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 目に痛いほどの鮮烈な赤髪を揺らしながらニコニコと嬉しそうに私を見て笑っている女の子…私をおねーちゃんと呼ぶ謎の子がなぜかこんなところにいる。

いや…考えてみれば最初にこの紫神領に来ちゃった時は思えばこの子と話していた時に急に飛ばされちゃったんだよね…ということは犯人はこの子で、そう考えるとここにいるのは別に不自然ではないのかもしれない。


「おねーちゃん!なんだか久しぶりな気がするねっ!」

「そんなに時間は経ってないと思うけどそんな気がするねぇ…あ、こんにちは」


「うん!こんにちはっ!ねーねー!おねーちゃん、おねーちゃん!今までどこにいたの?私に教えて欲しいな?」

「今まで?それは…」


女の子の背後でヴィオさんがものすごい勢いで首を左右に振っているのが見える。

あまりに早すぎて顔を覆っているベールが取れそうだ。

…うーん…しかしこれはあれかな…誤魔化せというサインだろうか。

まだヴィオさんとの関係値がそこまでではないのでいまいち汲み取れないけれど、おそらくそういう事だろう。


「それは~?」

「お腹が空いてたので観光がてらお店を回っておりましたん」


「…本当に?ほんとうのほんとうに?」

「うん、私は嘘をつかないタイプのドラゴンなので」


平然と嘘をついて見せた私こそがライアーブラックドラゴン。

しかし少し考えてみて欲しい。

この世に一度も嘘をついたことのない人がいたとして、その人は当然「私は嘘をついたことはありません」と正直に言うだろう。

それに対して嘘つきさんはこう言うだろう「私は嘘をついたことはありません」と。

なぜなら嘘つきなのだから。

この世界に「私は嘘を言っています!」という言葉は存在しないのだ。

つまり私は悪くない。うん、悪くない。


「ふーん…まぁいいや!じゃあもう私は行くね」

「ありゃ、もう言っちゃうの?いろいろお話したいことあるんだけど…」


「私もおねーちゃんといっぱい話したいけど…今はまだ駄目なんだー。だからまた今度ね?またねおねーちゃん…ちゅっ」


去り際に頬に軽くちゅーされてしまった。積極的な娘さんだ。

そのまま引き留める暇もなく女の子は扉を開いて出て行ってしまった。

…そう言えばまた名前を聞きそびれてしまったにゃぁ…。


「…ねぇメアちゃん」


残されたヴィオさんが心なし震える声で先ほど女の子が出て行った扉を指差して…。


「今の誰…?」


と聞いてきた。


「え…?ヴィオさんの知り合いじゃないの…?」

「いや…確かに知り合いではあるんだけど…あんなかわい子ぶってる姿は初めて見たって言うか…メアちゃん、お母様とは面識ないって言ってたけど嘘だったの?」


「うん!?今の子がヴィオさんのお母さんなの!?」

「ええそうよ?」


ほぉ~…いやびっくりした。

ヴィオさんはどう見ても大人の女の人だけど、あの子はリョーちゃんよりちょっと大きいくらいで小柄な女の子だから親子と言われても驚くほどしっくりとこない。

逆ならまだしも…いや、そんなことを考えるのは失礼な事なのかもしれない。

色々あるよね、うん…見た目でどうこう言うのはいくないですよね。


「まぁ直接の関係ではないけど。あの人から剥がれ落ちた何かから生まれたのが私だから」

「ああ、そういう」


つまり私とうさタンクのような関係というわけだ。

せーさんがそのタイプの卵からも極まれに龍が生まれるって言ってたからヴィオさんはそういう事なのだろう。理解理解。

ん…?という事はあの子も龍って事だよね…?赤い龍だなんてせーさんからも聞いたことないし…と言うかそもそもあの子から龍の気配を感じない。

いつもなら一目で龍かどうかくらいは分かるのに、あの子は…言われた今でも龍とは思えない。

これは…一回せーさんにも確認したほうがいいかもしれない。


「それで?改めて聞くけどメアちゃんはお母様とどういう関係なのかしら?おねーちゃんとか呼ばれてたけど」

「うーん…それがよくわかんないんだよねぇ~」


向こうは私を知っているような雰囲気なんだけど…私はあの子の名前すら知らない。

だから当然なんで「おねーちゃん」なんて呼ばれるかもわかってないのだ。

という事をありのままヴィオさんに伝えてみた。


「…お母様が一方的に…?無関係ってことはないのでしょうけど…メアちゃんが忘れてるだけって可能性はないの?」

「ないと思うんだよねぇ」


そこまで記憶力に自信があるわけじゃないけど、私が認識している限り特に記憶の欠損があるようには思えない。

うっすらとだったり断片的だったりはするけど卵から出てきてから今までの私の歴史を語れと言われれば語れるし…。

そもそも本当に知り合いならあんな目立つ赤い髪を忘れるわけはない…ような気はする。

だからやっぱり知り合いじゃないと思うんだけど…。


「不思議な話だこと…まぁお母様がわけわかんないのは今に始まったことではないけれど…ただ…」

「う?」


ヴィオさんが穴が空きそうなほどじっと見つめてくる…いや、ベールで顔がほぼ見えてないからたぶんだけどね。

ものすごく視線を感じて痛いくらいだ。


「まぁいいわ。お母様の話はどうせ後でするつもりだし、今は置いておきましょう」

「私はもう少ししたいんだけど。せめて名前くらいは教えて欲しい」


「さぁ?私も知らないのよ」

「え!?知らないの!?」


「ええ」


それがどうかした?と言いたげなその様子にまたもやびっくりだ。

いやおかしいでしょ!と言いたいけれど、「人の家庭に口を突っ込んではいけねぇっす。ご飯食べてるときに口に指ツッコまれたらおげーってなるでっしょ?」とくもたろうくんに言われたことがあるので、それ以上は踏み込まないようになんとか口を噤んだ。

ちなみにだがご飯を手べてるときに口に指を突っ込まれたら、私はそのままその指を食いちぎってしまうと思う。

いや、そういう猟奇的なことをするという意味ではなく、急にモグモグを止められないという話ね。


「まぁ座りなさいな。お茶とお菓子を用意するから」

「わーい」


促されるままに前回も座った場所に座り、ヴィオさんがお菓子のお皿とお茶を用意してくれた。

お茶を入れる時になにやら小瓶に入った金色の液体をトポトポといれて混ぜていたけれど…なんだろう?噂に聞くお茶にジャムを入れる的なアレだろうか。


「いただきまーす」

「以前も思ったけど不思議な掛け声ね…はい、召し上がれ」


お菓子むしゃむしゃ、お茶ごくごく。

疲れた体に糖分と水分とお腹で暴れるような謎の刺激が染みわたる。

俗に言う「生き返るー!」というやつだ。


「…これも効果なし、か」

「ん?ヴィオさん何か言った?」


「気にしないで、独り言」

「そっか。そう言えばヒノちゃんは?もぐもぐ…」


「寝てる。あの子はお寝坊さんだから」

「たくさん寝るのはいいことだよ~ごくごく…」


「さてさて、食べてるところ悪いんだけどねメアちゃん。まずはちゃんと戻ってきてくれてありがとう。おかげで助かったわ。割と本当に命運がかかってたから」

「いえいえ」


そこまで大事だったのかな私のお出かけ。

…よくわかんないけど丸く収まったなら良しとしよう。


「それで改めて聞きたいのだけど、メアちゃんって聖龍のお友達なのよね?」

「うん」


これは前回のやらかしですでにバレてしまってるので誤魔化しても仕方がない。

でもせーさんに迷惑を掛けるのは本意ではないので、話が良くない方向に行きだしたらパゥワーで何とかしましょう。

黒神領に…おうちに帰りたいところを我慢して、紫神領に戻ってきたのでヴィオさんに対するご飯の恩は返し終えたしね。

…今もごちそうになってしまっていることからはやや目を反らしつつ。


「そう…仲間って事でいいのよね?」

「ん?仲間?うーん…せーさんは家族とかそっちのカテゴリーだから仲間って言われてもしっくりこないかも~?」


「なるほどね、より近い仲だと…そっちの方が好都合だわ。ねぇメアちゃん。私ね実はメアちゃんにお願いがあるのよ」

「んー…私にできる範囲ならいいけど、せーさんを巻き込むなら嫌だよ?」


「確かに聖龍を巻き込むけど、悪い話じゃないわ。むしろ聖龍が喰いついてしかるべき話をするつもりよ。ただその話をするにあたって間に入ってほしいのよ」

「…なんで?」


「ほら、私とあの人ってこの間、戦争という形で戦ったばっかりだから。ついこの間まで敵…いえ、今この瞬間も敵同士なのよ。だから顔を合わせれば向こうは絶対に話しどころじゃないでしょ?だからメアちゃんにまずは仲裁してほしいの」


つまりはせーさんとせーさんにとっていい話をしたいけど、喧嘩になっちゃいそうだから私にせーさんを止めて欲しいと…うーん…はっきり言ってあまり頷きたくはないお願いだ。


「渋い顔ね。私が聖龍に危害を加えることを警戒しているのかしら?」

「警戒してるというか…むしろそっちの方がいいんじゃないかって思ってるというか…」


「…どういうこと?」

「ほら喧嘩してるならさ、お互い納得いくまで殴り合うべきだと思うじゃん」


戦うと弱い者いじめになるレベルの力差があるならともかく、一度殴り合っているのなら決着がつくまで殴り合うべきだ。

それでこそお話もできるというもの。

昔は母とドンパチやりまくっていた私が言うんだから間違いない。

ま!私と母には弱い者いじめになるレベルの力差があったけどね!毎回ボコボコにされてたけどね!そこはご愛敬である。


「まさかの脳筋タイプだったのね。でも私もあの人も力こそが全てというタイプじゃないの。わかってもらえない?」


せーさんはあれで意外と力こそパワー派だと思うのだけどね。

ただヴィオさんがそっちのタイプじゃない…というのは分かる気もする。

前回の戦いが本気ではないのだろうけど、ヴィオさん本人は一切戦っていなかったわけだし…少なくとも前線に出張って自らが~って感じではないのだろう。


「うーん…でもにゃぁ…どんな話がしたいの?」

「さっきも言ったけどあの人にとってとてもいい話よ。少し具体的に言うのならそれこそ聖龍が教会との長年の争いに勝てる協力をしてあげようと思ってるの。だから私が持ってる情報を洗いざらい話すし渡す。そういう事がしたいの」


「…ヴィオさんってせーさんと戦ってるってことは教会側の人なんだよね?裏切ろうとしてるの?」

「そう言うことになるわね。なんならというか、当然の話として情報を渡すだけではなくて、あなたたちの一戦力として教会と直接戦ってもいいわ」


「どうして?」

「それも含めて聖龍と落ち着いて話がしたいの。あの人の仲間…家族なメアちゃんにとっても悪い話じゃなくていい話でしょ?」


「…」

「信用できない?」


私としてはヴィオさんはお菓子くれたし、信用したい気もする。

ただせーさんを巻き込む形になるので、私が仲裁した結果でせーさんに悪いことが起きるのは避けたいわけで…。

もう少し信用というか安全だと思える確証は欲しいよね。


「…ヴィオさんをせーさんのところに連れて行って欲しいって事だよね?」

「ううん、聖龍にこっちに来てもらうわ。私はここを離れられない…というかここを離れるとそれが離反の意志ありって思われちゃうから、聖龍とまず話をしないことには離れられない。あの人と話をして、そして私がそっち側についてもいいと思えたのなら…ここを離れることもできるわ」


「でもそれって完全にヴィオさんのフィールドに来てもらうって事でしょ?うーん…」

「それで言うのならあなたは既にいるじゃない。不測の事態がない限り…聖龍が牙を剥いてこない限りは何もしないって誓うわ」


「うーーーーーーーーーーーーん…」


別にヴィオさんが攻撃してきても止められるとは思う。

戦って勝てない相手ではない…ただそれはヴィオさん単体を相手にした場合で、何らかの罠を仕込まれてたりすると…怖いかもしれない。

そもそもの話、この人はせーさんたちと長い間戦争を続けられている龍なのだ。

ただ私が勝てそうだからと油断するのは危ない…よね?


「信用してもらうのは難しいわよね。だから毒を盛って素直にいう事を聞いてもらおうとしたわけだし」

「う?」


「…どうしたものかしらね」

「…とりあえず私に話をしてくれたらせーさんに伝えることはできるよ?」


「最悪それもありかもしれないけど、できれば直接話をしたいのよ。言葉というものは人を挟まうとその分劣化するから。意図しない別の意味で伝わることなんて珍しくもないわ。それに…こっちだって命が…いいえ、それ以上のものがかかっているのよ。生半可な覚悟じゃ裏切り者なんてやれないの」


その声にはとても重たい決意のようなものが乗っているように感じた。

でも…表情が見えないから実際はどうなのか推し量ることが難しい。


「…ねぇヴィオさん、顔を見せてよ。ちゃんと目を見て、見せて話してくれないと…信用できないよ」

「…私はね、それが何よりも嫌な事なのよ。この国に生きた人間が住んでいないのは半分くらいはそれが理由なくらいにはね」


顔を見られたくないから、みんな殺したの。

今度は感情が読めない平坦な声でヴィオさんはそう言って…私に向かって全身を覆うほどの大きさのベールに手を掛けた。


「でも、だからこそ見せましょう。あなたにとってはこの行為がどれほど私の中で重く苦しいものなのか…理解はできないでしょうけど、正真正銘、この行為が死ぬよりもつらい一つの事。あなたの信用を得るために、私はそれをしましょう」


ゆっくりと…本当にゆっくりとヴィオさんがベールをとって遂にその顔を見せてくれた。


それを見て…何かあれば責任を取って私が全てを叩き潰すことを心に決めて、ヴィオさんを一度だけ信用することに決めた。


────────────


メアとヴィオの話し合いが行われているさなか…赤髪を持つ二人の存在が紫神領の外れで向かい合っていた。

いや…おそらくそれは向かい合っているなどとは言わないのだろう。

なぜならそのうち一人は…もう一人を視界に入れていないから。

目には映っている…だがしかし、意識の中に入れていないのだ。

その価値がない存在だから…いらない存在だから、だから視界にも映っていないのだ。


「まさか動けるなんてね。黒神領での「遊び」がほとんど無意味に終わったみたいだけど…お前の仕業?」

「いえ…私は…伴侶様と一緒にいました、から…」


「あっそ」

「…これから…どうする、つもり…ですか…黒神領を…もう一度襲うのですか…?」


「はぁ?そんなことする必要がないのは中身空っぽなお前でもわかるでしょう?できればあそこにいる人間には黒髪以外死んでほしかったけど…生き残ったのならそれはそれで此方の「目的」には近づくもの」

「なら…あなたも…そんなことをしても意味が、ないと…知っている…でしょう…」


「…そんなのわからないでしょ。意味があるかもしれないじゃない。此方はね、妥協することなんて許されないのよ。わかる?此方が…無限を生きる此方が今この瞬間すらも、一分一秒が惜しい。一瞬でも…瞬きをする刹那でも早く、此方はこの目的を達成しなくてはいけないのよ。お前もいつまでもみっともない姿をさらしてないでとっとと【死になさいよ】。無意味で誰にも唾棄される臭くて醜悪な肉塊になってその辺に転がっていろ」

「…伴侶様と…一度…ちゃんと話をしてみては…いかがですか…そうすることで…開かれる道も…」


片方が瞬きをした一瞬でもう片方の姿は掻き消えてしまった。

その場には一人の身体を吊るロープがギシッ…と揺れる音だけが残ったのだった。

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