第一話4
呼び出しは30分ぐらい喰らった。とりあえずコイツはマジシャンだということを突き通し、先生はなんとか納得してもらった。
今日は登校日で特にやることはないので先生の計らいでリディアの学校見学を許可された。そして教室に戻るとリディアはすぐにクラスの女子に囲まれ、質問責めになった。
「ねぇねぇ!さっきのどうやって飛んできたの!?」
「えっあれは、その……」
「進藤とはどういう関係なの?もしかして恋人?」
「いえ、ミコトさんとは従姉妹で……」
「そうだよね~、アイツにそんな度胸ないもんね」
あれ?さりげなくヒドいこと言われてない?
俺はと言うと教室に戻るなりグッタリと机に突っ伏していた。
「一気に人気者じゃないか、お前の従姉妹さん」
と、そんな俺をからかうように問いかけるスギ。
「あ~~、こっちは勘弁してほしいぐらいだよ……」
「でも知らなかったな、みこっちゃんに外国の従姉妹がいたなんて。かわいいし不思議ちゃんだしつまみ食いしても……」
「なんか言ったか?」
「はは、なんでも。それで、彼女は宇宙人でいいのかい?」
と、少し意味深な笑みを浮かべて問いかけた。
「見ればわかるだろ、アイツはちょっと常識外れな意味の宇宙人だ。それ以上でもそれ以下でも……」
「ヒドいじゃないですかミコトさん!わたしが宇宙人だってバレたら大変だってあれほど!?」
と、驚いた顔のスギと目が合う。
俺はうなだれる。
リディアがテンパる。
「リ・ディ・ア・ちゅわ~~~~ん!!」
由衣が後ろから飛びつく。
「ゆ、由衣さん!?て、どこ揉んでるんですかぁ!?」
「けしからんおっぱいはこのわたしが侵略してくれる~~~!!」
「やめろセクハラ女。そういうのは俺の目に入らないとこでやれ」
「りょうか~い!じゃあこれからおいしく……ってそれ言いに来たんじゃないの!」
まぁ拉致のためじゃないのはわかっていたがとりあえず「はぁ……」とそれなりに相槌を打つ。
「あんたたちこの後ヒマでしょ?せっかくリディアちゃんが来てくれたんだから歓迎会やりましょ!場所はわたしのバイト先、いいわね?」
と、由衣のペースに思いっきり流され、放課後気がつけばそのバイト先である甘味処に着いていた。
「そこ座ってて!今持ってくるから」
と由衣に促され、外にある四人掛けの席に落ち着いた。
甘味処と言ってもビルの一角にある氷屋が経営している小さなお店だ。店の外には二つほどテーブルが並べられ、近所の子供たちは揃ってある特異な物体を食べている。それは夏の風物詩、かき氷だ。
ただのかき氷と思うなかれ。このかき氷、縁日で売ってるものなんて目じゃないぐらい巨大なのである。
「うわぁ……」
どれぐらい巨大かって容器を軽くはみ出し、二倍はあろうかって量の氷の山が出来上がっているのである。
それが四人分も並べば引くのも当然だ……。
「おまたせっ!アンタたちはレモンでいいよね?で、リディアちゃんはこれっ!高級あんみつ!」
「高級って五百円だろそれ」
ちなみに俺らのレモンは百円。
「わたしにとって五百円は高級よ!なけなしの給料で出したんだから」
給料どんだけ低いんだよ……。
「あ、あの……これなんですか?」
「リディアちゃんかき氷初めて?」
と、聞いたのはスギだった。
「は、はい。えっと確か」
「ああ、自己紹介まだだったね。うちは杉村ヒサシ、みこっちゃんとは昔からの腐れ縁なんだ。うちのこと『スギ』って呼んでいいよ。
「気をつけろよ。コイツ見境無しに狙ってるから」
「?」
ダメだ、あの表情は絶対わかってない。
「ねぇねぇ!そんなことより早く食べないととけちゃうよ!ほらリディアちゃん、あ~ん」
と、由衣に推されるがままリディアは「あ~ん」と小さな口を開いた。
「はぅっ!?」
と、初めての感覚に小動物のように縮こまるリディア。
「どおどお!かき氷おいしい?」
「はひ!この星の方ってホント不思議な食べ物を作るんですね!」
「ちょっ!リディ……!?」
簡単に口が滑ったところを止めようとしたが、
「ここまで来て隠そうとしても無駄よミコト。三階の窓から出てきた時点で」
と、由衣はこれまで俺がやってきたことを軽々と相殺した。
「さて、聞かせてもらおうじゃない。この娘が一体何者なのか、根掘り葉掘り……」
「やめろ、コイツはそういうつもりで言った訳じゃ!?」
「じゃあどういうつもり?」
「それは……」
とくぐもったところで、突然由衣は笑い出した。
「まったく、ホントミコトは隠すの下手よね。それじゃ本当に宇宙人ですよって言ってるようなものよ?」
そう言われてハッと気づく。そして深い溜息をついて打ち明けることを決心した。
「ああ、お前の言う通りリディアはどっかの星から来た本物の宇宙人だ。ちゃんとコイツの口からはっきり地球を侵略しに来たって……」
「侵略ねぇ」
と、スギはまるで他人事のように呟いた。
「随分落ち着いた反応だな」
「ごめんごめん、ただリディアちゃんがそんな悪い子には見えないなって。その純粋な目を見るとそんな感じに思えるんだ」
確かにそれはごもっともな意見だ。実際あんなあっさりと侵略の話を告げられて、且つ俺を抹殺するところか看病するぐらいだからな。
「リディアちゃんはうちらを殺して侵略をやる気かい?」
「殺すだなんて!?こんなに優しくしてくれるのに、そんな酷いことできないです……。それにこんな素敵な星ですもん、一緒に生活できたらどんなに楽しいんだろうって」
二人は唖然としながら聞いていた。俺は昨日も聞かされてたが、やはり侵略者の口から素敵とか聞かされるとは思ってもみなかっただろう。
「あ~その……、リディアはこんな感じで平和主義者でな。SF映画みたいな発想は持ち合わせてないんだよ」
強いて言えばキスをして精力とかエネルギーを奪うとかだけど、何か言いにくいからやめといた。
「ぬるいわ」
「えっ?」
「ぬるいわよリディアちゃん!侵略者がそんなんじゃすぐに阻止されてしまうわ!!」
「お前どっちの味方だよ!?」
「アンタは黙ってなさい!いい?リディアちゃんはちょっとナヨナヨしすぎ。もっと禍々しいオーラを出すべきなのよ!」
なんか由衣に変なスイッチが入りやがった!?
「禍々しいって?」
「もっとこう、地球人よっ!我が力にひれ伏せ~~!とか?」
と両腕を広げ、なんかそれっぽい動作を見せる。そばにいた子供たちが「なんかヤバいお姉ちゃんがい………」って言いたそうな目で見られながら。
「力です………、わたしあまり力ないんですが……」
俺を持ち上げて山降りたお前が何を言う・・・・・・。
「大体何で由衣はそんな積極的なんだよ?そんなに宇宙人に人体実験されたいのかよ?」
当の本人はしたくないらしいけど。
「そりゃあもちろん、リディアちゃんにいじられるなら……大賛成よぉーーーー!!」
と、勢いよくリディアに飛びつくが見事に避けられた。いや、リディアは瞬間移動し俺の後ろに回り込んでいた。
「いったたたた……」
「ご、ごめんなさい……。いきなり飛びつくので」
「だ、大丈夫よ。でも今のって」
テレ……ポート…………?
「すごいわリディアちゃん!十分いい力持ってるじゃない!!」
「ホントに宇宙人だったんだ……」
スギも思わず呆然と呟いた。やっぱまだ半信半疑だったらしい。
「申し分ないわリディアちゃん!さぁ一緒に地球征服しましょう!まずはホワイトハウスを……」
「発想が安直すぎんだろ!それに……あれ?」
ふと、ポケットに違和感を感じた。
「なによ、調子狂っちゃうわね」
「わりい、携帯教室に忘れてきちゃったらしい。由衣、リディア連れて先帰ってくれ」
「え、ちょっとミコト!?」
と頼んでおきながら一抹の不安を感じつつ、俺は急いで学校に引き返すことにした。
「ミコトさん……きゃっ!?」
突然由衣はリディアを背後から捕まえ、彼女の胸を揉みだした。
「これで邪魔者はいなくなったわ。さぁリディアちゃん、どんな方法で侵略するのか教えなさい?さもないと……」
「あっ、い……言います!言いますかりゃぁ!?」
別に隠してるつもりでもないような・・・という疑問はさておいて、流れ的に面倒なことになると判断したスギはそぉっとその場を後にしようとした。
「どこ行くのスギ?」
「えっと。ああそうそう、これからデートの約束が……」
と言いかけたところで言い訳をするのをやめた。由衣のあの目はヤバい……、スギの脳内でそう信号が流れたのだ。
「手伝うわよね?」
「……わかりました」
それに隣でおろおろしているリディアちゃんを見ていると、由衣に何か犯されそうで心配にもなったからだ。
それはそれで面白そうだけど。
「そうと決まればこの腐った世界を変えていくわよ!!リディアちゃん、早速超電磁砲を……!」
「あの、侵略と言っても……」