第八話4
「カルイザワで買い物、ですか?」
昨日の夜、ミコト様が一人で帰ってくるとそう告げてきた。明日は一人でカルイザワというところで探しに行くと。それまで一度もそんな予定を話してなかったので不思議に思っていた。
「そこに何か心当たりでもあるんですか?」
「あ……ああ、ちょっと昔行った時のこと思い出してな。もしかしたらあのお店にあるかもって思ったんだよ」
「そうですか、そんなお店がそのカルイザワってとこにあるんですね。わかりました、こちらは引き続きわたしたちが探します。ミコト様も見つけたらすぐ連絡をください」
「わかった。そっちも何かあったらすぐ連絡してくれ」
と、了解はしたもののミコト様の目は明らかに目が泳いでいて何か隠しているようでした。部屋に戻るときもやけにそそくさと逃げるようでしたし。
『それでうちに電話してきたってわけね。軽井沢かぁ、久しく行ってないなぁ』
わたしはそのカルイザワという場所が気になり、ミコト様が部屋に入った後スギに電話をかけたのです。
「そのカルイザワという場所は一体どういうところなんでしょうか?まさか、この星のあらゆる薬物の裏取引をしているアジトなんでしょうか!?」
『あんなキラキラしたとこにそんなのないよっ!?……あそこはこの時季にはうってつけの避暑地で、有名なデートスポットなんだ。そうだ、今度良かったらシスカちゃんも一緒に……』
「お嬢様がいながらデデデ……デートですか!?わかりました、明日はわたしもカルイザワに行ってきます!!」
『あ~あくまでデートスポットってだけで、みこっちゃんがデートするわけじゃ……』
ぷつっ、プープープー……。
「見損ないましたミコト様、お嬢様があんな状況の中他の女とデートとは……。これは確かめに行かなくてはいけません!?」
と言って翌朝勢いでミコト様の後を追いそのカルイザワに着いたのですが、冷静に考えてみればミコト様が子の状況で他の女とデートするわけがありませんよね。きっと彼なりの考えがあってのことなんでしょう。
わたしは彼の後を上空から追い、駅の辺りで立ち止まったのを確認すると物陰からずっと見張ることにしました。
「こんなところで……、誰かと待ち合わせしているのでしょうか」
もしかしたらその心当たりを知っている方がこの町にいるのかもしれない。であるならば問題はないでしょう、わたしも戻って薬の代替を……。
「フフ。アタシより先に来たこと、褒めてあげますわ」
この声、まさか!?
そう、ミコト様の前に現れた聞き覚えのある声の主、それはマリアだったのだ。
「どうして、マリアがここに……!?」
理解ができなかった。どうしてマリアがミコト様をここに呼びつけたのか。
まさか、ここでミコト様を暗殺!?……って自ら殺されにこんな遠いところで、しかもこんな人通りの多いところに来させるわけないですよね。ではヤツの狙いはなんだ?拉致?取引?解剖?考えれば考えるほどわからなくなる!?
「メイドが聞き耳を立てているとはあまり尊敬しませんね」
「!?」
突然背後から声をかけられ振り返ると、そこには長い銀髪の青年、アズールの参謀フリードが立っていた。
「知らないのですか?この星ではメイドというものはこっそりと主の秘密を探るのが主流だそうですよ?」
不覚でした、まさかここにフリードがいるとは思わなかった。十中八九マリアの見張りと言って良いでしょう。
「そうなのですか、わたしもこの星に関する情報がまだ疎いもので、今度教えていただきたいものです」
と、彼は少し驚いた表情でわたしを見ていた。そんな情報、お昼前に見ていたビジョンの中のお芝居の話ですけど。
「それで、あなたはマリアの護衛ですか?この星の人間相手では必要ないのでは」
「確かに、何の能力もないこの星の人間ではマリア様の指一本触れることができないでしょう。ただ、相手がマリア様を負かした相手となれば話は別です。それに、あなたみたいな人もいる可能性だってありますし」
……なるほど、わたしが不審に思ってやって来るのもお見通しってことですか。
「そんなに警戒してマリアは彼に何をしようとするのです?拉致?取引?それとも暗殺ですか?」
「いいえ、どれも違います」
「では何だというのです?」
「償いです」
「…………は?」
予想外の答えについ間抜けな声を上げてしまった。あのマリアが、償い!?
「ちょっと待ってください、意味がわかりません……」
「ですから、これはマリア様の償いためのデートなのです」
「いやいやいや待て!何でそれでデートすることになるんだ!?そもそも彼女は何の償いをしているんだ!?」
「そこまで詳しくは聞いておりません。ただわたしはそれだけを聞いたまでなので」
わたしだってマリアのことを知っているつもりではあるが彼女が償いをするなんて今まで聞いたことがない。彼女が謝るなんて想像つかないのだ。
「ひょっとして、この前の探査体とミコト様のお母様と関係が……?」
「それもあるかもしれません。ですがわたしからは何とも」
「わかりました。ミコト様に危害が及ばないのであればこのまま見守ることにしましょう。特に問題がなければ途中で帰還します」
「そうしていただけると助かります。それにあなたも主を助ける任務があるのでしょう?」
「やはりご存じでしたか。さしずめ、ミコト様はそれに関してマリアに弱みでも握られて来たのでしょう」
マリアがこのタイミングでミコト様を誘うということはお嬢様を治す方法を何かしら持っているということ。それにこれが彼女なりの償いというならばこれ以上警戒することもない。
「ではわたしは遠くから見守ることにします。それではこれで」
「あの、もしかして今日のコスイベの参加者さんですか?」
と、突然見知らぬ二人の女性がわたしたちに話しかけてきた。
「こすいべ……?」
「あっ!それもしかして『ソードオブオラトリオ』のルミナスですか!?すごいっ!!めっちゃクオリティ高いじゃないですか!!」
「えっ?あ、あの……わたしは」
「そちらの方もしかしてリュートのメイドのキサラギのコスですよね?えっちょっと二人ともやばいんですけど!!」
と、突然声をかけてきたこの二人の女性はわたしたちを見るなり興奮して迫ってきたのである。何なのだ、そのコスというのは……。
「もしかして道に迷ってたんですか?わたしたちも会場行くんで一緒に行きませんか!?」
「あの、わたしはその……!?」
わたしたちは二人の女性に圧倒され、そのままその会場まで連れてかれてしまったのである……。




