第六話10
気が付くと俺はホテルのロビーにあるソファーで眠っていた。頭には何か柔らかいものが、枕にしては硬くない……。
「あ、気が付きました?」
目を開けると見下ろすようにリディアが俺を見つめていた。頭に当たる柔らかい感触、もしかして膝枕されてるのか……。
「リディア……」
「スギさんから聞きましたよ。そちらにマリアさんが現れたって。大丈夫でしたか、何かされませんでしたか?」
目が覚めて彼女の顔を見れただけで何だか安心した。マリアと会っている間、俺たちはずっと気を張っていたのだから。
「大丈夫だよ、強いて言えばエネルギー吸われたくらいかな」
「大丈夫じゃないですよ!もしそれで殺されたらわたし……」
と、涙ぐむリディア。すごい心配してくれたんだな……。
「悪い、正直言うと俺も怖かった。でもマリアはもう俺らを殺すことはしないって言ってた。信用しづらいけど」
正直言うとまだ疑念は残っている。最後のあの言葉を聞けば尚更……。
「わたし、まだあの人苦手です……。シスカの件に関してもまだ解決してないですし」
花火の時、マリアは彼女を有効活用すると言って去っていった。殺すわけではなさそうだが何を考えてるのかさっぱりわからない。彼女はこの地球で何をしようとしてるのか。
「そうだな、ただ今までのように殺しに来るようなニュアンスではなかったけど」
「それはそうですが……」
「心配すんな、もしものことがあれば俺が護ってやるから」
と、大分戻ってきた体力で上体を起こし、リディアの顔に触れる。
「俺たちはあのマリアを倒したんだ。少しぐらい胸張ってもいいんじゃねえか?」
「ミコトさん……」
「目が覚めましたか。身体はもう動けるみたいですね」
お手洗いから出てきたシスカが俺が目覚めてることに気が付く。
「お陰様でな。まあエネルギー吸われただけだし」
「そうですか、後でスギに礼を言ってくださいね。叔父様には疲れて寝ちゃったと伝えていたので」
そうか、だから親父も慌てていなかったのか。スギ、すまない。
「それはそうとミコト様、危険があったらお呼びしろとお伝えしましたよね?あなたたちに何かあったらどうするんです」
と、シスカが俺の顔スレスレまで近づいて説教する。これはマジで怒ってる顔だ。
「よ、呼ぶも何もお前らも風呂に入ってちゃ呼ぶに呼べないだろ!全裸で戦うつもりか!?」
「そ、それはそうですが……」
もしかしてマリアもそれを狙っていたのだろうか……。
「とにかく、ヤツに敵意がないとはいえ油断しないようでください。わかりましたね」
と、念押すように言ってシスカは出口に向かった。
「さてっと、俺たちも車に戻るか。……どうしたリディア?」
さっきから一言も喋らずぴくりとも動かないリディア。
「あ、あの……ずっと膝枕してたので足が痺れちゃって、もうちょっと待ってくれませんか……?」
と、顔をひきつりながら俺に問いかける。そんなリディアに俺は笑顔で応えた。
「えっあの、どうして近づいてくるんですか?何で笑ってるんですか?その人差し指は何ですか?あ、いや、ちょっと……!?」
俺は優しい笑みを浮かべながらゆっくりと近寄り、リディアの太腿に人差し指でつぅっと撫でてあげた。
「ひゃううううううううううんっ!?」
そんなこんなで、最後の最後までトラブル続きのキャンプは何とか幕を閉じた。
帰りの車の中は疲れ切ったのと温泉の効果で俺と親父以外みんな眠ってしまっていた。
「寝ててもいいんだぞ?」
「ん?ああいや、さっき寝ちゃってたからもう眠くなくなっちゃった」
正直言うと未だにマリアの言葉が引っかかっていた。マリアがまた俺の命を狙いに?だったらあの時簡単に狙えるはず。なら誰に狙われるのか、最初の時の緊急脱出用ポッドみたいな向こうの星の機械が俺を見張ってる?その可能性は否定できない。
考えれば考えるほど空回りする。
そしてそんなの相手に俺は太刀打ちできるのだろうか。
「……ちゃんと決断しなきゃダメみたいだな」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
夏休みが終わるまであと2週間。このまま無事に終わってくれたらいいんだけど、どうやらそう簡単にはいかないみたいだ。
それもそれで、最高に面白い夏休みじゃないか。
胸を張れ、進藤ミコト。




