第六話5
夕日がだんだんと落ち始めた頃、親父とシスカの手によってバーベキューの準備は出来上がっていた。定番の串はもちろん、鉄板の焼きそば、そしてグリルを使ったチキンの丸焼きまで用意され、親父の気合いが窺えるラインナップとなっていた。
「皆さん、お夕飯の準備が整いましたよ」
「いやあシスカちゃんの手際がいいから大分早く準備ができたよ。悪いね、手伝ってもらっちゃって」
「いえ、これもメイドの勤めですから。それにこの星の料理はとても勉強になります」
と、自分で作っておきながら既にシスカはこのラインナップに目をキラキラさせていた。
「お~!やっぱりおじさんの料理の腕はすごいね。バーベキューのレシピ本に載ってもいいレベルじゃない?」
「嬉しいこと言うねえ!さ、もう焼けてるから由衣ちゃんも食べな!」
大体の準備を終え早速お酒を飲んでいた親父は既に上機嫌になっていた。
「ありがとうございます。じゃあわたしこれ頂こうかな」
「ミコトさん!どれから、どれから食べればいいですかっ!?」
「まだいっぱいあるんだから落ちつけって!ほれ、この串焼けてるから」
俺は牛肉と野菜を刺した串をリディアに手渡すと、恍惚とした表情で眺めていた。まるで伝説の剣でも見つけたかのように。
その後、バーベキューの時間はあっという間に過ぎていき、辺りはすっかり真っ暗になっていた。あれだけあった食材もあっという間に空になり、最後はデザートのマシュマロを焼きながらそれぞれまったりとしながら火を眺めていた。
「なんででしょう、いつもキッチンで見てる火なのにここで眺めてると癒されます……」
リディアはぼお~っとしながらマシュマロが焼けるのを見つめていた。そんな彼女の一言に俺たちは目を合わせ、
「完全に日本の生活に溶け込んだな」
「ええ、もうすっかり馴染んでるわ」
「後はあれを口にしたら完璧だね」
なんてそれぞれ口裏を合わせ彼女がいい感じに焦げ目が付いた焼きマシュマロをじゅわっと頬張る様子を見つめていた。
「ほへぇ~~~……。幸せです~~~」
この瞬間、侵略者は焼きマシュマロによって籠絡され地球は救われたのであった。そして我々もこの侵略者を餌付けされた子犬を愛でるようにほっこりとした表情で見守っていた。
「ホントあんなに喜んでくれるとここに来た甲斐があるわねえ」
「だなぁ、このままずっと眺めていたいぐらいだ……」
「あの、皆様。今日の目的って一体何なんでしょうか?」
そんな様子をシスカはちょっと呆れるような顔で見ながら本来の目的を聞いてきた。
「えっ、あ~そうだ!流星群見るんだった!!」
そこでやっと今回の目的、ペルセウス流星群を見ることを思い出した。時刻は何やかんやで8時を回り、調理関係を片づけ終えて後は寝るだけ状態だっただけに少し忘れかけていた。
「その、りゅうせいぐんっていうのは一体なんですか?」
「ん?シスカちゃんたちの星では見たことないの?」
「ええ、以前お嬢様が説明したように空はミカドが制御しているのでこのような夜という空がないんです。なのでタルーヴァからこのような星が見える空は見たことなかったんです」
「そういえばそんなこと言ってたね。流星群ってのはいつも止まって見える星とは違って流れて見える星のことなんだ。でもあまりにも一瞬だから探すの大変なんだけどね……」
「流れる星って……こちらに星が飛んでくるんですか!?落ちては来ないんですか!?」
と、シスカは唐突にスギの肩を掴んで問い詰めた。
「あ、安心して。星って言っても欠片みたいなものだから落ちる心配ないよ……」
「そ、そうなんですか……。取り乱しまして失礼しました」
「わたしたちがこの星に来るまで何度か流星に遭遇してて、何度かぶつかりそうになったんです。だからわたしたちにとってちょっとした恐怖なんです……」
確かに流星っていうのは宇宙では無差別なロケット砲みたいなもんだ。大昔地球でも星が落ちて恐竜が絶滅したし、巨大なクレーターだって作り出した。遠くから見ればきれいに見えるけど間近に見れば恐怖でしかないな。
「じゃあその記憶を上書きしなきゃいけないな。見せてやるよ、こっから見える最高の景色を」
「盛り上がってるとこ悪いんだが、今日は無理そうだぞ?」
と、俺たちの会話に水を差すように親父が入ってきた。
「なんだよ、無理そうって」
親父は「空見てみろ」と言うように上を指さす。続けて俺たちも空を見上げると「あっ」と声が出てしまった。
さっきまできれいに晴れていた空がいつの間にか曇り空になっていたのである。山の天気は変わりやすいとはよく言うがこんな早く変わってしまうとは思ってもみなかった。
「これじゃせっかくの流星群が……」
「そうね、だいぶ雲も厚くなってきたし今日は……」
口々に落胆した声が漏れる。いくら今まで何とか乗り越えてきた俺でも天気ばかりは変えることはできない。それを変えることはもはや神の領域だ。打つ手なんてない。
「っく……」
本当にこれで終わりなんだろうか。何か、何かないだろうか。あの榛名富士に登れば……、いや、雲が山頂よりも高く登ったところで変わることはない。
今から違うところに……、車を運転できる親父はもう既に酒を飲んでいる。
これで、終わりなのか……。
そう口に出そうになった時、口を開いたのはリディアだった。
「あの、わたしに任せてくれませんか?」
「えっ……?」




