第一話5
今日は登校日でもあり、既に夕方の校舎に生徒の姿はなかった。まぁ外では野球部とかテニス部など運動部の声が聞こえるけど。それに文化部はほとんど別の棟なので放課後にクラス棟に残る人は少ない。
幸い教室の鍵はまだ開いており、俺はすぐに自分の机の引き出しに手を突っ込んだ。
「よかったぁ……」
ここにあるという確信はあったものの、いつもあるものがないという不安はやっぱり人を焦らせるものだ。つい安堵の溜息が漏れてしまう。
う~ん、やっぱ俺もう携帯依存症になってるな。
「ふう……」
急いで走ってきたのでまだ息が上がっている。机に腰掛けて窓の外を見ると真っ赤な夕陽が俺を、そしてこの教室を照らしているのに気付いた。
「素敵な星、か……」
今までそんなこと考えもしなかった。だってそれが俺にとって日常なんだから。
ということは、アイツのいる世界は無機質な場所なんだろうか。それに生まれてから家族にも会ってないと言ってるし。
それでいきなり何も知らない星に来たんだから、不安なんてありすぎだろう。
「……って、なんで俺こんなにリディアのこと心配してんだよ!仮にもアイツは地球侵略するヤツなんだぞ!?」
「お嬢様をご存じなのですね?」
えっ?
入り口に振り向くと、そこには有り得ない格好の女性が立っていた。ヒラヒラした長く黒いスカート、そして純白の白いエプロン、頭には同じくヒラヒラのカチューシャ。
一言で言えばそう、メイド服だ……。
「メイドだ。メイドがいる……!?」
ていうか、少なくともこの学校にこんなあからさまなメイドを雇えるお嬢様なんているわけがなく……。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「失礼、わたしはお嬢様のお世話をしているシスカ・サルテ・ズーリフ・ブラクエア・ランラ・ティアンセーア・ループル、」
長い……。
「……ペンテシレイア・メディアリエリスと申します」
長ったらしい名前とメイド服で緊張感が削がれてしまったが、コイツも宇宙人だということは間違いない。
それにお嬢様っていうのはリディアのことに間違いないだろう……。
「そ……それで、そのシスカなんちゃらさんが俺に何か用で?」
とりあえず波風を立てない程度に彼女に質問する。何故かって?そりゃぁ……、
彼女の腰に物騒な剣が挿してありますから。
「いえ、用事はすぐ済ませます。お嬢様に手を出したあなたを……」
「!?」
嘘だろっ……!?
「排除するだけですから」
目の前にいる!?
息がかかるほどの至近距離に瞬間移動すると、すぐに剣を振った。
「っぐ!?」
間一髪だった。ギリギリのところで仰け反り、かわすことができるとそのまま走り出した。
「待ちなさいっ!!」
メイドさんは体勢を戻すとすぐに追いかけてきた。
ふざけんじゃねえよ!?アレ本物の刃物じゃねえか!
まったくもって訳がわからないが今はあの殺陣メイドから逃げるため、机を散らかし廊下に飛び出した。
「何なんだよ!何なんだよあの女はぁ!?」
誰もいないため廊下は薄暗く、俺の叫び声も無情に響いてすぐに消えてしまう。とにかく、どこか隠れる所があれば……!?
ドドドドドドドッ!!
「ひっ!?」
床がめくれるほどの突風が俺の横を駆け抜ける。なんだよこのマンガみたいな必殺技!?
「大人しく死になさい!建物全壊にはさせないで済みますから!」
俺より校舎優先かよ!?
「ざけんなっ!こんなところで死んでたまるか!」
とにかく遮二無二走り続けた。どこでもいい、安心できる場所を!
「おらぁ!」
俺は廊下に置いてあった消火器を勢いよく蹴り倒すとドバァッ!と白い粉が噴射した。
「なっ!?くっ……待て!!」
白い煙はあっと言う間に彼女の周りを包み、見えなくなってしまった。
「はぁ、はぁ……。痛ってー…………」
さすがに消火器を蹴るのはきつすぎた……。軽く腫れてるんじゃないか?後ろを振り返り姿が見えないことを確認すると、目に留まった扉に駆け込んだ。
「どうやら、うまく撒いたみたいだな。つか、殺る気まんまんじゃねぇかアイツ!リディアのヤツ、話が違うじゃねぇか……!?」
いや、リディアがそんな命令するわけないよな。つうことはあのメイドの独断……。
「逃げても無駄ですよ?あなたのことはお嬢様と一緒にいたときから常にわたしの監視下にありますから」
廊下から彼女の声が聞こえる。えっ、つうかそれマジ?
そんなことはどうでもいい。こんなところに隠れたって殺されるのも時間の問題だ。何か、何か策はないか!?
部屋の様子を見る限りここは美術の準備室。棚にはデッサン用の石膏の像や絵の具などが所狭しと置いてある。対抗できるかわからないけど何か武器は……。
「彫刻刀……、いやいやいや、あんなので勝てるわけないだろ」
もっと何か武器になるもの……、あれは?