第十話2
「何やってるんだいあの二人……」
「お嬢様曰く、最高のデートシチュエーションらしいです」
お嬢様たちと駅で分かれ、わたしシスカはあらかじめ呼び出していたスギと待ち合わせをしていた。彼が駅に到着して早々あのお二人の様子を見て軽く顔が引きつっていた。
「デートシチュエーション……。どう見てもゲリラ演劇にしか見えないんだけど」
「お嬢様がいきいきしていればわたしは何も言うことはありません。それに今のお二人のやりとりもバッチリ録画しています」
「シスカちゃんも楽しそうで何よりだよ。それより、お嬢様のとこに付いていなくてもいいのかい?」
「ご心配なく、お嬢様から「シスカも今日は楽しんで」と言われましたのでわたしはわたしで楽しもうと思います。もちろん付き合ってくれますよね?スギ」
「ああ、シスカちゃんの頼みならうちは何だって受けてあげるよ。それで、行きたいとことかあるかい?」
「それなんですが」とわたしは懐からすっとある本を取り出した。それはお嬢様が持っていた少女マンガの別の単行本である。
「えっ、まさか……」
スギは何かを感じ取ったのか、一歩後ずさった。
「はい、わたしたちもこのシチュエーションをやりましょう!特にこの、カンランシャ?という乗り物に乗ってるシーンがオススメなんです!」
と、わたしは彼の腕を掴み一番お気に入りのカンランシャデートのページを見せてあげた。
「あ、あ~~そういえば最近観たい映画があって~……」
「行きましょう遊園地!今から行けばちょうど開園時間ピッタリです!」
わたしはつい気持ちが高揚し腕を掴む力が強くなり、そのままぐいぐいっとスギをその遊園地に向かうバス停へと引っ張っていった。
「ちょ、待って!うちだって心の準備が!?あ~~~~~……」
さて、あの後も俺たちの茶番劇は10分ほど続き(それでもとても長く感じた……)、早速リディアの行きたい場所に移動することにした。
「それにしてもいいのか?最終日が高崎の街で。てっきり東京とか、思い切って世界中に連れ回すのかと思ったぞ」
「それも少し考えていたんです。テレビで見るキラキラしたお店とか流行とか気になっていたんですけど、やっぱり最後はお世話になったこの街で思い出を作りたいなって思ったんです。でも南極ってとこのペンギンさんには会いたかったなぁ……」
てことはもし世界旅行だったら俺はこの格好で南極に飛ばされていたのか……。そう考えるだけでぞわっと寒気がした。
「そっか、それとそのマンガみたいなことをしてみたいと」
「そうですっ!これまでミコトさんたちに色々な場所や色々なこと教えてくれましたけど、実際にどういう風に過ごしてるかってわかっていなかったんです。だからわたしなりに擬似体験みたいな感じで楽しめればと思ったんです」
リディアもリディアなりに考えているみたいだ。確かに今は夏休みだけあって学校生活や放課後の楽しみなんて体験できない。ならば少しでも休日の学生の過ごし方を味わおうって考えたわけだ。
「そろそろ10時になるしすぐそこのショッピングモールで買い物でもするか」
「あ、はい!ちょうどこのマンガでもそんなシーンありますし!」
西口を出てすぐのところには白く巨大なショッピングモールがある。アパレルはもちろん、雑貨やフードコートも揃っており、若者のデートコースの定番だ。実際俺たちもよく学校帰りにそこに寄って服を見に行ったりしている。
でもさすがにそんなところであの茶番劇はやりたくないんだけど……。
「それにしても、ここに売っている服ってわたしたちが着てる服よりずっと生地が厚いですよね?こんなの着て暑くないんですか?」
ショッピングモールに入って彼女の目に留まったのは秋物のコートが飾られたショーウィンドウだった。
「ああ、もうすぐ秋だからな。もうこの時期になれば秋物の服に変わるんだよ」
「アキ……?」
と、リディアが不思議そうに首を傾げる。そうだ、夏しか知らないからわからないのも当然だ。
「そう秋。今よりも大分涼しくなって季節の中で一番過ごしやすいんじゃないかな。それに俺たちが行ったあの山も赤色に染まるし、おいしい食べ物も多くなって、あっそうそう!10月には文化祭が……!」
言い掛けてふと我に返った。そうだ、リディアにはこの先の景色を見せられないんだった。
「わたし、その秋という季節見てみたいです!」
「えっ?」
「だって今とまた違う景色になるってすごいじゃないですか!タルーヴァじゃそんな現象起きないんですもん!あの、確か前に他にも変わるとか言ってましたよね?」
リディアは見ることの出来ないこれからの四季に落胆するどころかすごい興味を持っていた。そうだ、まだ不可能だって決まった訳じゃない。俺が頑張ればきっと、この先の景色を一緒に見れるはずだ!
「そう、秋が過ぎれば冬っていう季節に変わるんだ。そうすると空から雪が降って街が真っ白な世界になるんだ。そしてその雪が溶けると今度は春になる。春になればあの河原の木にたくさんのピンク色の花が咲き乱れるんだ」
「へぇ~~っ!この星って時期によってそんなに変わるところだったんですね!これもレポートで書かないと!」
「ああじゃんじゃん書いちゃえ!地球はこんだけすげえって教えてやれ!」
俺は何を恐れていたんだろう。リディアがこんなにポジティブに考えているのにくよくよしてる場合じゃない。一つでも可能性があるなら前向きに考えるしかない!
「それでミコトさん、あのコートちょっと着てみていいですか?」
「あ、ああ。俺が取ってやるよ」
と、リディアが選んだのはブラウンのチェスターコートだった。生地も少し薄目で秋から冬の始まりぐらいまでは丁度いいだろう。
「あ、確かに温かい!それに、フフ!すごいかわいいですっ!」
リディアは鏡に映る自分の姿に嬉しくなってくるっと回った。
「これ、すごいかわいいです!他にもあるんですか!?」
と、リディアは食い気味に聞いてくる。そこにすかさず女性店員さんが近づき、リディアにオススメのコーデを持ってきた。
「お客さんすごいスタイルいいですからこれも絶対似合うと思いますよ!あ、これもいいかもっ!こっちもいかがですか!?」
普段こういう店員さんにはあまり抵抗ないが、久々にこれでもかってぐらいグイグイ迫ってくるので「おおぅ」とついたじろいでしまった。
「これもですか!えっこれも!ふぇっ!?み、ミコトさ~~ん!?」
リディアは女性店員さんの圧に押され、取っ替え引っ替え色んな秋物を着させられていた。
そんなこんなで結局リディアは最初に着たブラウンのチェスターコートを買った。次帰ってきた時困らないようにと彼女は言ったが、俺はつい作り笑顔をしてしまう。
「ミコトさん、どうしました?」
「あ、いや。次行こ!次!」
あぶない、リディアに心配させたままタルーヴァに行かせるわけにはいかない。気をつけないと……。




