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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第七話
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第七話7

 あの日も、こんな暑い夏の夜だった。

 小学四年の夏休み、俺の母親は遺体となって見つかった。その日の朝も母はいつも通り考古学の事務所に出向き、うちの祠があるあの山に一人で向かっていた。いつもの時間に帰ってこないことに不審に思ったスタッフが現場まで行くと、祠の近くで横たわっているのを発見したという。

 小学生だった俺は突然のこの事実を飲み込むことが出来ず、葬式が終わるまで涙を流せなかった。今これは何をしているのだろう。何故母さんは寝ているのだろう。どうしてみんな泣いているのだろう、と。

 そして全てが終わった後、誰もいない母さんの部屋で俺は泣いていた。この時になってやっとこの事実を受け入れたのだ。どうして母さんが死んだのか。今まで病気を患ったことのない母さんがどうして。あの日の朝もいつものように笑っていたのに。

 母の死を受け入れたことにより、俺は数日立ち直ることができなかった。けれどある日の朝、由衣が朝ご飯を作りにうちに来た。「わたしがこれからおばさんの代わりに作ってあげる」と。それからだ、俺が徐々に立ち直れるようになったのは。

 辛いのは俺だけじゃない。親父も心の中ではずっと泣いていただろう。俺もいつまでもくよくよしてる場合じゃない。いつしか俺は由衣に背中を押してもらい前を向くことができた。慣れない料理や家事も少しずつ教えてもらいながら出来るようになっていった。

 けれど、突然突きつけられた真実に、俺は動揺を隠すことができなかった。母さんは病気で死んだのではなく、タルーヴァの機械によって殺されたのだ。正気でいられるはずがない。

 そして俺は、ソイツによって殺されてしまった。

「いや~ごめんね、わたしのせいでアンタには随分辛い思いさせちゃったね」

「まったくだよ。慣れない包丁で何度指切ったか」

「へ~~、ずっと甘えん坊だったミコトが料理をねえ。一回ぐらい食べたかったなぁ。あのさ、ここで作ってみせてよっ!」

「無茶なこと言うなよ、俺もう死んでんだぞ?それにこんなとこで……て母さん!?」

 ずっと無意識に目を瞑っていて気付かなかったが、目を開けるとそこにはニコニコしながら見つめている母さんがいた。

「はい、アンタの母さんです。もう、アンタずっと目を瞑って何かブツブツつぶやいてたから母さん心配しちゃった。あの日もこんな暑い夏の夜だった……って。何かやなことあった?」

 最初っからあのモノローグ聞いてたのかよ!?

「お前……本物の母さんか?」

「正真正銘本物のミコトの母さんですよ。と言っても、もうとっくに死んじゃってるけどね」

「じゃあやっぱりここは天国なのか?」

「いいえ、ここはミコトの夢の中。アンタあのよくわかんないやつに取り込まれてここに残ってるわたしの思念とアンタの脳にリンクしたってわけ。理解できた?」

「何となく。つまり今アイツの腹の中で母さんと喋ってるってことか……」

 まだ死んではいないけどどっちみち俺はピンチってことじゃねえか。

「それにしても、あんなに小さかったミコトがもう高校生かぁ。月日ってホント早いものなのね」

「母さんは、今までずっとどうしてたんだ?どうしてこのタイミングで現れてきたんだよ」

「う~ん、正直わからないのよ。わたしがこれを動かせるわけないし意識なんてほぼないに等しいしね。だからこうしてミコトに会えたのは奇跡だわ」

 つまりこうして現れたのは偶然だったってことか……。

「奇跡……か。じゃあこれも許されるかな」

 俺は少し背の小さい母さんをぎゅっと抱きしめた。

「ホント大きくなったね、すっかり追い越されちゃった」

「うん、俺大きくなったよ。それに護りたい人ができたんだ……。大それたことやってんのに頼りなくてさ、俺がそばにいなきゃいけなくてさ……」

「そう、いいお友達に会えたのね」

「でもさ、俺なんの力もないから勢いで乗り切るしかなくてさ。弱いとこ見せらんなかった。そしたらあんなことに……。辛かった。俺、逃げ出したかった……」

「うん、アンタは昔っから頑張り屋さんだからね」

「俺、頑張ったよね……?泣いても、いいよね?」

「いいよ、母さんが受け止めてあげるから」

 母さんの懐かしい温もりと微かに感じる匂いで全ての記憶が呼び戻され、俺はずっと堪えていた気持ちを抑えきれず、大声で泣いた。最後の別れをしたあの日のように。

 ーーーーーーーーーー

「ごめん、つい嬉しくなってすごい泣いちまった」

「子どもが大人ぶってんじゃないの。アンタには人一倍苦労させちゃったんだから、謝るのはこっちの方よ」

「でもどっちみち俺死んじゃうんだよな。せっかく母さんに会えたのに……」

「ああ、それ多分大丈夫かもよ?外はもう色々終わってるからもうじきアンタ目が覚めると思うわ」

「…………え?」

 ずっと抱えていたしんみりムードをあっさりと崩すように母さんは重大なことを告白した。

「あ、あと10秒ぐらいかしら。じゃあまたね~~!」

「えっ!?ちょっと待って!俺まだ話したいことがあるのに!母さ……!?」

 と、10秒ピッタシで視界が強制的にシャットアウトされた。

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