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侵略者の夏やすみ  作者: 碓氷烏
第七話
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第七話5

「お姉ちゃん……、ホントに何も出ないよね……?」

「大丈夫ですよ、何かあったらリディアお姉ちゃんが守ってあげますから」

 と、リディアは華奢な腕を曲げながら任せてアピールをしている。こんな華奢な腕でもミコトを持ち上げた実績はちゃんとある。

「地図ではこの先の突き当たりを左に行くんですよね。まだ先かなぁ?」

「ねえ、お姉ちゃんはお化けとか怖くないの?」

「う~ん、そういう文化がないから怖いって思わないですね。もしそのお化けさんっていうのがわたしの遠い昔の家族だったらわたしは嬉しいな。成長したわたしに会いに来てくれたんだって」

「会いに来てくれた?」

「そう、せっかく会いに来てくれたのに怖がってたらお化けさんは悲しんじゃうんじゃないかな。嫌われちゃったのかなって」

「そんなの考えたことなかった……」

「だから、お化けさんが来ても怖がらないで笑顔で……」

 と、そこでリディアは言葉を失った。目の前にぼろぼろの白装束を着たグロテスクな顔をした女性の幽霊が現れたのである。

「ぅ~~ら~~め~~しぃ~~やぁ~~……」

「ひっ……ひぃやあああああああああああああああああ!!!!???」

 リディアはすぐさま舞姫ちゃんの腕を掴み全速力でその場から逃げ出したのである。

「えっ、ちょっと!?さっき言ってたことと違うんだけど!?」

「怖いものは怖いんです~~~~~~~っ!!!!」

 と、リディアたちはあっという間に暗闇へと消えていった。

「にひひ、こんなうまくいくなんてやりがいがあるわ~。最近のパーティーグッズもバカにできないわね」

 と、幽霊に変装した由衣はグロテスクな顔の被り物を脱ぎ、満足げに笑っていた。そう、これらの小道具はホームセンターで格安に揃えたコスプレセットだったのだ。

「このわたしが手を抜くわけないでしょ。まだまだこれだけじゃ済まないんだから!」

 そう、別のポイントで隠れていたスギには大量の仕掛けグッズを渡していたのだ。化学反応で青白く光る火の玉の花火やおどろおどろしい音のする笛、そしてスギ自身もゾンビマスクで変装している。

「いやあああああああああ!?」

 スギもどうやらうまくやっているらしくさっきまでの落ち着きとは正反対に、リディアの悲鳴が森の奥から何度も聞こえる。ちょっとやりすぎたかな?って心配になるくらいに……。


「随分でかい悲鳴が聞こえるな……。ホントに大丈夫か?」

「心配いりません。あのお二人が脅かしているだけなので」

 遠くの方でリディアの悲鳴が聞こえる。スギたち、結構うまくやっているみたいだな。

「ていうか、これから俺らも脅かされるのにネタバレされると楽しみってものが……」

「スギが一生懸命仕掛けを作ってくれたのです。ですのでわたしはこれから何が起こるかわからない体で振る舞います。わー暗くて怖いでーす」

 最近コイツのキャラが崩壊し始めてないかって思う……。どこからそんなボケ要素覚えてきたのだろう。

「ミコト様、50メートル先に由衣様が隠れています。ビックリする準備を」

「お前それ絶対由衣の前で言うなよ?泣くぞアイツ」

 俺たちは由衣の頑張りを精一杯の無表情で受け止め、泣き崩れる彼女の背中をそっとさすってあげた。


「はぁ……はぁ……、もうここまで来れば追ってこないでしょう。ねっ、お化けなんて怖くないでしょ?」

 リディアはヘトヘトになりながらも何とか息を整え、何事もなかったように振る舞った。

「えっ……そ、そうだね。舞姫、何かお化け平気になっちゃった……」

 年上のお姉ちゃんが目の前であんなに慌てふためいてるのを見たら怖がるのがバカバカしくなった……なんて言えず、舞姫ちゃんはこの時初めて愛想笑いというものを覚えた。

「さっ!気を取り直して行きましょう!ゴールはもうすぐですよ!」

 と、無理矢理な空元気でモチベーションを上げ、二人はようやくゴールのお堂にたどり着いた。

「「ゴーーーール!!」」

 二人はお堂にあるお賽銭箱の前でせーのでジャンプし、新体操の着地のようにポーズした。

「ふう……。なんとかゴールできましたね。わたし、肝試しがこんな怖いなんて知りませんでした」

「お姉ちゃん、お化け屋敷とか行ったことないの?」

「は、はい……。せっかく舞姫ちゃんにいいとこ見せようと思ったのに恥ずかしいです……」

「そんなことないよっ!お姉ちゃんずっと舞姫の手を離さないでいてくれたもん!」

 無意識とはいえ、リディアはあの時ずっと舞姫ちゃんの手を離さずにいた。わたしが守らなくちゃ、という心がそうさせたのだろう。

「舞姫ちゃん……、ありがと~~!!」

 と、リディアは嬉しさのあまり舞姫ちゃんを抱きしめた。

「きゃはは~~っ!くすぐったいよお姉ちゃん!?」

 と、二人がお堂で戯れていると別の道から誰かの足音が聞こえた。ミコトさんたち……ではない。来るならわたしたちが来た道に来るはず。

「誰でしょうね、こんな夜に」

 リディアは真っ暗な道に目を凝らす。するとぼんやりと人影が見えてきた。

「…………えっ?」

 そこに現れた人物にリディアは言葉を失った。

「お姉ちゃんどうしたの?」

 急に表情が強ばるリディアに舞姫ちゃんは怪訝そうに見つめていた。

「あ、いえ。何でもありません。ただの人違いだと思うんですが……」

 その人は真っ直ぐに二人の方に進んでいく。お堂の蛍光灯の明かりで徐々に全体が見え始め、完全に見えるところでその人は足を止めた。

「こんばんは、こんな時間に女の子二人で何やってるのかな?」

 その人は肩ぐらいまである長い黒髪を三つ編みでまとめ、白いYシャツにジーパンを履いた30代ぐらいの女性だった。確かにこの時間にこんな真っ暗なところにいたら不思議がるのも無理はない。ただ、リディアはこの人に見覚えがあった。

「き、肝試しですっ!あとでお友達が来るので」

 と、リディアは緊張のあまり少し噛みながら会話を続ける。

「そう、暗いから帰り道は気をつけなさいね。ここ、人気はないから出やすいのよ。例えば、幽霊とか?」

 その言葉でリディアはぎゅっと舞姫ちゃんを強く抱きしめた。できれば人違いであってほしいと願いながら。

「お姉ちゃん?」

「舞姫ちゃん、わたしから離れないでください……」

 リディアは舞姫ちゃんにそう囁くと、その女性に悟られないように平静を装いながら会話を続けた。

「ゆ、幽霊ですか。ちょうどさっきそこで出たところなんですよ。お姉さんも気をつけてください」

「えっそうなのっ!?わたし冗談で言ったつもりだったんだけどここホントに出るんだ?」

「あの、お姉さんはこんな時間に何をしてるんですか?」

 リディアが恐る恐る質問をする。

「え?ああ散歩よ散歩。わたし夜に散歩するのが日課なの。ごめんなさいね、何か驚かせちゃったみたいで」

「い、いえ。わたしたちこそすみません、警戒しちゃって……」

「いいのよ。でもこの時間に女の子だけで歩くのは危ないから気をつけなさいよ」

 と、女性はリディアにそっと近づき目の前で「めっ!」と人差し指を立てて注意をした。

 リディアはずっと警戒していた糸が緩んだのかつい「ぷっ!」と笑ってしまった。それがあまりにも茶目っ気があり何に怯えてたのだろう思ったぐらいに。

「やっと笑ってくれた。あなたずっと顔が強ばってたんだもん。せっかくのかわいい顔がもったいないわ」

「か、かわいいだなんて……!ありがとうございますっ!」

 と、リディアも嬉しさのあまりつい笑顔がこぼれてしまっていた。

「あ、そうそう!あなたたちこの辺でわたしの息子見なかった?まだこの辺りにいると思うんだけど……」

 と、女性は突然顔をキョロキョロして辺りを探している。この人、近所の親御さんだったんだ。

「あの、良かったらわたしも探しましょうか?お名前なんて言うんです?」

「ミコトっていうの」

「…………えっ?」

 その刹那、リディアたちの目の前にシスカが細剣を構えて現れた。切っ先をその女性に向けて。

「シスカっ!?」

「お二人とも、お怪我はありませんか?」

「だ、大丈夫ですけどこれは一体……?」

「お気づきではありませんか?この女は……」

「かあ……さん……」

 遠くでミコトが立ち尽くしていた。ずっと前に亡くなったはずの母親を見つめながら。

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