帰ってきてみる
へいよー皆様こんにち、にちにちにちは~なんだか懐かしい気がする私こそノスタルジック系ブラックドラゴン。
白神領でのネムとの戦いから数分。
ノロちゃんに捕まって謎の瞬間移動で戻ってきました紫神領。
もう隠す必要がなくなったのか、領に降り立った瞬間からたくさんの動く屍の皆さんがコンニチワとお出迎え。
いや別にお出迎えはしてくれてないけど、せわしなく動いていて町の営みというものを作り出していた。
うーん…死体が動いてて見慣れなさすぎるというのもあるのかもしれないけれど…なんというかちょっと個人的には楽しい場所ではないかもしれない。
理由を説明しろと言われてもなんとなくとしか言えないけれど。
「やっぱりちょっとぞわぞわってする光景だねぇ~ノロちゃんもそう思わない?」
「…伴侶様には…とくに…そう、感じられるでしょう…ね」
近くの木にぶら下がっているノロちゃんになにやら含みのありそうなことを言われた。
私は特にぞわぞわしてしまう光景らしい。
なんで?と聞いてもおそらく教えてはくれないのだろう。
ここまでお付き合いが長くなればね!さすがの私でもノロちゃんの返答を予測することくらいできますよ!
「まぁそれはひとまず置いておいて、約束したし早くヴィオさんのところに戻らないとね」
正直な話をするのなら今から黒神領に直帰したい。
くもたろうくんに任せてきたから大丈夫だろうけど、せーさんやアザレアたちの事に、何より…ネムの事が気になりすぎる。
久しぶりに会えたのだし、いろいろ話をしたい…でも約束は約束だ。
平気で約束を破るのと無断で遅刻する龍だけにはなるなと母にこれでもかと言われながら育った私なので、約束はちゃんと守るのだ。
「でもさすがに疲れたし…まずは寝たいな~…もしくはご飯…いや、普通にご飯だな…ぽんぽんがすっからかんでござる」
ただし問題はここが紫神領であるということだ。
知り合いがいないのでご飯をねだることは難しいし、ヴィオさんとはそこまでまだ仲良くないのでいきなり食事の要求をするのはやっぱり難易度が高い。
前に来たときにヒノちゃんがお店があるって言ってたからそこで…いや…お金持ってないや…。
相手は死体さんと言えど、無銭飲食は良くない。
…まさか詰みなのでは?
最悪町の外に出てサバイバル的手段を用いてご飯を調達もできるけど…それをするくらいなら眠りたい程度には疲れてる。
どうしたものか…。
「…ひとまず…紫の…龍のもとに…向かいま、しょう…あちらの対応を見て…行動するのが…得策、かと…」
「だよねぇ」
あまり待たせるのも悪いし、それにもしかすればヴィオさんがご飯を用意して待ってくれているという可能性もあるじゃないか。
その可能性に賭けよう。
「ほいじゃあれっつらごー」
「…ごー…」
すたすたすたすた。
静かな町をすたすたと歩く。
私の出す足音が申し訳なくなるくらいに町は静かだ。
死体さん達は驚くほど物音を建てずにてきぱきと動いていて、謎の技術に感心だ。
でもなぜそんな無駄…無駄なのかな?よくわからない感じで動いているのだろう?何か理由があるのかな?あとでヴィオさんに聞いてみよう。
ん?聞こえる足音は私一人分…そう言えばノロちゃんはどうしてるんだろう…?今確か足がないし…。
もしかして誰か運んであげなくちゃ動けないんじゃ!?
慌てて後ろを振り向いてみるとすぐ近くの建物にぶら下がっているノロちゃんと目が合った。
降り立った場所からは結構離れてるし、その時は木にぶら下がってたはずだけど…。
「…」
「…なに、か…?」
「ううん、なんでも」
すたすたとしばらく歩いてみて唐突に振り返ってみる。
するとノロちゃんはやっぱり近くにいて、今度は高く積まれた木箱の上に引っかかっている、
「…」
「…」
それから同じようなことを何回か繰り返してみたけれど、いつでもノロちゃんは私の背後数メートルくらいの場所にいて、どこかしらにぶら下がっていた。
ちなみにどれだけ私が手を尽くしても移動するその瞬間をとらえることはついぞできないまま、ヴィオさんが住処にしている教会まで辿り着いてしまった。
「…伴侶様」
「ん?どしたのん」
扉に手を掛けたところでノロちゃんに呼び止められた。
「いまは…入られないほうが…よいかも…しれません…」
「どうして?」
「…」
「ノロちゃん?」
黙ってしまったノロちゃんをさらに問い詰めようとした時、扉の向こうから何やら声が聞こえた。
「ですから、ちょっと下町の方にお散歩に行ってるだけですってば。いい加減にしてくださいまし、お母様。私はあなたの言いつけをちゃんと守っています」
「だからいるのなら連れて来いって言ってるんだよ?話が分からないほど馬鹿になった?」
「退屈だからとお出かけしているあの子を無理やり連れて帰ってくるんですか?あの子はお母様の大切な人なのでは?そんなことをしたら悲しまれません?心配しなくてもそのうち戻ってきますよ」
「随分と口が回ってるね。それが嘘だったらどうなるかわかって言ってるんだよね?」
どうやら中で誰かが言い争いをしているみたいだ。
一人はたぶんヴィオさんなんだけど…もう一つの声も聞いたことある気がする。
「ん?というか今ヴィオさん…お母様って言ってた?」
「…」
やっぱり何も答えないノロちゃんだけど、確かにそう言ってた。
ということは…親子喧嘩?むむむ…困ったな…だとすると私が無理に入らないほうがいい気もする。
喧嘩をする時間も大切な家族との時間だもんね。
…いや、でもヴィオさんにはできるだけ早く戻って来いって言われてたような…それにこの話の内容的にもしかしなくても私がいないせいで困らせている可能性がなきにしもあぶらあげ。
どっちだ…私はどっちの選択をすればいいんだい!?
「どうしようノロちゃん!」
「…わたしは…いかないほうが…いいと…言いました…よ…」
「じゃあどこか別の場所で時間潰しますか」
有効票1で回れ右。
しばらくはそれこそお散歩でもしていよう。
「本当に嘘なんかついていないわ、お母様。その証拠に見て頂戴。ちゃんとあの子が帰ってきたとき用のお菓子まで用意して───」
「ただいま戻りましたー!!!!」
私の80と63ある必殺技の一つである、ドラゴンタックルで扉をぶち破る勢いで教会に帰宅。
やっぱり早く帰って来いって言われてたんだから1秒でも早く帰らないとね!
決して食欲に釣られたわけではないよ!私はブラックドラゴン界隈で二番目に食い意地が張ってないことで有名なお上品系ドラゴンなのだ。
「あ、あら…おかえりなさい…ほら、お母様…ちゃんと帰ってきたでしょう?」
ヴィオさんがお菓子の乗ったお皿を抱えて口元を引きつらせている。
とっても美味しそうなので参考までにそれは私の用意されているお菓子なのか教えて欲しい。
「あ~!お姉ちゃんだ~おかえりっ」
「う?」
私を姉と呼ぶ声がした。
どうやらヴィオさんと言い合いをしていた人らしいけれど…真っ赤な長い髪が特徴的なその人は…私が紫神領に飛ばされる前に出会った女の子だった。




