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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第十話
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第十話9

 気が付けば辺りは日が落ち、空は藍色に染まっていた。マリアの助けによって白いコートの男たちから逃げ切れた俺たちは、リディアが最後に行きたいという場所へと向かっていた。俺にはそれがどこなのか教えてもらえず、そこは繁華街を抜けた先にあるらしい。途中ヤツらが追ってきていないか時折様子をうかがいながら向かっていたが、結局ヤツらに遭遇することはなかった。

「マリアさん、大丈夫でしょうか」

「アイツのことだ。そんな簡単に死ぬことはない……と思うけど、正直心配だ」

 あれだけ血を流していて大丈夫と言えるわけがない。マリアは「行け」と言って俺たちを送り出したが、もっといい方法がなかったかと苛まれる。

「あの人を信じましょう。わたしたちが負かしても生きてたんですから」

 俺たちに、アイツらを打ち負かす力があれば……。

 そして、リディアが行きたがっていた場所、それは……。

「ここって、うちの高校?」

「はい、最後はここで思い出を作りたいなって。さっ行きましょ、時間ありませんよ!」

「時間ないって……、うわっ!?」

 リディアは俺の手を繋ぐとあっという間に見慣れた景色へと変わった。他でもない、俺のクラスの教室に瞬間移動したのだ。

 当然辺りは真っ暗で、窓から見える街の灯りで何とか顔の表情が見えるぐらいだった。そういえば、昔見たアニメでそういうシーンがあり、夜の教室に憧れてたことあったな。

「ここが、リディアが来たかった場所?」

「はい、最後にミコトさんたちのスクールで思い出作りたいなって。そういえば、この星のスクールでもお祭りがあるんですよね?確か、ブンカサイ……っていうのでしたっけ?」

「ああ。10月の初めにさ、二日かけて行われるんだ。そこでは喫茶店とかお化け屋敷とか、そうそう!去年コスプレ喫茶だったんだけど苺先生が気合い入りすぎてクラス全員分の衣装作ってたっけ」

 その時は女性陣が執事のコスプレをし、男性陣はメイド服……ではなく、キラッキラのアイドル衣装でダンスを披露するっていう、中々難易度の高いものをやらされていた。もう体もメンタルもボロボロになるくらい……。

「えっ!そんな楽しいのやってたんですか!?写真見せてください!!」

「み、見せられるかそんなの!?あれは俺にとって黒歴……」

「そっかぁ、わたしミコトさんの素敵な写真見ないでタルーヴァに帰っちゃうんだ……」

 ぅ……!?

 リディアのやつ、急に寂しそうな上目遣いをして、いつの間にそんなあざとい技身につけたんだ。てか、俺も墓穴掘っちまったのも悪いけど……。

「あ~もうわかったよ!見せればいいんだろ見せれば!!」

「えっ!見せてくれるんですか!?ミコトさんありがとうございます!!」

 リディア、リアクションがわざとらしいぞ……。

 俺は渋々携帯に入っている過去の写真を探し、文化祭の時の写真を見つけだした。

「ほら、これがその時の写真。あんままじまじと見るなよ?恥ずかしいから……」

 画面には顔を真っ赤にしながら子どもの頃流行ったアイドルグループのダンスを踊っている俺の姿が映し出されていた。確かこれ、由衣が隠し撮りして送りつけられたやつだったような。

「はわああああぁぁ!!かわいいですかわいいです!!ミコトさんこういうのも似合うじゃないですかぁ!!」

「どこをどう見たらそう見えるんだよ!?まったく、あんまりうまく踊れなかったからちょっとトラウマなんだよ……」

 体育で創作ダンスはやっていたもののリズム感がなくどうしてもぎこちなくなってしまっていた。

 そしてリディアはスラスラと他の写真も見ていた。ダンスの練習をしてるところ、教室の飾り付けをしてるところ、終わった後に撮ったクラスの集合写真、そして後夜祭。どれも写真を見ただけであの頃の声が思い浮かぶ。

「いいなあ、どれもみんな楽しそう。わたし、この期間でいっぱい色んなこと知ったつもりでしたけど、まだまだ知らないこといっぱいあるんですね」

「ああ、前にも言ったけど学生生活っていうのは夏休みがメインじゃないんだ。文化祭もそうだしその前には体育祭、冬になればクリスマスにお正月、それにバレンタインに……ああそうだ、来年には受験勉強も始めないとな。結局俺、将来何をしたいかまだ決めてないんだよな……」

「ジュケン……っていうのはミコトさんの将来を決めるイベントなんですか?」

「まあそうだな。いい大学入ってなりたい仕事に就く。それが地球人にとっての大事なイベントなんだけど、ホントどうしよう」

「……じゃあ、わたしと一緒に来てくれますか?」

「えっ?」

「わたしと、タルーヴァで一緒に暮らしませんか!」

 俺は突然のリディアの告白に言葉が出なくなってしまった。こんな真剣な眼差し、久々に見た。

「え、あ……えっ?」

 すると

「……プフっ!なぁんて冗談ですよ!前にも言ったとおりミコトさんを連れていけるわけないじゃないですか!」

「リディア……」

「どうですかミコトさん、わたしも少しは演技できるようになったんですよ。こう見えてちゃんと成長しているんです!わたしがいなくなっても寂しくならないように、わたしも……あれ……?」

 俺はそっと彼女を覆うように抱きしめた。無理に作っていた笑顔の片隅でこぼした涙が見えないように。

「バカ、こんな時に意地張ってんじゃねえよ」

「はい、ごめんなさい……」

 彼女は微かに体を震わせ、静かに泣いた。俺はただ、彼女が落ち着くまでそっと頭を撫でてあげた。

 全てを知ってしまったこの状況で気丈にしているなんて苦痛以外の何物でもない。それでも彼女は俺に笑って送り出してもらおうと、いつも通りを振る舞おうとしていた。そんなの、無理に決まってんだろ……。

 それから少し経ち、「もう大丈夫です」とリディアが落ち着きを取り戻した。リディアが顔を上げると俺はつい「ぷっ」と笑ってしまった。

「どうしました?」

「いやごめん、リディア目が腫れててちょっとかわいいなって」

「もうっ!こんな時にデリカシーなさすぎです!!恥ずかしいじゃないですか・・・・・・」

「いいじゃねえか、これも大事な思い出の一つってことで。何なら今の写真に撮ってタルーヴァに送りつけてやろうか?」

「もうっ!やめてください~~!!」

 と、リディアは膨れっ面になりながらぽかぽかと俺の胸を叩く。

「ぷ、あはははははは……」

「あはははははは……」

 俺たちはとにかく笑った。この瞬間瞬間を悔いのないように、泣いてる暇なんて今はないのだから。

 ーーーーーーーーー

「もう、こんな時間なんですね」

 教壇の上の時計に目をやると、時刻は11時を過ぎていた。あれからこの夏休みの色んな思い出とこれからの学校生活について話していた。リディアの目は今まで以上に輝いていて、どんな時よりも楽しそうな笑顔だった。

「ああ、何かホントに今日がラストなんて思えなくなってきちゃったな」

「わたしも!明日も皆さんと過ごしてそうな気がします!」

「何ならもううちの学校に入学しちゃおっか。宇宙的な力使ってしれっとうちのクラスに溶け込んでさ!」

「あ、それいいですね!もしかしたらそういう設定できるかもしれません!」

 それができないこともわかってる。けれど今はそんなたわいもない話ですら愛おしく感じている。

「ねえ、ミコトさん。こっち来てください」

 と、リディアはイスを二つ窓際に向けて並べ、俺を案内した。

「すげえ……」

 窓からは市街地の光、そして上には満天の星空。昼間いつも見ていた景色がこんなに美しく感じたのは初めてだった。

「ミコトさんと出会う前まで、わたし外に出るのが怖かったんです。事前に安全だとわかっていたんですけど、一歩出す勇気がなくて……。船から見るこの景色もずっと怖く感じてたんです」

 そんなこと初めて聞いた。そうだ、誰の助けもないこんな遠い遠い惑星に飛ばされて怖くないわけがない。俺だってリディアと同じ立場だったら多分ダメになりそうだ。

「でもあの時、ミコトさんがわたしを見つけてくれてから、そんな不安は一気になくなりました。ああ、この星はきっと優しい場所なんだって。それから毎日が本当に楽しくて、由衣さんもスギさんも町の皆さんも本当に優しくて、もっと早く一歩を踏み出していたらなって思うぐらい嬉しかったんです」

「リディア……」

「そして、初めて好きという感情をミコトさんから教えてもらった。かけがえのない人が出来たことが何より嬉しかった。ずっとずっとそばにいたいと思った」

「俺も、リディアのことが……!」

「でもそれは叶わぬ願い。だから最後に、二人でこの景色を見たいなって思ってここに呼んだんです。この記憶もちゃんとメモリーに入れたくて……。ミコトさん、今日までありがとうございました!おかげで最高のレポートができそうです!もし全てがうまくいったら、これから先の思い出一緒に作りましょう!」

「リディア、俺は……っ!?」

 すると、俺の言葉は閉ざされた。リディアのキスによって……。

「さようなら、ミコトさん」

 薄れゆく意識の中、涙を流しながら笑う彼女の姿だけが目に映った。


 9月1日午前0時、俺たちの夏休みは終わった。

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