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VS紫龍さんしてみる

 ドクドクと流れ出ていく血と体温を感じながら、ノロはただ空を見上げていた。

身体のほとんどを奪われ、移動することすらままならず、それでもこのまま事態を静観しているわけにはいかない…そう思いながら残った片目を動かすが、そんな意味のない行為以外に何もできない自分に虚しさを覚える。


(伴侶様…わたしは…)


ノロは黒神領にそこまで思い入れがあるわけではない。

これから起こる事態に失われる命に対して心を痛めているわけでもない。

ただ一人、彼女が伴侶と呼ぶ存在が悲しんでしまうのではないか…そしてそれは自分にとってもとても悲しい。

そんなたった一つの想いだけがノロを動かそうとしているのだ。

しかしどれだけ精神が前を向いていようとも、身体は動かず…どんな感情からなのか血を滲ませながら涙が一筋零れ落ちる。


視界を歪ませているその涙を拭うことも叶わないのでなんとか瞳から涙を取り去るために瞼を下ろし、そして再び開くと何者かと目が合った。


仰向けで倒れているノロを上からのぞき込むようにして立っているのは小さな黒髪の少女だ。

メアではない。

メアの髪は枝毛の一つもないまっすぐと流れる絹糸のようなものだ。

しかしその少女の髪は例えるならば綿毛だろうか。

全体的に癖っ毛であり、ふわふわとしていて柔らかそうな印象を与えた。

そして何よりその少女はメアよりもさらに小さく小柄で、現在では7,8歳程度に見えるメアに対して5,6歳ほどに見えるのだ。


だがそんな少女がこの黒神領にいるはずがない。

もし以前からこの国にいたのならアザレアが騒がないはずはないのだから。


「…」


少女はノロを見降ろしながら時折、眠たそうに半開きになっている目を擦る。

いや実際に眠たいのか「ふぁ…」と気の抜けるような欠伸も漏れ出しており、今にも眠ってしまいそうだが、その状態で飴玉でも舐めているのか頬がもごもごと動き、口の中で小さな何かを転がしていた。


「あなた、は…」

「んぁ~…」


不意に少女がその小さな口を開き、口の中に隠していた何かをノロに見せつける。


「…」


それを見てノロは彼女にしては珍しい、驚いたような表情で目を見開いたのだった。


────────────


「う~どっしょーい!」


掴みかかってきた死体さんの腕を掴んで投げ飛ばす。

死体さんは他の数人の死体さんを巻きもながら地面に激突したけれど、すぐに呻き声も上げずに立ち上がってまたこちらに向かってくる。


…これは困った。

どうすればいいのか分からない。


紫龍さんとの突然の戦いが始まってはや数分。

もう何度もこれを繰り返しているのだけど、正しい対処をできている気が全くしない。

もう聞かなくてもわかるのだけど、紫龍さんの能力はどうやら人間さんの死体を操る能力らしく、私は現在数えるのも面倒なほどの死体さんに囲まれているのだけど…これがまたなかなかに厄介だ。


死体さん一体一体の強さはそこまででもない…と言うか弱い。

元が人間さんだから当たり前だ。

一応少し強化はされているみたいだけど、それ自体は問題にならない。


ただ数が多い!もうほんとに!多すぎる!

おまけにどれだけ投げ飛ばしても痛みを感じていないらしくすぐに起き上がってまた向かってくる。

消し飛ばしてしまえれば早いのかもしれないけど…果たしてそんなことをしていいのかという疑問が残る。

それはこの死体さん達の立ち位置がよくわからないためだ。


そもそもどこから調達された死体なのか、元に戻る可能性はないのか。

実は生きてるってことはないのかエトセトラエトセトラ。

ここ最近人間さんたちと過ごしてきて文化を学んできた私は少しばかり余計なことを気にするようになってしまっているみたいだ。


うーん…まぁこうなったらまずとるべき手段は一つ。

術者本人を叩くと言うやつだ。


私は翼を広げながら優雅に空に浮いているヴィオさんを見上げる。

私が見ていることに気が付いたのか口元に笑みを浮かべながら呑気に手を振ってきた。

馬鹿にされている気がしますな。

うむ…やるか。


「ん~にゃっほーい!」


というわけでまたもや向かってきた死体さんを空にいるヴィオさんに向かって投げ飛ばす。

人間砲弾というやつだ。

爆発はしないけど。


「あら凄い力。やっぱりただの幼女ではないみたいね。知ってたけど」


ヴィオさんが飛んでいく人間砲弾に向かって人差し指を向け、ピンっと弾くようなしぐさをする。

すると「ぼんっ!」といった感じで死体さんが爆散して真っ赤な雨が降ってくる。

…爆発しちゃったよ。


ひとまずべちゃべちゃと振ってくる血と肉と臓物のシャワーを他の死体さんを捕まえて傘にし、やり過ごす。

んー…さっきのクッキーで若干お腹が埋まってるけど、正直食べた気がしなくて腹ペコだ。

でもさすがにこれは食べる気にはならない。


人間は食べても何とも言えない味だし、くもたろうくんにも食べるなと割ときつめに言われている。

それに死体さんだからたぶん腐ってるわけで、腐っているものを食べるなとこちらはありとあらゆる人に言われまくっているので自重しております。


そんなわけで全力は出せないけど、やれることはやろう。


さきほどの一連の流れを見るにヴィオさんは本当に死体さんを自由にできるっぽい。

動かすのも消し去るのも思いのまま。

なら次は私自身が行くしかないので適当に死体さんをいなしつつ、踏み台にして大ジャンプ。

お腹がすくので空は飛びたくないのでそのままヴィオさんに向かってドラゴンネイルを放つ。


「くらえぃ!」

「あら」


放たれたドラゴンネイルは一直線にヴィオさんに向かい、ヴィオさんは翼でそれを弾こうとしたけれど逆に我がドラゴンネイルがその翼を切り裂いた。

おぉ…意外に通用した。


「…あらら、魔素の使い方のうまい事うまい事。少し力のある子供だと思っていたけれど、少しなんかじゃないのかしら。もしかしてあなたも龍?でも黒って…はてさて、どうしたものかしらね」


翼に傷を負った程度では動揺するほどでもないらしくヴィオさんは余裕綽々と言った様子で首を捻っている。

ならばもう一撃!と意気込んだところで下の死体さんに足を掴まれて「ぶんっ!」と勢いよく地面に降ろされた。

叩きつけられる直前に死体さんを空中で投げ飛ばして事なきを得たけれど、隙を見せてしまったせいか四方八方から腕が伸びてくる。

まるで大きな水の流れに捕まってしまったかのようにもみくちゃにされてしまってさぁ大変。

このままじゃさすがの私も少し危険なことになる気がしないでもない。

どうしたものか…。


「もうこれ以上抵抗はできないのかしら?もしかしてさっきの攻撃が全力?苦し紛れの一撃だった?」


もみくちゃにされながらヴィオさんのそんな声が聞こえて…なんというかその言葉にもやッとしたものを感じてしまった。

苦し紛れではあったけれど全力ではない。

別にいまさら強いドラゴンだとか思われたいわけじゃないけれど、牽制技として使っているものを全力と思われるとなんか…こう…プライド的なものが傷つくと言いますか…。


あぁ反論したいけれど死体さんの海の中をめちゃくちゃに流されていく~。

痛くないけれど殴られてる気がするし、髪も引っ張られて…あ、なんかブチって髪が抜けたかも。


…………。


ビリッ。


ん…?ビリってなんだビリって。

今の何の音よ。

…あ、服が破れてる。


ぷっつーん。


今のは何の音でしょうか?皆様わかりますでしょうか?

はい、簡単ですね。

そうです、私の堪忍袋の緒がエクスプロージョンした音ですね。


そうなるとあら不思議、先ほどまでいろいろなところに気を使っていたはずの私はすぐさま方向転換。

倫理観?コンプラ?奴さんはね、地平線の彼方へと旅立ったよ。

というわけでね、はい。


潰します。

服はアザレアさんが用意してくれてるものなので意外とメアの地雷ポイントです。

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― 新着の感想 ―
アザレアさん、普段あんな有り様なのに案外懐かれ… …いえ、どんな所業してたのかが理解されてないだけですねこれ…
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