第六話8
目が覚めると、天井に吊されているランタンが目に入った。間違いなくテントの中だ。隣を見ると親父が寝ており、もう一個のシュラフは既に収納袋に収まっている。確か、明日も日課のランニングしてくるってスギが言ってたな。アイツも何気にストイックだよな。
「ん~~~~~っ」
テントのチャックを開け外に出ると、入ってくる朝日に向かってぐ~っと伸びをする。
家と比べて標高が高いので朝は少し涼しくて気持ちがいい。
「おはようございます、ミコト様」
振り向くとシスカが既に朝ご飯の準備をしていた。フライパンにはベーコンと目玉焼きがジュ~~っと音を立て香ばしいにおいを漂わせている。
「おはよっ。随分早いな、キャンプなんだからもう少し寝ててもよかったのに」
「いえ、昨夜はおじ様に任せっきりでしたから朝食だけでもと思いまして。コーヒーでも召し上がります?」
「ああ、ミルクと砂糖もお願い」
と、シスカはインスタントのコーヒーを淹れ渡してくれた。
「こういう朝も悪くないですね」
「たまにはな、これが毎日だときついけどな……」
昔親父のキャンプ愛がひどく、夏休みに四泊五日テント生活させられた時はさすがに泣きついた。「家に帰らせてくれ」と。
「そういえばさ、今朝夢で母さんに会ったんだ」
「お母様が?」
「そう、結構久々だから色んなこと話したんだ。もちろんリディアたちのことも。そしたらすごい嬉しそうに聞いてくれたよ」
「それは何よりです。我々もお母様のあの部屋を使ってますし、わたしも夢でご挨拶したかったですね」
「そしたらさ、いきなりリディアがウエスタンみたいな格好で馬に乗って現れてさ。俺を軽々引っ張り上げて駆け落ちみたいに連れ去ったんだよ」
「ミコト様、その話もっと詳しくお聞かせくれませんか?」
突然シスカは調理の手を止め、目をキラキラさせてこっちを見た。
「あっ、いや……そこで目が覚めちまったんだけど……」
「そうですか……。あっ待ってください!これで夢を映像に出来るんでちょっと試してみませんか?」
と、シスカが取り出したのは以前リディアが身長などを計るために使ったおもちゃみたいなチープな形の銃だった。
「えっ!?あ、ちょっと待って!?」
俺の拒否権などガン無視で間髪入れず引き金を引き、光が照射され俺は思わず目を閉じた。
「…………」
「おかしいですね……?」
目を開けるとシスカは銃をまじまじと見つめながら色々確かめていた。
「なんだよ、何にも起きないじゃないか」
「そんなはずはありません。相手に撃てばすぐにスクリーンが現れて見えるはずなんですが……」
「なになに~……どうしたのよこんな朝っぱらから?」
と、起床した由衣がのっそりと女子テントから這い出てきた。
「シスカ、試しにアイツ撃ってみろ」
「かしこまりました」
シスカは躊躇なく銃口をまだ寝ぼけてる由衣に向け引き金を引いた。自分で指示しておきながらやっぱコイツ容赦ねえな……。
「ふぇ?」
光の球は由衣を包むとすぐ彼女から離れ、大型テレビのような長方形の板に形を変えた。
するとそこから何かがぼんやりと浮かぶ。そこに映ってるのは由衣と……俺?
『なに黙ってんだよ。俺にどうしてほしいかぐらい自分の口で言ってみろよ』
『そんな……、恥ずかしいよぉ』
スクリーンに映し出されたのはベッドの上で俺が由衣を押し倒している映像だった。……はっ?
『誰も見てないんだからいいじゃないか。どこいじめてほしいんだ?』
耳元で囁いてるとこ悪いんだけどみんな見てるんですが……。
そして俺の隣では寝ぼけてトロンとしてた由衣の目が一気に見開き、この世の終わりを見てしまったような絶望の表情を浮かべていた。
『耳はむはむしてぇ……、この前みたいにいっぱいはむはむしてぇ』
「へぇ、この前も耳はむはむしてもらってたのか」
「待って待って待って待って!?これは違うの!わたしこんなことやってほしいとか思ってなんか!えってゆうか何でさっき見た夢が出てんの!?ちょっと待って見ないで!!見ないで~~~~~~~!?」
俺とシスカは夢ならしょうがないよね、というような哀れみの目で彼女を見つめてあげた。
「由衣。ごめんな、俺もう少しテクニック勉強しておくよ……」
「い、いやあああああああああああああああああ!?」
それから俺たちはキャンプ用具を片づけた後、榛名山を降りたにある有名な温泉地、伊香保の日帰り温泉に寄ることにした。親父の顔なじみがやっているホテルがあるらしく、神社業界内の忘年会で毎年使っているという。親父がいつも年末泊まりで行ってるとこってここだったのか。
そこは内風呂はもちろん、露天風呂もあり、大自然が目の前に広がっている。群馬って温泉がいっぱいあるけど今まで率先して行ったことなかったな……。
「わぁ~~~~!!」
露天風呂に出る扉を開けるとそこには広い岩風呂と背後には広大な山々の風景が広がっていた。
「これはすごいですね……、ミコト様の家のお風呂とは大違いです」
「そりゃあ一般家庭にこんなお風呂あったらもう豪邸レベルよ。ここは温泉って言って、地中から湧き出すお湯のお風呂なの。ここのは硫酸塩泉っていう成分があって筋肉痛や神経痛、関節痛など……要するに疲れを癒す効果があるってこと」
「だからこんなに水が濁っていたのですか。わたしもマリアとの戦いでまだ痛みが残っていたので助かります」
「わたしも、昨日馬さんに乗ってて思ったより太ももに力入ってたので少し痛かったんです……」
「リディアちゃん股間を手で押さえないで……」
わたしたち女性陣はこの雄大な自然を望みながらこの二日間の疲れを癒していた。隣には宇宙人二人のたわわな膨らみもあり正に眼福であった・・・・・・。
「ところで由衣さん、今朝やけに落ち込んでいましたけど何かあったんですか?」
あの夢の件の時、リディアちゃんはまだ就寝中だった。朝食を食べてる間わたしはずっと「ぅあ~~~~……」とうなだれていた。
「えっ?あ~ちょっとね……。リディアちゃんたちの星で人の夢を映像化させる機械あるでしょ?あれでわたしとミコトの夢を映像化させようとしたのよ」
「あ~~『ユメミエ~ル』のことですねっ!スクールにいたときクラスの友達と見せ合いっこしましたよ!」
ダサすぎるネーミングはともかくやはり向こうの星では流行みたい。
「それでっ、由衣さんはどういう夢を見てたんですか!教えてください!!」
と、リディアちゃんはぐいぐいにわたしに迫ってくる。自分で話振っときながらやめときゃよかったって後悔した……。
「ちょっとした悪い夢よ。見てもあんまり面白くなかったわ」
「そうですか、夢トークって結構盛り上がるのにぃ……。じゃあ今度ユメミエ~ル会やりましょっ!」
女子会やりましょっ!みたいなノリで言ってるけどあれ見せられたら空気が淀むこと間違いなしになるわ……。
「あ、あはは……ちょっと考えとくわ」
「そういえばミコトさんはどんな夢だったんですか?」
「それが、本人は夢の内容を覚えているんですが、映像化されないんです」
「映像化されない?」
「はい、いくらミコト様に撃っても変わらなくて……。その後由衣様に撃ったら見事に映像化しましたけど」
わたしって試し打ちみたいな感覚で撃たれたのね……。
「ミコト様の話だと、夢の中で亡くなったお母様にお会いしたらしく、我々のことを嬉しそうに聞いてたそうですよ」
「ミコトさんのお母さん……」
「そしたらお嬢様が何故か馬に乗って現れミコト様をさらって行ったそうです。本人曰く見たことないぐらいすごいハイテンションだったとか」
「え~~~……」
まさかの馬に乗って登場だったことに当の本人は困惑気味だった。
「でもそんなにはっきりとしているのに現れないなんて……」
「そこなんです。故障してないのは由衣様で実証済みでしたし」
人を実験体みたいに言わないで……。
「まあいいじゃないそんなこと。それよりさ、シスカはアイツとどこまでいってんのよ?普段なかなか話してくれないじゃない」
「どこまでって……、昨日みたいにボートに乗ったり買い物に行ったり一緒に戦ったりとか……」
カップルで一緒に戦うことはしないけど……。
「ああでもこの前、休憩しないかって宿のような建物に誘われたことありましたけど、わたしは特に疲れてなかったのでスギだけでもって言ったら何か落ち込んでましたね。彼は何をしたかったんでしょう?」
何をしたかったってそりゃあナニかを……。あ、リディアちゃんもわかってない顔してる。
「さあ、何だろうね。多分スギなりの頑張りだったんじゃない?」
スギ、ドンマイ……。
「そういう由衣様はどうなんです。ミコト様とはあれから進展はあったんですか?」
それをライバルの前で聞く?しかも昨日話したはずのリディアちゃんもめっちゃ興味津々だし……。
「ダーメ!こればかりは大事なことだから内緒っ!」
「わかりました。お嬢様、昨日お二人で何を話されてたんですか?」
「え~っと昨日は……」
「お嬢様を買収するな~~~!?」




