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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第一話
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第一話7

 時すでに遅しと言ったところか、リビングに入るとリディアはまるで魂が口から抜けたように放心状態でソファーに倒れていた。

「うっ……!?」

 ふと胸元辺りに目が行く。何者かによって服が乱され、白い肌の谷間が露わになっていた。

「お嬢様!?お気を確かに!!」

 主人のあられもない姿にシスカはすぐに駆け寄り、急いで服を直し介抱するように顔を優しく撫でていた。さすがメイドだけあって手際が良い。

 そういえば、その『何者か』がいない。もう帰ってしまったのか?

「ん?」

 その時、俺の横をものすごい速さですり抜けていく。まるで獲物を見つけた獣のように一直線に駆け抜け、無防備なシスカに……、

「ひゃうっ!?」

 背後から胸を鷲掴みにした!?

「メイドさん拾ったああああああ!!」

 その直後の光景はまるでスローモーションのようだった。シスカは『何者か』もといおっぱいハンター由衣の左腕を掴むと、ふわっと宙を浮かんだかのようにすっ飛ばし、

「ぎゃっ!?」

 俺の方に激突し気絶してしまった。

「女の、子……?」

 ……………………。

 10分ぐらいたち由衣が目を覚ますと、膝枕をして看病していたリディアが安堵の溜息をついて満面の笑みをこぼした。

「よかったぁ、気が付いたんですね!」

「できればそのままそのおっぱいに潰されて死にたい……」

「おっさんみたいなこと言ってんじゃねえよ」

 俺の声に気付くと、由衣はゆっくりと起き上がる。少し痛みが残るのか、背中をさすりながらこっちを見た。

「ミコトもう帰ってたんだ。あれ、わたし何でリディアちゃんに膝枕されてるんだっけ?それにさっきメイドさんに……」

「ああ、それなら……」と俺は由衣の足元に目を向けた。続いて由衣も自身の足に目を向けると、そこには少し不機嫌ながら彼女の生足に頬摺りをしているメイドがいた。

「…………」

 明らかに由衣はリアクションに困っている。一応説明しておくが相手の足に抱きついて懇願するのがコイツらの星の謝罪の仕方なのだ。特にこの頬摺りは最高ランクらしく、状況を知った主人のリディアはすぐにこのように謝罪するように命じたのだ。

 そしてこの光景に至るのである。

 侵略する側の宇宙人が侵略される側の、何の権限もない普通の女の子に膝枕をし、足をすりすりしている。

 これはまさに、

「ねぇ、これなんてハーレム?」


 どうでもいい話だが俺たちが家に着く前、由衣は俺の家のリビングでリディアから侵略についての内容を聞き出していた。ちなみに言うと由衣はうちの手伝いもするので合い鍵を所持しているのである。

 一緒にいた筈のスギはというと……、どうせどっかで抜け出したのだろう。

 さて、本来侵略について教えるべきではないことは重々承知していたが「手伝うわ」とうまく口車に乗せられ、さらっと内容を教えてしまったのである。しかし、ちゃんと教えた筈なのに由衣は落胆しその矛先をリディアの豊満な胸に向けたのだ。

「やめてください!ひゃあ!?」

「この胸が!この胸がぁ!!」

 胸を襲撃したのは置いといて、由衣を落胆したのは他でもない。侵略する内容があまりにもあっさりとしているからだ。なんせ、思い出を作るだけなんだから……。

「UFO襲来は?ラ○トセイバーはぁ……?」

「あの、この者はわたしどもの計画に好意的と捉えていいのですか?」

 そう捉えてもらうのもまた困りものだがとりあえず「うん」とだけ答えとこう。

「それで、アンタなにメイドさん拉致ってんのよ」

 ここでやっと由衣が本題の質問をしてきた。しかし俺を見る目がめちゃめちゃ怖いんですが……。

「いやその、学校に携帯取りに行ったらメイドさんに襲われて、なんだかんだで倒しちゃいまして……」

「シスカ!ミコトさん襲ったってどういうことですかっ!?」

 あ、リディアが怒った……。

「申し訳ありません、ですがお嬢様が今朝この不埒な輩に襲われているのを見て、いても立ってもいられず……」

「あれは、あれはわたしが寝ぼけて……コホンッ!とにかく、一緒に来てることも驚いているのに恩人であるミコトさんを襲うなんて、めっ!ですよっ!!」

 と、人差し指をシスカの眉間辺りに押し付け、ちょこんと押した。

「さてっ!というわけで皆さん、わたしのメイドをやっているシスカです。根は優しいので仲良くしてくださいね」

 そうニコッと俺たちに微笑みながら紹介し……えっ!?あれで説教終わり!?

「そうだったの、わたし由衣。改めてよろしくね」

 俺の不満などどうでもいいように由衣はコロッと態度を変え、キラキラした目でシスカに挨拶していた。

「ねぇ、メイドを雇ってるってことはリディアちゃんて実はすごいお金持ち?もしかしてお姫様!?」

 発想が短絡的過ぎるが俺もそれは気になっていたので聞いてみる。

「えっ?わたし普通の身分ですよ?ひょんなことからシスカと一緒に暮らしているんです」

 え~~、ひょんなことでメイド雇えるのかよ。なんて気持ちはさておき、ガチの細剣を振り回すようなこんな凶暴な女をリディアはどうやって手懐けたのだろうか。

 何気にリディアってすごい……いや、アイツの言う通りホントにひょんなことに思えてきた。

「ミコト様、先程は大変失礼致しました。お嬢様の恩人とは知らず……」

 と、改めて恭しく俺に頭を下げるシスカ。

「いいよ別に……」なんて言う刹那、俺の耳元に顔を寄せ、

「これからも、お嬢様の下僕としてしっかり働いてくださいね……」

「てめっ……!?」

「おお、おまえたちもう帰っていたのか」

 と、ちょうどいいタイミングで親父が帰ってきた。何やらでかい買い物袋を何個も抱えて。

「おっ?ミコト、新しい友達か」

 さっき俺を下僕と仰ってましたが?そんなことさておいて、シスカはメイドよろしくスカートを横に広げ恭しくお辞儀をした。

「初めまして、リディア様のメイドをやっているシスカと申します。今日からこちらでお世話にならせていただきます」

「ま、待てよっ!?俺はまだいいって言ってな……」

「いいんじゃないか?リディアちゃんと同じ部屋になっちゃうけど大丈夫かい?」

 うお~いフリーダムすぎるぜ親父~。

「はい結構です。その方がお嬢様に悪い虫が付かないですし」

 と、笑顔を見せつつ俺をギッと睨みつけた。やはり矛先は俺に向いていたか……。

「それで、その大荷物はなんですか?」

 と、リディアは不思議そうに親父の大きな荷物を見つめていた。まぁスーパーのビニール袋という時点で大体何なのか察してはいたが。

「ああこれかい?せっかくだからリディアちゃんの歓迎祝いでも開こうと思ってな。昨日はバタバタしてロクにおもてなし出来てなかったから。あ、由衣ちゃんも食べてってな」

 と、キッチンの台でおもむろに食品を取り出す。ナスやキュウリなどの夏野菜を揃え、この家で初めて見た鯛をドサッと出した。こんなもん捌けるのか?と思うが、親父は若い頃に調理師の免許を取るほど料理についてはとことんこだわる人だった。宮司を継ぐからにはもてなしぐらいできなくてはと変な気合いが入ってたぐらい。ちなみに母親は家事についてはからっきしで、殆ど親父に任せっきりだった。

 さて、親父が料理人の目になって取り掛かったところで由衣がどっからか取り出した大きな紙とサインペンをテーブルにバンと置いた。

「ということでっ!第一回この夏休みを使ってリディアちゃんたちに素敵な思い出を作ってあげよう会議~~!!」

「わ~~~」と多分意味もわからず一人拍手で盛り上げているリディア。

「おほん!諸君、我々は今地球の危機に瀕している。突如地球に上陸した宇宙からの侵略者、リディアうんちゃら……から我々に『この星で妾を楽しませよ!さすれば貴様等愚民どもの命、奪わんでもないぞよ』と試練を突きつけられた!反抗すれば壊滅、しなくてもどうせ奴らの物、こんな不条理な要求に打ち勝つためにはどうすれば良いか!答えは一つ、彼女を籠絡するのであ~る!」

 それを侵略者本人の目の前で言ってるのであ~る。

「まぁ十分おっぱいを籠絡したからいいとして、夏休みなにする~?」

「は~い由衣さ~ん、単刀直入に言ってくださ~い。宇宙人サイドが軽く引いてま~~す」

 見ると俺の傍らでリディアが袖を掴んでふるふると震えていた。これ以上揉まれたくないという恐怖心からだろう。

「わ、ワタシソンナコトイッテナイデイス……」

 しかも何故かわざとらしいカタコトになってるし……。

「心配しないでリディアちゃん、わたしたちは単にあなたたちと楽しみたいだけよ。それに、みんなでやったほうがいいレポートも書けると思うわ。だから、いい加減居合い斬りの構えをするのやめてくれない……?」

 ちらと、無駄のない居合い斬りの構えをするシスカに問いかけた。

「そういや、課題に期限とかあるのか?長かったらそんな詰め込まなくてもいいし」

 これまでずっとバタバタしていたせいで結構大事なことを忘れていて、今になってやっと切り出すことが出来た。どうせ宇宙的観点だから百年とか大それた時間軸なんだろう。

「そうですね、この星の時間の流れで計算すると・・・・・・」

 と、空間にスクリーンを出すという宇宙的な画面を映し出すと、並べられた文字をまじまじ見つめながら……、

「3283252……」

 おおっとぉっ!?予想外にでかい数字が出てきたぞぉ!?

「……秒ですね」

「秒かよ!?」

 いや待てよ、それってつまり時間がないってことだよな。確か、一日を秒数に換算すると60×60×24だからえ~っと……、

「9月1日午前0時」

 ふと、由衣が呟いた。

「マジかよ、じゃあ本当にこの夏休みが……」

「えっ?どういうことですか?」

 唯一意味のわかっていないリディアは首を傾げたままだった。

 あまりに、あまりにも期間が短すぎるじゃないか……!?こんな短期間で俺たち地球人が好転するなんてできるわけがない。実のところ短くて一年、長くて俺らが生きている間とか考えていたのでその心の準備が出来ていなかった。

「この夏休みが、タイムリミット……」

 バンッ!!

「燃えてきたわっ!!」

 呆然としている俺を感化するように由衣が机を叩きつける。

「短いならそれで結構っ!今年の夏はこれでもかってぐらい思い出作りまくるわよっ!ほらミコト、あんたも怖じ気づいてなんかいないで色んな計画しなさい!」

「お、怖じ気づいてなんかいねえよ!よしリディア、いい思い出いっぱい作るぞ!」

「えっ?お、おーー」

 一番要であるはずのリディアが地球人に乗せられて侵略を進める。あまりにも滑稽な構図が出来上がっていた。

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