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幼女ドラゴンは生きてみる  作者: やまね みぎたこ
混色編

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123/210

眷属と少女

「そ、そもそもの話なのですけど眷属ってなんですか…?」


おずおずと言いはしたがリンカにとっては至極真っ当なはずのその質問にくもたろうは小さくため息を吐いてテーブルの上を何故かうろうろと這い回っているニョロに目を向けた。


「まぁぢでなぁんにも説明してないんすかニョロ。寝てたウチが言うのもなんっすけど今までなにしてたん」

「――」


ニョロはその場でとぐろを巻き顔を隠してまさかの寝たふりを敢行した。


「…たまに尋常じゃないくらいめんどくさがりのスイッチが入るのは相変わらずっすね。まぁいいっす。それでえーっと…眷属ってなに?だったすか」

「はい…」


「別に難しい話があるわけではないっすよ。ウチラはアナタさん含めて偉大なる黒龍であらせますお嬢様から力の一部を受けとった存在。ただそれだけの話っす」

「それがどういう意味か分からないって話なのですが…」


「どういう言意味でもないっす。何らかの手段でお嬢様から力を分け与えられた。以上っす。そこになにかとんでもない意味があったり~問題が生じるってことはほぼないっすね」

「そうなんです…?」


「そうなんでっす。ただまぁ力の源であるお嬢様からは干渉しようと思えばウチラに何かできる可能性はあるっすけど…できたとしてもあの人はやらないと思うし今までやられたこともないのでやっぱり問題はないと思いまっす」

「そ、そうなんですね…」


肩透かしを受けた気分だが、何もないならそれに越したことはないとひとまずリンカはそれを飲み込む。

だが疑問はまだまだたくさんある。

なぜ自分が眷属なんてものに選ばれたのか、気が付けば髪の色が変わっていたことと関係があるのか。

あげて行けばキリがない。


「眷属化した原因はお嬢様の鱗を食べたせいでしょうね。ニョロがそう誘導したって言ってたっす」

「え、なんで…?」


「聞けば赤に黒が混ざってるような髪色してたんっすよね?んー…」


言葉にはしなかったがくもたろうはニョロには何か目的があったのだと確信していた。

しかしそれが何なのか分からないし、くもたろうの視線に気が付いているであろうにいまだ寝たふりをしているところを見ると答えるつもりはないらしい。


間違いなくくもたろうとニョロは疑う余地がないほどの仲良しではあるのだが、実はニョロに関しては分からないことが多い。

くもたろうは生まれたころからメアたちの住んでいた山にいたのだが、ニョロはいつからいたのか釈然としない。

気が付けば山で暮らしていたのだ。


別に今更なにかを疑うような関係ではないが、リンカの事は少し観察しておいた方がいいのかもしれない…そうくもたろうは心に止めた。


「まぁとにかく気にすることはないっすよ。同じ眷属同士仲良くするっす。あとは先輩面してる以上は困ったことがあれば相談には乗るっすから頼りにするがいいっすよ」

「わ、わかりました…?」


「んでこうして顔を合わせてるのにも意味がありまっしてな。主であるお嬢様はウチら眷属に対して放任主義っすけど、それでもお嬢様の母君…黒龍様はこう言っていたっす。望む望まない、先天的後天的に関わらず力を持ったのなら責任が伴うと」

「責任…」


「ピンとこないかもしれねぇっすけどウチらの中にあるとは言っても眷属に分け与えられている力は最強にして最凶。理不尽にして究極の最奥にして至高。災厄にして最悪の災害っす。だからおかしなことにならないように気を付けようねと言う注意喚起と情報交換の意味もあるのがこの眷属会っす。わかるでしょ?あのうさぎにもなんとか話を聞いてほしい理由が」

「そうですね…?あ…そういえばうさタンクちゃんなんですけど…眷属が人型になれるっていう事はあるんですか…?」


黒神領に枢機卿である女の襲撃があった時、リンカはうさタンクと名乗る漆黒の鎧を纏った女騎士に助けられた。

だがあの日うさタンクと名乗る女騎士が枢機卿と戦っていたことを覚えているのはリンカのみだったのだ。


他の者たちは一度殺され、蘇生されたからなのか記憶が混濁しているらしく誰に聞いても「そうだったっけ…?」という反応が返ってくるのみだった。

アザレアたちも目撃をしていないうえに、そう言う報告は受けていたがやはり普段のうさタンクを知っているとどうしてもリンカの話と結びつけにくいらしく疑惑の目で見られている…ような気がする。


なので最終手段としてリンカはうさタンク本人に話しかけてみたが…やはり口元をもひもひと動かすだけで言葉は返ってこなかった。

結局あれは夢だったのかと、そんなはずもないのに思い始めているほどだった。


「うん?目の前にウチがいるじゃあないっすか。こう…大変申し訳ねぇ話っすけどウチってここで魔物の姿で暴れたんすよね?見たことないっすか?」

「話には聞いたことありますけど…その時はまだこっちに来ていなくて…でもくもたろうさんは人の姿に変身してるって事なんですか…?」


「っすね。擬態っす。なぜそんな質問を?」

「実は…」


リンカは自分の記憶していることをなるべく詳しくくもたろうに話した。

くもたろうは腕を組みながら首を捻って何やら考え込んでいたが、そんな仕草さえ無駄に可憐に見えてしまう。


「なるほど…ウチのこれは完全にウチ自身の能力によるものなんっすよ。現にニョロは人型になれませんしね」

「――」

「そうなんですね」


「なので眷属だからと言って擬態ができるというわけではないっすが、あのうさぎができないとも言えないってところっすね。それも住処であった山とウチに無茶苦茶してくれた枢機卿とやらを叩きのめせるほどとなると…そうとうヤバい力を秘めてる可能性が高いっすよ。これはいよいよ一度調査が必要っすね。そういえばアナタさんあのうさぎとは仲がいいという話でっしたよね?」

「えっ」


────────────


「お、おーいうさタンクちゃーん…」


普段よくうさタンクが遊んでいる草むらに向かっておそるおそると言った様子でリンカが呼びかける。

がさがさと草が揺れたがうさタンクの姿はなく…どうやら風が吹いただけらしく後には沈黙だけが残った。


「うぅ…大丈夫かな…」


リンカはくもたろうにとある指示を受けていた。

うさタンクを呼び出して捕らえ…そのまま眷属会まで連行せよと。


確かにリンカは自分でもうさタンクと仲がいいとは思っている。

メアの手が離せないときにうさタンクの世話をしているのはほかでもないリンカなのだから。


だがそれを利用して捕まえようとしていることに罪悪感を感じないわけではない。

しかしそれよりもあの時の女騎士が本当にうさタンクなのか…それを知りたいという思いも強かった。

本当にそうならばあの日に守ってもらったお礼をちゃんと言いたい。

そう言う思いからリンカは協力することに決めたのだ。


「おーい…うさタンクちゃーん…」


先ほどメアのもとにはうさタンクはいなかったことは確認していた。

ならば部屋で眠っていない限りはそこら辺をお散歩しているはず…しかしどれだけ探しても姿は見えず…まさかメア様教において絶対的存在である主の部屋に立ち入るわけにもいかないのでやや途方に暮れかけていたまさにその時だった。


「おねーさん。誰か探してるのー?」

「うぇ…?」


聞こえてきた声に釣られて視線を上に向けるとそこにあった大きな木の枝にメアよりほんの少しだけ背の高い一人の少女…いや幼女が座っていた。

ぱたぱたとご機嫌な様子で脚を動かしながらにんまりとした笑みを浮かべている黒髪の幼女が真っ赤な瞳でリンカを見降ろしている。


「あ、あなたは…?」


質問をしながらもリンカは幼い少女を警戒しながら一歩後ろに下がった。

なぜならリンカはその少女を見たことがなかったからだ。


黒神領といえど完全な黒髪を持った者は少ない。

良くも悪くも目立ってしまうのが黒髪…故に全く知らない黒髪という事はほぼ間違いなく外部から入ってきた人間という事になってしまう。

ということは敵である可能性を否定できないということだ。


リンカは自分が戦闘要員でないことは理解している。

ならば今自分がすることはこの場から逃げ出して誰かに情報を共有すること。

幸い幼い少女は木の上…今ならまだ逃げ出すことができる…リンカはそう考えて脚に力を入れる。


「にっひっひ。そんなに警戒しないでよ。あたしは余所者じゃないし、ちゃんとママに遊んでくるって言ってきたもん」

「ママ…?誰かのお子様という事…?…ごめんなさい、私はアナタの事を見たことがないの。良ければ名前とか教えてくれるかな?」


「名前?名前かぁ~…」


その時、突然少女が木の上から飛び降りた。


「あ、あぶない!」


少女が座っていたのは地面から6メートルほど上にある枝だ。

そこから飛び降りれば幼い少女が無事でいられるはずがない。

そう思い反射的に叫んでしまったリンカであったが、心配をよそに少女はまるで羽でも生えているのかと思うほど軽やかに…ふわりと地面に降りた。

そして呆然としているリンカのすぐ前まで来るとその顔を見上げながら覗き込んできた。


ふわっとした真っ黒な髪に…くりっとした赤い瞳。

特徴だけを見るならそれはまるで…。


「にひっ」

「っ!?」


リンカの思考を遮るように少女がペロッと頬を舐めてきた。

あまりの驚きに固まっているリンカに少女はにやにやとした笑みを向けている。


「あたしね「ウー」って呼んでほしいな」

「ウー…ちゃん…?」


「そうそうウーちゃん。それで~お姉さんはなにしてるのぉ?」

「あ…えっとうさタンクちゃん…うさぎさんを探してて…ウーちゃんこの辺りで黒くて小さなうさぎさん見なかったかな…?」


「んー見たかもしれないなぁー」

「あ、ほんとに!?ど、どこで見たのかな」


「でもやっぱり見て無いかもしれないなぁー」

「え…?」


「にっひっひっ!」


何が面白いのかウーはけらけらと笑っている。

笑いながらリンカの周りをくるくると回り、そのままほとんど抱き着くような形ですり寄ってきた。


「え、あ…えぇ?なにをして…」

「うさちゃん探してるんでしょ?ならウーちゃんも一緒に探してげるよっ!にっひっひ。ほらこっちこっち」


「ま、まって!あ、ちょっと…!だからあなた誰なの…!?」


ぐいぐいと子供のそれとは思えない力で腕を引っ張られ、引きずられていく。

戸惑いながらもリンカはウーにやはり少しだけ既視感のようなものを覚えてしまう。

知らない子のはずなのに…知っている気がするのだ。


「ところでおねーさん。おねーさん、ところでさぁ」

「う、うん…なにかな…」


「うさちゃん探してどうしたいの?あそびたいの?」

「あ…えっと…少し用事があって…連れてきて欲しいって頼まれてるって言うか…」


「…誰にぃ?」


ウーが目を細めてやや不機嫌そうに問いかける。

何か怒らせるようなことを言ってしまったのだろうか…?いくら考えてもリンカにはわからなかった。


「えっと…仲間…?お友達…?みたいな…」

「ふぅん?お友達、ね。おねーさんは「ぱしり」させられてるんだー?」


「う…そういう言い方…されるとそうだけど…でもそれだけってわけじゃないんだよ…!?その…あの子が本当にあの女騎士様なのか知りたくて…」

「ああ「タン」のこと?あの子恥ずかしがり屋だからねーよっぽどじゃないと出てこないよん」


「え…!?あの人の事知ってるの!?」


思わず詰め寄るようにして叫んでしまったリンカだったが…ウーはにんまりとした笑みを浮かべた。


「にっひっひっ。知りたい?知りたいー?じゃあおねーさんが今からウーと遊んでくれたら教えてあげてもいーよ?」


そう言ってウーは再びリンカの頬をぺろりと舐めるのだった。

新たな幼女現る。

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― 新着の感想 ―
ウサちゃん、タンちゃん、苦、合わせてうさタンクみたいな暴走族ネームの可能性出てきたか...?
謎の幼女…一体何者なんだ… 見当もつきませんが何故かサーとかクーも居そうな予感がしますね…
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