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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第八話
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第八話7

「ここですわ」

 そう言ってマリアに連れられて着いたのは商店街の外れにある歴史のありそうな木造の古い教会だった。

 こんなところに教会が。でもここでマリアは一体何を……?

「さ、お入りなさい。いいのを見せてあげますわ」

 と、マリアはトンっと俺の背中を押し扉の前に促す。

「なんだよ、めちゃくちゃ怪しいじゃねえか……」

「別に取って食ったりはしませんわ。早くその扉を開けなさいな」

 俺は一抹の不安を抱いたまま恐る恐る木製の扉をぎぃーーっと開けた。

 中は灯りがあるものの薄暗く、手前には何列にも並ぶ長いすが両サイドに、中央には大きな窓が光を取り込み、その手前にある十字架が神々しく感じた。

「すげえ……」

 この時ほど俺の語彙力のなさを呪った。芸術なんて今までそんなに興味がなかったので本当に美しいものを前にすると何て表現していいかわからない。……って、そんなことどうでもいい。その祭壇の前に誰かが立っていた。

 白く長い髪が光に反射しキラキラと輝く。それと相対的に服装は黒い装束、首には十字架の首飾り、この教会の牧師だろうか?

「ここの人……、じゃないよな?」

 顔を見ようにも逆光でうまく見えない。よく見るとそのシルエットは何かを抱き抱えている。

「あなたとは初めましてですね。わたしはアズールで参謀を任されているフリードと申します。以後お見知り置きを」

 俺はアズールという言葉に一瞬身じろぎをした。シスカも言っていたけど本当に仲間がこっちに来ていたのか。

「わざわざご丁寧に。そのフリードが俺に何の……、っ!?」

 俺は彼が抱き抱えてるものに息を飲んだ。それはここにいるはずのないリディアだった。

「リディアっ!?てめえ!!」

「勘違いしないでください、わたしはマリア様に頼まれて連れてきただけです。あなたも一秒でも早く彼女を救いたいでしょう?」

「……っ」

 こみ上げた怒りをぐっと堪え、ゆっくりと拳を緩めた。

「すぐカッとなる癖、直した方がいいですわよ?ご苦労様フリード、……なんですのその格好?」

「いえ、ここに来るまでに色々ありまして……」

 どうやらその牧師の服は本来の格好ではないらしい。

「一緒にいた由衣はどうした?まさか殺してないだろうな!?」

「由衣……ああ、あの家にいた女の子ですか。安心してください、彼女には少し眠ってもらいました。わたしは理由のない殺生は好きではないんでね」

 正直安心していいのか複雑な気持ちだった。初対面のアズールのメンバーにそう言われて「はいそうですか」と納得なんてできない。ましてやリディアを人質に取ってるこの状況で……。

「坊や、約束は守りますわ。さ、これで早くお姫様を起こしてあげなさい」

 と、マリアは懐から例の緑色の薬を取り出した。

「わかった、ありがとなマリア。……っ!?」

 俺が薬を受け取ろうとするとマリアは突然ヒョイっと上に上げた。

「と思いましたけど、やっぱりこの薬はもったいないのであなたにはあげませんわ」

「……は、はあっ!?」

 この期に及んで何なんだ!?こんなところまできてリディアを見捨てさせる気なのか!?

「ふ、ふざけんな!?どういうつもりだマリア!!」

 俺はマリアに詰め寄り彼女の胸ぐらを掴む。それでも彼女は憎たらしくニヤッと笑った。

「どうもこうも、やっぱりここでこれを使うのはもったいないってことですわ。だってもう既に代替品は見つかりましたし」

「……どういうことだ?」

「あなたさっき緑色の飲み物買いましたわね?あれが代替品ですわ」

 ここに来る途中、俺は喉が渇いたので自販機でペットボトルのお茶を買った。何の変哲もない、日本の有名メーカーが売ってる普通の日本茶だ。マリアにも「飲むか?」と勧めたが拒否られていた。

「何言ってんだお前、このお茶で治るなんて……。まさか、お前がさっき様子がおかしくなったのって」

「ええ、この薬と同じ副作用が起きてましたの。お陰様で今までの疲れが嘘のようになくなりましたわ」

 と、マリアは完全復活をアピールするかのようにドヤ顔を見せた。

 そういえばうちでリディアたちの歓迎会を開いた時、二人とも酔っぱらっていた感じだった。結局その時は原因はわからなかったけど、確かにあの時親父が食後のお茶を出していた。

 この二日間誰も気づかなかったのも、まさか日本で一番身近にある飲み物が正解だなんて誰も思いつかなかったからみんな選択肢になかったのだ。

「はは、そんなオチってありかよ……」

「ほら、お姫様を救うんでしょ?ぼやぼやしてないで早く飲ませてあげなさいな」

 あまりの意外な展開に危うく大事なこと忘れるところだった。俺はすぐさまペットボトルのお茶を取り出し、リディアの元へ駆け寄った。

「少し手荒な真似をしたこと、お詫びします。さあ、君の大事なお姫様を起こしてあげてください」

 と、フリードは優しく微笑みながらそっとリディアを渡した。

「言われなくても……。その、すまなかった。アンタたちの事情も知らずにあんなに怒鳴って」

「いいえ、それがわたしたちですから」

「……そっか」

 俺はそっとリディアを抱き抱え、その小さな口に少しずつお茶を流し込む。やはりすぐに効果が出るわけがなく、そっと彼女を長いすに寝かせてあげた。

「なあ、そろそろ教えてくれないか。お前らが企んでること、まさか本当にバカンスのためにこの地球にいるつもりじゃないだろ?」

「あら、いきなり何を言い出すかと思えばそんなことですの?今それを聞いてあなたはどうしたいんですの」

「場合によってはここでアンタを止める。俺の力がお前らに適わないことぐらい承知の上でな」

 まして今は2対1。歯が立たないどころか下手したら消し炭一つ残らないぐらい勝てる見込みがない。それでも俺は意を決してマリアに問いかけた。

「足なんか震えちゃって、相変わらずあなたはわかりやすい子ですわね。まあいいですわ、遅かれ早かれいずれあなたに話すことでしたし」

 と、マリアはそばにある長いすに座り、少し笑みを浮かべながら俺を見つめた。

「あなたのお察しの通り、アタシたちはシスカ抹殺の他に理由があってここに来ましたの。それはそこにいるリディアの誘拐……」

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