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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第一話
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第一話6

 彼を監視していた追跡カメラが部屋を突き止めたが、中に入れず立ち往生したままになっていた。

「悪足掻きもこれぐらいにしてください。お嬢様にした非礼、償ってもらいます!」

 と、彼女はバン!と勢いよくドアを吹き飛ばす。そこにはマントを羽織り、白い仮面を付けた彼が立っていた。

 これは、何のマネだ?

「我は黄昏を抱く剣士、あの娘を救いたくばこのわたしを倒したまえ」

 と、変なポーズを決めながらやけに低い声で言う彼につい呆れてしまった。

「何をやりたいのかよくわからないですが、死ぬ準備はできたようですね」

 柄を握り、一瞬で彼の目の前に迫ると首を跳ね上げた。

 ドサッ。

 静かに落ちた首は彼女の足下に転がった。

「呆気ない、少しは骨のあるヤツかと思いましたが……」

「骨のないヤツで悪かったなっ!」

「なっ!?」

 ダミー!?

 気付く頃にはもう防ぎきれなかった。物陰に隠れていた彼はシスカに飛び込み、弾みで覆い被さるように倒れ込んだ。

「へにゃあ!?」

 ドタンと倒れ込んだ瞬間、部屋に可愛らしい悲鳴が響いた。

「ふにぅ……」

 痛っててて……、あれ?痛くない。

 目を開けると顔に当たっているクッションらしき二つの山が俺を優しく抱擁している。おっと待て待て、この展開はかなりまずいぞ……!?

「ううぅ……」

 恐る恐る彼女の顔を向くと涙目になりながらこっちを睨んでいた。

「あ、あのな。そんなつもりじゃなくてな……」

「いやあああああああ!?」

 物凄い悲鳴を上げながら彼女は俺に裏拳を喰らわし、壁へ吹っ飛ばした。

「ふ、不可抗力だっ、て……」


「さ、さっきは悪かったから」

 少し落ち着いたところで完全に戦意喪失しうずくまっているシスカに話しかける。アイツの細剣は物騒なんで俺の後ろにほっぽいておいた。

「うぅ……こんな星のヤツに屈辱を受けるなんて……」

 と、そばに転がっている石膏像に仮面を貼り付けた首を突っついていた。

 ちなみにダミーは胴体だけのマネキンに服を着せ、首に石膏像を付けただけの簡単なものだ。まさかこんなにうまくいくとは思わなかった……。

「あ、あのさ。別に俺はそんな気じゃ……、じゃなくてぇ!なんで俺を襲ったんだよ!」

「貴様、お嬢様に手を出したではないか」

 ああ、確かずっと監視してたって……。

「あ、あれはアイツが寝ぼけて襲ってきただけだろ。俺はむしろ被害者だ!」

「…………そうなのか?」

 と、目を丸くしながら俺を見る。

「まあ良い、このわたしを倒したのだからその話、信じることにしよう」

 なんだコイツ、メイドなのにメチャメチャ態度がでかいんだけど……。

「だが、我々のことを知ったからには貴様等を放っておくわけにはいかない。お嬢様のためにも不都合が生じた場合、容赦なく切り捨てる」

 そのお嬢様がほとんどバラしたんですが……。

「悪いけど、そんなことお嬢様は望んじゃいないぜ?」

「なに?」

「確かにお前らのその課題は秘密裏にやらなきゃいけない。そりゃ俺が宇宙船のハッチを開けちゃったのは想定外だったろうけど、アイツは俺に出会えたことをホントに嬉しがってた。初めて他の星の友達ができた!って喜んでた。何もわからないこの星に独りぼっちで過ごすのがどんなにつらくて心細いか、アンタにもわかるだろ?」

 言いながら脳裏にふとリディアのあの時の笑顔が浮かんだ。たまに心配になるぐらい無垢なあの笑顔を。

「友達が出来た、ですか……」

 そして何か納得するとシスカは砂を祓いながら立ち上がり、俺に向かいそっと微笑んだ。

「そういえば、まだ貴方の名を聞いていませんでしたね」

「えっ?ミコト、進藤尊だ。よろしくなシスカ」

「はい、お嬢様の下僕としてしっかり働いてもうらいますよ」

 んっ?下僕……?


 『コウコウ』というこの星のスクールから出て、シスカは終始驚かされっぱなしだった。上陸の前にある程度この星の情報は入っていたが、防護服を纏わなくても良いほどの住みよい空気、文明はかなり劣ってはいるが暮らせないほどでもない。それに、我々と姿形が何一つ変わらないこの星の生命体……。あらゆる星の生命体のデータは把握していたがどれも歪な姿ばかりで、まともに会話できる星の生命体なんて一握りあるかどうかだ。言語翻訳装置がうまくいったものの、意志疎通に関しては自分たちの力量にもよる。

「…………」

 わたしはこの星の少年(ミコトとか言ったか)にねじ伏せられたというのに、彼はわたしを咎めるどころか(胸は揉まれたが)こんな風に、

「ほら、お前も食うか?鯛焼き」

 と何やら甘い香りのものをくれた。何やら不思議な形の生き物を焼いたものみたいだが。

「そうやって、わたしを誑かそうとしても……」

「そんな気ねぇから。ほら、うまいから食ってみろよ」

 そういえばここに来てからの飲食はポットに入っている携行食のみで、この星のものは一切口にしていなかった。

 それに口に合うのかどうか、毒素成分が入っているのではないか、

 その時は……、それまでっ!

「あむっ!!」

 …………。

「もしかして、口に合わなかったか?」

 この星の食べ物は……、

「はわぁ~~!」

 とてつもなく、おいしいっ!!


 帰り際、商店街の一角にある老舗のお店に寄り鯛焼きを買うことにした。ここまでシスカはずっとむすっとした顔で俺の後を付いてきているので、機嫌直しに何かいいものでもないかとたまたま目に留まったこの店に寄ったのだ。

 それに普通の高校生がメイドコスの娘に睨まれながら後を付けられるなんて、夢のような……あまりに怪しい光景である。同じ学校のヤツに見られなかったのが唯一の救いだった。

「なんだ、そういう顔できるじゃねえか」

 緩んでいる顔にハッと気づき、すぐキリッとクールな表情に変えた。

「べ、別にこれはそういうんじゃない!ただこれが安心して食べられるものと認識してだな……!?」

 それでも彼女は動揺を隠し切れていない。わっかりやすいなぁ~。

「そっか。ま、喜んでくれたんならそれでいいや」

「わ、わたしはそんな……」

「別にさ、俺はアンタたちを敵とか思ってないから。むしろリディアが羨ましく思ってる。どれぐらい離れてるか知らないけど、こんな未知の星でただ一人頑張るなんて中々勇気いるってのにアイツは健気に頑張ろうとしてる。ちょっとぬけてる部分もあるけど」

 まあ補足すればスクール(学校)だから他にもこんなヤツらがいっぱいいるんだろうけど。

「しっかり、やっているんですね」

 と、リディアは感慨深い表情で呟いた。

「しかし、あなたも不思議な人ですね。我々はあなたたちの星の住民を殺すかもしれないのに、どうしてこんなにも優しくしてくれるのですか?」

 侵略をする。相手にとって損しか残らないようなものに何故彼はこんなに平気でいられるのか。彼女にとってそれが不思議でしょうがなかった。

「う~ん、アイツがそんなこと望まないからかなぁ。第一、ミサイルがロックオンされてる状況下で何をやっても無駄だろうし」

 と、軽く笑みを浮かべて見せた。何故、そんなに笑ってられるの……?

「それに、アイツと出会って何か変われるかなって」

 何か、変われる……?

「さてっ!話はこれぐらいにして帰るとすっか。早くしないとお前のお嬢様の身が危ないからな」

「ちょっと待て!それは一体どういう!?」

 彼女の予想通りの動揺にクスクス笑いながら残りの鯛焼きを食わえて、俺たちは夕暮れの照らす帰り道を歩いていった。


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