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“温室育ちの姫”と呼ばれて冷遇されていると思っていたら、保護されていたみたいです

 母は花が好きだ。また、その美しさから花のような人と評される。

 でも、母の身分は低く、貧しく、メイドの身であった。

 そんな母を愛したのか、単に美しさに興味を持っただけなのか、国王であった父は、母を愛人とした。


 そんな母の下に私が生まれる時、母の身分と王妃への配慮から温室を部屋として贈られた。

 それゆえ、私は温室育ちの姫と呼ばれる。


 夏場は暑そうに思えるだろうが、ガラス張りでドーム状の温室は、年中快適だ。皆、この温室に訪れないから、そんなことは知らないのだろうが。



「姫様! 姫様!」


 私がいつものように、花たちの面倒を見ていると、温室唯一の付き人で、私の乳母であるサクラに呼ばれた。母よりも年上で、子育てもメイドとしてもベテランだ。


「なぁに? サクラ」


「本日のパーティーには出席なさいませんと」


 今日は、年に一度開かれる、国王の生誕パーティーだ。私の誕生日なんて毎年忘れられているのに、いいご身分だ。

 国王が私を思い出した時に、政略結婚の駒として使われて、一生が終わるのだろう。

 どうせなら、子供の時にパーティーで泣いてる私を励ましてくれた彼のような、優しい人と結婚できたらいいのに。


「大丈夫よ、アイリス。私も出席するわ」


「お母様」


 お母様が私をそっと抱きしめてくれる。パーティーではどんなことを言われるかわからない。私がお母様を守らなくては。





ーーーー

「まぁ! 温室育ちの姫よ?」


「横にいるのは、母君のローズ様? 名前のように、棘のある花のようなお方よね? お顔で国王の心を打ち抜いて、王妃様から、国王を盗みとるなんて」


「まぁ、ローズ様はお顔だけですわ」


 花束として売られる時、トゲを取られてしまう薔薇。棘のとられた薔薇のように、お母様は、反論することもなく、ただ穏やかな表情で過ごされている。私は、そんな美しいお母様を尊敬する。

 メイドたちには、その性格のせいで大変好かれているため、お母様はなんだかんだ彼女らに守られて、嫌がらせは受けたことがない。命令はされているのだろうが。

 それも相まって、私は温室育ちの姫と呼ばれるのだろう。




「静粛に。国王陛下の入場です」


 国王陛下、王妃、王子たちの順番に続く。王妃は王子を3人産んだ。私にとって、腹違いの兄2人に弟1人だ。



「皆のもの、本日は(われ)のために集まってくれて感謝する。隣国の友人たちも、ありがとう」


 国王の挨拶をつまらない顔をして聞いていたら、そっとお母様にひじで小突かれた。





 しばらく歓談となった。私は、食べ物をとりに行こうと思う。普段の食事よりも豪華なものが多いから。




「ごきげんよう。久しくて、ね?」


 美味しい食べ物に舌鼓を打っていたところ、お母様に王妃様が話しかけている。辺りは水を打ったように静まり返っている。私は、慌ててお母様のところに戻った。


 そっとカーテシーをして、お母様の一歩後ろで俯く。見様見真似だが、家臣としてのマナーとしては相応しいだろう。


「あら? 貴女は国王の娘なのだから、そのようなことはしなくていいのよ? そういえば、今年でいくつになったのかしら?」


 ちらりと母の表情を見て、私は答える。


「寛大なお言葉、ありがとうございます。先日、14になりました」


「お誕生日に贈ったプレゼントは気に入っていただけたかしら?」


 プレゼント……? なんの話だ? 知ったかぶりした方がいいのか? 母を見ると母も固まっている。


「誠に申し訳ないのですが、身に覚えがありません。プレゼントとは、なんのお話でしょう」


「……あら? 届いてない? おかしいわね……」


 王妃様はちらりと国王の方を見る。お酒を飲みながら、おべっか使いたちに囲まれて、ガバガバ笑っている。


「とりあえず、貴女も14になったのだから、王族としての教育をそろそろ開始しましょうか? 今日の様子を見る限り、素質もありそうね」


 思わず、目を見開く。周囲もざわりとなる。私に王族としての教育を受けさせることを、この場で表明するということは、王妃様は私を王族として認めるという意味に捉えられてしまう。


「王妃様。私のような者が教育を受けてもよろしいのでしょうか?」


 その場にいる物が固唾を飲んで盗み聞いている。


「ええ、もちろんよ? 幼い頃から教育を詰め込むことはしたくなかったから、今までのんびり過ごしてもらうように……国王から聞いてないかしら?」


 王妃様の視線を受けて、国王がこちらにやってきた。


「王妃よ。なんの話だ?」


「ねぇ、あなた。アイリスへの説明はどうなっているの?」


 国王はそっと視線を逸らした。


「あなたって人は本当に! 何事も適当すぎるわ!」


 王妃様が扇をばさりと開いて、国王にピシリと向けた。つらつらと並んでいく小言を聞いていると、国王が私やお母様に関しての贈り物や説明、さまざまなものを全て忘れていたようだ。




 その日から、私は王族として認められた。

 優しい兄たちと弟ができた。その後、私と結婚して王家に縁を結びたい者たちが虎視眈々と私を狙うようになった。

 でも、三人が私に近づく者を全て排除する勢いで、私を守ってくれる。



「アイリス様。よろしければ、僕と一曲……」


「アイリスは、今忙しいんだ。他の者に当たってくれ」


「アイリス様。今のうちにこちらへ」


 そう言って、私に手を差し出してくれるのは、専属護衛となったパキラだ。


 ()()()は、王妃様にこってりと絞られ、今までのことを謝罪してくれた。お詫びと言ってはなんだが、王族でありながら好きな相手と結婚してもいいと許してくれた。




「アイリス様は、私のことを覚えてらっしゃらないのですね……」

 二人で逃げ出していると、悲しそうな顔でパキラは呟いた。


「いや、なんでもないです。アイリス様」


 そう言うパキラの微笑みは、小さい頃にどこかで見た記憶があるような気がする。


「……あ! もしかして、子供の時のパーティーの!」


「あの時の約束を果たして、貴女の護衛になるためにここまで鍛えてきたんですよ?」



 そう言いながら、私の手を引くパキラの耳は少し赤かった。

お読みいただき、ありがとうございます!

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