第十一話5
『二人とも、昔話は終わったかしら?ワープに入ったらすぐタルーヴァに到着しますわ』
突然天井辺りからマリアの声が聞こえる。この船に入ってから一度もマリアたちの姿を見ていない。コックピットのある別室で操縦しているのだろうか。
「やっぱりタルーヴァにもワープっていうのあるんだな。どんなもんかワクワクするな!」
俺も小さい頃SFアニメを見ていたので宇宙空間でワープというものは男の子にとってとても魅力的なものだ。周りが歪んで見えるほどの速度を上げ、あっという間に目的地までたどり着く。これほど夢のあるものはない!
「そんなにいいものですか?そういえば地球からタルーヴァまでの距離って確かそちらの単位で3億光年とか?」
その言葉を聞いただけで体に寒気を感じた。えっ……光の速さでも3億年かかる距離……?
さすがに1光年がどれぐらいの距離かわからないけどそれだけで身が震えた。俺、そんな途方もなく遠い場所に向かっているのか……。
「俺、もう地球に帰れないのかな……?」
突然襲われた恐怖につい弱音を吐露してしまう。この永遠に近い宇宙空間に飲み込まれそうでだんだんと怖くなってしまった。
「ミコト様……」
ゴッ!!
シスカがスッと俺の前に立ち上がると彼女は突然俺の顔面を殴った。
「っ!?!?!?」
反動で倒れた俺は理解が出来ず気が動転した。馬乗りになって続けて殴りかかろうとするシスカに俺は両手で受け止め払いのけた。
「何すんだシスカっ!!」
「お嬢様は……、お嬢様はあなたの何千倍も恐怖に押しつぶされそうになりながらタルーヴァに向かったんです!勝てる確率のない戦いに一人で!!そんなお嬢様を助けると言ったのはあなたでしょう!ここであなたが弱音を吐いたら誰がお嬢様を救うんですか!!あなたがここで弱音を吐いてたら帰れるものも帰れないんですよ!?」
ふと俺の頬に涙の粒が落ちる。シスカもリディアのことが心配でずっと堪えきれない思いを我慢していたんだ。それなのに俺は自分のことしか考えておらず怖くなっていた。
「シスカ……、そうだよな。わりい、急にこんなSF見せられて日和っちまった。もうここまで来ちまったんだ。絶対アイツを救うぞ」
「フフ、その意気ですよミコト様。一芝居打った甲斐があるものです」
「そんなこと言って、さっきのガチ泣きだったじゃねえか」
「え、演技ったら演技です!?」
『タルーヴァの近くまで来ましたわ。お二人とも準備なさいまし』
俺たちの会話が一段落したのを聞いていたのか、ちょうどいいタイミングでマリアが会話に入り込む。
「ああ、こっちは準備万た……え、もう着くの?ワープ空間とかは?」
「わたしが殴ったときにちょうど入ってました。わたしはてっきり気づいているのかと」
「は、はあ!?そこSFの最大の見せ場だろっ!!ちょっとやり直し……!?」
『あ、言い忘れてましたけどアタシたちやることがあるのでここからは別行動ですわ。とりあえずスクールに飛ばしますので頑張ってお姫様を探してください』
「ちょ、ちょっと待て!?このまま俺たちを放り込む気か!何か作戦とかねえのかよ!?お、おい!マリア!?」
そして俺たちは光に包まれ間髪入れずに転送されてしまった……。
「本当に来ちまった、タルーヴァに……」
俺たちは宇宙船内で光に包まれた後、芝生のある広場に転送された。観音山にある公園のように(例えがわかりにくいか)広大な芝生の広場で、その周りには白亜色の巨大な建物がひしめき合っている。これだけの説明ならどっかの大都市に思えるが、そこにプロペラも羽根もない乗り物が宙に浮いて飛んでいるのを見るとやはりここが地球ではないことを認識できる。今は授業中なのだろうか、広場にあまり学生の姿はない。
「はい、そしてあれがお嬢様が通っているスクールです。それと隣にある建物がわたしたちが住んでいる学生寮です」
と、シスカが指さした先にはマンションのように一部屋一部屋区切られた建物が建っている。こういうところは奇をてらっていないみたいだ。
「スクールにいる可能性は?」
「本来ならば、ですが相手が先手を打っていれば……」
可能性は低いってわけか。とにかく今はリディアの部屋に行って何か手がかりを見つけるしかないだろう。その前に……、
「どうするよこの状況」
事態はあっという間だった。俺たちがここに転送されて数十秒の会話の間にまず小型の監視ロボットが宙に浮きながら取り囲み、続いて警備員のような白くキチッとした制服を着た男たちがこれまた宙に浮くバイクに乗って現れた。警備員は大体10人ぐらい、監視ロボットは4体。光る剣や光線銃らしきものを俺たちに向けて構えている。
結論から言おう、詰んだ。
「まったく、マリアはいつもわたしたちに無茶振りをする……。ミコト様、戦えますよね?」
「おう、やってやるぜ。じゃねえよ無理に決まってんだろ!?お前はいいよ剣持っててさ!俺なんて何の武器も渡されずに急に放り込まれてんだぞ!?あの女どんだけノープランなんだよ!こんなん全裸でライオンの檻に入るのと同じだぞっ!?」
「知りませんよそんなこと!もしものことがあればあの時みたいに爆弾を使えばいいじゃないですか!」
「人を爆弾魔みたいに言うなっ!お前もわかってんだろ、あれが偶然だったことぐらい!!」
突然始まった口喧嘩に取り囲んでいた警備員たちは動揺を見せ始める。
「ではわたしを負かしたあの時は偶然だと?わたしは偶然であなたに負けたというのですか!?」
「ああそうだよっ!あんな地面抉るような技繰り出しときながらアンタは偶然で負けたんだよ!!そんなんだからマリアに簡単に拉致られるんだよ!」
「い、今はそんなの関係ないでしょう!?わかりました、この剣の力がナマクラじゃないこと、証明しましょう!!」
シスカはそれが合図と言わんばかりに細剣を構え、横一文字に振り風を巻き上げた。風は目の前にいた3人の警備員を吹っ飛ばし、突破口を開くことができた。
「行きましょう!」
「おうっ!」
俺たちは学生寮に向かって走り出した。突然のことに彼らも驚いていたが、すぐさま態勢を立て直し一斉に俺たちに向けて一斉射撃を開始した。
「お前いいのか、アイツらに喧嘩売って。一応ここの住人なんだろ?」
「わたしたちに敵意むき出しにされて話通じるわけがないでしょう。多分わたしたちを見つけたら捕縛するよう言われていると思います」
「そうかい、ならここで騒ぎ起こしても何の問題もないってことだな。ド派手にやろうぜシスカ!」
「人使い荒いですね……。とにかくあの入り口まで行きましょう。あそこまで行ければ、っ!?」
突然建物入り口に複数の警備員が立ちはだかった。
「くそっ伏兵か!」
「問題ないっ!!」
シスカは怯むことなく眼前の敵を蹴散らす。彼女のその瞬発力は躊躇いもなかった。
「すげえ……、すげえよシスカ!」
「これぐらい早く動いたら……、行きましょう!」
「了解っ!ぐぁっ!?」
突然俺の左肩に激痛が走る。奴等の光線銃が俺の左肩に命中したらしく、シャツが少しずつ赤く滲んでいく。
ガチッ!
反動でよろけるとすかさず左足に白いリングが巻き付き、俺はその場に倒れ込んでしまった。
「くそっ何だこれっ!?」
「ミコト様っ!?」
シスカが振り返りそのリングを外そうと近づくも、敵からの掃射で近づけない。俺も必死に足掻こうとするがガッチリしていてビクともしない。そのまま敵の方へと引き吊り込まれていく!?
「シスカ行け!!お前だけでもリディアを救いに行くんだ!!」
「ですがそれではミコト様が!?」
「いいから!ここで二人とも捕まったら何の意味もないだろ!!」
「……っ、わかりました!絶対お嬢様を救い出してみせます!!」
そしてシスカは敵の光線を振り切り、学生寮の入り口へと駆けていった。それを見送ったのも束の間、敵は俺の額に向けて光線銃を構えた。
「rtaygrjigtbgurtehgto……」
「日本語で喋れよバカ野郎……」
敵が引き金を引く。その刹那、
ドゴォォォォォン!!
俺を取り囲んでいた数人の警備員がとてつもなく大きなものに吹っ飛ばされた。
「な、なんだ……?」
「ムーンライトアロー!!」
謎の声とともに空から無数の光の矢が降り注ぎ、他にいた警備員、監視ロボットを次々と倒していった。
砂埃が晴れると、奴等は全員倒れていた。一体何が起こったんだ……。
「だ、誰だ……?」
「マジカルリリカルムーンライト!月は見えないけど月の魔法戦士プリティリリィ、ただいま参上!!」
と、突然上空からどこかで聞いたことあるフレーズが聞こえる。見上げるとそこには見覚えのあるドラゴンの背に立ってポーズをしている魔法少女らしき姿が見えた。え、あれって……。
「君塚?」
そこにいたのは以前リディアが学校に来たときと同じ魔法少女の格好をした君塚沙雪だった。
「ぼぼぼぼぼぼくは君塚じゃなくてプリティリリィ!さあ、ぼくが引きつけてるうちに早く逃あの建物に!!」
状況がよくわからないが敵が君塚の方に気を取られている隙に俺たちは学生寮へと逃げ切った。




