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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第九話
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第九話4

 急遽二人っきりで買い物することになったわたしたち。そういうことは今まで何度もあるのに、手を繋いだせいかわたしの心は今最高潮にドクドクと震えていた。

 それを何とか隠そうと、わたしはミコトにバレないように空いている手で自分の太股あたりをつねり、何とか平静を保とうとしていた。

「そういえば、アンタと買い物するのって久しぶりよね」

「ああ、言われてみればそうだな。たまにスギが予定合わないときとかよく買い物してたし。あそこのゲーセンとか行ってさ」

「そうそう!ミコトってUFOキャッチャーすごい下手で軍資金全部使っちゃっておじさんに怒られてたわよね」

 そう、中学生の頃UFOキャッチャーの景品取るのにミコトがムキになって全額使ってしまい、欲しかった服とか買えず凹んでいた。しかも結局その景品取れてなかったし……。

「む、昔の話だろ!?あん時はもう少しで取れそうだったのに……」

「そう?わたしの記憶だとかすりもしなかったわよ?」

「うっ……。じゃ、じゃあ久しぶりにリベンジして前言撤回させてやるよ!」

「ふっふ~ん。また全額なくならないようにせいぜいがんばりなさ~い」

 と、わたしはぷぷぷと笑いながら煽ってみせた。この前の高崎まつりでもミコトのやつ、射的がからっきしダメだったしね。

「で、どれ狙うの?難易度低いやつ?」

「お前の欲しいやつでいいよ。どれがいい?」

 な、何よ。随分余裕ぶって言ってくるじゃない。

「えっ……?えっとじゃあ、あれがいいな」

 と、わたしが指さしたのは真っ白くまん丸なウサギのぬいぐるみだった。

「これって確か最近流行ってる『うさぴょい』だっけ。あれでいいのか?」

「う、うん。この前テレビで見てね、ちょっと気になってたの」

 正直どれでも良かったけど何となく目についてかわいかったから選んだ。

「オッケー。絶対リベンジ果たしてやるから見てろよ?」

 ミコトはおもむろに財布から百円玉五枚を台に置き、「ふむ」と少し考えてから百円を一枚投入した。

 標的は穴のすぐ隣に一体いる。見たところヒモなどなく、引っかかるとしたらまん丸な体に唯一付いている長い耳しかない。これをうまく利用して、いかに持ち上げるか。

 まずは様子見の一回目、最初はアームの力を確かめるべく標的を掴んでみた。あ、これ意外に力強いかも。よくあるよわよわな設定ではないみたい。

 とりあえずこれは試し、2回3回とずらしてうまく落とせるように、ってあれ?そのまま普通に持ち上がって、あ……。

 がたん。

「ウソ!?」

 何と、一発目であっさりゲットしてしまったのである。あの不器用なミコトが、こんな軽々とぬいぐるみをゲットしてしまった!?

「どうよ、俺だってちょっとは成長してるんだよ」

 と、ミコトは得意げにぬいぐるみをわたしに手渡してくれた。

「すごいっ!!アンタいつからそんなにうまくなったの!?全然迷いなかったじゃない!!」

「ああ、まあ……実はあの時からずっと悔しくてみんなに内緒で練習してたんだよ。だからこれだけはうまくなったんだ」

 ミコトは少し目を逸らし照れくさそうに話す。そういえばミコトって、たまに一つのことに没頭するクセがあったんだっけ。

「それにさ、この前また由衣に怖い思いさせちゃったから、喜ばしてあげたいなぁって。これで許してもらえるか?」

 やっぱりミコトはこの前のことを気にしていたみたい。怪我したわけじゃなかったけど、突然知らない誰かに気絶させられたあの瞬間は今でも少し恐怖を感じていた。

「う~ん、ダメ」

「なっ!?」

「当たり前でしょ!まだ序盤なんだからこんなとこでチャラになったらつまんないじゃない。だから、今日は最後まで付き合うこと!」

「はぁ……わかったよ。ま、元々今日はヒマだったからな。最後まで付き合うよ」

「それでよろしい!さ、次行くわよ。そろそろ秋物欲しいと思ってたの」

「お、おいっ!まさか全部奢らせるつもりか!?」

 な~んてミコトを茶化しながらわたしたちは別のフロアに移動していった。


「もう、どうしてこんなことに……」

 わたし、田村朱音はミコト先輩のおじさんに頼まれて急遽親戚のリディアさんと一緒にフロアを回ることになった。

 そして今、二人こうしてバナナイチゴ&タピオカレインボークレープを頬張っている。

 自分で選んどいてなんだけどこれ、色々味が渋滞してる……。けれど、

「これおいしいです!バナナの甘さにイチゴの酸っぱさがうまく交わったと思ったら最後にタピオカの食感が楽しくて今までにない感じです!」

 と、周りに星が瞬いてるかのようにキラキラした笑顔で見事にどストレートな感想を述べていた……。こんなのでもこんなに喜んでるなんて、きっとこの娘は普段から純粋なんだろう。

「よかった~!ここのクレープ屋さんよく食べに来ててホントオススメなんです~。あ、そういえばリディアさんって出身はどこなんですか?せっかくお友達になったから色々知りたいな~って」

「そういえばまだちゃんとした自己紹介ってしてませんでしたよね。わたし、ここからすごい遠くにあるタルーヴァっていうとこから課題のために来たんです」

 たるーば?どこかの国の都市の名前かな?そんな名前の都市聞いたことがない……。

「ふ~ん、その課題の関係で進藤先輩のとこに居候してるんだ?」

「そうなんです。この星に一人で来て右も左もわからないわたしにミコトさんはすごい優しくしてくれて、それに皆さんにはホントに感謝してるんです」

 と、はつらつとした手振りで彼女は説明してくれる。『星』っていう単語が少し引っかかるけどきっと彼女の言い間違いだろう。やっぱりこの娘は進藤先輩の従姉妹で、わたしの思い違いだったのかな?試しにちょっと鎌掛けてみよう。

「そ、そうなんだぁ、進藤先輩優しいんだね。リディアさんは進藤先輩のこと好き?」

「はいっ!愛してます!!」

 うわっ眩しっ!?めっちゃキラキラした顔で即答した!?

「えっ?愛してるって……?」

「はいっ!恋してます!!」

 うわもっと眩しい!?えっこの娘進藤先輩のことやっぱ恋愛的に好きなの!?

 わたしはこの予想外すぎる彼女の主張の仕方に脳が追いつかず、ついくらっと立ちくらみをしてしまった。

「だ、大丈夫ですか朱里さん!?」

「大丈夫……あまりのあなたの清々しさに立ちくらみ起こしただけ……。へ、へえ。そんなに進藤先輩が好きなんだ。どんなとこが好きなの?」

「あのですねっ。わたしがタルーヴァに強制送還されそうになっても体を張って守ってくれたり、皆さんやこの街が悪い人によって壊滅の危機に陥っても迷わずに立ち向かっていったり、とにかくそばにいてこんなカッコいい人はいないと思ったんです!」

 何そのSF映画みたいな話!?進藤先輩この夏休みに何があったの!?

「へ、へ~そうなんだぁ……。夏休み中にそんなことあったんだねぇ」

「朱里さんは好きな人っているんですか?」

 と、リディアさんはぐいぐいにわたしに質問を投げかけてくる。

「えっ、わたしはその……由衣センパイが……」

「由衣さんが……ああ!だから昨日あんなにべったりだったんですね!」

「そんなでかい声で言わないでよ!?……恥ずかしいじゃない」

「どうしてですか?好きな気持ちがあるってすごい大事なことだと思いますよ?わたし、今までそういう気持ち知らなくて、ここに来て好きという気持ちを教えてくれたんです。だからわたしはミコトさんも好きですし由衣さんのことも好きですし、この星で出会った皆さんが大好きなんです」

 好きな気持ち……。

「ぷふっ、リディアさんて面白い人!でもそう ね、好きな気持ちを恥ずかしがってちゃいつまでも前に進めないしね」

「はいっ!だからわたしはいつでも自分に正直にしてます!」

「そう、大事ですよね。わたしもこの気持ちに正直になってみようかな」

「そうですよっ!それが大事です!」

 と、リディアさんはわたしの両手を握ってくれる。そうね、もっと自分に素直に……ってあれ?なんか彼女のペースに乗せられて何か忘れてるような……。

 …………あ、

「あ~~~~~~~~!?」

 そうだった、彼女のペースに流されてすっかり忘れてたけどわたし今、由衣センパイと進藤先輩をくっつけさせる作戦の最中だった!?

「ど、どうしたんですか!?」

「あ、いや~その・・・・・・、大事なこと思い出したなぁ~~って」

「それってさっき言ってた『由衣さんを幸せにしよう作戦~~』のことですか?」

 やっぱりバレてた!?でも進藤先輩と一緒のとこを見られなければ……、

「あっ、ミコトさんと由衣さん」

「ふぇっ!?」

 振り返ると遠くにあるゲームセンターから二人が出てくるのが見えた。

「あ、あの……あれはね、その……」

 まずい、この状況をリディアさんに見られてしまった……。このまま皆さんの関係が悪くなったら……。

「由衣さんも隅に置けないですねぇ。しっかりデートやってるじゃないですかぁ」

 …………えっ?

 どういうこと?この娘ショックを受けてるどころか感心してる。

「えっ?リディアさんは由衣センパイの恋のライバルじゃないの……?」

「そうですよ。ちゃんとこの夏休みまでに勝負しようって決めたんです」

「じゃあどうして!?ライバルに彼氏取られて悔しくないの!?」

「あはは……、そう言われるとそうなんですよね。さっきも言ったとおり今まで恋愛についてあまりわかってなくて、皆さんの考える普通の恋愛って何だろうってずっと思ってたんです。この星のビジョンで少し学んだんですが、どうしても相手とケンカしたり奪い合ったりで、それが本当に幸せになれるのかなって考えてたんです。確かにミコトさんは誰にも渡したくない。でもそれで由衣さんを傷つけたくない。わたし、皆さんが幸せにできる方法をつい探したくなるんです」

「……そんなの、わがままじゃない」

「わがままですね。でも方法がないわけじゃない。だからわたしはそういう道を選んだんです。あ、もちろんこのことは二人には秘密ですよ?」

 と、彼女は人差し指を口に当て「し~~」のジェスチャーをした。

 ああ、この娘は優しいんだ。優しいからそんな道を選んだのだろう。

「あなた、きっと後悔するよ?」

「そうですね……。でもこれもわたしが選んだことなんで」

「あっそ、じゃあわたしからも一つアドバイスしてあげる。あなたが考えてるほど恋愛っていうのは優しいだけじゃ幸せになれない。色んな人といっぱいぶつかって対立して分かり合って成り立つものなの。ってわたしもそんな恋したことないんだけどね」

「ぶつかって分かり合う……」

「あなた、進藤先輩と付き合いたいならもっと積極的になった方がいいわよ?今のあなた見てるとなんか一歩引いてるみたいな感じで嫌なの。……って!別にあなたを応援してるわけじゃないんだから!?」

 気が付くとわたしは彼女を応援してしまっていた。ただこの娘は優しすぎるからどうしても心配で……。

「フフ、ありがとうございます。わたし、もっと積極的に頑張ってみますね!」

「だから~~!」

「ほら、早くしないと見失ってしまいますよ?」

 そうだった!この娘の恋愛相談のせいでつい本題を忘れるところだった!?

「あ、ちょっと待ちなさいよ!?リディアさん!!」

 そしてわたしたちは引き続き、遠くから由衣センパイと進藤先輩の様子を監視を続けた。

「ところでなんですけど」

「何よ?」

「ずっとミコトさんたちを観察してますけど、何か策があるんですか?」

「フフ、知りたい?」

「はい……」

 と、数秒間互いに見つめ合いわたしが出した答えは……、

「ない」

「え~~~~~っ!?」

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