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最後の手段

 暴走する黒の力は鎧の女――タンに受け止められていた。

しかしそれはこれ以上周囲に広がらないというだけであり、暴れ続ける力そのものの勢いは一切衰えることはなく、タンの漆黒の鎧をガチャガチャと揺らしながら依然としてそこにある。


タンは力を受け止めることはできていても、それを消すことはできていなかったのだ。

くもたろうはそんな様子につい声を荒げてしまう。


「ちょっ…!アンタ!それどうにかできないんっすか!」

「…主の力の純度が想像以上に高い、よっぽど親和性が高いと見える。これは…「呪骸の逆適応」に近い」


「はぁ!?ウチが暴れてたってあれっすか!?」

「…これを消すには今すぐに主を呼ぶか、もしくは…いや、主の手を煩わせるのは本意ではない。「サク」意識を変わる。我の声に答えよ」


タンが鎧の下のくぐもった声で誰かに呼びかけたが10秒ほど待っても状況が変わることはなく、沈黙の中で衝撃に揺れる鎧の音が虚しく響く。


「ちょっとお!何んとな出来るなら早く何とかしてくれまっせんかね!?」

「…サク、聞いているのかサク。…ふむ…これは…「あいつ寝てる!!起こそうとしても起きない!」…そうか…」


タンの声に割り込むように鎧の下からウーの声がして、再びタンの声に戻る。

そんな奇妙な現象を目の当たりにしても、何かツッコミを入れる余裕はくもたろうにはなかった。


力自体はタンが受け止めているとはいえ、そこから伝わる衝撃はそれだけで周囲を吹き飛ばさんとしており、リンカを庇っているくもたろうの身体にもかなりの負荷がかかっている状態だった。

全てを飲み込む黒の龍の力はその一端だけであっても無視できるようなものではないのだ。


「うぎぎぎぎぎ…!あのぉ!ちょっと!ほんとに!やばいんすけどー!」

「…そこの蜘蛛、主とコンタクトをとれるか」


「はぁ…?主ってお嬢様の事っすか?んなもん大声で呼ぶしかないっしょ!お嬢様ぁああああああああああああああ!!!!!」

「…」


くもたろうは叫んだ。

恥も外聞もなく全力で喉の奥から声を絞り出して叫び、彼らの主である黒龍を呼ぶ。

その声は暴れ狂う力の奔流すらも凌駕し、周囲に拡散して響いた。


だが、呼ばれた彼らの主がそれに応えることはなかった。


「あれー!?お嬢様―!!あなたのくもたろうがお困りっすよー!?助けてくださいっすー!!」


この場の空気を擬音に起こしたのならそれは間違いなく「しーん」となるだろう。

どれだけ叫ぼうとも黒龍(メア)は姿を見せない。


呼べば来る。

メアは元よりそのような存在ではない。

だが同時にそのような存在でもある。


悪く言えば本質的に自分勝手。

常にマイペースであり、行動に他者の思惑や感情をほとんど考慮しない。


しかしその行動本心の一つに身内を守るというものがある。

故にメアは手の届く範囲内での身内の危機を見逃したりはしないのだ。

だからたとえ距離が離れていても、明確なつながりを持つくもたろうが全力で救援を要請すればメアはやってくる…そう確信していたのだがくもたろう自身びっくりするほど手ごたえがなかった。


それはまるで…。


「…やはりか、我も先ほどから主の気配を感じない。どこかに出かけられてしまったのか…」

「うえぇ!?タイミングが悪すぎるっすよお嬢様―!つーかこの状況どうすれば…あーもう!恨むなっすよ後輩!!」


そう言ったくもたろうの背中からフリルを引き裂いて黒い蜘蛛の脚が4本姿を見せた。

それを杭のように地面に突き刺すとリンカを庇っていた両腕を外し、そこから糸を放ってリンカの首にかけ、さらに口と鼻を塞いで締め上げる。


「貴様…何をしている。ことと次第によっては我は貴様を討伐対象と定める」

「うるせぇっす!力加減を見誤らないように集中してんすからごちゃごちゃ言うなっす…!ぐぎぎぎぎぎぃ!」


タンの身体を抜けてきた衝撃がくもたろうを襲い、脚を一本吹き飛ばす。

血が大量に流れ出すが残りの三本で身体を支えたまま、くもたろうは糸を操る腕に力を少しづつ込めていった。


「もうこうなりゃ後輩の意識を断って力の流れを止めるしかねぇ…っす!こんな状況じゃ当て身も出来ねぇし呼吸を遮断するしか…ねぇ!」

「馬鹿な…殺すつもりか!」


「殺さねぇように必死になってんでしょーが!フリルが足りねぇ服に自前でフリル盛ってるウチの器用さなめんなっすー!!!!んで、よー見とけっす!これはウチらの…アンタさん含めて眷属の責任でこうなったんすから!この後輩がこんな目に合うのも!全部!ぐおぉおおおおおお!!!」


くもたろうの脚がさらに一本、血をまき散らしながら千切れ飛び、それとほぼ同時にリンカの首から力が抜けたかのようにカクンと倒れた。


「っ!力の膨張が止まった…これならば…」


タンは鎧に包まれた手を黒い力の奔流に突き刺すとそれを切り裂くように上に振るった。

力は弾けるように霧散し、まるで流れ星のように残滓が周囲に零れ落ちていく。


「あ”~…なんとか…なった…っすかぁ…うへぇ…お気にの服が汚れと血でえらいこっちゃっす…」

「…」


血の海の上で疲れたとばかりに四肢を投げ出したくもたろうと、ただ佇んでいるタンはそれぞれがキラキラと落ちてくる力の残滓を無言で眺めていた。

きたらたーすけーてーくーれるーよー(こない)

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― 新着の感想 ―
まさかの三人格同居…!
肝心なときに出かけてる主人 肝心なときに寝てる眷属 …子は親に似ますね!
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