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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第九話
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第九話5

 遠くの方でやけに女の子たちが騒いでるような、まあ夏休みだしいつものことか。

「ねえねえミコト!わたし観たい映画あるんだけど観に行かない?」

「お前が映画なんて珍しいな。んで、何が観たいんだ?」

「ん~~っと、これ」

 と差し出された携帯の画面には今話題の若手俳優が主演のラブストーリー映画だった。

「へ~~。由衣でもこんな恋愛映画興味あるんだな?」

「ちょっと~!わたしだって立派な乙女心の持つ女子高生なんだからこれぐらい興味あります~」

「乙女心持つ女子高生が宇宙人にセクハラなんてしないっての」

「それとこれとは話は別よ。あっ見て!次の回あと20分後ぐらいにやるみたいだから行きましょ!」

 俺は由衣に手を引かれながらすぐそこの映画フロアまで駆けていった。

 やはり夏休みだけあって大分席が埋まっていた。カップルで来た人もいればその主演俳優目当てで来た女子高生たち、さらにはヒロイン目当てで来た男性客もちらほらいた。

「うわぁ、やっぱりカップル多いな」

「いいんじゃない?端から見ればわたしたちだって立派なカップルなんだし」

「お前そういうとこよくあっさり言えるな」

「少しぐらいその気にさせなさいよ……」

「何か言ったか?」

「ううん、何でもない。あ、もうすぐ始まるわ」

 フロアの照明がすぅっと光を落とし真っ暗になる。その時由衣の手がそっと俺の手に重なった。

 由衣……?

 俺は問いかけようとしたがすぐに映画が始まったのでそのままストーリーに集中することにした。

 物語はとある高校が舞台、いつも引っ込み思案で教室では大人しいタイプのヒロインと学園のアイドル的な主人公がたまたま委員会で一緒になり、ひょんなことから恋が始まり、そして紆余曲折し最後は結ばれる。テレビで紹介された時ざっくりとストーリーは聞いていたが、予想通りの定番な恋愛ストーリーだった。

 最初はアイドル的な主人公という点で少し抵抗感はあったが次第に感情移入し、最後にはついほろっと涙がこぼれてしまった。俺としたことがこんな恋愛ストーリーに泣いてしまうとは……。

 ちらと隣に目を向けると由衣も静かに涙を流していた。

 コイツもこういうの観て泣いたりするんだな……。

 エンドロールが終わり室内が明るくなる。ふと目を合わすと互いに目が真っ赤になっていたことに気づいた。

「ぷっ!アンタ目が真っ赤!」

「そういうお前だってめっちゃ泣いてたじゃねえか」

「わ、わたしはいいのよ!元々この作品読んでたし!」

 それどんな言い訳だよ……。

「でも、もうちょっと頑張ればわたしもあんな恋愛できるのかなって思っちゃった。そしたら何か涙出ちゃって……」

 由衣……。

「ん~~~っ、何かいっぱい泣いたらお腹空いちゃった。確かここの一階に美味しいパスタのお店あったわよね?そこ行きましょ!」

 由衣はぐ~~っと背伸びをすると、俺の手をぐっと掴み一階にあるというパスタ屋まで誘われた。


 由衣先輩たちが映画館に入ってくのを見て、わたしたちも後を追っていた。へぇ~、由衣センパイってこういう映画も観るんだぁ。今度一緒に遊び行くときチェックしとこ。

 とまあ今人気の恋愛映画を観てきたけど、ちょっとありきたりすぎてな~んか消化不良な感じだった……。

「う~ん、な~~んかありきたりなストーリーだったなぁ。タチバナくんはいい演技だったけどヒロインがちょっとねえ……ってあなためっちゃ号泣してるじゃない!?」

「う~~~~……お二人とも幸せになってホントに良かったです~~。この星の人のお話ってどれも素晴らしいですね!」

 と、わたしの横でリディアさんはうるうると涙を流しながら映画の感想をしみじみ語っていた。こんな定番な恋愛ストーリーでもこの娘にとっては新鮮なのかもしれないのだろうか。

「え、ええ……。とってもいいお話でしたね。リディアさんってこういう恋愛ってどう思います?」

「すっごい憧れます!!朱里さんが言っていたことの意味がよくわかりましたっ!!」

 と、食い気味にわたしに迫ってくる。圧が強い……!?

「そ、そう。わかってくれたようで何より……」

 あれ?もしかしてこの娘に余計な情報吹き込んじゃった?

「あ~、わたしもミコトさんたちと同じスクールに通いたかったなぁ。そしたらきっとああいう風な恋愛ができたかもしれませんね」

 そうだ、リディアさんは確か夏休みの間だけこっちに来てるんだっけ。もし一緒の学校だったらどうなっていたんだろう……。

「ねえ、リディアさんはもし……」

「あっ!!お父様との約束の時間とっくに過ぎてました!?朱里さん、今日は本当にありがとうございました!またお会いしましょうっ!!」

 と、わたしが言い掛けたところでリディアさんは大きく手を振りながら颯爽と駆けていった。

「何だか、嵐のような娘だったわ……」

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