしをしておいて致命的な病気になっていないはずもないものね」


再会できた二人の姉妹。

彼女たちは古びたソファーに肩を並べ、視線を交わらせないままで言葉を交わす。


「…というかよかったの、ゼリ?…じゃなくてネム。私なんかよりも先に話したい人がいたんじゃないの」

「くもたろうくんたちとはまだちょっと気まずいというか…どちらにせよ後で話をすることにはなってるから…それに今正面からイルメア様…メア様と話すと色々爆発しちゃいそうだから…心の準備ができるまでは距離を置かせてもらってる」


「ふーん。わたしとも気まずいでしょうに」

「…そりゃね。でも…アザレアとは真っ先にちゃんと話をしないといけないって思ったから…」


「といっても話すことなんてね…言っておくけど殺そうとしたことを謝るつもりはないから。今でも私の選択は間違ってなんかないと思ってるし…まぁもうしないけど」

「うん。それでいいよ。今は…アザレアの話が聞きたい。私と逸れた後どうなったのかとか」


「それもこの前話した通りだけどね。聞きたいならいいけど」


アザレアはまるで興味ない物語をそらんじるように感情の伴わない声色で自らの半生を語った。

攫われた先でエナノワールの家に迎えられたこと。

そこで教育を受けたこと…そして赤い少女に殺されかけ…結果として当主の座を奪い取ったこと。


そしてそこからアザレアは生き残るためになんでもした。

あの日、赤い少女はアザレアの生きたいという想いに対して興味を持っていたように見えた…ならば自分がそれを諦めたらまたアレがやってくる…そう考えればアザレアに止まるという選択肢は存在しなかったのだ。


そう、彼女は黒神領という国のために行動していたのではなく…ただただ自分のためにやっていたのだ。

欺き、盗み、貶め、辱め、奪い、殺した。

黒神領という国は綺麗事だけでは生き残れない。

汚いことをしたとしてもそれは同様で…だからアザレアは正々堂々と邪道を歩んだ。


隠さず、開き直り、正当化し、嘲笑い、見せつける。

邪魔するすべてを踏みにじり、ただ生き残るためだけに生きてきた。

それが全て。

ただ一つだけ幸運と言えたのは赤い少女に「力」を奪われた際に黒々とした髪色までももっていかれていたことだ。

色を失い、灰となった髪はアザレアを世間からの必要以上の排斥から守った。

しかしそれだけだ。

空を覆い尽くすほどの濁水に、一握りの幸運。そんなものは無いも同じだろう。


だが…そんな彼女の人生にある転機が訪れた。それこそが…。


「あのね、メアたんがね」

「その話はやめよう」


その名前が口に出た瞬間にネムは話を打ち切った。

有無を言わさない謎の圧を感じたが、そこはいわばアザレア・エナノワールという一人の人間にとっての最大の絶頂期。

それを語ることを邪魔されたとあってはアザレアとて黙っているわけにはいかない。


「なによ、ここからがいいところなのに。あなたが止めても私は話すわよ。メアたんとの輝かしいスウィートなドリームを。あのねある日、世にも可愛いが過ぎる絶世の赤ちゃんを───」

「その話を続けるなら殴り殺さないといけなくなるから。せっかく会えたのに離れ離れになるなんて嫌でしょう?」


「あ、はい」


ゴキッと鳴らされたネムの拳を前にアザレアは素直に口を閉ざした。


「…というかその「メアたん」ってやめない?姉が恩人様をそんな呼び方してるの普通に嫌なんだけど」

「メアたんはメアたんでしょうが。あんただってメア様なんて呼んでるじゃない。何が違うのよ」


「私は敬意をこめて様を付けさせてもらってるの。なのにあなたは…なんかこう…気味の悪さを感じるのよ!」

「はぁ~?妙な邪推をしないでくれる?私はママなの。メアたんの、マ・マ!わかる?私はただ純粋に、聖母のような心持であの子を慈しんでいるだけなの。そこに邪念なんて1ミクロンも介在していないの。おわかり?」


「微塵もわからない」

「はぁ…アンタもママになればわかるわよ。そもそもの話、なんでアンタはアンタで「様」付なわけ?メアたんから断片的には「ネム」ってこのことは聞いたことあったけど、それがアンタの事だったって言うのなら…少し興味があるわ。どうしてそんなことになったの?私も話したのだし、ネムもあの後どうやって生きてきたのか話しなさいよ」


話を促されネムは…たっぷりと数分ほど沈黙した。

隣同士にいながら視線を交わしていないアザレアには、その沈黙の意味は図れない。

だが問い詰めたり、急かすような真似はせず、その沈黙にただただ付き合った。

そしてようやくネムは口を開いた。


「別にそこまでおかしな話じゃないよ。あの時私だけ馬車から振り落とされて…何とか生き延びはしたけど怪我をして頭も強く撃って…記憶喪失」

「なんか意外と記憶喪失多いわよね。案外飛びやすいのかしらね、記憶って」


「どうだろうね。まぁそれでどこかの教会の人に黒髪の化け物だって追われてたところを…イルメア様に助けてもらったの。そこからはくもたろうくん達も一緒で育ててもらって…あの頃は楽しかったなぁ」

「へぇ…噂の大人なメアたんね。一目見て…見たくはないわね。あのぷにぷにぼでーが失われるなんて世界の損失以外の何物でもないのだから。ただでさえ偶におっきくなるのも耐えられないのに、あれより大きな大人になるだなんて考えたくもない」


「…ママなら成長を喜んであげなよ」

「それとこれとは別よ。いいえ、ママはね愛おしい子にはずっと子供でいて欲しいものなの。ぷにぷにぼでーで一生いてほしいの。おわかり?」


「微塵も。とにかくそれだけ。私の方は話すことなんてほんとにないよ」


アザレアの過去を知りたがったのに、自らは話すことを遠回りに拒否する。

なぜそれを話そうとしないのか、そのあとはどう暮らしていたのか…知りたくないと言えば嘘になるが…だが話したくないのなら別にそれでもよかった。


「そう…なんにせよ私は…私が手を放してしまったあの後もアンタが無事に生きていたって言うのならそれで満足よ」

「アザレア…」


「殺そうとした私が言えたものじゃないけどね。…これ天丼ネタにしようかしら?どう思う?」

「馬鹿じゃん」


くすくすと二人で同時に小さく笑い、不意に伸びてきたアザレアの指がネムの顔をぐいっと横を向かせる。

ようやく目と目を合わせたアザレアとネム…そこには確かに再会の喜びがあった。

だが…。


「ねえアザレア…私…」

「なに?いまさら姉面…ってわけでもないけど、何か困ってるなら話くらいは聞くわよ」


「…あのね…わたしね、実は…この後…」


たぶん自分は白神領で刑に処されることになる。

引き起こした被害の大きさから情状酌量の余地はないだろう。

それにその件には関係ないとはいえ、ネムには【色狩り】というさらに明確な罪も侵している。

この姉妹の語らいも、おそらく…次はないだろう。


だからアザレアに殺されなくても結果は何も変わらなくて…それを伝えなければならないのに、どうしても言葉がつっかえて出てこず、わなわなと口を動かすことしかできない。

そうやって結果的に無言の時間が続き…突如としてアザレアが「あっ」と声をあげ、勢いよく立ち上がった。


「っ…な、なに…?どうしたのアザレア…」

「待って…いや…そうよ、間違いないわ…どうして気が付かなかったのかしら…!ネム!」


深刻な表情を浮かべ、まさに鬼気迫るという様子でアザレアが痛いほどに肩を掴む。

その細い指のどこにそんな力があるのか、肩にものすごい力で食い込んでいき、ミチミチ…と妙な音までたち始める。


まさか…気づかれてしまったのだろうか…。

ごくりと息を呑むネムに続いてアザレアがその重たい口を開いた。


「あんた…メアたんに育てられたって言ったわよね…!?」

「え?あ、うん…そうだけど…それがなに…?」


まったく予想だにしていなかった質問に、呆気にとられながらも答えを返す。

するとアザレアの目が「カッ!」と見開かれ、全身から淀んだ漆黒のオーラを噴き出し始めた。


「それって…それってぇ!!メアたんがアンタの「ママ」って事でしょ!?」

「えぇ…?確かに育ての人ではあるけど…ママと思ったことは…」


「いいえ幼いあなたを大人のメアたんが育てたというのならそれはママです!そしてアンタは私の実の妹!そうでしょ!?そうよね!!?」

「う、うん…いや…何が言いたいの…?」


「わからないの!?メアたんはアンタの…つまり私の妹のママなのよ!?それはつまり私のママって事でしょ!!!?!??!?!?!?!??!?」

「……………………………はい?」


一瞬…いや、瞬間のその後もネムはアザレアが何を言っているのか理解できなかった。

思考が止まるとはまさにこのことなのだろう。

言葉が耳に入ってきても、それの意味を脳が理解するのを拒む。


こんな感覚を覚えたのは目の前でイルメアが光に飲まれて死んだと思った時以来だ。

とまで考えて、果たしてそれを同列に扱っていいのだろうかと疑問に思った。


「はぁあああああああああああああ!やっぱりそうだったのね!!おかしいと思ってたのよ!!!だってメアたんってあんなにぷにぷにぼでーなのにたまにびっくりするほどママになるんだもの!!なんとなく泣きたくなる夜に何度ばぶちゃんになってよしよししてもらったかわからないもの!!」


もはやアザレアの意識にネムは入っていないらしく、部屋の中で発作を起こしたかのように暴れ狂いながら訳の分からないことを言葉にして吐き出し続ける。


「実は正直な話、いくら何でもメアたんにおぎゃつくのはさすがに大人としてどうかと思ってたのよ…でも!メアたんがママというのなら話は別よ!!だってママには甘えていいはずでしょう!!?あのぽんぽこなお腹に顔を埋めるのも!あの平坦ながらたしかなぷにっとかんがあるお胸様にあやしてもらうのも!!全部当たり前のことなのよ!!!だって私はバブちゃんなんだもの!!!そうと決まれば善は急げよ!!癒してもらわないと!!甘えさせてもらわないと!!!!でも大丈夫!そのあとは私がママになってメアたんをでろでろに甘やかしてあげるから!だから今はメアたんのバブちゃんにさせて頂戴ぃぃいいいい!ママぁああああああああああああああああああ!!!!!」


奇声をあげながら部屋を飛び出して行こうとしたアザレアだったが、その視界がぐるっと一周し…全身に痛みを感じた。

どうやらものすごい勢いで床に叩きつけられたらしく、その犯人であろうネムが顔に影を落としてゆらりと倒れたアザレアの上に跨るように腰を落とした。


腹に伝わる柔らかい尻の感触…などというものを感じる暇などなかった。

なぜならアザレアは痛いほどのそれを感じ取ったからだ…ネムから溢れ出す強烈な────殺意を。


「ちょっ!まっ…!」


そこからは純粋な暴力だった。

マウントポジションを取られたまま、雨の様に降り続ける拳にアザレアはな術もなく蹂躙され続ける。


「あ、うっ、ちょ、タンマ…ぎゃっ!い、今の!わたっ…私はっ!バブちゃん、だか、らっ!ご、ごれは、虐待ぃぃい!げふっ!」


やがて痙攣をしながら白目をむいたアザレアを置いて…ネムはゆらりと部屋を後にするのだった。


そして誰もいなくなったその部屋で…一人アザレアは扉を見つめる。


「──馬鹿ね。長い時間に隔てられてたとしても私はお姉ちゃんだもの…アンタの考えてることくらいわかるのよ。ほんと…馬鹿な子」


アザレアはセラフィムに聞くまでもなく、既にネムが置かれている状況に気が付いていた。

気づいていながら…それを口にしなかった。

なぜならアザレアにとってその事実はさして重要ではないから。


「…それにしても…あの泣き虫が…強くなったものねぇ…しばらく動けないじゃない…まったく…仕方がないか…まぁお休みと思って…しばらく…大人しくしましょう…こういう時のために…これがあるんだもの」


プルプルと震える手でアザレアは懐からズルリと何かを取り出す。

それは…折りたたまれた白いハンカチのように見えたが、広げてみるとハンカチと言うには些か大きく見えた。


それ自体が特別な何かというわけではない。

あくまでただの布の袋だ。

しかしアザレアにとってはこれほどはないというレベルで重要なものではある。

その正体は…。


「ぐふふふふ…メアたんの枕シーツ…一枚だけ洗わないでこっそりと持ってきておいたかいがあったわ…ふひひひひひ…それではおやすみなさい」


メアの使っている枕…それに巻かれているシーツを己の顔全体を覆うようにかけて、アザレアは静かに眠りについた。

そのシーツの下の顔はとても人に見せられるようなものではなかったが、傍から見たそれは完全に死人のそれであり、後ほど異変を感じたウツギが部屋に踏み込み…盛大な悲鳴を上げることとなったのは別の話である。

落ちに使いやすいのはアザレアさんの悪いところだと思います。

頼りっきりになってしまう…。

この流れから脱却せねばとは思うのですが、次回かもしくはその次くらいにもう一度アザレアさんが何かをすると思われます。

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― 新着の感想 ―
アザレアさんは…ほら…人生がオチみたいなものなので…
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