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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第八話
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第八話2

 それから俺は一人夕暮れに染まる町を歩き回っていた。近所の馴染みあるスーパー、コンビニ、薬局、そこにあるものは大体試したものばかりだった。

「っだーもう!何が正解かわっかんねえよ!!」

 俺は普段あまり人通りのない木製の橋の上で浅間山に向かい叫んだ。それと同時に真っ赤に燃えていた夕陽が静かに山の陰へと消えていった。

「やっぱり、俺じゃアイツを守れないのか……」

 俺らしくもなく弱音がこぼれる。このまま何もできないままリディアが死んだら……。いや、そんな考えしたら余計心がダメになる。最後まで諦めないって決めたんだ!まだ二日猶予ある中でひよってたらリディアに笑われるっ!

「こんなとこで諦められっかよーーーっ!!」

「随分と騒がしい独り言ですわね?」

 と、突然誰かに声をかけられ、恥ずかしさでつい顔が赤くなる。

「あっいや、すいま……」

 つい条件反射で謝ろうとしたが、その相手が目に入った瞬間声が詰まった。

「マリア……!?」

 そこにいたのは見覚えのある黒いゴスロリの少女、マリアだった。彼女は俺と目が合うと何か企んでいるかのようにニヤリと笑みを浮かべた。

「ごきげんよう坊や、その様子だと体はもう回復したようですわね?」

「あ、ああ。おかげさまで大声出せるぐらい元気になったよ」

 まずい、ここは人通りも少なく周りはだだっ広い河川敷。お祭りの時のようにジーナを呼んで戦闘でも起きたら今度こそ隠密にやられる……!?

「フフ、そんな緊張しなくても取って食べたりしませんわ」

「!?」

 それぐらい俺顔に出てるのか!?と、つい自分の頬を触ってしまった。

「まったく、こんなかわいいレディ相手にそんな態度されたら他の女の子に嫌われますわよ?」

「わ、悪いな。つい無意識に出ちまったらしい……。そんなことより何の用だ。昨日の件で俺がアレを倒せなかったのがそんなに不満だったのか?」

「ああ、あの茶番のことならどうでもいいですわ。元々あの銃はただの玩具でしたし、全てアタシの描いたシナリオ通りでしたわ。むしろ感謝するのはアタシの方ですの」

「ちゃ、茶番だと……!?」

 じゃああの時俺が引き金を引いても引かなくてもあの化け物に喰われてたってことか!?

「つまり、俺たちはずっとマリアに踊らされていたということか……」

「それはもうみんな見事に踊ってくれましたわ。フフ、美しかったですわよ?」

 真実を突きつけられ憔悴しきった俺の顔を嘲笑うかのようにマリアは嬉々とした笑みを浮かべた。

「マリア……、お前ーーーっ!!」

 俺は怒りに任せマリアに向かって駆け出し、乱暴に殴りかかろうとした。

「っ!?」

 しかし無鉄砲な拳はマリアの軽やかなジャンプで悉くかわされ、彼女はふわりと橋の欄干に降り立った。

 それでも俺は体勢を立て直し何度も彼女に殴りかかろうとした。

「お前の!せいで!リディアが!あんなことに!なったんだぞ!!どうしてくれんだよっ!!」

 マリアはそれでも笑みを浮かべ、俺の拳を容易く避けていった。

「いつまでもへらへら笑ってねぇで何とか言えよ!!」

「じゃあ……」とマリアが呟くと、ふっと目の前に瞬間移動し、その華奢な腕で俺の後頭部を掴み勢いよく地面に叩きつけた。

「くあっ!?」

 脳天にガンと衝撃を与えられ意識が飛びそうになった。それでも何とかギリギリ意識が保てたのは彼女なりの手加減に違いない。

「実に惨めですわね。本当にアタシを倒した男かしら?」

 クスクスと彼女の蔑むような笑みが聞こえる。

「離せっ!このっ!?」

 マリアの手を振り払おうとするも、背中に乗られうつ伏せに押しつけられているので身動きができない。

「アタシ、話の聞かない乱暴な男は嫌いなんですの。その首、ねじ曲げてあげましょうか?」

「っ!?」

 その瞬間俺の体に戦慄が走った。けれどいくら足掻いても全くビクともしない。くそっ!こんな簡単に殺されてたまるか……!?

「ねえ、これが何だかわかります?」

 と、マリアは俺の目の前に一つの小瓶をコトッと地面に置いた。その中には緑色をした液体が入っていた。

「これは……」

「あなたが今一番欲しかったもの、と言えばわかるかしら」

「っ!?」

 それがどういう意味をしているか、俺でも理解できた。

「……取引ってことか」

「理解が早くて助かります。あのまま野蛮に暴れていたらそのまま首をねじ曲げていたところでしたわ」

 コイツの場合それがただの脅しじゃないから恐ろしい……。ギリギリ理性を保てた自分自身を褒めてあげたいぐらいだ。

 そしてマリアは俺がもう抵抗しないと判断し、押さえていた手を緩め俺の背中から退いた。

「さて、本題に入りましょう。シスカから聞いているとは思いますが、このままの状態であのお嬢様の命は持ってあと二日。それを救うには大量のエネルギー、つまりこの薬が必要ってこと」

 と、マリアはその薬が入っている小瓶を摘んでゆらゆら揺らしながら見せびらかしていた。

「はいどうぞって感じで渡してくれないよな」

「当たり前ですわ。アタシだって手持ちの薬はこの一本だけ、辺境の星という何が起こるかわからない状況でおいそれとあなたたちに渡せませんから」

 そんなこと百も承知だ。ではコイツは俺に何を望んでくるのだろう。はっきり言って俺に取引をするメリットは1ミリもない。そんな中で考えつくことはただ一つ、シスカの明け渡しだ。だがそんなまどろっこしいことしなくても直接シスカに向かうだろう。

 じゃあ何だろうか。ただの地球人である俺にマリアは何を求めてくる?

 緊張からか額からじわりと汗が垂れる。何が目的だ……。

「ねえ、あなた明日暇でしょう?アタシとデートしません?」

「ん?ああ、明日も薬の代替を探しに……、今なんて?」

「だから、アタシとデートしません?」

 ニッと白い歯が見えるぐらいの屈託のない笑顔で、彼女は俺の想像の斜め上を行く提案を持ちかけてきた。

「え……っと、どういう意味だ?」

「あら、今はデートという言葉は使わないのかしら?明日一日、アタシと付き合ってくださる?場所はここから20カールミンク先の……」

「ちょちょちょ、ちょっと待て!何で取引が俺とデートなんだ!?こういう時は金とか命とかそういうの要求するんじゃないのか!?」

「あなたの物もらっても何の価値もありませんわ。そうね、この下にある石ころよりは価値はあるかもしれませんわね、フフ」

 と、河原に大量に転がっている石ころを指さす。

「と言うことで、明日の午前10時、カルイザワ?という場所の駅のコンコース。来なかったらどうなるか、わかってますよね?」

 こんな状況で断ることなどできない。マリアが何を考えているかわからないが今は素直に従うしかない。

「あ~もうわかったよ!正直よくわかってないけどお前の要求飲んでやる!ちゃんと約束果たせよなっ!?」

「もちろんです。フフ、ちゃんとエスコートしてくださいね。王子様」

 と、去り際にウインクをし、マリアは一瞬で俺の目の前から姿を消した。

「わけわかんねえよ……」

 こうして、俺とマリアとの軽井沢デートが決まったのである。こんな時にデートがしたいって、マリアのヤツ一体何を考えているんだか。てか何で軽井沢なんだよ……。

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