帰省してみる(してた)
ひとまずヴィオさんとの話がまとまり、そのうちせーさんを呼び出すことになった。
なぜ今すぐじゃないのかと聞けば、「まだお母様が近くにいるかもしれないから」とのことだ。
どうやら一連の動きをあの赤髪の子に知られたくないらしい。
そっちもなんで?と聞いたところ「聖龍が来た時に一緒に話すつもりだから今はまだ内緒」とのこと。
曰く大事な話は何度もするとそれだけ外に漏れる可能性が高まるから…らしい。
結局何も教えてくれないじゃんか!と若干モヤモヤしたが私は見た目がぷにぷにミニマムぼでーだとしても中身は「まだむ」で「あだるてー」な「れでー」なのでぐっと飲み込んだ。
「それじゃあさ、私一旦帰ってもいい?向こうがどうなってるか気になるんだよね」
「…さっきの会話でお母様が若干怪しんでそうだから数日はいて欲しいのだけど…引き留めるのも酷な話よね。出来るだけ早くまた戻ってきてくれるなら…というのも我がままよねぇ~…ごめんなさいねメアちゃん。でも今はこれ以上に私も譲歩のしようがなくてね~」
「あい。じゃあぱぱっと行ってパパっと戻ってきまっす」
白神領をだいぶ荒らしちゃったし、せーさんが大変なことになってないか確認したいし…なによりネムがあの後どうなったのか気になる。
…そういえばなにやらくもたろうくんもこっちは大変なことになってて~みたいな話をしてた気がするから私のいない間に黒神領でも何かあったのかもしれない。
こうして落ち着いてみれば気になることだらけだ…とにかく早く戻ろう。
そう思って外に出てみたのだけど…ここで問題が発生した。
「…ノロちゃん?」
なんとノロちゃんがいなくなっていて、どこにも姿が見えないのだ。
なんてこったいストレイガール。
ノロちゃんに運んでもらわないと帰れないよ?!さすがの私でも瞬間移動の心得はない故に…。
仕方がないので私はヴィオさんの元に戻るしかなかった。
「えーんえーんヴィオさん~」
「あらあらどちたのおチビさん」
「ノロちゃんがいなくてかえれないい~う、えーんえーん」
「あれま…ほかに手段はないの?」
「…飛ぶとか?ぱたぱたと空を」
「黒神領まで結構距離あるわよ?白神領もここからだと黒神領を挟んで反対側だし」
地図を見せてもらったところ、私が全力で飛んでも数日はかかりそうな感じだった。
いつもはせーさんの力を使って移動したり、ノロちゃんに運んでもらったりで国間の移動というものを自分の力でやってなかったけど、本来はそう楽なものではないという事を知りましたとさ。
「うっ…うっ…くすんくすん…これならもうここに残ってたてほうがいいよね…?」
「ええそうしてくれると助かるわね。そう心配しなくても聖龍を呼べばすぐに帰れるじゃないの。ま、そのためにも私たちの話が穏便に終わるように説得をお願いね」
「あい…というかノロちゃんは一体どこに…」
「心配しなくても平気よ。あれはどうこうなるようなものでもないし、そのうちふらっと戻ってくるでしょう」
「…ノロちゃんと知り合いだったの?」
「ほとんど私の方が一方的に知ってるようなものだけどね」
「なんと」
まさかこんなんところであの謎の多いノロちゃんの事を知る人物に合えるとは!これはその謎に迫るチャンスなのでは!?と思ったけれど、これ以上は聞かないでという空気を出されてしまったのでそれ以上は聞けなかった。
空気が読める系ドラゴンはこういう時難儀するよね。
まぁノロちゃんも人から自分の話を聞きだされるのはいい気しないか…。
「むぅ…それにしても暇になっちゃたなぁ~…ヴィオさんの準備が終わるまで何しよう?ヒノちゃんと遊ぶとか?」
「…あの子はしばらくは起きないわよ。眠りが深くてね」
「そっかぁ~…」
「外でも散歩してくれば?」
「うぅ~…ヴィオさんには悪いけど、あの死体さん達なんか苦手なんだよぅ~…音も立てないし…あとなんかもにょもにょする…」
「そう?私からすれば生きてる人間の方が気持ち悪いけど」
「一応言っておくけどヴィオさん…」
「言わなくても大丈夫よ。あなたたちの側についたからって、そちら側の人間を殺したりしないわ」
さすがにそこは大丈夫らしい。
せーさんは国の人たちを大事にしてるらしいし、私も黒神領のみんなに手を出されるのは嫌だからね。
とりあえず一安心。
「…あ、そうだメアちゃん。そんなに暇なら面白いものを見せてあげましょうか?」
「…面白い物?」
「そうそう、この国の重要機密」
「え、なにそれ」
ちょっとだけ興味がある。
重要機密…うーん、不思議とね心に響くものがある言葉だよね。
「まぁ私にとってはそこまで重要でもないけどね。こっちよ」
薄暗い教会内をヴィオさんについていって進んでいく。
辿り着いたのは…なんかよくわからに無駄に拾い開けた部屋で、何を模しているのか判別できないほどにボロボロになってる大きな像が奥の方に鎮座していた。
というかそれ以外に何もない、本当に広いだけの部屋だ。
「…なにここ」
「この教会がちゃんと教会として機能していた時に信者たちが礼拝をしていた場所ね。無駄に人口が多い国だったから無駄に広いのよ」
「ほぇ~」
「興味なさそうね。私もないけど」
「…でも紫神領ということはヴィオさんがその…神様やってたんじゃないの?」
「やるわけないでしょ。むしろ嫌われてたわよ。これのせいでね」
少しだけ顔を覆うベールを持ちあげておどけて見せたその姿に深く突っ込むべきじゃないのかもしれないと話題を変えようと必死に頭を働かせる私こそ気遣い系ドラゴン。
「気を使わなくても大丈夫よ。私達お友達でしょう?ね?」
「それはこれから次第ですん」
「あらお手厳しい。ま、そんなことはどうでも良くて、面白いのはここ、この下よ」
「下?」
大きな像をくるりと回り込むと、その下に階段があって地下に続いていた。
というかおそらくだけど、床にある何かを引きずって動かしたような痕から察するに、本来なら何らかの仕掛けでこの像が「ごごごごごごご!」と動く感じのやつだったのではないだろうか。
それを壊れたのかめんどくさいのか、そのままにしてるっぽい…?
「ほらほら降りて降りて」
「うんーでも地下があるなんてすごいね~」
「そう?めんどくさいだけよ」
おっと、やはりめんどくさい説が有力ですな。
それにしても暗いな~私のドラゴンアイがなければ前も見えないではないだろうか。
…あとなんか…階段を一段降るたびに肌がゾワゾワする。
外みたいに嫌な感じじゃないけど…なんだろうこれ?
「ヴィオさん~この先に何があるの?なんか…妙な気配?みたいなの感じるんだけど」
「やっぱり感じる?そうね~…実はねここは確かに紫神領だけど、その中でもここら一帯は比較的歴史が浅い場所なの」
「ふーん?そうなのん?」
「そうそう…えーと…確か150年前…?とかそれくらいだったかしら…ちょっと人の歴史だとかに興味がなさ過ぎて記憶に自信がないけれど、200年は前じゃないはず…」
この人意外と私と同レベルでふわふわしてるな。
若干親しみを覚えてきたかもしれない…いや、私はしゃっきりドラゴンですけどね?シャキシャキしてますよ…えぇ、それこそとれたての野菜のようにね。
「それでね、なんか知らないけど当時の紫神領にあった大きな山で謎の大災害が起こって大変なことになったのよ。燃えたり爆発したり、山なのに洪水が起こったり竜巻がいくつも発生したり雷が落ちまくったり」
「大変すぎない?」
「みたいね。だから大きな山で資源が豊富だったのに当時はその山に人は町を興すことは疎か、近づくことさえ出来なかったそうよ。そしてとうとう決定的な何かが起こって空を貫きそうなほど大きな山だったのにほとんど消滅してしまったらしいのよ」
「…」
なんか…めちゃくちゃどこかで聞いたような話な気がしないこともない。
かつて私は母との遊びの末に昔住んでいた山を吹き飛ばしたことがあって、その末にくもたろうくんたちがいたあの山に移り住んだという経歴があったりするのですが…いやいや、さすがに偶然だよね…?山が吹き飛ぶことなんてきっとたくさんあるだろうし…。
「そしてその山がなくなった後に、その跡地の上に置くようにして作られたのがこの町なの。いつの間にかここが首都みたいになっちゃったみたいだけどね。そしてそんな場所の中心にこの教会は建てられたの…なぜだと思う?」
「な、なぜなのでしょうかかかかか…」
「え?なんでそんな動揺してるのかしら?もしかして暗いの怖かったりする?」
「そんなことはないけど…ちょっと…お胸のあたりが痛いかもです…気にしないで続きを…」
「大丈夫なの…?まぁそういうならいいけど…もともと紫神領にはね、こことは別に大きな町と教会があったの。でもこの場所にわざわざそれ以上のものを作った…それだけの理由があったの。そしてそれが…これよ」
いつの間にか辿り着いていた行き止まり…そこにあったのは頑丈そうな大きな扉だ。
いや…実際に頑丈なんだろう。
とっても強い魔力を感じるのでいろいろと防御系の魔法とか何やらが施されていそうな感じだ。
でも私はそれどころじゃなくて…もうここにいるだけで肌がビリビリと電撃を流されているようになってる。
「そんなわけありませんように、そんなわけありませんように、そんなわけありませんように…!!!」
「ちょっ、ちょっと…本当に大丈夫なの!?」
「大丈夫かどうかがこの先にかかっているのです…!さぁほら!早く開けてくだしぃ…!」
「えぇ…なにその変な催促の仕方…急に乗り気だし…じゃあ開けるけど…案内しておいてなんだけども無理そうなら帰りましょうね?」
そう言ってヴィオさんが何らかの手段で開いた扉の先…そこにあったものを見て私は思わず膝をついた。
視線の先、部屋の中心に…いくつもの魔法的処理が施されて封鎖された空間があって…その中にあったのはいまだ燃え続ける炎や発光を続ける雷…暴れまわる風、とめどなく零れ落ち続ける水…そんなものが一つに固まったような…まさに混沌とした「押しとどめられた現象の塊」だった。
「凄いでしょ?当時の山を吹き飛ばした力の残滓がいまだ残っていて暴れてるのよ…尤もこれのせいで私…いいえ、ヒノが…なんてそれはここでする話でもないわね」
なんかまたヴィオさんがお得意の意味深な発言をした気がするけれど、そんなことはどうでも良くて…私は今にも恥ずかしさから転げまわって叫びたくなってしまった。
だって…。
「これ…完全に私のアレじゃん…!!!」
この瞬間私は「失くしたと思っていた過去のちょっとやんちゃしてた時の名残」を真正面から見せつけられてしまったのだった。




