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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第八話
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第八話3

「改めて今日はよろしくお願いしますわ。って、随分顔色悪いですわね?ちゃんと睡眠取りましたの?」

「アンタのために色々プラン練ってたら朝になっちまったんだよ。少しでも楽しんでくれるためにな」

 そう、突然のこのデートの提案で俺は必死に色んなプランを練り続け、昨日はほぼ一睡もできていなかった。下手なエスコートをしたらコイツに何されるかわからない。そんな追いつめられた気持ちでいたら余計眠れなくなってしまった。

 結局、ここまで来る電車とバスの中で僅かながらの睡眠だけになってしまった。

「あら、嬉しいですわ。アタシのためにそんなに考えてくれたなんて!愛するお嬢様が聞いたらどう思うでしょうねぇ?」

「茶化してねえでさっさと行くぞ、ほら」

 と、俺が彼女にそっと手を差し伸べると、マリアは少し驚いた表情を見せた。

「どうした?」

「いえ、あれだけあなたたちを酷い目に遭わせたのにこんな気遣いされるとは思わなくて」

「なんだよそれ。……まあ正直言うとお前には感謝してるんだよ。あの怪物に取り込まれた時、中で俺の母さんに会ったんだ。母さんの記憶が怪物の中にまだ残ってたらしくてな。もしあのまま殺してたら母さんにちゃんとさよならを言えなかったかもしれない。だからお前には半分恨んでて半分感謝してる」

「感謝されても困ります。アタシはアタシのやりたいことをやっただけ。あなたの事情なんてこれっぽっちも興味ないですわ」

「そうだな。わりい、今の話は忘れてくれ」

「……あなたには辛い思いをさせてしまいましたわね」

「何か言ったか?」

「いいえ何でも。さっ、今日は頼りにしてますわ。王子様」

 そうして、俺とマリアの軽井沢デートはスタートした。まずは駅から歩いてすぐにあるアウトレットに向かい、午前中はウインドウショッピングでもしようと提案した。というか、マリアってこの星の服とかどうしてるんだろう。幼女の時のこのゴスロリファッションと大人の時のきわどいファッション以外見たことがないので、普段どのジャンルが好きなのか全くわからない……。そもそも夏にそんな厚着して暑くないのだろうか?

「そんな些細なこと、下着に付いている温度調節機能があるので何の問題もありませんわ。なるほど、この星の人間が辛そうに汗をかいていたのはそういうことでしたの」

 下着って……あのリディアが得意げに持ってたあの銀色のスライム!?あんな小さいのにそんな高性能な機能が備わっていたのか!?

「さすが宇宙技術……」

「アタシから見ればよくそんな布切れでこの気候を乗り切れてますわね。そっちの方が驚きですわ」

 と、少し汗が染み込んだ俺のシャツをまじまじと眺めていた。あとで制汗スプレーしとこ……。

「まあでも、この星のファッションとやらは以前から興味がありましたし、色々参考にさせていただきますわ」

「そう思ってくれるなら嬉しいよ。そろそろ涼しくなってくるし秋物の服も出回ってるから参考になるんじゃないか?」

 8月も中盤となり当然ファッションは夏から秋にシフトしている。ここ軽井沢は関東よりも標高が高く、下旬になれば長袖が必要な日も出てくるぐらいだ。まだ夏物ってあるのかなぁ……。

「確かにここはあの場所より少し気候が違いますわね。風が気持ちいい……」

 と、金色の髪をなびかせながら彼女は夏空に微かにそよぐ秋風を感じていた。

 これだけ見たら純真無垢な少女なのに中身は殺人鬼なんだよな……。

「さっ、買い物を楽しみましょっ!オススメのお店あるんでしょ?」

「えっ?あ、ああ。こことかどうだ?」

 と、始めに入ったのは俺がいつも寄る所謂若者向けの服屋だった。一応今のマリアのサイズの服も揃えてあるから問題ないだろう。

「ちょっと待ちなさい坊や……」

 と、店に入るなりマリアは足を止める。

「何だよ、至って普通のとこ選んだはずだが問題でもあるか?」

「ええ、かなり問題ですわ……。ここにあるの、ぜ~~~~んぶかわいいじゃな~~~~い!!」

 …………はっ?

「ちょっとちょっと待ってこれとかこのスカートにこのフリルよ!?それにアクセントに小さなリボン!そして白とピンクをうまく使い分けて、あ~~~これもすごいわ!」

 と、今までのキャラが一気に崩壊したようにコイツは子どものようにはしゃぎ回っていた。コイツ、本当にあのマリアなのか?

「お、おい落ちつけって!」

「あっ……」

 と、我に返ったマリアは俺の顔を見るなり顔を赤くし軽く咳払いをした。

「ま、まあ辺境の星のくせにデザインはちゃんとしてますわね」

「いいんじゃねえの、たまには羽目外しちゃって思う存分好きなの探しなよ」

「そう?じゃあこれとこれと、あーこれもいいですわね。あとう~ん、この色ならこの色のパンツが似合いますかしら。それともスカート?ねえ坊や、あなたならどうします?もうこの際全部買っちゃいましょうか!」

 こんな饒舌に話すマリアに俺はつい圧倒されていた。てか待て!?そんなに俺お金持ち合わせてないぞ!?

 そんなことなど全く気にせず、エンジンのかかったマリアは購買意欲にさらに火をつけた!

「フフフフフフフ……、この星最高ですわ。こんな技術が高いなんて、アタシとしたことが情報不足でしたわ」

 ダメだ、これはもう完全にスイッチが入ってる。まさかマリアがここまでオシャレ好きだったとは……。

 俺が呆気にとられている間に買い物かごにはこんもりと大量の衣服が入れられていた。ヤバい、こんな量なんて買えるはずがない!?

「あら?どうりで重いと思ったらこんなに入れていましたわ。アタシとしたことがつい熱が入ってしまいました」

「な、なあマリア。せめて半分……いや5分の1ぐらいにしてくれないか?このペースでやられたら俺の財布が一瞬で破産しちまう……」

「そんなこと気にしてましたの?安心なさい、この星の売買については把握してます。これを見せれば一発でしょ?」

 と、彼女がポケットから取り出したのは黒いカード……ってそれ、戦車も買えるっていう噂の伝説のブラックカード!?

「それ、どうやって手に入れたんだよ!?」

「ん~~、秘密ですわ」

 と、彼女は悪戯っぽくぺろっと舌を出して笑った。コイツの場合こんなスケールが大きいものなど情報操作とかで容易く手に入れそうだから怖い……。

「さっ、次の場所行きましょ。せっかくあなたが色々調べてくれたんですもの、ちゃんと応えてあげなくてはいけませんしね」

「うん、まあそうだな。まだ見所がいっぱいあるんだから最後まで付き合ってくれよ」

 でもこの量を持ち歩かなきゃ行けないのか……。このペースで買い物してたら違う意味で俺パンクしちまう。

 その後もマリアは衣服、雑貨などお構いなしに気に入ったものをバンバン買っていった。アジア系の雑貨屋なんて磁石が入った鉄の玉買ってたけど遊び方知ってるのか?

「ふう、ついスイッチが入ってしまいましたわ。こちらに来てからずっとあの子のことしか考えてなかったですから、この星の庶民文化について全然知りませんでした」

「そりゃ良かったよ。てか、お前でもそういうの興味持つんだな。てっきり人殺しのことしか考えてないのかと思った」

「あなたアタシをただの殺人ロボットか何かだと思ってますの?アタシだって娯楽をたしなむ心はありますわ。まあ部下には心をなくすぐらい仕込ませましたけどね。特にシスカは一番かわいがってあげましたわ」

「じゃあその心をリディアが解放してあげたってわけだな。ああ見えてアイツはすごいんだな」

 と、俺はマリアに対して皮肉のように返す。その返しにマリアの眉は微かにひくついた。

「ええ、あの子がメイドをやっていると聞いた時は驚きましたわ。一体どんな催眠術を使ったのかしらって思うぐらいに」

 確かにリディアとシスカのあの出会いの話を聞かなかったらどんな催眠使ったんだよって疑うよな……。

「まあシスカもああいう形で新しい生き甲斐を見つけたんだ。お前はそれでも利用したいんだろうけど、どうかアイツの手を汚させるようなマネはさせないでくれ。アイツはもう昔とは違うんだ」

「まだあのこと気にしてますの?フフ、部下思いの優しい人ですこと」

「部下じゃねえ、家族だ」

「っ!」

「俺にとっちゃリディアもシスカも大事なうちの家族なんだよ。その家族の誰か一人でも辛い思いをするのはもう嫌なんだ。だから俺はあの二人を不幸にさせないために、必死なんだよ……」

 現に今だってリディアは辛い思いをし、シスカもこの先どうなるかと不安になっている。そんな二人を俺はどう救えるのか、俺なりに必死に考えて悩んでいるのだ。

「フフ、あの二人にもぜひ聞かせてあげたい台詞ですわ。ねえ?」

 と、マリアは不意に視線を右にずらす。俺もつい気になってその視線の先に向くがそこに変わったものはなかった。

「…………?」

「なんだかおなか空いてきましたわ。ここって食べるところありますの?」

「えっ?ああ、あっちに確かフードコートあるはずだ。まあもうすぐお昼だしランチにでもするか」

 と、俺たちはアウトレットの西側にあるフードコートでランチをとることにした。それにしてもさっきのマリア、何か変だったような。

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