第六話6
皆が振り向くと彼女は自信を持った顔で見つめていた。
「任せてって、どうするのリディアちゃん?」
「いい考えがあるんです!皆さんちょっと来てください!」
と、リディアは人気のない茂みのところまで俺たちを先導する。
「いい考えって、何をするんだよ」
「それは……、これですっ!!」
彼女が指をパチンと鳴らすと景色が一瞬で真っ暗な空間へと変わってしまった。いや、真っ暗じゃない。すぐに目が慣れて見えたのは数え切れないほどの無数の星、そして足下には灰色の雲海、つまり俺たちは雲よりも上に来てしまったのだ!?
「こ、これって……!?」
「ようこそっ!わたしの宇宙船へ!!」
これが、宇宙船の中……。SF映画や宇宙ステーションみたいに色んな機器やメーターが所狭しと配置されていると思っていたが全然違った。それにプラネタリウムみたいに床や壁などがなく、まるで星空に浮かんでいるような感覚だ。こんな技術、今の地球人では不可能だ。
「これが、宇宙船……!?」
俺たちはリディアのサプライズに胸が震えた。こんなに星があったのかと思うぐらい空気が澄んでおり、普段どこにあるのかわからなかった天の川さえ見えるぐらいだった。
「すごい……すごいよリディアちゃん!!今までで一番宇宙人っぽいよっ!!」
「だからわたし宇宙人ですってばぁ……」
これでようやく彼女の『宇宙人じゃなくない?説』も無事解決された。
「どう、この地球から見る星空は?」
「はい、我々には星を眺める文化がないのでそんなに気にしたことがなかったですが、なるほど、こうして眺めるといいものですね」
シスカも空を見上げながら微笑む。
「でしょ?うちもいつかシスカちゃんと星空デートしたかったからよかったよ。今度は二人っきりで観に行こうね」
「はい、約束です」
ちゃっかりと次のデートの約束をしているスギ。俺にはそこまで考えが回らなかったな……。
「ミ、ミコトさんっ!さっきあの辺で何か光りました!?」
突然リディアが驚き俺の腕に抱きついた。
「ヒィェ!?なっ流れ星だよ!ほら、あの星の周りで流れるみたいだからよく目を凝らして見てみろ」
軽くリディアの胸が当たり、つい声が裏返ってしまった。
「え~どこですかぁ?」
と、俺の目線に合わせようとぐいぐい顔を近づける。何回かキスしたことあるはずなのにこんなに顔が近いと緊張してしまう。
「ミコト~わたしもわかんないから教えて~?」
と、今度は反対側の腕に由衣が飛びつき顔を近づけてきた。
「お、お前は星の場所わかるだろ!?暑苦しいって!?」
「もうミコトさ~ん」
「ミコト~」
コイツら、急に積極的になっている……。この短時間に何が……、
「ほら、あのWの字のみたいなカシオペア座の辺りだから!」
「ミコトさんってこういう時真面目ですよね?」
「そうそう、人がせっかくいい感じのムードにしてあげてるのにねえ」
気を紛らわせるために言ってんだよ!?てかやっぱりコイツら確信犯だったか!
「まあいいわ。アンタがちゃっかり流星群のこと予習してたことに免じて、三人で寝そべりましょうか」
「そうですね!予習してたことに免じて!そりゃっ!!」
と、二人は互いに俺の両腕をガシッと掴まれあっという間に床に押し倒された。
「痛ったぁ……。お前らもう少し手加減しろ……って」
仰向けになった瞬間、俺は思わず息を飲んだ。遮るものが何もない、まるでこのまま宇宙に飲み込まれるんじゃないかと思うぐらいの無数の星が目に飛び込んだ。
「宇宙ってすごいな。いくら行っても端っこに届かないんだもんな」
「そうですよ。そしてその宇宙には無数の星があって、その中でこの星に降り立ち、ミコトさんに出会えたんです。それってすごい運命的ですよね」
「運命……」
そうだ、これだけの星があった中でリディアたちはここに降り立ち、そして何億もいる人間の中から俺たちに出会った。こんな数億分の一の出会いに巡り会うなんてどんな恋愛ドラマよりも運命的じゃないか。
「ちょっとぉ、そんなこと言われたら誰だってときめいちゃうじゃ~ん。リディアちゃんて意外に策士?」
「えっ!?わたしそんな意味で言ったんじゃ……!?で、でも今こうして皆さんとこんな体験できるのは紛れもなく奇跡です。普通は大概岩だけで生物がいない星に飛ばされることが多いみたいなので……」
俺たち地球人の知る限り惑星というものはリディアの言うとおり岩や砂だけの無機質な星もあれば大気に覆われて未知な星もある。生命も植物も存在するこの地球なんてレア中のレアなんだろう。
「リディアちゃんは本当に運が良かったのね。じゃあ他のクラスメイトがもっとびっくりするぐらい思い出を作らないとね!」
「はいっ!もっといっぱい……あっ!!」
と、突然リディアは声を上げ空を指さした。
「今、何か高速で走っていきました!あれがもしかして?」
「そう、あれが流星群だよ。まあマンガみたいにボンボン飛んでこないんだけどな」
本当はマンガみたいに次から次へと流れてほしいところだけど現実は普段より多く見れるよっていうぐらいだ。
「なあリディア、あの流れ星が流れている間にお願い事を三回唱えると願いが叶うんだぜ」
「本当ですか!わたし頑張ってみます!」
「まあそんなの無理な話なんだけど……」
「kjhbgytvf、kjhbgytvf、kjhbgytvf」
また一つ流れ星が流れた瞬間、リディアは何かを呟いた。
「ん?何か言った?」
「あ、いえ。何でもないです。叶うといいですね、願い事」
「あ、ああ。そうだな。ほら、また流れた!」
そして流星群はその後も一つまた一つと流れていった。彼女は俺の傍らでずっと目をキラキラしながら流星を目で追っていた。
「ずっといれたらいいな」
「……わたしもずっと、あなたといたいです」
その時の俺は気づかなかった。彼女の一瞬の陰りに。彼女があの星に何を願っていたのか、もし知ることができたら俺の気持ちはきっと変わっていたのだろう。
「なあリディア、小指を出して」
リディアが不思議そうにしながら小指を出す。俺も小指を出して彼女の指と絡める。
「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます。ゆーびきった」
その時は深い意味はなかった。ただこのまま夏が終わってもリディアと一緒にいれたらいいなって思っただけだ。それができないことはもうわかっているはずなのに……。
「ミコトさん、これって……」
「この星のおまじないみたいなやつだ。約束破ったら痛い目見るからなっていう昔からのおまじない」
「おまじない……。じゃあ約束、守らなくちゃですね」
「ああ、まあその前に課題をいいものにしないとな」
「はいっ!」
この夏休みが終わったらリディアたちはあの星よりも遠い場所に行ってしまう。それはもう決まっていることなのに、わかっていることなのに胸が苦しくなってしまう。
帰ってほしくない……。ずっとそばにいてほしい。
だから俺、指切りしたのかな。ずっといてほしいって。
「あ~もう最高っ!あんなに流れ星見たの初めてだったわ。ありがとねリディアちゃん!」
あっという間の天体ショーを終え、俺たちはキャンプ場に戻った。
「喜んでいただけてうれしいです。わたしも空であんなのが見れるなんて驚きでしたっ!」
最初は曇り空でどうなることかと思ったけどリディアが嬉しそうで何よりだ。
「だろ?この地球にはまだまだ不思議なこともあるからいっぱい思い出作りできるんだよ」
「まだいっぱいあるんですか!?ミコトさん、そこにも是非連れてってください!!」
「えっ……?それは、まあ機会があったら……」
正直それを全部回るとなると残りの夏休みだけじゃ足りないし、普通の高校生の予算じゃ県外出るぐらいが精一杯だ。
「ということで、今日はこれにて終了!遅くなると親父も心配するから早めに戻ろうぜ」
こうして、榛名湖での流星群キャンプは無事幕を閉じたのであった。




