ep.36 レイテ沖海戦
「今我々が引き返せば、敵に太平洋を明け渡すことになりますぞ?」
「第六艦隊がいるから大丈夫だろう。それよりもウラジオストクを叩き、教皇国本土に迫る敵空中艦隊を撃滅するのが優先だ」
「ですが第六艦隊はあくまで小規模な紛争などを想定した艦隊です。いくら精鋭揃いと言ってもあの数では...」
「問題ない。すでに打撃を受けた英艦隊を遅滞させるだけならそれでも十分だろう。時間さえ稼げれば援軍を送る余裕だって生まれる。さ、こんな議論をしている暇はないのだ。すぐに本土防衛艦隊に合流せよ」
「...は、了解しました」
万が一に備えフィリピンに展開していた第一艦隊は、東ユーラシア連邦空中軍による教皇国侵攻に対処するため帰投せよ、と命令を受けた。
それに対し、第一艦隊司令の佐藤哲也は疑問を示したが参謀本部の判断は揺るがなかった。
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「艦隊の再編完了! いつでも行けます!」
「全艦出撃せよ! 今度こそは敵艦隊を撃滅し、作戦の第二フェーズへと突入する!」
先の戦いで戦力が半減した第ニ艦隊を三分割し、三個艦隊に再編成した英艦隊は再度侵攻を開始した。
「司令、哨戒艦隊より入電! 我インドネシアを通過し間もなくフィリピンに到達するも、未だ敵と遭遇せず、とのこと!」
「20世紀の第二次大戦でドイツ海軍が取ったフリート・イン・ビーイングってやつか」
「確かに、未だ敵に一個艦隊程の戦力が残っている以上、所在が不明な状態は危険ですね」
「我々が東南アジアの衛星国を攻撃しないと分かっての行動か...クッソ、陸戦隊をもっと連れてくればよかった」
「今作戦では南日本に我々の橋頭堡を作り、教皇国侵攻への足がかりとするのが目的でしたからね」
「ドイツみたいに潜水艦で海上封鎖しても教皇国の備蓄資源が無くなるまで数年はかかるだろうからな...」
彼らは連戦の疲れを掻き消すために紅茶とストロープワッフルを頬張り、誰もいない海を進んでいく...
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サー諸国連合海軍の艦隊計20隻は、英艦隊を遅滞するべく攻撃を開始。
「撃てぇ!」
前弩級戦艦の後部砲塔部分に設置された発射管から、ドゴォォォという轟音とともに対艦誘導弾が発射される。
サー諸国連合海軍は教皇国海軍で退役した旧式艦艇をメインに運用しており、旧式とは言っても輸出時に近代化改修されたものがほとんどであるため、英海軍と渡り合うことも不可能ではない。
「艦載機の発艦完了しました!」
「全艦反転! 速やかに撤収する!」
しかし、数年の技術の差でも大きく影響する砲撃戦においては別であるため、何としても避けねばならない。
「敵雷撃機低空から接近! 数60!」
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意! 何としても落とせ!」
元々総員配置だったため、即座に対空砲が弾幕を張る。教皇国で過剰在庫となっていた水上艦艇の対空砲用のVT信管はかなりの数がサー諸国連合海軍に供与されており、全ての対空砲に配備されていたこともあってかすぐに敵雷撃機は数を減らしていった。
「高空から敵爆撃機!」
「主砲で落とせ! 」
主砲の30.5cm砲からもVT信管が放たれる。しかし、せいぜい12.7cm程度の対空砲ではロウソクの光程度だったのに対して、主砲のVT信管が炸裂した時はまさに"爆発"といった感じで密集隊形の敵機を数十機鉄くずに変える。
「敵機引き返していきます!」
「ふむ、まぁこんなところか」
「水上レーダーに反応! かなり大きい! 恐らく超弩級戦艦か正規空母!」
「どっちにしろ護衛含め数隻は戦艦がいるはずだ...航海長、逃げ切れるか?」
「敵のほうが僅かに有速です。あとは航空隊の活躍次第かと」
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「敵機直上! 急降下!」
「撃てぇ!」
「命中! 命中! 命中! VT信管の威力絶大なり!」
サー諸国連合海軍の航空隊は、艦上戦闘機こそは教皇国最新のメッサーシュミット280(Mig-17)のモンキーモデルと、英海軍を圧倒する機体であったが艦上爆撃機や艦上攻撃機に関しては未だほとんどがレシプロ機であった。
ただこれについては教皇国でさえも一割程度はレシプロ機が残っていたし、そのレシプロ機でさえも英海軍のものよりは高性能であった。
しかし、速度がより速いなど爆弾搭載量が高いなどそういった微々たる差が影響を与えるのはあくまで航空機同士の話であって、VT信管の強力な弾幕に対しては等しく標的であった。
もちろん音速を超えるメッサーシュミット280に限ってはVT信管とて簡単には当たらないし、そもそも戦闘機なので敵艦に接近することもない。
「敵艦隊射程内に入りました!」
「全艦自由射撃! 速やかに敵艦隊を掃討せよ!」
この日、サー諸国連合海軍は7割の戦力を失った。




