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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第十話
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第十話5

「うわぁ、街も人もこんなに小さい!あ、すごい!全部の山が見渡せます!!ここ、一度来てみたかったんですよ!」

 デパートでの買い物を済ませた俺たちはリディアが一度行ってみたかったという高崎市役所に向かった。何でデートの最中に市役所なんか?と思うだろうが、ここは地上21階まである巨大な施設で市内で一番のビュースポットだからである。そしてその21階は360度見渡せる展望ロビーとなっておりデートコースの定番なのだ。

「ずっとここ、この星の全てを管理する中央機関みたいな場所かと思ってました。まさかこの町だけの役所だったなんて」

 まあ確かに市内でこんな存在感あったらそりゃあすげえ建物には見えるよな。

「俺も小さい頃はここがこの国全てを管理してるんだって思ってたよ。でも東京行けば都庁とかスカイツリーとかもっと高いのがバンバン建ってて。それにほら、前橋にあるあそこの茶色いビルの方が高いんだぜ?」

 と、赤城山の方角にある茶色く高いビル、群馬県庁を指さす。あっちの方は34階もあって全国の県庁の中で一番高い(あくまで「県」の中の話である)。

「そういえば海に行く途中ですごい高い建物がいっぱいの街がありましたね。あれが東京って街だったんだ……」

 本当はリディアを東京にも連れて行きたかったけど俺はあまり土地勘がなく、それに今回はリディアが行きたい場所ということで見送った。

「本当にここは素敵な星ですよね。タルーヴァみたいな生活環境が整ってると思えば自然にも調和されていて、わたしたちが知らないことがここにはいっぱいあって、もう毎日がワクワクでした」

「そう言ってくれるとこの夏休み頑張った甲斐があるよ。ほら、あそこが俺たちが最初に出会った祠のある山で、あっちが花火見に登った観音山。こうしてみると色んなとこ行ったんだな」

「そうですね。たった数十日間しかいなかったですけどこの町でいっぱい思い出を作れました。ありがとう、ミコトさん」

 リディアは俺を見つめながら微笑んだ。

「こちらこそ、ありがとなリディア」

「ところでミコトさん」

「…………?」

 突然さっきと声のトーンが変わり、俺の顔の前まで近づくと今まで見たことのない氷のように冷たい表情で睨んできた。

「ど、どうした……?」

「この前由衣さんと二人でデートしてましたよね?」

「っ!?」

 さっきまでとのギャップに驚き、息が詰まる。

「あれは、デートっていうか買い物っていうかその……」

「やっぱり行ってたんですね。わたしを差し置いて」

 静かに問いつめられつい墓穴を掘ってしまう。

「はい、行きました……」

「正直でよろしいです。ネタはもう上がってるんですよ?」

 ネタって、どこで吹き込まれたそんなセリフ?

「わたしというものがありながら他の女とイチャイチャして、許しませんよ!?」

「すいませんっ!?……って、幼なじみなんだから買い物なんて普通だろ!」

 どうしたんだリディアは、まるでドラマとかである嫉妬しまくってるヤバい彼女みたいになってる!?

 て、待て待て待て!?あの時別に由衣とやましいことなんてしていない。していないけど……。

「落ち着け!別に俺は何もやましいことはしていない!信じてくれっ!」

「それ、本当ですね?」

 リディアのじろりと睨む視線がつらい。彼女がこんな顔するなんて初めて見た……。

「あ、ああ。俺を信じろ!」

 俺は少しでも彼女を落ち着かせようとそのままぐっと抱きしめた。すると彼女の肩が少しずつ小刻みに震え始め、次第にくすくすと笑い声が聞こえた。

「リディア……?」

「アハハハハハハハ!ごめんなさい、ちょっと芝居させてもらいました!」

「は、はあっ!?」

 俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。一体どういうことなのかさっぱりわからず、今でも混乱している。

 するとリディアは鞄から例のあのマンガのとあるページを開いた。そこにはヒロインが彼氏に秘密があるか問いつめるシーンが描かれていた。しかもヤンデレモードで……。

「まさか、このシーンをマネるために……?」

 その答えにリディアは満面の笑みで「うん」と頷いた。

「は~~~……、心臓に悪いよリディア」

 俺は緊張の糸が切れたようにへたり込んでしまう。

「ごめんなさい、本当はお父様とお買い物行った時お二人が買い物しているとこ見つけたんです」

 それはそれで怒ってもいい案件じゃ……。

「それでお二人が仲睦まじく買い物してるのを見ててつい嬉しくなったんです。ああ、由衣さんもちゃんと頑張ってるなって。実はわたしたち、互いに恋人になるために切磋琢磨しようって決めてたんです。ですから由衣さんとデートしたこと、怒ってませんよ?」

 リディアはそう言いつつも、やはり良心の呵責に苦しむ。何せあの時、

「でもリディア、俺はあの時……」

「由衣さんの告白、断ったんですよね?」

「っ!?……はぁ、何でもお見通しか」

 さすがに俺ももう驚かなかった。そんな話をしておいてリディアが結末を知らない訳がない。

「あの後、由衣さんがわたしに連絡してきたんです。『フられちゃった。リディアちゃんの勝ちよ』って。でもわたしどうしていいかわからず『ごめんなさい』って由衣さんに謝ったんです。そしたら『リディアちゃんはわたしに勝ったんだからもっと誇らしくしなさい。じゃないと、わたしが余計辛くなるから』って」

 勝った相手に誇らしくしなさい、か。いかにも由衣らしい。

「なのでミコトさん、わたしからお願いです。わたしがいなくなっても由衣さんと変わらず仲良くしてくださいね」

「リディア、俺は……っ!?」

「話は終わったかね?」

 すると突然俺たちの目の前に複数の男たちが取り囲んだ。

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