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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第十話
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第十話4

 彼女の背後に立っていたのは見覚えのあるゴスロリの少女、マリアだった。マリアはスノードームのサンプルを手に不思議そうに眺めている。

「ごきげんようお嬢様。最後の日、楽しんでるかしら?」

「な……何の用ですか」

「そんな怖がらなくていいですわ。アタシはただあなたたちが楽しんでるのを見守りに来ただけ。大事なデートを壊すほど鬼畜ではありませんわ」

 それでもリディアは警戒心を緩めない。以前リディアを救ってくれた恩人とはいえ、未だに何を考えてるかわからない。敵なのか、それとも味方なのか。

「見守りに……ですか?」

「ええ、『見守り』に」

 と、リディアにニコリと笑顔で返す。

「ところで、あなたのスクールの課題、もう出来上がってますの?」

「きょ、今日の思い出を書き加えれば完成です」

「そう、なら問題ありませんわね。あとはスクールでの発表がうまくいけば無事卒業。頑張ってください、リディアさん」

 唐突に応援されてさすがのリディアも戸惑いが隠せない。

「あ、ありがとうございます。マリアさん……」

「それと、どこまでご存じですの?」

「なんの、ことですか?」

「とぼけたって無駄ですわ。アタシに隠し事が通用するとお思い?」

 微かにだが彼女の笑みが変わった。まるで全てを見透かすような不敵な笑みに。

「軽井沢で坊やとやりとりしている時、本当はすぐ意識が戻っていたでしょう。差し詰め、あなたを誘拐しようとしていた話辺りかしら?」

 リディアは少し驚いた表情を浮かべ、すぐ俯いた。

「わたしを誘拐、ですか……」

「あら、初耳でしたらごめんなさい。でも、その反応を見るにもう既に……」

「知りません!わたしはあの時何も聞いていませんっ!」

 リディアはそれでも自分を貫き通した。それが嘘偽りないことと信じて。

「そう、アタシの勘違いだったかしら?フフ、アタシとしたことが憶測で追及してしまいましたわ。今の話は聞かなかったことに、ってムリな話ですわね」

 と、マリアは笑みを浮かべながら自分の非を認めた。自分が誘拐されていたかもしれないという事実を知らされて忘れろなど不可能な話だ。

「あの、これからわたしを誘拐する気ですか?」

「最初に言ったでしょ?あなたを見守るって。だから今は何もしない、あなたの好きにしなさい。ただ」

 マリアは人差し指をくいくいっと指図し、リディアにこっちに来て耳を貸せと指示する。

「隠し事して困るのはあなたですわ。もっと誰かに頼ってもバチは当たりませんわよ?」

 そう言い残し、マリアは忽然と姿を消した。

「隠し事なんて……」

「おい」

「ひゃいっ!?あ、ミコトさんどうしました?」

「こっちがどうしましただよ。そんな変な声上げて。誰かいたのか?」

 俺が会計を済ませて戻ると、リディアは遠くの方を見てぼんやりとしていた。不思議に思いながら声をかけるとお化けにでも遭ったかのような奇声を上げた。

「い、いえちょっと考え事をしてただけで」

「そっか。それよりほら、スノードーム。大事にしろよ?」

 と、俺は紙包装に包まれたスノードームの箱を渡した。

「あ、ありがとうございます」

 さっきまでとは違い、リディアの表情に陰りが見えた。今日が終わればタルーヴァに帰らなければならない。その寂しさなんだろうとその時の俺は思っていた。


 あのジェットコースターの後、うちらはメリーゴーランド、ミラーハウスに行きあっという間に時間はお昼を回っていた。8月ももう終わりだけど真夏の暑さはまだ健在で外で食べるにはきついので、園内の片隅に展示されている古い電車の中に入った。クーラー完備の休憩所として使われているので、この時期には有り難いものだ。

「はあ~~、クーラー付いてるから生き返ったぁ。ここってあんまり屋内のものってないから」

「確かにそうですね。わたしたちはタルーヴァの下着で温度調節ができるので暑さには苦ではありませんが日差しが強いのがちょっと……」

「えっ、シスカちゃんの下着ってそんな機能付いてたの?道理であのメイド服着て一つも汗かいてなかったわけだ……」

 夏休み最終日になって初めて知る宇宙テクノロジー……。なにそれめっちゃ羨ましい。

「それよりもランチですね。その、急拵えなんですがいかがでしょうか?」

 と、彼女の少し大きめのバッグから取り出されたのはサンドウィッチが入ったランチボックスだった。

「全然っ!すごい良いよシスカちゃん!うん、マスタードがアクセントになっておいしい!」

「ありがとうございます。あなたの喜んだ顔を見れただけで嬉しいです。ついでにハーブティーも入れてきたのでどうぞ」

 シスカちゃんの作ったサンドウィッチも入れてくれたハーブティーも美味しい。これまでみこっちゃん家で何度か彼女の手料理は食べてたけど、二人っきりで食べるこのサンドウィッチが今一番美味しかった。もしかしたらこれが最後に……。

「それにしても、たった数十日の滞在でしたのにこんなにたくさんの思い出ができるなんて思いもしませんでした。事前に聞いていた情報ではどの星も岩と砂だらけで生命なんて皆無だって聞いてたのに、タルーヴァとさほど変わらないなんて」

「そんなん言ったらうちらも同じだよ。ずっと生命のいる星なんて発見されてなかったのにあまりにもあっさりと出会って、さらにはこんな素敵な子に巡り会うなんてね」

 うちはシスカちゃんの目を見つめながらそっと微笑んだ。

「スギ……」

「だからさ、最後の最後まで今日を楽しもうよ。もう忘れらんないくらいいっぱいさっ!」

「フフ、そうですね。じゃあ午後はさっきのジェットコースターを三回連続乗ってみますか?」

「ふえっ!?ちょ、ちょっとそれは……」

「わたしと付き合う以上それぐらいのスリルに慣れてくださらないと。さ、食べ終わったら早速行きますよ!」

「勘弁してよ~~……」

 シスカちゃんはうなだれてるうちをくすくす笑いながら見つめていた。

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